黄昏の竜王は純白の王を抱く

八陣はち

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白昼*

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 柔らかな日差しの降る浴室。立てる水音も、呼吸の音さえも反響するような気がして、フィオディークの鼓動を騒がせる。

 胡座をかいたトルヴァディアの脚の上に乗せられ背中から抱き込まれたフィオディークは、トルヴァディアの腕の中で小さく身動ぎした。
 節ばった指の先、漆黒の爪がフィオディークの淡い色の頂をそっと引っ掻く。それだけでフィオディークの背をざわめきが駆け上がった。

「あ……と、トルヴァディア、さま」
「トルだ」

 低く甘やかな声がフィオディークの耳に吹き込まれる。それだけでフィオディークは唇を震わせた。

「と、とる……」
「いい子だな、フィー」

 囁きとともに顎を掬われ、唇を啄まれる。熱を帯びたその身はすっかりトルヴァディアに委ねられていた。そうしている間にも、トルヴァディアの指先はいたずらに胸の頂をくすぐる。

「んう」

 神経を炙るような熱くて甘い感覚は初めてのものだ。痛みはない。甘い熱が炎のように身体の奥を焦がすような感覚に、フィオディークは溶けた声を上げた。

「どうした、痛かったか」
「ん、いえ、その、くすっぐったくて」
「ならばいい」

 トルヴァディアの指先は変わらずフィオディークの胸をくすぐった。漏れる声は徐々に堪えきれなくなっていた。

「ふふ、どうした、甘い声をあげて」
「あ、い、意地悪を、しないでください」

 フィオディークはトルヴァディアの言葉の意味をようやく理解した。トルヴァディアは快感だけをフィオディークに与えていた。

「ふふ、そう言うな。俺だって初めてなんだ。だから、お前のいいところを教えてほしい。お前をたくさんよくしてやりたい。フィオディーク」
「ふあ」

 甘えるような声を吹き込まれるだけで身体が反応する。自分の浅ましさを見られているようで、フィオディークは恥ずかしさに眉を寄せた。

「耳もよいのか」

 楽しげな声がして、硬く尖った歯がフィオディークの耳をかじる。傷つける意図がないのはわかる。いたずらにフィオディークの肌に痕跡を残していくトルヴァディアは少年のようで、竜王ということを忘れてしまいそうだった。

「う、ん」
「声を聞かせてくれ、フィー」

 歯を立てた跡を熱い舌がなぞり、柔らかな唇に耳の縁を撫でられると背をざわめきが駆け上がった。

「は、あ、とる、んぅ、ひゃ、耳、ばかり、いあ」
「かわいい声だな。もっと聞かせてくれるか」

 トルヴァディアに止める様子はない。

「ひゃ、だめ、です、んあ、は」
「ふふ、硬くなった」

 初めてだった。恥ずかしいのに、嬉しい。自分のものではない温もりと直に触れ合い、甘い言葉を交わして、普段は触れない場所に触れる。
 何もかもがフィオディークには初めてのことだった。

 胸の頂きをトルヴァディアの指先がくすぐるように撫で回すと、それだけで身体の奥には甘く痺れるような感覚が溜まっていく。膝を擦り合わせていないとおかしくなりそうだった。
 腹の奥が熱い。
 尾が勝手に揺れ、喉は柔らかく鳴ってしまう。何をしても喜んでいることがトルヴァディアに筒抜けだ。
トルヴァディアの喉もうるると鳴っている。
 トルヴァディアも同じように喜んでいるのがわかって、それだけでフィオディークの胸には温かなものが滲む。

「ん、う」
「フィー、見せてごらん」

 トルヴァディアの手が膝を撫でる。

「だ、め、だめです、トル」
「恥じらうお前も愛らしい」
「ひゃ」

 トルヴァディアの手で開かれた脚の間、フィオディークの白い肌よりも少し色の濃い、ほっそりとした雄の証が震えていた。

「あ」

 緩く天を仰ぐ兆したものに、白い頬が熱に染まる。
 ずくずくと疼いて止まらない。こんなふうになるのを見るのは初めてだった。

「っあ、どう、して」
「ここはこういうものだ。知らなかったか」

 トルヴァディアの声にフィオディークは何度も頷く。
 だって、ここは排泄のための器官だと思っていた。
 トルヴァディアの瞳が小さく揺れて細められる。

「ここは交わりのための器官でもある。そして、悦楽を得ることもできる。こんなふうにな」

 トルヴァディアの指先が、天を仰ぎ震える昂りを撫でた。触れるか触れないか、揶揄うようにして途切れ途切れの快感を与えられるフィオディークは、高まる快感に言葉にならない声を上げた。

「あ、う」

 フィオディークはもどかしくて腰を揺らす。どうするのが正解なのかわからなくて、トルヴァディアの手の動きに合わせて、息を荒げながら不器用に腰を揺らした。
 そんなフィオディークを見かねてか、トルヴァディアの大きな手が昂るフィオディークを握り込む。

「ほら、こうするんだ」
「あ」

 それだけで身体が期待に震えた。身体の芯が燃えるように熱く、皮膚の薄い場所は汗でしっとりと湿っている。
 包むように優しく、トルヴァディアは手を動かした。
 それだけでフィオディークの唇からはあられもない声がこぼれ落ちる。
 素直なフィオディークの身体は、トルヴァディアに与えられる快感に何度も跳ねた。

「とる、だめ、なにか、あぁ」
「フィー、委ねて」
「はあ、あ、あぁ」

 堪えきれない声が溢れ、フィオディークの背がしなる。痩せた身体の芯を甘い痺れが駆け抜けていった。
 腰が震え、足が跳ねる。花芯から散った白濁が、湯に溶け出していく。
 フィオディークの視界が滲んだ。
 口の端からは温かな唾液が垂れ落ち、水面に波紋を刻んだ。
 荒い呼吸が浴室に響く。
 トルヴァディアの手で、果ててしまった。
 竜王の手を自らの吐き出したもので汚してしまったことに、フィオディークは罪悪感を感じずにはいられなかった。

「も、申し訳ありません」
「ふふ、構わぬ」

 身体を小さく縮こまらせたフィオディークに、トルヴァディアは何度も口づけを落とした。
 そんな中、フィオディークの腰に何か熱いものが当たっていた。熱くて硬い、何か。トルヴァディアの腰の辺りだ。服は脱いでいるから、装飾品の類ではないのに。
 フィオディークが視線を落とした先には。

「トル、こ、これ、は」

 フィオディークのものとは比べ物にならない、たくましく長大な猛りがあった。
 腹につくほど反り返るそれは、時折しゃくりあげながら先端の裂け目を苦しげにつくつかせていた。
 いく筋も血管を纏う幹は赤黒く、張り詰めた楔形の先端、傘のように張り出した部分が三段あって、その下には無数の棘のような凹凸が見える。

「愛らしいお前を見ていたらこんなふうになってしまった」

 甘く低く響くトルヴァディアの声には、言いようのない艶があった。
 フィオディークのものとは別の何かがそこにある。
 フィオディークは目を逸らすことができないまま、トルヴァディアの剛直に見入った。

「フィー」

 降ってくる声に、フィオディークは慌てて顔を上げた。

「これでお前をたくさん愛したい。これをお前の腹に埋めて、腹に精を注ぐ」
「っ」

 それがどういうことか、わからないわけではない。それは子を作るための交わりだ。でも、フィオディークは男の竜人。子など産めるわけがない。
 それでも、トルヴァディアに愛されたいと胸にさざなみが立つ。

 フィオディークはおそるおそるトルヴァディアの脚の上から降りた。身体が自然と動いていた。
 フィオディークを包む湯が小さく波立って、小さな水音が響く。
 トルヴァディアの美しい金色の目が、優しい光を湛えてフィオディークを映していた。
 フィオディークはそっと、聳り立つトルヴァディアの剛直に手を伸ばす。細い指を幹に絡めると、トルヴァディアにされたように、両手で包んで上下に動かした。
 これでいいのだろうかと見上げた先、トルヴァディアの金の瞳が細められていた。凛とした表情しか知らなかったトルヴァディアの、恍惚に溶けた表情が見えてフィオディークは安堵した。

「ふふ、上手だな、フィー」

 甘やかな低音には、はっきりと喜びが滲んている。それがまたフィオディークを安心させてくれた。
 フィオディークは、ゆるゆると拙い愛撫を続けた。時折手の中でトルヴァディアが跳ねる。その度に降ってくるのは甘やかな吐息だった。

 見上げるフィオディークの赤い瞳に、わずかに眉を寄せたトルヴァディアが映る。

「トル」
「ん、お前は私に悦楽を与えるのが上手いな」

 トルヴァディアの紡ぐ甘い声は、フィオディークの胸に温かな波を起こす。
 フィオディークは手の中で跳ねるトルヴァディアの猛りを一心に扱いた。
 フィオディークが手を動かすたび、トルヴァディアの荒い吐息が聞こえて鼓動が早まる。

「もう、出そうだ」

 低く抑えたような呟きがトルヴァディアの唇からこぼれた。

「っく」

 小さな呻きが聞こえて、フィオディークの手の中でトルヴァディアの猛りが脈打つ。力強く脈打ち、熱い白濁が散った。
 白濁は何度も溢れ、勢いよく散ったものがフィオディークの頬を濡らすほどだった。
 フィオディークの両手も垂れ落ちる白濁で汚れていく。
 自らの拙い愛撫でトルヴァディアが果てたのを、フィオディークはぼんやりと見つめる。
 ぬるま湯に、こぼれた白い濁りが溶け出していく。
 ゆるく脈打ちながら先端の裂け目を震わせるトルヴァディアの肉槍から、フィオディークは目が離せなかった。

「フィー、どうした」

 トルヴァディアの甘く溶けた声に、フィオディークは慌てて顔を上げた。
 不躾な視線を向けてしまったことを恥じながら見上げた先には、微かに上気した頬のトルヴァディアがいた。

「あ、も、申し訳ありません」

 声を震わせるフィオディークを、トルヴァディアは宥めるように抱き寄せた。
 また膝の上乗せられ、すぐ目の前にトルヴァディアの顔がある。

「湯を汚してしまったな」

 柔らかく微笑むトルヴァディアはフィオディークを咎めることはなかった。白く汚れたフィオディークの手を、トルヴァディアがそっと取る。

「上手だな、フィオディーク。お前の手もこんなに汚してしまった」

 口元へ導かれた手に、トルヴァディアは迷わず口づけた。自らの精に塗れているというのに、トルヴァディアは嫌な顔ひとつせずフィオディークの手に唇を寄せ、舌を這わせた。

 フィオディークは目を瞠る。竜王が、自分の手に口づけている。鼓動はトルヴァディアまで届いてしまいそうなくらいにうるさい。
 喉は強張って、何ひとつ言葉を発することはできなかった。

「フィー、こちらへ」

 軽々と抱き上げられたフィオディークは、温かなぬるま湯から上げられ、柔らかな布に包まれた。
 これから何が始まるのか、フィオディークはまだわからない。それでも、甘く溶けた鼓動がトルヴァディアからの愛に染められているのはわかった。
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