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ついのかみ3
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白い薄布で仕切られた、カムナオビの寝所。
寝台に縫い止められたカムナオビに、覆い被さるヤソマガツヒの姿があった。
「やそ、やだ、どうして」
カムナオビはその瞳を濡らし、自由を奪っているヤソマガツヒを見上げた。
「お前が、ずっと、誰かを見ているから」
苦しげに眉を寄せ、ヤソマガツヒは金色の瞳を細めた。
「俺だけを見て、カムナオビ」
「や、そ」
声が掠れる。
「もう誰も、見せない、カムナオビ」
カムナオビの金色の瞳に涙が溢れた。それを、赤い舌が掬った。
「だから、もう、泣くな」
「ヤソマガツヒ」
自分と同じ金色の瞳。イザナギに囚われたものの証のような、美しく、眩い金色の目だった。
「どうして」
「お前を、俺だけのものにしたい。お前と、ひとつになりたい」
ヤソマガツヒの真っ直ぐな気持ちが言葉になって降ってきた。
あぁ、そうか。
「俺も」
彼と、ひとつになりたかった。溶け合って、ひとつになりたかった。あの、懐かしい、彼と。
「ひとつになりたい」
カムナオビはぼんやりとその想いを口にした。願いだった。
「カムナオビ」
自分を強く掻き抱く夜色の身体は温かくて、そこには羨望と憧憬と微かな嫉妬、執着が混じっているのがわかった。
「俺だけを見て」
耳元に響くその声に、涙が溢れた。
熱いものが、腹の中に入ってくる。
確かに繋がっているのはお前なのに。
ほしいのは、何という名だっただろう。
揺られながら、カムナオビはそんなことを思った。
身体に満ちる快楽が、全てを押し流していく。
「やそ、おれを、こわして」
ナオビの口から、そんな言葉が漏れた。
ヤソマガツヒは、表情を悲しげに歪めて笑った。
「イザナギさま」
そこは、黒い、夜の泉のようだった。
マガツヒのつま先が触れると、美しく波紋が広がる。
「おかえり、マガツヒ」
ゆったりと座ったイザナギがその美しい白い手を差し伸べる。
その手に、マガツヒは手を重ねた。
「イザナギさま」
流れるような動きで抱き寄せられ、その白い腕に抱かれる。
膝の上に抱き上げ、朝焼け色の唇が夜色の肌を食む。
「イザナギさま」
すっかり甘く蕩けたマガツヒの声に、イザナギは笑みを深めた。
「マガツヒのここは恥ずかしがりだね。すぐに隠れてしまう」
胸の小さな裂け目を吸って舐られて、夜色の背がしなる。唇が離れたあとには、夜色の可憐な肉粒が震えていた。もう一つも同じように唇と舌でくびり出され、マガツヒの胸には愛らしい肉粒が離れて並んだ。
胸をじっくりと愛でられたマガツヒの花芯はすっかり育ち、透明な蜜で濡れそぼっていた。
その花芯も朝焼け色の唇に飲み込まれる。
「イザナギさま、ぁ」
イザナギは舌の上で震えるマガツヒの愛らしい花芯を丹念にくすぐる。
跳ねるそれを少し強く吸ってやると、それは容易く熱を弾けさせた。
「っひ、う」
マガツヒがその身体を震わせる。
吐精の余韻に浸る力の抜けた身体を、イザナギは向かい合うように膝の上に抱え直す。
「わたしの、マガツヒ」
「っあ、イザナギさま」
マガツヒはイザナギの首に縋りつく。
これから齎される快感を享受するために。
マガツヒの胎は、容易くイザナギを受け入れた。じゅくじゅくと濡れ、戦慄きながら熱い肉槍を深々と飲み込む。胎の奥の窄まりは容易く陥落して、最奥までイザナギに埋め尽くされる。
「ひぅ」
最奥まで貫かれ、マガツヒの喉からは引き攣り掠れた声が漏れた。
イザナギはその様子を瞳に映し、笑みを深めた。
「もう、お前は私だけのものだよ、マガツヒ」
ナオビを切り離しても、マガツヒに影響はないようだった。変わらず呼び声に静かに微笑みを返すマガツヒを見て、それならそれで構わないとイザナギは思った。
歪だと、自嘲する。
誰かが言ったように、イザナミを喪って、狂ったのだと思う。あの水辺でマガツヒを見つけた瞬間、自分から欠け落ちた何かが埋まった気がした。
黄泉の国の穢れから生まれた災いの神に因縁めいたものを感じながらも、止められなかった。
どうしても手に入れたい。隠して、誰にも見せず、自分だけのものにしたい。
そんな想いは日に日に濃くなっていった。
ナオビの自我が濃くなってきたのも知っていた。知らないところでマガツヒと交わったことも。
だから、ヤソマガツヒとオオマガツヒが生まれたのを機に、名を書き換え、対を組み替えてナオビを切り離した。
ナオビはイザナギを恨むだろうと思ったが、そうなっても構わなかった。マガツヒを自分だけのものにしておけるなら、そんなものは瑣末なことだった。
「マガツヒ」
イザナギの朝焼け色の唇がその名を呼ぶと、夜色の災いの神は甘く蕩けた笑みを浮かべた。
「ひとつになろう、マガツヒ」
「はい、イザナギさま」
寝台に縫い止められたカムナオビに、覆い被さるヤソマガツヒの姿があった。
「やそ、やだ、どうして」
カムナオビはその瞳を濡らし、自由を奪っているヤソマガツヒを見上げた。
「お前が、ずっと、誰かを見ているから」
苦しげに眉を寄せ、ヤソマガツヒは金色の瞳を細めた。
「俺だけを見て、カムナオビ」
「や、そ」
声が掠れる。
「もう誰も、見せない、カムナオビ」
カムナオビの金色の瞳に涙が溢れた。それを、赤い舌が掬った。
「だから、もう、泣くな」
「ヤソマガツヒ」
自分と同じ金色の瞳。イザナギに囚われたものの証のような、美しく、眩い金色の目だった。
「どうして」
「お前を、俺だけのものにしたい。お前と、ひとつになりたい」
ヤソマガツヒの真っ直ぐな気持ちが言葉になって降ってきた。
あぁ、そうか。
「俺も」
彼と、ひとつになりたかった。溶け合って、ひとつになりたかった。あの、懐かしい、彼と。
「ひとつになりたい」
カムナオビはぼんやりとその想いを口にした。願いだった。
「カムナオビ」
自分を強く掻き抱く夜色の身体は温かくて、そこには羨望と憧憬と微かな嫉妬、執着が混じっているのがわかった。
「俺だけを見て」
耳元に響くその声に、涙が溢れた。
熱いものが、腹の中に入ってくる。
確かに繋がっているのはお前なのに。
ほしいのは、何という名だっただろう。
揺られながら、カムナオビはそんなことを思った。
身体に満ちる快楽が、全てを押し流していく。
「やそ、おれを、こわして」
ナオビの口から、そんな言葉が漏れた。
ヤソマガツヒは、表情を悲しげに歪めて笑った。
「イザナギさま」
そこは、黒い、夜の泉のようだった。
マガツヒのつま先が触れると、美しく波紋が広がる。
「おかえり、マガツヒ」
ゆったりと座ったイザナギがその美しい白い手を差し伸べる。
その手に、マガツヒは手を重ねた。
「イザナギさま」
流れるような動きで抱き寄せられ、その白い腕に抱かれる。
膝の上に抱き上げ、朝焼け色の唇が夜色の肌を食む。
「イザナギさま」
すっかり甘く蕩けたマガツヒの声に、イザナギは笑みを深めた。
「マガツヒのここは恥ずかしがりだね。すぐに隠れてしまう」
胸の小さな裂け目を吸って舐られて、夜色の背がしなる。唇が離れたあとには、夜色の可憐な肉粒が震えていた。もう一つも同じように唇と舌でくびり出され、マガツヒの胸には愛らしい肉粒が離れて並んだ。
胸をじっくりと愛でられたマガツヒの花芯はすっかり育ち、透明な蜜で濡れそぼっていた。
その花芯も朝焼け色の唇に飲み込まれる。
「イザナギさま、ぁ」
イザナギは舌の上で震えるマガツヒの愛らしい花芯を丹念にくすぐる。
跳ねるそれを少し強く吸ってやると、それは容易く熱を弾けさせた。
「っひ、う」
マガツヒがその身体を震わせる。
吐精の余韻に浸る力の抜けた身体を、イザナギは向かい合うように膝の上に抱え直す。
「わたしの、マガツヒ」
「っあ、イザナギさま」
マガツヒはイザナギの首に縋りつく。
これから齎される快感を享受するために。
マガツヒの胎は、容易くイザナギを受け入れた。じゅくじゅくと濡れ、戦慄きながら熱い肉槍を深々と飲み込む。胎の奥の窄まりは容易く陥落して、最奥までイザナギに埋め尽くされる。
「ひぅ」
最奥まで貫かれ、マガツヒの喉からは引き攣り掠れた声が漏れた。
イザナギはその様子を瞳に映し、笑みを深めた。
「もう、お前は私だけのものだよ、マガツヒ」
ナオビを切り離しても、マガツヒに影響はないようだった。変わらず呼び声に静かに微笑みを返すマガツヒを見て、それならそれで構わないとイザナギは思った。
歪だと、自嘲する。
誰かが言ったように、イザナミを喪って、狂ったのだと思う。あの水辺でマガツヒを見つけた瞬間、自分から欠け落ちた何かが埋まった気がした。
黄泉の国の穢れから生まれた災いの神に因縁めいたものを感じながらも、止められなかった。
どうしても手に入れたい。隠して、誰にも見せず、自分だけのものにしたい。
そんな想いは日に日に濃くなっていった。
ナオビの自我が濃くなってきたのも知っていた。知らないところでマガツヒと交わったことも。
だから、ヤソマガツヒとオオマガツヒが生まれたのを機に、名を書き換え、対を組み替えてナオビを切り離した。
ナオビはイザナギを恨むだろうと思ったが、そうなっても構わなかった。マガツヒを自分だけのものにしておけるなら、そんなものは瑣末なことだった。
「マガツヒ」
イザナギの朝焼け色の唇がその名を呼ぶと、夜色の災いの神は甘く蕩けた笑みを浮かべた。
「ひとつになろう、マガツヒ」
「はい、イザナギさま」
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