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第84話 誤魔化すように
しおりを挟む「かっ、勘違いしないでよね! こ、これはただ、アナタの手を握り潰そうとしただけなんだから!」
突如パッと握る手を離して声を上げたイズナは、顔を赤く染めながら動揺している。
それは無意識のうちに、俺の右手を力強く握っていたことを恥じての行動なのだろう。
そんな可愛らしい行動を執る姿を微笑ましく眺めていると、イズナは誤魔化すように魔法の終わりを告げた。
「あっ! 魔法が終わったみたい! は、早くこの場から移動しないと! ほ、ほらっ、アナタも早く!」
動揺しつつ、この場から離れようと急かすイズナ。
その様子を見て「震えはもう止まったのか、良かった……でも、余程恥ずかしかったのかな?」と察しては呟き、クスッと軽く笑いながら再度イズナを見ると、両頬を膨らませながら俺を睨み付けている姿が。
どうやら俺を気にしながら歩いていたらしく、丁度俺が笑うところを目撃してしまったようだ。
「そ、そういえば、この辺りにはもう魔物はいないようですね……魔法で土煙も吹き飛んだみたいだし……と、取り敢えず、ココにいても仕方ないので、先ずは1番近い戦地へ向かってみましょう!」
軽くとはいえ、笑うところを見られた気不味さから、俺も誤魔化すように移動を促し、最も近い戦地へ歩いて向かい出すと、イズナは不貞腐れながらも俺に付いてきてくれたので、どうせならと駆けて向かうことに。
「ねぇ、気になることがあるんだけど……いい?」
「はい、いいですよ? それで、何が気になるんですか?」
「えっと、何故アナタはそのチカラを今まで使わなかったんだろ? って思ったら気になって……ねぇ、教えてもらえる?」
「!? え、えーっと……そ、それは……」
次の戦地へ向けて駆けるなか、突然イズナからの問い掛けがあったのだが、それはニカナに関する問いであるがために答えられずにいた。
幾ら今は2人きりといっても、軽々に話して良い内容ではないので、一体どうしたものかと悩む。
(……うーん、どうしよう……なんて答えれば……嘘は吐きたくないしな……そうなると、ここは一先ず……)
「あ、あの、すみませんが今は言えません……」
「そう……残念ね……」
「あっ、でも! いつか話せる日は来ると思いますので、その時はきっと……」
「そうね……まぁ、期待しないで待ってるわ」
「はい……」
こうして話は終わるわけだが、いつかはニカナのことを皆に話そうと固く決心し、前を見て次の戦地のことに気持ちを切り替える。
「次の戦地までは……あと200m……いや、220m? もしかして、移動してるのか? 魔物の数は……300か、多いな……でも、全て倒せたらかなり楽になるな……で、そこにいるのは……5人だけか、早く助けなきゃ!」
5人の冒険者達はその場に留まっているわけではなく、魔物の群れを引きつけながら逃げているようなので、追いつくのには少し時間が掛かりそうだ。
すると、俺の独り言を聞いていたイズナが戦況を把握したらしく、俺にある提案をしてくる。
「ねぇ、魔法を使いましょ? そうすれば、もっと早く助けに行けるわ!」
イズナによるその提案を聞いて思わず驚き、それと同時に嬉しさが湧いてくると、再びクスッと軽く笑った……
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