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第一章

第三話 二度目の死

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大きな湯が張られた浴槽に入れられ、雑な手つきで洗われる。
それを私は感情なくされるがままになっていた。

「それにしても誰なのかしら。それもこんな真冬に」
「でも、晩餐会の予定はないじゃない? やっぱりお忍びなのよね」
そんな会話をしつつ、淡々と私の髪を洗う彼女たち。そして、ひとりが私に視線を向けた。
『でも、どうしてこの子なの? いくらでももっと美しい商売女はいるはずじゃない』
それは私が一番思っている。こんなどこの馬の骨かもわからない女をあてがう必要がわからない。

彼女たちも誰が来るか知らされていないらしく、興味津々のようだ。
噂になっていたからと言って、本当に王太子がくるわけもないし、せいぜいどこかの貴族だろう。
でっぷりした脂ぎった男を想像して、眩暈がしそうだ。

しかし、寒い地は美人が多いという噂もあり、この土地にある高級娼館には他の場所からわざわざ来ると聞いたこともあるが、そこに行くことを憚るような身分ならば、かなりの高位と推測することは容易だ。

「はい、これ着なさい」
渡された夜着は、いかにもと言ったもので、それを持ってしばらく立ちすくんでしまう。
「早くしなさいよ」
苛立った声に、私はビクッと肩を揺した。
何かを言ったところで、どうにもならないのはわかっているが、それを受けとった手が震える。

「あの、」
それでもなんとか口にした言葉は、彼女たちに睨みつけられたことで終わりを告げた。

のろのろと時間を稼ぐように、それを着る。
こんな薄いひらひらとした夜着など着たことがないし、布の面積が少なすぎて心もとない。

そして、すぐ隣の部屋へと半ば強引に放りこまれた。
「ここで待つように。絶対に声を上げないこと。拒否するような態度はとるなと侍女長さまからの伝言よ」

見事な調度品に、四人は優に眠れる寝台。薄いゴールドの天蓋がその部屋の高貴さを物語っている。
こんな辺境の地に、このような部屋があったのかとすら思っています。
窓の外には大きなバルコニーがあり、そこから見える空には青白い月が浮かんでいた。


名前すらない私が、名もづげることなく男に買われる。なんとなく滑稽にも思えた。
私の人生はこんなものなのだろう。
しかし、私はこんな仕打ちをうけなければいけないほどの罪を、過去に犯したのだろうか。

そんなことを考えてもわかるはずもない。

広すぎる部屋で私はどこにいるべきかもわからず、佇んでしまう。

死んでしまおうか。

バルコニーに続く窓を開け、外にでればかなり高い城の高い位置にあるようで、ここから飛び降りれば命を絶てそうだと思った。

凍えそうな風が部屋へと入ってきて、温められていたそこは一瞬にして冷やされていく。

「なにをしている?」
地を這うようなその声に、私はゾクリと身の毛がよだつ。

バッと振り返るとそこには背の高い男性が立っていた。

年老いた男を想像していた私だったが、転移魔法でここに来たのか、仄かな魔法陣の光が映し出すその姿は、黒のマントを羽織り一見して高貴な身分だとわかった。

「なにかいうことはあるか?」

その声とその単語を聞いた瞬間、今度は沸騰しそうなほどの、身体が熱を持つのがわかった。

そして、流れ込んできた記憶。

憎しみ、悲しみ、どうして? なぜ???

どうして私を殺したの? どうして、どうして。


ーーベルナール殿下


嫌!!!!!!!



無我夢中で私は手すりによじ登り、そのまま、私は二度目の死を選んだ。








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