3IN-IN INvisible INnerworld-

ゆなお

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四章【理解】

三十九話 海峡突破

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 城門前に行くと以前入ったときの兵士がいた。
「ああ、君たちか。重要な客人だと聞いている。ブライト氏が城内で待っている」
 そう言って兵士は門を開けた。門を抜け場内に入ると広い空間にブライトが立っていた。
「皆さん、ようこそ。準備は出来てます。こちらへ」
 ブライトはそう言いながら城の奥の廊下へと歩いて行く。途中、何かしらの警報器があるようで通路を塞ぐように光の壁がある。ブライトが壁際にある何かにカードを差し込むと光の壁が消えた。そのまま真っ直ぐ進むと華やかな装飾が周りからなくなり、少しずつ暗がりの殺風景な階段が現れ降りていく。
「よし、ここならいいでしょう」
 そう言ってブライトは話を始めた。
「この地下にある場所はごく一部の許可された者だけが入れる場所です。私もその一人、というか師匠の弟子なので許可が下りてる感じですね。この階段を降りた先に海峡とつながる水路があります。船はそこにあります」
 その話に対してカルロは
「あの海峡の流れ見たけど、並の船じゃあ一瞬で海まで流されちまう。一体どんな船で渡ろうってんだ?」
 と聞く。ブライトは
「魔力をエネルギーとして動く超高速船。そしてこの海峡には我々セルヴィーテが設置した巨大な見えない魔法の壁があります。その壁を一時的に無効化してくれるのが、シルビア氏を含む王宮魔術師の方々です」
 と話した。
「ああ、アークがあっちの大陸に気軽に行き来出来ないようにってのがその壁なのか」
 カルロの言葉に
「ええ、そうですね」
 とブライトはうなずきながら
「ちなみに操縦は私が担当します」
 と言う。
「ちょっと待て。あんたも一緒に行くなら帰りはどうするんだ? もっかい戻るつってもこの流れじゃ遡れないだろうし」
 カルロが心配するが
「そこは大丈夫です。皆さんをリュナ大陸まで送ったら、私は船ごと北の海まで流れて、そこで待ってる回収班に迎えてもらう手はずになってますので」
 とブライトは言いながら
「これは世界の命運を分ける大事な任務です。皆さんをリュナ大陸に送り届けるのが、我々の大事な任務なのです」
 と上着のポケットからゴーグルを取り出して笑った。
「さあ、到着しましたよ」
 そう言われ広い場所に出ると、そこには先端が尖った長細い胴体の船が水面に浮かんでいた。
「おい! お前ら! こっちだ!」
 船のそばに立つアークが大声で呼ぶ。そばには金髪で短髪の人物が数人立っている。アークのそばまで来ると
「おう! 国王と王子たち数人が見送りに来てるぞ!」
 とアークが言う。王冠をかぶり髭を生やした五十台くらいの男性が国王のようで
「初めまして、八勇士たち。私はセルヴィーテ城の現国王ゲルト。サウザント国第一王子カルロにアルデナス国第一王女スティア。お二人にあえて光栄だ」
 そう挨拶するセルヴィーテ国王に
「あ、いや。まあ俺はここと比べたら小国の王子。むしろこっちがこんな立派な城に出迎えてもらえて恐縮しちまう」
 とカルロが言うと
「サウザント国はここと違った魔法科学に長けていると聞く。一度は交流をしてみたいものだな」
 とセルヴィーテ国王が言い
「それならこの旅が終われば俺が王位を継ぐことになってる。現国王である親父は魔法科学の研究に集中しちまうからな」
 とカルロは笑った。
「ならば私も息子にそろそろ王位継承してもらい、息子とカルロで話し合っていただきたいものだ」
 セルヴィーテ国王も少し笑う。すると
「そんな御託はいいから! お前ら! この俺様が開発したアヴェアンセの説明するぞ!」
 とアークが割り込んでくる。
「急いでるって時にのんきに雑談すんじゃねーっつーの!」
 アークがそう言うと
「相変わらず手厳しいお方だ」
 と国王は笑った。一行はアークのそばに行き説明を受ける。
「こいつはアヴェアンセ! 古代語の『突き進む』っつー言葉から名付けた。速さと耐久が売りの船だが、かなりのじゃじゃ馬で制御がめちゃくちゃ難しい。普通の人間じゃあ扱えねぇ。そこで、じゃじゃ馬に対抗できるのが暴走の男と呼ばれるブライトだ!」
 アークがそう言うと、ブライトは眼鏡を外しケースに仕舞うと、固めていた髪をかき乱して先ほど手にしたゴーグルを付けた。次の瞬間
「おうっ! 師匠! 待ってたぜぇー! この時をなぁー!」

 と先ほどまでの丁寧な性格と真逆の荒々しい口調に変わる。あっけにとられる一行を見て
「あー、まあなんだ。お前らが見て驚くのも仕方ねぇ。ブライトは機械類に乗って操縦出来るとなると性格が変わるんだ。だからこのアヴェアンセが扱えるのも、性格変わったブライトしか今のところいねーんだわ。性格変わったからって取って食ったりしねーからそこは安心してくれ」
 とアークも呆れた様子で話す。
「で、師匠! このアヴェアンセでとにかくリュナ大陸まで突っ切っちまったらいいんすよね!」
「ああ。魔法結界はシルビアにすべて任せてある。お前らの進行具合で解除してくれっから、特に連絡はいらねぇよ」
「うっす! そいじゃあてめぇら! こいつの乗り方を教えてやる! 来な!」
 そう言われて一行は船に乗る。
「左右にそれぞれ一人ずつ座れるようになってる。腰のベルトはしっかり締めとけよ!」
 椅子に座った全員は腰のベルトを締める。ブライトは真ん中の通路を歩き、全員のベルトをチェックする。
「よし! それじゃあ運転中は前にあるバーにしっかり掴まっときな! かなりの衝撃があっから、振り落とされるぞ! つってもちゃんと船体は魔法の壁で囲まれるから海に落ちることはねぇ。とにかく、椅子から動かねぇようにしっかり掴まっとけ! 以上だ!」
 ブライトの説明に全員うなずき、目の前にあるバーを両手で握る。
「じゃあ師匠! いってくるぜ!」
 そう言ってブライトは手で合図をする。そして船の天井になるように透明なガラスのようなものが覆う。外の音はかろうじて聞こえるようで
「お前ら! 世界の命運を分けた旅だ! 任せたぞ!」
 とアークの激励を受け、船は進軍を開始した。アークたちは一斉に階段を上がりその場に人が居なくなる。そして
「エンジン全開! 発進!」
 ブライトのかけ声と共に船は目の前の海峡への通路を直進した。あっという間に海峡に出る。そして海峡に出た途端、流れに流され北に少しずつ船体が移動する。
「アヴェアンセ! おめーが頼りだ! 頑張れよ!」
 ブライトはハンドルやレバーを動かしながら海峡を突き進む。
「うわああああああああ!」
「なにこれええええええ!」
 ヴィッツやスティアたちはその振動と衝撃と速さによる圧迫感に全員が混乱する。
「てめぇら! 落ち着け! そろそろ魔法の壁突破だ!」
 目の前に迫る特殊な壁が、次の瞬間消えた。
「おう! シルビアたちのおかげだなぁ! すぐ閉じちまうからこのまま直進だ!」
 こうして一行の乗った船は壁を越えた。
「よかった。無事、魔法の壁を時間通りに一時消去出来たわ」
 城の屋上にいたシルビアと他部門の王宮魔法責任者たちがホッと胸をなで下ろす。そんなシルビアたちとは正反対に、ヴィッツたちは必死に進行の衝撃に耐えていた。
「なあ、じゃじゃ馬! お前は本当に扱いづれーな! そこがまた面白いんだけどよぉ!」
 ヴィッツたちとは裏腹に運転を楽しむブライトは
「半分は過ぎた! あとちょっとの辛抱だ! このまま向こう岸にブッ刺さるぞ!」
 と言う。
「え、船着き場とかねぇの!」
 ヴィッツの問いに
「この流れにんなもんあるかよ! この鋭い先端でブッ刺さって、てめぇらは陸に上がるんだよ!」
 とブライトが答える。
「こいつ、やべぇ思考だ! ってか皆それ知ってて俺らに向かわせたってことかよ!」
「嘆くのはそれまでだ! 目の前見ろ!」
 ヴィッツの言葉にブライトが前を向くように言うと、二メートルほどの高さの対岸が見える。
「よーし! ブッ刺さるぞ!」
 全員衝撃に耐えるようさらに強くバーを握りしめる。そして次の瞬間、衝撃緩和魔法とベルトをしてなければ外まで飛んで行きそうなほどの衝撃が全身を襲った。しばらくその衝撃で動けなかったが
「よし! 着いたぜ! ここなら絶壁じゃねぇから登れるだろう」
 そう言って船の天井を開ける。少しふらつきながらグレイが
「お、俺がそばの木にロープをかけてくる。お前たちはそれで上ればいい」
 そう言ってロープを肩にかけて崖の上に飛び乗った。しばらくしてロープが下ろされる。
「そ、それじゃあここまでありがとな。すっげー体験だったけど、なんとかリュナ大陸には渡れた」
 ヴィッツがそう挨拶している間に他の者たちは陸に上がっていく。ブライトは笑いながら
「これが俺の役目っすから! そんじゃあ俺はこのまま海の方まで流されて回収されてきまっす! 俺たち世界の命運預けっから、頼んだぜ」
 そう言ってヴィッツが陸に上がったのを確認して、エンジンをかけ直して刺さった岸から離れると、凄い勢いで北に下っていった。なんとかリュナ大陸に来れたものの
「うっ、気持ち悪い……」
「ザント、大丈夫か」
「だめ、僕もう吐きそ……うえええええ」
「ああ、俺も吐くまではいかねぇが気持ち悪かったから分かる」
 そう言ってカルロはザントの背中をさする。一方
「ああ、天が、地が。逆転する……」
「姫、しっかりしてください」
「ミーン。私、頭の中がぐちゃぐちゃで、何が起こってるのか……」
「少し横になって休んでください」
 ティアスはミーンに膝枕されて横になっている。
「流石の私もあれはびっくりしたわ」
「でもなんだかとっても楽しかったです!」
「ナスティってああいうのに乗るの好きなんだ」
「初めての体験だったからよく分かりませんが、ワクワクしました!」
 平気そうなスティアと楽しかったというナスティが話をしている。木に結んだロープを外して巻き直しているグレイにヴィッツは
「お前はあの乗り物、大丈夫だったか?」
 と聞く。
「少し……めまいがする」
 とグレイは言った。ヴィッツはロープを巻くのを手伝い、その場に座ると
「ザントは吐くし、ティアスも倒れちまうし。やっぱ魔力が強い奴は影響大きいみたいだ。お前も少し休め。ほらよ」
 そう言って自身の膝を叩く。すると
「ん……」
 と一言だけ言ってグレイはヴィッツの膝を枕にして横になる。そして
「格好悪いところを見せてしまったな……」
 と恥ずかしそうに言う。
「そんなこたぁねぇよ。普通の船とは違うあんなもんに乗せられたら、誰だって気持ち悪くなったりするもんだ。俺はまあ平気というか、なんとか耐えられたけど。現にティアスとザントはすっげー影響受けてる。お前もちょっと寝ろ」
 そう言ってグレイの頭を撫でる。
「分かった」
 グレイは一言だけ言って静かに寝息を立てた。こうして三人の体調が戻るまで休憩となるが、日が傾き始めたためこの海岸沿いの広場を拠点として今日は過ごすこととなった。
「ザントがこの調子じゃあ結界張るのは俺がやるか」
 そう言ってカルロが広場の中心で結界を張る。
「ザントや兄貴や姉貴ほどの強力な結界は無理だが、俺もあんたらと比べりゃ魔力は高い方だ。ちったぁマシな結界は張れるだろう」
 カルロはそう言いながらヴィッツと共にテントを張る。スティアとナスティは焚き火の準備をする。ミーンは起き上がれない三人の様子を見ている。中でもかなり影響を受けているのがザントのようでぐったりとしている。食事の準備をするため、ミーンとカルロが入れ替わる。ナスティとヴィッツも料理の食材の下ごしらえだけ手伝っていた。ティアスとグレイは静かに眠っているが、ザントは顔色が悪いままだ。
「ザント。大丈夫か?」
 カルロが声をかけると
「んん……寝てると何故か、気持ち悪さが増すんだ」
 と言う。カルロはザントの体を起こし
「上半身、起こした方が楽か?」
 と聞く。すると
「あ、少し楽になったかも……」
 ザントはそう言って
「カルロにこんなこと頼むのは申し訳ないんだけど、ちょっともたれさせてもらえるかな」
 とザントはカルロに言う。
「ああ、かまわねぇぞ。ほら、膝に座れよ」
 そう言ってカルロはあぐらをかき、ザントをその上に乗せる。
「あ、えっと。そういうつもりじゃなかったんだけど。じゃあ、お言葉に甘えて君を椅子代わりにさせてもらうよ」
 ザントはカルロにもたれかかるように座る。
「ふぅ……。あの乗り物は僕には強力すぎて受け付けなかった。魔法と機械の力の融合と反発が僕の魔力に凄く響いてきた。僕はやっぱり機械が苦手みたいだね」
 とばつの悪そうな顔をして笑う。すると
「そういうこともある。苦手なものを無理に克服する必要もねぇし、多分これが最初で最後だろう。あ、そうだ。ここから城まで戻ったり、またここに戻ってきたりできんのかな?」
 とカルロが話す。ザントは
「確証はないけれど、セルヴィーテからリュナ大陸まで直接渡るのがダメなだけで。ここから僕らがサウザントに戻ったり、ここにまた帰ってきたりすることは可能だと思うよ。この大陸に来て魔法の基礎的なものが変わってる様子はないから、多分移動魔法は使えると思う」
 と言う。ザントの言葉にカルロは
「そうか。まあなんか機会があれば試してみるか。とりあえずあんたはゆっくり休め」
 とザントの目を手袋を外した片手で覆う。そのままザントはすぅっと眠りについた。食事が出来る四人と、食べられない三人とそれを見るカルロで分かれる。食事を先に取った四人はそれぞれ横になっていたティアスとグレイに食べさせ、カルロとザントにも食べさせた。そのままミーンはティアスを連れ、カルロはグレイとザントを連れてそれぞれのテントに入る。ヴィッツとスティアとナスティで後片付けと、交代で焚き火の番をする。特に魔物の気配もなく、一夜を過ごした。

 一夜明け、具合が悪かった三人も無事体調が戻った。
「皆、ありがとう。一番具合が悪かった僕だけど、もう大丈夫。ティアスとグレイも大丈夫そうだね」
 ザントの言葉にティアスとグレイはうなずいた。
「さて、と。リュナ大陸に来たはいいけど、地図に詳細は無いし、ここからどこにどう行けば何があるかも分からない。まずはエルフの杖で方角を確認しよう」
 そう言ってザントは杖を掲げる。すると矢印はさらに大きくなった。しかし
「あれ……。色がおかしい」
 矢印は黄色から赤色へと変化していたものが緑色に変わっていた。
「最初に見たときは黄色だった。それからセルヴィーテに近づくにつれて赤色に近くなっていって、セルヴィーテに着いたら赤になったのに。リュナ大陸に着いた途端、緑色になった。方角は東から変わらないね」
 ザントは色の違いを気にする。
「自然界で黄色は注意する色。赤色は重要視する色。そして緑は安全を意味する色。これって竜の領域に入ったから、なのかもしれない」
 と分析する。
「ってことは竜人に近づいてるってことか」
 カルロが聞くと
「あくまでも僕の考えだけどね。とりあえず今の僕らにとってはこの杖が指し示す方角だけが頼りなんだ」
 ザントはそう言って
「方角を間違えたらいけないから、僕はこのまま杖で方角を確認するよ」
 そう言って杖を一度仕舞い、全員でテントを片付けた。そして杖を持つザントを先頭に一行は東へ向かう。森の中を進むが異様な雰囲気に
「この空気、変わっている」
 とグレイがぼそっと言う。
「何かおかしなことでもあるかしら」
 ミーンが聞くと
「世界の穴が存在しない」
 とグレイは答える。
「え? お前、世界の穴の場所分かんのか?」
 ヴィッツが聞く。それに対してグレイは
「俺はリオのいる森に入って、世界の穴の場所が読めるようになった。とは言っても発生した場所が分かるだけで発生原理は分からんしタイミング予測までも出来ん。それでもこの場所、いやこの大陸全体に世界の穴が発生しないのかもしれん。以前、俺が飛ばされた孤島も同じように魔物が出ない場所だった。そこと空気が似ている。そして穴の気配が先ほどから全く感じられない」
 と話す。
「そういえば森の中なのに魔物の気配が一切ないわね。グレイの予想が当たったにしても用心に越したことはないわ。魔物以外にも獣に襲われる可能性はあるから、気を付けて進みましょう」
 ミーンはそう言って先へと進んだ。数時間歩き続けて開けた場所に出る。水の流れる音が先の方からするため、川が近くにあるようだ。
「もうそろそろ日が傾く時間かな」
 ザントが見上げた木々の隙間から、青色が少し暗くなった空が見える。
「とりあえず拠点、ここにするか。兄貴と姉貴、ちょっと川の水が飲めるかどうか確認してきてくれ」
 カルロはグレイとティアスに飲み水が確保出来るか確認を頼む。
「ああ」
「はい。水袋持って行きます」
 二人は川の方へと向かう。河原に出るとグレイが川の水を見る。そして
「ああ、飲める。大丈夫だ」
 と確認した。ティアスは
「水を統べる者としての力は私よりも凄いですね」
 とグレイを褒める。
「家族のおかげだ。俺は水を汲んでから帰る。お前は先に帰れ」
 グレイは水袋に水を汲み入れる作業をする。ティアスがもう少しで拠点に着こうとした時だった。低い木々の葉が動き、人影が見えた。
「誰かいるのですか?」
 ティアスがそう言うと川の方にその物音は移動する。ティアスは慌ててその影を追いかけた。そしてその影は姿を見せた。四、五歳くらいの見た目で、オーバーオールに手よりも長い袖の上着を着たショートカットの子供だった。子供は歩みを止めティアスの方を向く。表情は微動だにしない無表情だった。

「えっと。迷子、ですか?」
 ティアスがそう聞くが子供は何も言わない。ティアスがどうしようか悩んでいると
「どうした。拠点に戻ったんじゃないのか」
 とグレイが声をかける。ティアスは
「その。この小さな子が突然現れたんです」
 とティアスが指さす方向に小さな子供がいた。
「なんだ。迷子か?」
 グレイが首をかしげる。しばらくティアスとグレイが子供を眺めていると、子供は一言発した。
「……オルトゥ」
 少女のようなその声と言葉に反応したのはグレイだった。
「その言葉……。少し待て、ええと……」
 グレイは頭をフル回転させて子供にこう言った。
「ヨウ オルトゥ フィニ。イー チェット サスタル?」
 ティアスはグレイが何を言っているか分からなかった。
「グレイ? 今なんて言ったんですか?」
 ティアスが尋ねると
「オルトゥは古代語で『人』あるいは『人間』を意味する。こいつが『オルトゥ』と言ったから古代語で『お前は人と言ったな。俺の言葉が分かるか?』と言った」
 とグレイは答えた。しばらくして子供は
「ん……普通に言葉はわかる。オルトゥは……合言葉として使っている。意味を知ってる人に初めて会った」
 と普通の言葉で返事をした。
「なんだ、普通に言葉は分かるのか。こんな森の中でお前のような小さな子供が何故居る」
 グレイが問いただすと
「迷った」
 と子供は答えた。
「迷った? この近くに村か街があるのか?」
 と聞くと、子供は首を横に振り
「違う。この場所に飛ばされた」
 とどうやら転送事故に遭ったことを話した。
「元いた場所は分かるか」
 グレイの問いに子供は首を横に振る。ティアスが
「やはり迷子ですね。しかも転送事故による迷子だと、場所探しが大変ですね」
 と言う。グレイは
「どのあたり、どの大陸に居たか分かるか」
 と問うが子供は
「分からない」
 と言った。グレイは水袋を担ぐと
「このままだと日が暮れる。とりあえずこいつを拠点に連れて行ってから、どうするか考えよう」
 と言う。ティアスは子供に手を差し伸べて
「大丈夫ですよ。まずはここに居ては危ないですから、私たちの拠点に行きましょう」
 と言った。子供は恐る恐るティアスの手を握ると、並んで一緒に拠点まで歩いて行った。
「グレイ。いつの間に古代語なんてしゃべれるようになったんですか?」
 子供の手を引きながらティアスが問いただすと
「水神の力を授かった時に覚えた。まあ普段使いするものではないから、しゃべることはない」
 と答えた。
「本当に私より凄いですね」
 とティアスは笑うが
「お前は一国を担う女王になる身だろう。そっちの方が凄いに決まっている」
 とグレイも笑う。
「グレイがそうやって笑って話してくれる。そんな日が来るとは思いませんでした。ヴィッツに感謝ですね」
 とティアスが言うと
「そ、それは……まあ、たしかにそうだが……」
 と言葉を濁す。ティアスはすかさず
「大事な親友ですものね」
 と言う。
「もうその話はするな! ほら、拠点に着く。今の話は誰にもするなよ」
 グレイはそう言って足早に拠点に歩いて行った。
「グレイって本当に恥ずかしがり屋さんなんですね。ふふっ、私たちも急ぎましょう」
 ティアスは子供と共に少しだけ駆け足で拠点に向かった。グレイが水袋を持ってきた直後に小さな子供を連れてきたティアスを見て
「あれ、姉貴。その子供どうした? 迷子か?」
 とカルロが聞く。ティアスは
「迷子ですが、この子の話によると転送事故による迷子だそうです。しかもどの大陸住まいかも分からないそうです」
 と答えた。
「そりゃ困ったな。そんな小さな子供じゃあ、どこ生まれのどこ育ちなんて分かんねぇよな。少なくともこのリュナ大陸じゃねぇんだよな?」
 カルロが子供に聞くとこくりとうなずき
「ここ、違う。こんなところじゃない。でもどこにいたかは分からない」
 と答えた。
「なぁ、ミーン。この子供連れてくにゃあ、この先は危険だと思うんだ」
 カルロがミーンに聞くと
「そうね。魔物がいないとはいえ、こんな小さな子供を連れて行くのは、この子がかわいそうよ」
 そう言って二人は悩んでいる。そこで意見を出したのはグレイだった。
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