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ゆなお

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終章【終点】

最終話 千年の約束

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 そんな少女の様子を見て、ヴィッツは安堵のため息をつきながら
「ティアス……無事記憶を持って転生出来たんだな……」
 と言って少女の視線に合わせるようにかがみ込む。
「今の私の名前はリサリナです。本当に過去に戻った瞬間、この時代に生まれ変わったようです。私にとっては女王としての務めを全うし、百年弱の人生を送ったので長い時間でした」
 リサリナと名乗るティアスはヴィッツの顔を見ながら
「十年も経てば顔つきも変わりますね。以前より幼さが抜けた気がします」
 と言う。ヴィッツは笑いながら
「そりゃあもう三十だもんな。おっさんの仲間入りだよ」
 と答えた。続けて
「今はまだワルトゥワで兄さんと一緒に暮してる。今日は……いや今日もグレイに呼ばれてサウザントに来たところだった」
 と苦笑いをする。それを聞いたリサリナは
「ふふっ。グレイは相変わらずヴィッツに頼りっぱなしですね」
 と笑う。ヴィッツは
「大通りの真ん中で話すのもなんだ。お前が良ければちょっと広場のベンチで話でもしないか?」
 と聞く。リサリナは
「グレイに呼ばれたのでしょう? 用事は大丈夫ですか?」
 と聞くが
「ああ、放っといていい。あいつのことは少しくらい待たせたっていいんだよ。たまには待てくらい覚えた方がいい」
 と言ってリサリナと共に街の広場に向かう。ヴィッツとリサリナはドリンクショップに向かう。
「リサリナは何がいい?」
「私はクシュリルジュースが好きですが、あいにく今日はお小遣いを持ち合わせてません」
「俺がおごるよ。再会の祝いだ」
「そうですか。ではお言葉に甘えて」
 そうやりとりしてヴィッツはクシュリルというライムに近い果物のジュースを渡す。ヴィッツはレシスジュースを頼む。二人は少し離れたベンチに座り、ジュースを飲む。
「今日まで何度もサウザントに来てたけどさ。リサリナとは会うことなかったよな」
 ヴィッツの問いに
「そうですね。普段は学校に通ってますから。今日はお休みの日でした。なので遊びに行ったところで、雑貨屋からヴィッツが出てくるのが見えたので声をかけたのです」
 とリサリナは答える。
「そっか。本当に十年経って会えたんだな」
 ヴィッツがそう言うと
「その様子だとまだ結婚はしてない感じですか?」
 とリサリナが聞いてきた。ヴィッツは笑いながら
「ははっ。相変わらず女運がなくてなぁ。兄さんは、まあ過去の人間だからよ。結婚するつもりはないって言ってた。血筋だなんだ厄介な問題があるらしい」
 と言う。
「あ、そうですよね。ティルトさんは千年前の方。生まれ変わりでなく千年前の姿のままこの時代にいらっしゃいますからね」
「そういうこった。まあこうやってリサリナ、もといティアスと再会出来たなら、うーん……お前次第かな。結婚出来るのは十八から。俺はその頃には三十八。その年の差でも大丈夫なら、まあじっくり相性とか考えて付き合うか」
 ヴィッツの言葉に
「両親にも話さないといけないですからね。流石に昔の約束という話は通用しませんし」
 とリサリナはジュースを飲みながら難しい顔をする。すると
「そういやさ」
「なんですか?」
 ヴィッツは
「お前の名前、面白いな。リサとリナ、名前が二つあるみたいだ」
 と笑う。ヴィッツの言葉にリサリナは笑いながら
「ふふっ。そうなんです。実は名前が二つあるんです」
 と語る。リサリナの話では両親が男の子が生まれたなら名前はどちらも一致していたが、女の子が生まれた場合はリサとリナで対立し、どっちも譲れなかった結果「リサリナ」と両方の名前を付けたらしい。それを聞いたヴィッツは
「お前、前世もミドルネームが二つあったよな。名前関係でなんかあるタイプみたいだ」
 と言うと
「そうですね。魚人の王族はミドルネームを親から両方もらうのがしきたりです。そんな縁がこの現代にもあるのは、そういう運命なのかもしれませんね」
 とリサリナは笑った。こうしてしばしヴィッツとリサリナは雑談をした。しばらくして
「おい、ヴィッツ。どこをほっつき歩いてるかと思ったら、こんなところにいたのか」
 とグレイが現れる。
「あ、わりい。そんな時間か」
 ヴィッツが謝っていると、ヴィッツの隣にいるリサリナはグレイに向かって手を振り
「グレイ。お久しぶりです。ティアスですよ、今はリサリナという名前です」
 と言う。グレイは
「ティアス……。そうか、無事この時代に生まれ変われたのか」
 そう言って微笑む。しばし懐かしい話を三人でした。
「そう言えば、ヴィッツ。お前はティアスと再会したのなら、結婚するつもりなのか?」
 グレイはそう言ってヴィッツに聞く。ヴィッツはリサリナと顔を合わせ
「んー。まだ確定ではねーけど、これから付き合ってリサリナが結婚出来る年になったとき、お互い納得できたらする予定だ」
 とグレイの方を向いた。
「そうか」
 グレイはそう一言だけ言った。するとリサリナが
「グレイもそのつもりがあるのなら私たちと一緒に結婚すれば良いのではないですか?」
 と言う。ヴィッツは
「は? リサリナ、何言ってんだ? なんで俺とリサリナの結婚にグレイが加わるんだ?」
 と疑問を投げかける。するとリサリナは
「あ、ヴィッツはサウザントの結婚に関する法律を知らないのですね」
 と言い、グレイも
「まぁ、他国にはない特殊法律だから仕方ない」
 と言う。こうしてリサリナとグレイはサウザントの結婚に関する法律を話す。サウザントでは異性との結婚以外に同性との結婚も認められている。また結婚補助制度として双方一人ずつ結婚相手とは違うパートナーを準結婚相手として迎え入れることが可能となっている。男女での結婚である場合、男は男女どちらも、女は男女どちらも選べる。もちろん選ばず二人で結婚も可能である。
「ですので、私の父はパートナーを選びませんでしたが、母は昔からの親友を迎え入れました。ある意味母親が二人いる、私が置かれてる状況はそう言う感じです。なので私がまだ赤ちゃんの時の世話は三人で交代で行っていたと聞いてます。育児面で活躍する制度ですね」
 リサリナはそう説明する。そして
「その制度でグレイもヴィッツと共にパートナーとして暮らしたらどうかと思うのですが……」
 と言う。グレイはしばし考え込み
「実は……」
 と神妙な面持ちで話を始めた。
「俺は今三十七歳なわけだ。もうすぐ四十代に入る。そこでだな、ちょっと問題というか実は今、二択を迫られてる状態なんだ」
 と言う。
「何と何を選べって言われてんだ?」
 ヴィッツがそう聞くとグレイは
「俺が魔法科学研究所で働いていることは知っているな。それで今のクラスを維持するなら今まで通り街中に借りた家で暮らしながら研究所に通う事が可能だ。だが、その上のクラスを選ぶと、俺はもう城の外に出ることがほぼなくなる。かなり重要な位置に置かれるため、一般人との接触を最低限に抑えなければならない」
 と話す。リサリナは
「ああ、機密事項を沢山抱えることになるから、完全に城住まいになるということなんですね」
 と言う。グレイは頷いた。
「そうか。それでお前としてはどっちの道を選びたいんだ?」
 ヴィッツがそう聞くと
「ずっとそのことで悩んでいた。でも、お前たち二人が再会したのを確認できたなら心残りはない。俺は上を目指そうと思う。ディア様への恩返し、まだ足りないからな」
 と笑った。そんなグレイの笑顔を見て
「本当は……そうだったのですね」
 とリサリナは少しうつむいた。そんなリサリナの肩にグレイは手を載せ
「気にするな。十年前の約束だっただろう。俺のことは気にするな」
 と励ます。そんな二人を見て
「あー、グレイが頻繁にサウザントに呼んでたのってさ……」
 ヴィッツが言いかけると
「おっと、それ以上は言うな。もう決めたことだ。未練がないと言えば嘘にはなる。ヴィッツが城に入れても俺と会うことはもうほぼなくなる。まあ二人が結婚するなら式くらいは参加したいがな」
 と笑う。そして
「そうだな。せめて最後にお前の作る飯が食いたい」
 とグレイは言う。ヴィッツは
「おうっ! リサリナはどうする?」
「私は両親が心配するのでこのあたりで家に帰ります。私の家は……」
 とヴィッツに自分の家の場所のメモを渡し、二人に手を振ってリサリナは家に帰っていった。残ったヴィッツとグレイ。
「まあ、お前が決めたんならその意思を尊重するよ」
「すまないな。長い間、俺のわがままに付き合わせて」
「いいってことよ。でも、もう気軽に会えなくなるのは寂しいな」
「城の生活、十年ぶりか。カルロとザントには度々会うことにはなるが、他の者に会うことはなくなる。まあ、俺もこんな年だ。余生、とまでは行かないが研究に没頭する日々に入る」
 こうしてグレイの家に行き、最後の二人の食事を堪能し一泊した。翌日にはグレイは荷物を城へと移動させ、家は空き家となる。ヴィッツは最後にグレイの背中を見送った。グレイの手続きでヴィッツはグレイの家に住むことになる。リサリナの成長を見届け、そして少しずつお互いのことを理解していった。こうして十八歳になったリサリナと三十八歳になったヴィッツは結婚式を挙げる。祝いの席にはグレイ、そしておしのびでやってきたカルロとザントとスティアも来て祝福を受ける。こうして二人の生活が始まるのだった。
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