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初恋音物語#13本当の気持ち
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#13本当の気持ち
早朝、好亜の病室にて
「好亜ちゃん、大事な話があるの」
そう言って病室に入って来たのは看護師さんだった
「今から話す話は好亜ちゃんにとっては辛い事かもしれないけど、聞いてくれる?」
そう言われた好亜は戸惑いながらも
「はい」
と、答えた。
「この話は好亜ちゃんのお母さんとお父さんの話」
「え...?どういうことですか?」
好亜は戸惑うばかりだった
「単刀直入に言うと、好亜ちゃんのお母さんとお父さんが好亜ちゃんに会いたがってるの」
「....嫌です」
好亜は少し黙り込んだ後にそう答えた。
「どうして?」
「だって、2人は私に暴力を振って挙句に私を捨てたんですよ、そんな人達が今更会いたいとか言ったって私は絶対会いたくないです」
「確かにそうよね、無理もないわ、わかったそう伝えとく」
そう言うと看護師さんは病室から出て行った。
「なんだよ、今更」
好亜は看護師さんがいなくなったのを確認すると小さく呟いた
(助けて..未来...)
心の声は言葉にはならなかった。
その後は何事もなかったかのように午前中の検査やカウンセリングが始まった、それが終わるとお昼ご飯を食べて、午後からは院内学級に行くことになっている。
「こんにちは好亜ちゃん、なんか今日はいつもより元気がないね、何があったの?私で良ければいつでも相談にのるからね」
「すみません、ちょっと色々あって....」
「まぁ、あんまり思い詰め過ぎないようにね」
そんなこんなで院内学級を終えた好亜は病室に戻った。
「相談って.....」
好亜は院内学級の先生に言われた言葉を思い出した。
「好亜ちゃん...?」
そっとドアを開けながら好亜の病室に入って来たのは朝来たのと同じ看護師さんだった
「お母さんとお父さんになら会いませんよ」
看護師さんの言葉を待たずして好亜は答えた
「で、、でもさ、会いたがってるよ」
「だから何だと言うんですか?」
「で、、でも、、、」
「もう出てってください」
好亜は覚めた声でそう言うと看護師さんは悲しそうな顔をして病室から出て行った。
好亜はそのまま倒れるようにベットに横たわってスマホを開いた
「助けて....未来...」
好亜は未来にメッセージを送った。
未来の病室にて
ピンコン!
スマホの通知が鳴った
(誰からだろう?)
未来はスマホを手に取りメッセージアプリを開くと好亜からだった
“助けて....未来...”
そう書かれていた。
未来は慌てて病室を飛び出して好亜の病室に向かった
好亜の病室があるのは精神科のある棟だ、不幸なことに未来はの入院している病棟から一番離れている
(走れ、走れ)
未来は切れる息を無視して必死に自分に言い聞かせて走った
「好亜!」
未来は思いっきり好亜の病室のドアを開けて叫んだ
「来てくれたんだ..ありがとう...未来..」
「どうしたの?」
「私のお母さんとお父さんが私に会いたいって言ってるの」
好亜は包み隠さず話した
「好亜は、どうしたいって思ってるの?」
未来は優しい声で尋ねた
「私は....私は..」
「言ってごらん」
口籠る好亜を未来は優しく抱きしめて言った。
「会ってみたい、でも怖い」
好亜は初めて自分の気持ちを素直に言えた気がした
「じゃあ、会ってみよ。安心して私も一緒にいてあげるから」
好亜は黙って頷いて未来の服の袖を掴んだ。
「看護師さん、私...お母さんとお父さんと会ってみたいです」
それを聞いた看護師さんは笑顔で
「良かった」
と、言った。
次の日
「好亜ちゃんこっち」
看護師さんに呼ばれ好亜は振り向いた
「未来ちゃんはちょっと待っててね」
そう言うと、好亜は黙って未来に抱きついて
「未来と一緒が良い」
と、言うと
「好亜ちゃんがそう言うなら...良いよ未来ちゃんも一緒においで」
「はい!」
未来は内心止められるんじゃないかと思っていたので、許してもらえた事が嬉しかった。
好亜と未来は看護師さんに案内されて、とある部屋の前にたどり着いた
「この部屋の中でお母さんとお父さんが待ってるから、あんまり緊張したりしなくて良いからね」
看護師さんは好亜の不安を解こうとしたのか優しく声を掛けて部屋のドアを開いた。
「好亜!」
「好亜!」
看護師さんがドアを開いた瞬間、部屋の椅子に座っていたお母さんとお父さんとおぼしき二人の男女が同時に声を出して椅子から立ち上がった。
「こ...こんにちは..」
好亜は二人に圧倒されて挨拶だけで精一杯だった。
「まずは謝らないといけないよね」
「すまなかった」
「ごめんなさい」
お父さんらしき人がそう言って二人は深く頭を下げて好亜に謝罪をした。
「今更何だよ」
好亜の口から出たのはこの言葉だった
「お前らのせいで今までどれだけ辛い思いをしてきたか分かってんのかよ!」
好亜は強く拳を握りながら言った
「死んじゃえば良かった」
強く言い放った後に小さな声で小さくそう呟いた
「そう言うのも無理はない、俺たちはそれだけの事を好亜にしてしまったんだから、本当に申し訳ないことをしたと思っている」
そう言うと再び頭を深く下げた
「なにそれ」
好亜はぼそっとそう言って部屋を出て行った、未来は黙って後ろをついて行くしかなかった。
好亜は黙って自分の病室に戻ると膝から崩れ落ちた
好亜は両手で顔を抑えて泣いている、顔と手の隙間から大粒の涙が何滴も溢れては床に落ちていた。
「未来...ドア閉めて」
好亜に言われて未来は自分が病室のドアを閉めていないことに気づいた、未来は慌ててドアを閉めると
「死にたい気持ちが心の奥から溢れてきそう。もう、耐えられない」
そう言った途端、好亜は胸に手を当てて大声で叫ぶように泣き始めた。
「なんで...何で今更会いになんて来るんだよ、、何も知らないままでいた方が良かった!」
好亜を涙は溢れ出る一方で止まろうとはしなかった。
未来は黙ってその姿を見ていることしかできなかった
「でてっ...て」
「え...?」
未来が聞き返すと
「出てけって言ってんだろ!」
未来は何も言わずに病室から出て行った。
ちょうど病室を出た所に看護師さんが立っていた
「どうしたんですか?」
未来が尋ねると
「泣いているようだったから...」
と、病室に入るかどうか考えてる間に未来が出てきてしまったとのことだった。
「今は....独りにさせてあげてください」
未来にはそう言ってあげるくらいしかできなかった。
「あの...すみません、好亜のお母さんとお父さんですよね?」
未来は館内を探し回ってようやく二人を見つけた
「君はさっき好亜と一緒にいた...」
「はい、好亜の親友の初音未来と言います」
未来は覚悟を決めたような真剣な眼差しで答えた
「えっと...その、なんのようだい?」
好亜のお父さんが未来に尋ねると
「失礼を承知で単刀直入に言わせてもらいます、どうして好亜を捨てたんですか?」
未来は二人の目をじっと見つめて言った
「全て僕が悪いんだ....」
好亜のお父さんが話し始めた
「そんなことないですよ」
好亜のお母さんが否定した
「いや、僕だ、僕がもっと君と好亜を気に掛けていたらこんな事にはならなかったんだ」
「そんなこと...」
好亜のお母さんも否定し切れない様子だった。
「僕は、まだ好亜が生まれて間もない頃、毎日毎日仕事仕事で家庭のことなんて正直眼中に無かった。その結果妻は鬱になり子育てが十分に出来なくなってしまった、そうなっても尚僕は目を逸らし続けてしまった、そしてある日家に帰るとリビングに好亜が大きくなった時にやらせてあげようと買っておいた縄跳びを首に巻き付けている妻が居て、そこに好亜の姿は無かった。無責任だよな、今まで散々目を逸らしてきた癖にいざ目の前で自分の妻が自殺しようとしているのを見てそれを止めようとした、僕が自殺まで追い込んだようなものなのに。その後に好亜がどこにいるのかと聞いたら妻が答えた"捨ててきた"って僕は自分に絶望したよ、妻だけでなく娘の人生までも狂わせてしまったのだから、それでようやく目が覚めて、僕は妻の鬱の治療のために仕事を辞めて一日中妻のサポートをする事にした、そのために好亜をこの病院に鬱が完治するまでの間、好亜を預けることにしたんだ」
好亜のお父さんは全てを話してくれた
「どうして...どうして、そこまでなる前に気付けなかったんですか....?」
未来は涙を隠すために俯きながら聞いた
「もはや言い訳にしかならないけど、僕が当時勤めていた会社はかなりのブラック企業で、日々の仕事に追われているうちにそれしか見えなくなってしまったんだ」
「そんなのって.....」
未来はうまく表現できない感情に言葉を溢した
「私は好亜に笑って欲しい、好亜に幸せになって欲しい、だから、その為に私にできることなら何でも協力します」
そう言って未来は自分の連絡先を書いたメモを半ば強引に渡してその場を去った。
未来は自分の病室に戻って日記帳を開いた、未来にとってこの日記帳は素直な気持ちを吐き出せる唯一の物だった。
いつもはすらすらと書き進められるのに今日は早々にシャーペンが止まってしまった。
未来は好亜の病室の前に立ち尽くしていた、独りで何もできずに
呆然と立ち尽くしていると、突然好亜の病室のドアが開いた
「好亜」
「未来」
二人の目が合った。
好亜は黙ってドアを閉めた
未来は閉まり切ったドアにもたれ掛かって好亜に声を掛けた
「ねぇ、好亜」
好亜の声は返ってこなかった
(私は何もしてあげられない....)
そう思った途端に未来は自分の不甲斐なさに押し潰されそうにって涙が溢れ出てきてしまった
「未来、泣いてるの?」
好亜の声だった。
「どうして未来が泣くの?」
未来は返事をできなかった。
「ごめんなさい」
「どうして好亜が謝るの?」
「だって、私がいなければ未来が泣くことだってなかったじゃない」
未来は何も言えずにドアに背中をつけたままその場に座り込んだ
伝えたいことはたくさんあるはずなのに言葉にならない、そんなもどかしさに耐え切れずにより一層涙が溢れ出てきた
そのまま何もできずにその場に蹲っていた、どれほどの時間が経ったのか未来にはわからなかった
「未来、久しぶり」
そこには海音がいた
俯いていたせいで声を掛けられるまで気づかなかった
「どうしたの?」
「未来が押し潰されそうになってる気がしたから」
「海音.....」
未来は海音に抱きついて嗚咽した、海音は何も言わずに未来の背中をさすってくれた。
「取り敢えず部屋に戻ろっか」
しばらくしてから海音はそう言って未来と手を繋いで病室まで戻った。
「死にたい」
自分の病室に戻って一番最初に発した言葉はこの言葉だった
「生きてたって何の意味もない、みんなに迷惑を掛けて過去の記憶に苛まれて、そんな人生に何の意味がある」
海音の前でそう言ってしまった
(これでまた迷惑を掛ける)
「私って本当に迷惑な存在だよね」
開き直るように未来は海音の方を見て言った
「海音....好きだよ、これだけは言っておきたかった」
未来は海音にそう告げると独りで病室から出て行った。
未来は屋上に向かって歩いていた、ドアを開けると屋上の柵に座って空を眺めている女の子が目に入った
未来は考える間も無くその女の子が誰なのかわかった
「好亜.....」
今にも途切れてしまいそうなほど小さな声で好亜の名前を呼んだ。
「あっ、未来か...誰か探しに来たのかと思った」
「未来さっきはごめんね、私ちょっと思い詰めてて、でも心配しないでねもう解決したから」
そう言うと好亜はまた空を眺め始めた
「ねえ好亜、好亜の隣に行って良い?」
「嫌だ」
「そうだよね....私なんか...」
未来は後退りをした
「昔の未来なら無理矢理にでも私の隣に来てくれたのに....」
そう呟いた好亜の言葉で未来の動きは止まった
「確かに..昔の私ならそうしてたかもしれない、でも今の私はそんなに強くないよ」
「自分の嫌いな所が多過ぎて、頭がおかしくなりそう」
未来は思いの内を吐露した
「自分が大嫌い、嫌い嫌い嫌い!過去に囚われて毎日のように独りで泣いて、それなのに周りには笑顔を振り撒いて!」
未来は今までずっと独りで抱え込んできたものを叫ぶ様に吐き散らかした。
「やっぱり、未来と私って似てるんだね、私も同じこと思ってた」
「何で生まれてきちゃったんだろう?ってここ最近ずっと考えてて、答えなんて出るわけないのに」
好亜は空を見上げたまま未来に言った。
「やっぱり隣に行っても良い?」
未来はさっきと同じことをもう一度好亜に言った
「嫌だ」
答えは同じだった。
好亜の言う通り昔の私なら何て言われたとしても好亜に駆け寄って抱きしめていただろう、でも今の私はそんなに強くない。いや違うこれが本当の私、今までずっと自分に嘘をついてきたんだ、だけど.....
(好亜を助けたい)
その思いは未来の心の中に確かにある、その気持ちが嘘なのか本当なのか未来にはわからない、だけど好亜のためなら自分に嘘をついても良いと思えてしまう自分もいる。
「頑張れ、未来」
「えっ...」
好亜は確かに未来に向かってそう言った。
その言葉は、まるで未来の心の中を見透かしているかのようだった。
未来は自分の気持ちに素直になろうと心に誓った、例えその気持ちが嘘だったとしても。
「好亜!」
未来は思いっ切り好亜に駆け寄って好亜を強く抱きしめた。
屋上に来てから初めて好亜の顔を見れた、その顔には涙が流れていて、その涙を隠す為にずっと空を眺めていたんだと未来にはすぐにわかった。
「もしかして好亜、私を元気付けるために?」
未来はまだ落ち着かない好亜に尋ねた
「だって私が未来に酷い事しちゃったから、せっかく心配して来てくれたのに」
「私あの時ね屋上に行こうとしてたの、屋上に行ったら本当の未来に会える気がしたから」
「そしたらドア開けた瞬間に未来が居て、まだ心の準備が出来てなくてそのまま閉めちゃって」
好亜は全てを未来に話してくれた
「ねえ、未来も話してよ」
「私は好亜にドアを閉められた時、"やっぱり私って何もできないんだな"って思って独りで蹲って泣いてたら海音が来てくれて、海音に抱きついていっぱい泣いた、そしたら、つい本当の事を言っちゃって"何で生まれてきちゃったんだろう、自分が大嫌い、死にたい"ってそれでまた迷惑掛けちゃうって思って、独りになりたくて屋上に来た」
未来も全てを話した。
「そしたら好亜が居て、また好亜とお話ししたいなって思って....」
「良いよっ!いっぱいお話ししよ!」
好亜は今まで通りの好亜に戻った。
「未来、私どうしたら良いかな?パパとママの事、一緒に暮らすか暮らさないか」
「好亜は好亜のお母さんたお父さんの事どう思ってるの?」
未来は優しく訊き返した
「正直こわい、また暴力を振るわれるかもしれないと思うと涙が止まらない、けど、もう一回一緒に暮らしてみても良いのかなとも思う」
「そっか、じゃあ暮らしてみれば、少しの間だけでも良いと思う」
「そうしてみよっかな」
好亜はそう呟いて空を見上げた。
早朝、好亜の病室にて
「好亜ちゃん、大事な話があるの」
そう言って病室に入って来たのは看護師さんだった
「今から話す話は好亜ちゃんにとっては辛い事かもしれないけど、聞いてくれる?」
そう言われた好亜は戸惑いながらも
「はい」
と、答えた。
「この話は好亜ちゃんのお母さんとお父さんの話」
「え...?どういうことですか?」
好亜は戸惑うばかりだった
「単刀直入に言うと、好亜ちゃんのお母さんとお父さんが好亜ちゃんに会いたがってるの」
「....嫌です」
好亜は少し黙り込んだ後にそう答えた。
「どうして?」
「だって、2人は私に暴力を振って挙句に私を捨てたんですよ、そんな人達が今更会いたいとか言ったって私は絶対会いたくないです」
「確かにそうよね、無理もないわ、わかったそう伝えとく」
そう言うと看護師さんは病室から出て行った。
「なんだよ、今更」
好亜は看護師さんがいなくなったのを確認すると小さく呟いた
(助けて..未来...)
心の声は言葉にはならなかった。
その後は何事もなかったかのように午前中の検査やカウンセリングが始まった、それが終わるとお昼ご飯を食べて、午後からは院内学級に行くことになっている。
「こんにちは好亜ちゃん、なんか今日はいつもより元気がないね、何があったの?私で良ければいつでも相談にのるからね」
「すみません、ちょっと色々あって....」
「まぁ、あんまり思い詰め過ぎないようにね」
そんなこんなで院内学級を終えた好亜は病室に戻った。
「相談って.....」
好亜は院内学級の先生に言われた言葉を思い出した。
「好亜ちゃん...?」
そっとドアを開けながら好亜の病室に入って来たのは朝来たのと同じ看護師さんだった
「お母さんとお父さんになら会いませんよ」
看護師さんの言葉を待たずして好亜は答えた
「で、、でもさ、会いたがってるよ」
「だから何だと言うんですか?」
「で、、でも、、、」
「もう出てってください」
好亜は覚めた声でそう言うと看護師さんは悲しそうな顔をして病室から出て行った。
好亜はそのまま倒れるようにベットに横たわってスマホを開いた
「助けて....未来...」
好亜は未来にメッセージを送った。
未来の病室にて
ピンコン!
スマホの通知が鳴った
(誰からだろう?)
未来はスマホを手に取りメッセージアプリを開くと好亜からだった
“助けて....未来...”
そう書かれていた。
未来は慌てて病室を飛び出して好亜の病室に向かった
好亜の病室があるのは精神科のある棟だ、不幸なことに未来はの入院している病棟から一番離れている
(走れ、走れ)
未来は切れる息を無視して必死に自分に言い聞かせて走った
「好亜!」
未来は思いっきり好亜の病室のドアを開けて叫んだ
「来てくれたんだ..ありがとう...未来..」
「どうしたの?」
「私のお母さんとお父さんが私に会いたいって言ってるの」
好亜は包み隠さず話した
「好亜は、どうしたいって思ってるの?」
未来は優しい声で尋ねた
「私は....私は..」
「言ってごらん」
口籠る好亜を未来は優しく抱きしめて言った。
「会ってみたい、でも怖い」
好亜は初めて自分の気持ちを素直に言えた気がした
「じゃあ、会ってみよ。安心して私も一緒にいてあげるから」
好亜は黙って頷いて未来の服の袖を掴んだ。
「看護師さん、私...お母さんとお父さんと会ってみたいです」
それを聞いた看護師さんは笑顔で
「良かった」
と、言った。
次の日
「好亜ちゃんこっち」
看護師さんに呼ばれ好亜は振り向いた
「未来ちゃんはちょっと待っててね」
そう言うと、好亜は黙って未来に抱きついて
「未来と一緒が良い」
と、言うと
「好亜ちゃんがそう言うなら...良いよ未来ちゃんも一緒においで」
「はい!」
未来は内心止められるんじゃないかと思っていたので、許してもらえた事が嬉しかった。
好亜と未来は看護師さんに案内されて、とある部屋の前にたどり着いた
「この部屋の中でお母さんとお父さんが待ってるから、あんまり緊張したりしなくて良いからね」
看護師さんは好亜の不安を解こうとしたのか優しく声を掛けて部屋のドアを開いた。
「好亜!」
「好亜!」
看護師さんがドアを開いた瞬間、部屋の椅子に座っていたお母さんとお父さんとおぼしき二人の男女が同時に声を出して椅子から立ち上がった。
「こ...こんにちは..」
好亜は二人に圧倒されて挨拶だけで精一杯だった。
「まずは謝らないといけないよね」
「すまなかった」
「ごめんなさい」
お父さんらしき人がそう言って二人は深く頭を下げて好亜に謝罪をした。
「今更何だよ」
好亜の口から出たのはこの言葉だった
「お前らのせいで今までどれだけ辛い思いをしてきたか分かってんのかよ!」
好亜は強く拳を握りながら言った
「死んじゃえば良かった」
強く言い放った後に小さな声で小さくそう呟いた
「そう言うのも無理はない、俺たちはそれだけの事を好亜にしてしまったんだから、本当に申し訳ないことをしたと思っている」
そう言うと再び頭を深く下げた
「なにそれ」
好亜はぼそっとそう言って部屋を出て行った、未来は黙って後ろをついて行くしかなかった。
好亜は黙って自分の病室に戻ると膝から崩れ落ちた
好亜は両手で顔を抑えて泣いている、顔と手の隙間から大粒の涙が何滴も溢れては床に落ちていた。
「未来...ドア閉めて」
好亜に言われて未来は自分が病室のドアを閉めていないことに気づいた、未来は慌ててドアを閉めると
「死にたい気持ちが心の奥から溢れてきそう。もう、耐えられない」
そう言った途端、好亜は胸に手を当てて大声で叫ぶように泣き始めた。
「なんで...何で今更会いになんて来るんだよ、、何も知らないままでいた方が良かった!」
好亜を涙は溢れ出る一方で止まろうとはしなかった。
未来は黙ってその姿を見ていることしかできなかった
「でてっ...て」
「え...?」
未来が聞き返すと
「出てけって言ってんだろ!」
未来は何も言わずに病室から出て行った。
ちょうど病室を出た所に看護師さんが立っていた
「どうしたんですか?」
未来が尋ねると
「泣いているようだったから...」
と、病室に入るかどうか考えてる間に未来が出てきてしまったとのことだった。
「今は....独りにさせてあげてください」
未来にはそう言ってあげるくらいしかできなかった。
「あの...すみません、好亜のお母さんとお父さんですよね?」
未来は館内を探し回ってようやく二人を見つけた
「君はさっき好亜と一緒にいた...」
「はい、好亜の親友の初音未来と言います」
未来は覚悟を決めたような真剣な眼差しで答えた
「えっと...その、なんのようだい?」
好亜のお父さんが未来に尋ねると
「失礼を承知で単刀直入に言わせてもらいます、どうして好亜を捨てたんですか?」
未来は二人の目をじっと見つめて言った
「全て僕が悪いんだ....」
好亜のお父さんが話し始めた
「そんなことないですよ」
好亜のお母さんが否定した
「いや、僕だ、僕がもっと君と好亜を気に掛けていたらこんな事にはならなかったんだ」
「そんなこと...」
好亜のお母さんも否定し切れない様子だった。
「僕は、まだ好亜が生まれて間もない頃、毎日毎日仕事仕事で家庭のことなんて正直眼中に無かった。その結果妻は鬱になり子育てが十分に出来なくなってしまった、そうなっても尚僕は目を逸らし続けてしまった、そしてある日家に帰るとリビングに好亜が大きくなった時にやらせてあげようと買っておいた縄跳びを首に巻き付けている妻が居て、そこに好亜の姿は無かった。無責任だよな、今まで散々目を逸らしてきた癖にいざ目の前で自分の妻が自殺しようとしているのを見てそれを止めようとした、僕が自殺まで追い込んだようなものなのに。その後に好亜がどこにいるのかと聞いたら妻が答えた"捨ててきた"って僕は自分に絶望したよ、妻だけでなく娘の人生までも狂わせてしまったのだから、それでようやく目が覚めて、僕は妻の鬱の治療のために仕事を辞めて一日中妻のサポートをする事にした、そのために好亜をこの病院に鬱が完治するまでの間、好亜を預けることにしたんだ」
好亜のお父さんは全てを話してくれた
「どうして...どうして、そこまでなる前に気付けなかったんですか....?」
未来は涙を隠すために俯きながら聞いた
「もはや言い訳にしかならないけど、僕が当時勤めていた会社はかなりのブラック企業で、日々の仕事に追われているうちにそれしか見えなくなってしまったんだ」
「そんなのって.....」
未来はうまく表現できない感情に言葉を溢した
「私は好亜に笑って欲しい、好亜に幸せになって欲しい、だから、その為に私にできることなら何でも協力します」
そう言って未来は自分の連絡先を書いたメモを半ば強引に渡してその場を去った。
未来は自分の病室に戻って日記帳を開いた、未来にとってこの日記帳は素直な気持ちを吐き出せる唯一の物だった。
いつもはすらすらと書き進められるのに今日は早々にシャーペンが止まってしまった。
未来は好亜の病室の前に立ち尽くしていた、独りで何もできずに
呆然と立ち尽くしていると、突然好亜の病室のドアが開いた
「好亜」
「未来」
二人の目が合った。
好亜は黙ってドアを閉めた
未来は閉まり切ったドアにもたれ掛かって好亜に声を掛けた
「ねぇ、好亜」
好亜の声は返ってこなかった
(私は何もしてあげられない....)
そう思った途端に未来は自分の不甲斐なさに押し潰されそうにって涙が溢れ出てきてしまった
「未来、泣いてるの?」
好亜の声だった。
「どうして未来が泣くの?」
未来は返事をできなかった。
「ごめんなさい」
「どうして好亜が謝るの?」
「だって、私がいなければ未来が泣くことだってなかったじゃない」
未来は何も言えずにドアに背中をつけたままその場に座り込んだ
伝えたいことはたくさんあるはずなのに言葉にならない、そんなもどかしさに耐え切れずにより一層涙が溢れ出てきた
そのまま何もできずにその場に蹲っていた、どれほどの時間が経ったのか未来にはわからなかった
「未来、久しぶり」
そこには海音がいた
俯いていたせいで声を掛けられるまで気づかなかった
「どうしたの?」
「未来が押し潰されそうになってる気がしたから」
「海音.....」
未来は海音に抱きついて嗚咽した、海音は何も言わずに未来の背中をさすってくれた。
「取り敢えず部屋に戻ろっか」
しばらくしてから海音はそう言って未来と手を繋いで病室まで戻った。
「死にたい」
自分の病室に戻って一番最初に発した言葉はこの言葉だった
「生きてたって何の意味もない、みんなに迷惑を掛けて過去の記憶に苛まれて、そんな人生に何の意味がある」
海音の前でそう言ってしまった
(これでまた迷惑を掛ける)
「私って本当に迷惑な存在だよね」
開き直るように未来は海音の方を見て言った
「海音....好きだよ、これだけは言っておきたかった」
未来は海音にそう告げると独りで病室から出て行った。
未来は屋上に向かって歩いていた、ドアを開けると屋上の柵に座って空を眺めている女の子が目に入った
未来は考える間も無くその女の子が誰なのかわかった
「好亜.....」
今にも途切れてしまいそうなほど小さな声で好亜の名前を呼んだ。
「あっ、未来か...誰か探しに来たのかと思った」
「未来さっきはごめんね、私ちょっと思い詰めてて、でも心配しないでねもう解決したから」
そう言うと好亜はまた空を眺め始めた
「ねえ好亜、好亜の隣に行って良い?」
「嫌だ」
「そうだよね....私なんか...」
未来は後退りをした
「昔の未来なら無理矢理にでも私の隣に来てくれたのに....」
そう呟いた好亜の言葉で未来の動きは止まった
「確かに..昔の私ならそうしてたかもしれない、でも今の私はそんなに強くないよ」
「自分の嫌いな所が多過ぎて、頭がおかしくなりそう」
未来は思いの内を吐露した
「自分が大嫌い、嫌い嫌い嫌い!過去に囚われて毎日のように独りで泣いて、それなのに周りには笑顔を振り撒いて!」
未来は今までずっと独りで抱え込んできたものを叫ぶ様に吐き散らかした。
「やっぱり、未来と私って似てるんだね、私も同じこと思ってた」
「何で生まれてきちゃったんだろう?ってここ最近ずっと考えてて、答えなんて出るわけないのに」
好亜は空を見上げたまま未来に言った。
「やっぱり隣に行っても良い?」
未来はさっきと同じことをもう一度好亜に言った
「嫌だ」
答えは同じだった。
好亜の言う通り昔の私なら何て言われたとしても好亜に駆け寄って抱きしめていただろう、でも今の私はそんなに強くない。いや違うこれが本当の私、今までずっと自分に嘘をついてきたんだ、だけど.....
(好亜を助けたい)
その思いは未来の心の中に確かにある、その気持ちが嘘なのか本当なのか未来にはわからない、だけど好亜のためなら自分に嘘をついても良いと思えてしまう自分もいる。
「頑張れ、未来」
「えっ...」
好亜は確かに未来に向かってそう言った。
その言葉は、まるで未来の心の中を見透かしているかのようだった。
未来は自分の気持ちに素直になろうと心に誓った、例えその気持ちが嘘だったとしても。
「好亜!」
未来は思いっ切り好亜に駆け寄って好亜を強く抱きしめた。
屋上に来てから初めて好亜の顔を見れた、その顔には涙が流れていて、その涙を隠す為にずっと空を眺めていたんだと未来にはすぐにわかった。
「もしかして好亜、私を元気付けるために?」
未来はまだ落ち着かない好亜に尋ねた
「だって私が未来に酷い事しちゃったから、せっかく心配して来てくれたのに」
「私あの時ね屋上に行こうとしてたの、屋上に行ったら本当の未来に会える気がしたから」
「そしたらドア開けた瞬間に未来が居て、まだ心の準備が出来てなくてそのまま閉めちゃって」
好亜は全てを未来に話してくれた
「ねえ、未来も話してよ」
「私は好亜にドアを閉められた時、"やっぱり私って何もできないんだな"って思って独りで蹲って泣いてたら海音が来てくれて、海音に抱きついていっぱい泣いた、そしたら、つい本当の事を言っちゃって"何で生まれてきちゃったんだろう、自分が大嫌い、死にたい"ってそれでまた迷惑掛けちゃうって思って、独りになりたくて屋上に来た」
未来も全てを話した。
「そしたら好亜が居て、また好亜とお話ししたいなって思って....」
「良いよっ!いっぱいお話ししよ!」
好亜は今まで通りの好亜に戻った。
「未来、私どうしたら良いかな?パパとママの事、一緒に暮らすか暮らさないか」
「好亜は好亜のお母さんたお父さんの事どう思ってるの?」
未来は優しく訊き返した
「正直こわい、また暴力を振るわれるかもしれないと思うと涙が止まらない、けど、もう一回一緒に暮らしてみても良いのかなとも思う」
「そっか、じゃあ暮らしてみれば、少しの間だけでも良いと思う」
「そうしてみよっかな」
好亜はそう呟いて空を見上げた。
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