悪魔と呼ばれる辺境伯様の溺愛が原作世界を壊す

千見るくら

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第1章 悪魔の辺境伯

11.読者様の中に、説明できる方はいらっしゃいますか?

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「ソ、ナ……?」

教えられた名前を、思わず復唱する。
原作小説の記憶をたぐるように、脳内で検索をかけてみた。

……いない。
少なくとも、ソナなんて名前のキャラは登場していない。

やっぱりモブ?
……いやいや、そんなわけがない。こんなエロイケメンがモブであってたまるか。

「あのー……もうちょっとヒントもらえないでしょうか?」
「ヒント? どういうこと?」

ソナは楽しそうに笑った。

「なになに? 俺のこと、気になっちゃった?」
「いや、勘違いしないでください。そういう意味じゃないです」

半歩引いて即否定する私に、彼はますます面白そうな顔をする。
いちいち前髪を揺らしながら色気を撒き散らさないでほしい。

「ソナ!!」

その声と同時に、視界の端から影が差し込んだ。
ティーセットを手にしたシルヴァンだ。

彼はそれをテーブルの上に置くと、迷いなくソナと私の間に割って入った。

「離れろ。彼女に迷惑をかけるな」
「よお、シルヴァン。元気か」
「いつ来たんだお前。来るなら一通寄こせ」
「なんだよ、お堅いぶっちゃって」

シルヴァンはむっとしてソナを睨む。

ソナはにやにやしながら、「へえ~」と意味深につぶやいた。

「そんな怖い顔すんなよ。別にただ会話してただけさ」

ねえ?と、ソナが私と目を合わせる。

「おい!」
「ははは。お前、結構束縛強いタイプなのな。知らなかったわ」
「そくば……何言ってんだ! からかうな!」
「からかってねえよ。お前もちゃんと普通の恋ってやつができるんだなあ、って俺は感心してるのよ?」
「~~~~っ、もう黙れ。何も言うな」

二人のやり取りを呆然と見つめていると、それに気づいたシルヴァンが、はっとして咳払いをした。

「彼は、この辺りを管轄とする皇立憲兵隊で隊長を務めている男です」
「はい。皇立憲兵隊四番隊隊長でございます」

ソナはわざとらしく敬礼してみせる。

(皇立憲兵隊四番隊……)

皇立憲兵隊四番隊――皇都の治安を守る憲兵隊の中でも、特に厄介払いの汚れ仕事を押し付けられる部署だ。
いわゆる左遷先。
小説の中でも、騎士団のようなエリートコースから外れた、素行不良の兵士や政治的に疎まれた者たちが集められる場所として描かれていた。

「改めて自己紹介を。ソナヴィス・ラウです。お見知りおきを」
「またの名を、破壊神」
「ご紹介ありがとうございます。私はーーえ? 破壊神!?」

ぼそっと横から付け加えられた言葉に、うっかり「お前かー!!」と叫びかける。
やはりモブではなかった!クセ強四天王、お前もだったか!
まさかの正体に脳内テンションが急上昇する。

「めっちゃ気になってました破壊神。出てきてくれてありがとうございます」
「え?」
「いえ、こっちの話です。お気になさらず」

手のひらを突き出して言うと、、ソナは一瞬きょとんとし、それから堪えきれないように噴き出した。

「ははっ、いいね! やっぱり面白いわ、シェリー嬢。
 こんなユーモアもあって美しい女性を妻に迎えられるなんて――シルヴァン、お前も幸せ者だな」

「えっ」
「……どうして、彼女のことを知っている」

低く咎めるような声に、ソナは肩をすくめる。

「辺鄙な田舎だぜ? 噂が広まるのなんて一瞬さ。
 “悪魔に捧げられた、うら若き淑女”……生贄だのなんだの、好き勝手言われてるぞ」
「くだらない」
「今に始まった話じゃないだろ」

からかって、突っ込んで、言い返して。
そんな二人の会話を、私は横で呆然と眺めていた。

会話が途切れない。
こんなふうに言葉を重ねるシルヴァンを見るのは、初めてかもしれない。

(シルヴァンって、こんなに喋るタイプだったっけ)

いつもは寡黙で、言葉を選ぶように話す人なのに。
この軽口の応酬は、普段の彼とはまるで違う。

(……仲、いいんだ)

私の時とは違う。
そう思った途端、胸の奥がほんの少しだけ沈んだ。

表情に出てしまったのか、ふと目が合ったソナが困ったように眉を顰めた。

「ちょっと待って。その表情。今、なんか誤解したな」
「えっ」

彼は私から視線を外し、シルヴァンを見る。

「お前、ちゃんと呪いのこと話してるか?」
「呪い……?」

思わず聞き返した瞬間、シルヴァンの表情がびくりと揺れた。

「いや……それ、は……」

言葉が続かない。
沈黙が落ちて、空気がぴんと張り詰める。

「お前、その顔は言って――……ほぁ」

真面目な顔をして言葉を続けようとしたソナが、急に変な声を出した。

(……ほぁ?)

鼻を押さえ、必死に呼吸を整えようとする様子を見て、シルヴァンの顔色が変わる。

「ソナ! ばか、こらえろ!」

ソナは口を半開きにして上を仰ぎながら、ああ……とか、へあ……とか奇妙な気の抜けた声を漏らし続ける。
この動作には見覚えがある。出そうで出ない、出なさそうで出る、あの嫌な間。

(……くしゃみ?)

そう首を傾げた瞬間、視界が塞がれた。
シルヴァンが、覆い被さるように私を抱き寄せたのだ。

次の瞬間。

「ぶぇっくしょおおおおん゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

爆風。

文字通りの、爆風だった。

髪も服も後ろへ持っていかれ、耳鳴りがする。
凄まじい破壊音が庭に響き渡った。

突風が過ぎ去り、シルヴァンの腕の中から恐る恐る顔を出すと、さっきまであったテーブルと椅子が、無残な姿に変わっていた。

「……は!?」

理解が追いつかない私をよそに、ソナはまた鼻をむずむずさせている。

「はぁん……ふぇあぁ……」

それを見た瞬間、シルヴァンが走り出した。
庭の一角に植えられたラベンダーを、ちぎるように摘み取る。

そして次の瞬間、迷いなく――


ソナの鼻の穴に、そのラベンダーの花をぶっ刺した。


(えええ!? どういうことぉぉーー!?)

ズギャアアアンという効果音と集中線が見えた気がした。
あまりに衝撃的な光景に、一瞬、視界が白くなる。

ゼイゼイと肩で息をしながら、男の鼻の穴に花を突っ込んだまま固まるシルヴァン。
鼻からラベンダーを生やしたまま、ぴたりと動きを止めたソナ。
何が起きているのかわからず、ただ呆然と突っ立っている私。

異世界恋愛小説の世界で、絶対にありえない光景が目の前に広がっていた。

……あれ?
もしかして私が迷い込んだ世界、ギャグ漫画だったんだろうか。

「え……なにこれ……?」

ちょっと誰か、説明してください。


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