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うちの子がこちらにお邪魔してませんか?

うちの子がこちらにお邪魔してませんか? 5

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私が知っている神田さんは、いつ見ても穏やかに微笑んでいるのだが。優しそうな美形が表情を無くすと、こんなにも怖くなるのかと。私はまた一つ賢くなった。

「ひぃ! か、神田さん! 違うの! 泣かせたわけじゃないの! ”オトモダチ”に何にもしてないわ! ちょっと勘違いしていたみたいだから、違うって説明しただけなの! も、もちろん一瞬も触ったり殴ったりしてないわ! 無実よ!」

神田さんのことキス魔だとか言ったけど!!

「……海帆ちゃん、浴衣汚れちゃったね。風邪ひいちゃうからおいで」

神田さんはこちらをチラッと見ると”仕方ないなぁ”とでも言うように表情を和らげ、おいでおいでと手で示す。

はい。行きます。

完全に神田さんの無表情にビビった私は、素直に訓練された動きで神田さんの元へ移動した。無駄な動きもない、洗練された動作だった。

「──航貴……」

お姉さんは涙をハラハラと零しながら切な気に神田さんの名前を呼んだ。
あ、そうよね。ここで神田さんと一緒に帰ったらそういう風に見えるわよね!やっぱり、ここは一人で帰っ……

「……最初に言った通り、俺じゃ君の欲しいものはあげられないよ。ごめんね。この子にしたことは反省して」

口調こそ柔らかいものの、ヒヤッとするほど冷たい声だった。こんな声も出せたんですね。シラナカッタナァー。

──賢い私はピンと来た。ここで勝手に動いたら凍らされると。見つかったら無事では済まされないだろう。帰ろうと踏み出していた右足を元の位置へと戻す。セーフ!

ブリザード吹き荒れる神田さんに腰を絡め寄せられ、立ち尽くしたお姉さんをその場に残したままその場から離れた。



遠くに花火が打ちあがる音が聞こえる。
まだ人気の無い夜道をトボトボ二人で並んで歩く。

「──は! あの優子たちは」
「あぁ。大丈夫、二人には言っておいた」

ドラマチックな展開にうっかり忘れていたが、神田さんが二人に連絡をとってくれていたなら安心だ。なんなら二人で花火を見ていい雰囲気になっているだろう。

「そうですか。……それにしても、よくわかりましたね。私たちがあそこにいるって」
「連れられてるところが見えたからね。途中見失っちゃって、結局遅くなったけど」
「いえ、もう、ベストタイミングでした」

これ以上ないぐらいベストでした。さすがです。

「ベストじゃないよ。せっかくの浴衣が……」

神田さんの足が止まり、私も釣られて足を止めた。神田さんの指が、浴衣のシミになったところをなぞる。指が通ったところからジワジワとくすぐったい感覚がのぼってくる。

「──アイスコーヒーだったのが、まだ救いですね……?」

すぐイケナイ雰囲気になるから困ったものだ。空気を変えるように少しとぼけたことを言うと、神田さんもふわりと空気を変えた。

「あぁ、そうだ。このままじゃ風邪引いちゃうね。家が近くだからおいで」
「え、あ、いえ、お部屋はちょっと」
「ふふ、何かすると思ってるの?」

しそうじゃないですか。……と、私の顔が語っていたのか神田さんは、ははは!と弾けるように笑った後、少ししょんぼりした顔になった。

「……浴衣、そのままじゃ電車にも乗れないでしょ。俺の家近いし、洋服貸すよ。で、車で家まで送ってく。こんなことになった原因の責任をとらせて?」

ね? と弱弱しく言われたら、ついさっき疑ってしまった罪悪感と相まって、なんやかんや神田さんの部屋までノコノコとついて行ってしまったのだった。



神田さんの部屋はタワーマンションの単身階層にあった。とてもシックな雰囲気の部屋で、なんとも落ち着く内装だった。ホテルの部屋のような……でも本棚には生活感があって、なぜこんなにも落ち着くのだろうか……。

「海帆ちゃん? バスルームはこっちだよ」

そしてお風呂場……では無く、バスルーム!(オシャレ!)に案内され、コーヒーや汗を綺麗に流す。

──いやいや、待て待て。
何ちゃっかりお風呂を貸してもらっているんだ。何サッパリしているのか。借りるのは洋服だけだったはずだろう。

でも、汚れたままじゃ洋服汚しちゃうもんね……? じゃあ、しょうがない……よね?

バスルームで、コーヒーやら汗やら疑問などを綺麗さっぱり洗い流し、ホカホカピカピカになった体を拭こうと脱衣所を覗いた。

おや……?
私の下着はどこに……?

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