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第7章:天下の仮面
第46話:失われた書
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夜半、安土城の蔵に忍び込んだ影があった。
その手には燻った蝋燭と、絹で包まれた一巻の文書。
「これは……元亀元年、信長公の直筆……!」
その文は、十兵衛が“影武者”として初めて演じるよりも、遥か以前に記されたもの。
花押も筆跡も、確かに本物の信長のものだった。
文の中にはこう記されていた――
〈この身に何かあらば、影武者・十兵衛なる者を用いる可し〉
──すなわち、「影武者の存在を示す唯一の証」。
文を発見したのは、近習の中でも“旧信長派”と密かに呼ばれる者たちだった。
「……これを公に出せば、“今の信長様”が、影であると証明されてしまう」
だが、彼らは迷っていた。
天下が安定し、人心が“今の信長”を信じている中で、この事実はあまりにも危うい。
「影であれ、我らは“今の信長”に仕えてきた。ならば……この文は?」
その時、蔵の戸がきしんだ。
「その文を……渡してもらおうか」
姿を現したのは、明智家の遺臣・左馬助。
裏切り者と噂された彼は、生き延び、密かに“本物の信長”を探していた。
「お前たちは間違っている。“影”が国を治めるなど、天が許すはずがない!」
斬り結ぶ音が、闇に響いた。
──
翌朝、蔵は火事で焼けた。
残された者は、燃え残った灰の中に、微かに残る“花押”を見つけた。
「もう……証はない。記憶だけが、俺たちの中に残る」
その場にいた旧信長派の家臣たちは、誰もが口をつぐんだ。
そして同時に、決めたのだった。
“信長”とは誰か、もう問うまい。
十兵衛の知らぬところで、唯一の“記録”が消された夜。
影と本物の境は、さらに曖昧となっていく。
その手には燻った蝋燭と、絹で包まれた一巻の文書。
「これは……元亀元年、信長公の直筆……!」
その文は、十兵衛が“影武者”として初めて演じるよりも、遥か以前に記されたもの。
花押も筆跡も、確かに本物の信長のものだった。
文の中にはこう記されていた――
〈この身に何かあらば、影武者・十兵衛なる者を用いる可し〉
──すなわち、「影武者の存在を示す唯一の証」。
文を発見したのは、近習の中でも“旧信長派”と密かに呼ばれる者たちだった。
「……これを公に出せば、“今の信長様”が、影であると証明されてしまう」
だが、彼らは迷っていた。
天下が安定し、人心が“今の信長”を信じている中で、この事実はあまりにも危うい。
「影であれ、我らは“今の信長”に仕えてきた。ならば……この文は?」
その時、蔵の戸がきしんだ。
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「もう……証はない。記憶だけが、俺たちの中に残る」
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そして同時に、決めたのだった。
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影と本物の境は、さらに曖昧となっていく。
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