ライアスの翼シリーズ② ~ラバット国の姫君と魔剣~

桜野 みおり

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第3章 結集~最強の布陣とは?

(3)魔剣の王

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謁見組はゆっくりと休息を取り、それはそれはかなり豪華な朝食を頂いた。

「お口に合いましたでしょうか?」

女官長が心配気に顔を覗かせた。

「はい、勿論です。初めてこんなに豪華なものを頂きました。
すごく、感激しています。ライアス王には他の国がどういう運営をなさっているかも知りたいらしく、私たちに勉強して来る様にと言われました。しばらく滞在して、いろいろ教えて頂きたいのですがそれは可能なものでしょうか?」

「はあ・・・・・・すみません。私には何の決定権もございませんので、返答は控えさせていただきます」

「そうなんですか。では、誰にお願いしてみればいいでしょうか?」

キールにはすでに想定できていたことであるが、あえて女官長に聞いてみたのである。

「いいですよ。好きなだけ居て下さって」

カストマの声がして、ニコニコ顔のカストマが姿を現した。

「あっ、カストマ様、じゃなかった、カストマ。
いいんですか?」

「勿論です。あなた方なら大歓迎ですよ。私が暇な時なら、一緒に案内して差し上げます」

本気で信用しているのか、はたまた利用するのに丁度いいと判断したのか。とにかくカストマはふたりには好意的に見えた。

「嬉しいです。実は王様との謁見よりも、こっちの課題の方が大変なのは分かっていましたので、どう切り出そうかとふたりで悩んでいたんです。あの、機密事項が知りたい訳ではないので、単純に国を運営して行く上でやりやすい方法みたいなものがあれば、ご教授いただけるとありがたいです」

ここはあくまでも、表上の目的を強調する。

「分かっていますよ。機密事項を盗むようなやつは、表立って接触する様な真似しないですよ。
タムール国の王様が変わるということだけは王には情報が届いていまして、ライアス王からの書簡もえらく感動して読まれていましたよ」

付け焼き刃で作成した書簡にしては、まあまあの出来だったようである。

「そうだったんですか。実はそこもよくは分からなくて。
カストマに出会えて本当に良かったです。
どうか、よろしくお願いいたします」

キールとネビィスは深々と頭を下げた。

「やめてください。私は王様ではないですよ。
その王様が、ぜひお会いしたいそうです。
これから謁見の間に案内しますので、ついて来てくれますか?」

とても悪人とは思えない物腰でそう言うカストマ。

「勿論です。ありがとうございます」

キールとネビィスはカストマに連れられて、謁見の間へと移動する。その部屋はタムール国よりもかなり大きくて、造りも豪華に見えた。

「ネビィス、我が国は貧乏なんでしょうかね?」

それらしくキールが問いかける。

「さあ、そこは分かりませんが、これを見せられると、そう思わずには居られませんね」

「えっ、そんなに豪華に見えますか?」

カストマの問いかけに大きく頷くふたり。

「そうなんですね。逆にこれしか見ないので分からないですが、そう言っていただけるとありがたいです。
もうすぐ王が見えられますので、椅子にかけてお待ちください。
それでは私は失礼します」

目の前の机と椅子もかなり立派な造りをしている。
謁見の間だからそれはそれでいいかもしれないが、完全に予想と違ったのは、カストマが王の側にいようとしないことである。

「えーっ、カストマはいてくれないのですか?」

キールはわざと不安気な様子を見せた。

「なんか、かわいいですね。かなり嬉しいお言葉ですが、残念ながら、これから別の仕事でして、申し訳ないです」

「そうなんですか。そりゃあそうですよね。あなたほどの方なら、お仕事もたくさんこなされていらっしゃるでしょうから。
わがままを申し上げてしまい、申し訳ありません」

「いいえ、すごく嬉しかったですよ。また、ゆっくりとお会いする機会を設けますから、今回はおふたりでお願いいたします」

「分かりました。ありがとうございます。楽しみにしています」

立ち去るカストマをにこやかな表情で見送りながらも、心の中ではクエスチョンマークが飛び交っていた。

しばらくすると、まるで炎の様な深紅の髪を肩口まで伸ばした男性が入って来る。思っていたほどの老人感はないが、異様な感じを隠しもせずに纏っていた。
そしてその腰には、立派で大きい剣が差してあった。
どう考えてもこの人が王様なのだろうが、明らかにヤバいのは見た瞬間に分かった。
例えるなら、死人の器を誰かが操っている感じ。

「はるばる、ようこそお越し下さった。私がこの国の王でジルドラ・カーデです」

「初めまして、タムール国で呪禁師をしていますキール・スティンと申します。こちらは剣士長のネビィス・ビルドです」

「ネビィス・ビルドです」

短く言ったネビィスの言葉を聞いて、キールは更に続ける。

「この度は思いもかけず、かなり豪華にお持てなしをしていただき、誠にありがとうございます。
我が王におかれましては、隣国であるラバット国は双対国ではありませんが、その重要性は十分認識されております」

ジルドラ王はにこやかな表情になると思いを語る。

「なかなかにありがたいお言葉を拝見して、感動を覚えました。
我が国と友好関係を願って下さり、薬草の類いも格安で提供して下さるとのこと。この上なくありがたいことです。
ライアス王にはくれぐれもよろしくお伝えください」

嘘は書いてないのでそれはいいのだが、この王様の状況が今イチ分からない。一応、考えてものごとを話してはいる。
でも、見る限り、この王の身体が生きている様に見えない。
普通の人間なら、そこは気が付かない可能性が高いから、このままでも王として君臨し続けることは可能かもしれないが。

「もったいない。ジルドラ王にそう言って頂けて、ライアス王も喜ぶと思います。友好関係を続けていただけそうで、本当に良かったです」

キールはにこやかに対応しながらも、どうしたものかと考える。

「ジルドラ王、この国には騎士もいるのですね。
剣士と騎士って使い分けは難しいイメージなのですが、その辺はどうされているのでしょうか?」

タイミングよく、ネビィスがジルドラ王に質問をする。
王は少しだけ考える仕草をすると答えた。

「まあ、どっちもたいして変わらないですね」

いやいや、大分変わるだろう!
突っ込みたい気持ちを抑えてネビィスはとりあえず合せる。

「そうなんですか。うちは砂漠なので、騎士は不利なイメージもあったんですが、そういう訳でもないのですね」

「ああ、タムール国は砂漠の国でしたね。なら、騎士は止めた方がいいかもしれないですね。着ているものが重いので、動けなくなる可能性もあります」

「やっぱりそうなんですね。ありがとうございます。
非常に勉強になります」

ネビィスが王の気を逸らしているうちに、キールは王を観察するのだが、ちょっと見ただけでは分からない様になっているが、王の腰の剣からは邪悪なものが漂っている。
おそらく、これで操っているのだろうが、どう考えても側にいなくても絶対的に安心な代物とは思えない印象だ。
もしくは王自体がもう死んでいて、操る為だけに身体を利用している場合も考えられなくはないが。
何にしてもまだ、謎が多すぎる。

「ジルドラ王様が素敵で、お優しい方でとても嬉しいです。
ぜひ、我が国とも長く友好関係を築いて行きましょう」

「勿論です。こちらこそ、ありがたいです。
せっかくお越しになられたのですから、ゆっくりご滞在ください。
大したお持てなしも出来ませんが、それなりにさせていただきます」

ニコニコとした笑顔を振りまき、王は下手な物言いをした。

「とんでもないです。ここは全て豪華すぎて、夢の様です。
もしもジルドラ王が我が国に起こしになられたら、がっかりされるかもしれませんよ。うちは本当に小さな国で、豪華でもないですから」

若干、言い過ぎ感はあるが、半分くらいは当たっているので、いいとする。

「そうなんですか? でも素晴らしい王様の様ですから、お会いしてみたいですね」

「ありがとうございます。我が王もそのお言葉を伝えたら、きっとお喜びになられると思います」

まあ、こんな感じで和やかに謁見は進んで、無事に終了した。
しかし、どんなに観察しても、確定的な状況が全く見えなくて、さすがのキールも頭を抱えた。

あてがわれた部屋に戻り、とりあえず、椅子に腰かける。

「キール、キールでもそんなに悩むことあるんですね」

あまりにレアな光景にネビィスが問いかける。

「買いかぶらないでくださいよ。私は何でもできる訳ではないですよ。でも困りましたね。単純にあの剣を取り上げれば元に戻るのでしょうか? 側にいなくても大丈夫なら、もしかするとまだ見えていない何かがあるのかもしれないですね」

慎重なキールの言葉にネビィスも困った表情をする。

「とりあえず、エリオルに報告だけはしてみたら」

「ですね。そうします」

キールは考えることを諦めて、エリオルとの交信を試みる。

(エリオル、聞こえますか? キールです)

(キール、謁見終わったのか?)

大体の時間を予測していたのか、エリオルはすぐに対応してくれた。

(はい。ただし、非常に残念ではありますが、現状ではよく分からないと言うのが結論です。
王が腰に差していた剣は、確かに禍々しい気を放っていました。
ただ、王様自体も死人の様に思えて、器を誰かが操っている感じも受けたのですが。
会話はたまに、外れる感じがありますが、一応考えて会話している様には見えました。
居座れとのことだったので、居座りはしますが、これからどうしましょうか?)

(王自体も邪気を放っている感じがある?)

エリオルの問いかけに、キールは記憶を手探る。

(うーん、多分あの魔境国のカストマは、すぐにはバレないように、邪気を薄い気のベールに包んでいるんですよね。
剣にもそれがしてありましたから、王自体にもしてあるのかもしれないですね。
王様をまじまじと見つめるのも失礼なので、そこは出来なかったので、今言っていることは、あくまでも推測の域は出ませんが)

(それで十分だよ。やっぱり、一筋縄じゃいかないよな)

(ああ、それからカストマ自体、王の側にいませんでした。
正直、側にいなくても正確に操れることなんてあり得ないので、そこにも困惑しています)

キールがよほど困っているであろうことは、口調からすぐに想像できた。

(OK! キール。それなら逆に、方法は限られる。オレたちは牢屋メインだから、他の場所の散策よろしく!)

エリオルの返事にキールは驚く。

(本当に今ので分かったんですか? 私は丸っきり分かりませんが)

(それでいいんだよ。キールが分かったら逆にオレが驚く。
ある一定の人種にはすぐに分かることでも、他の人には分からないことなんだ。まあ、普通は分かる必要性もないけど)

エリオルの中には相当な確信があるのか、そう言った。

(エリオルは本当に頼もしいですね。その言葉を聞いて、少しホッとしました。では、いろいろと部屋の散策をしてみますね)

(ああ、ありがとう。ネビィスにもよろしく!
じゃあ、また何か分かったら交信して)

(了解しました)

交信を終えると、キールは笑顔でネビィスに言う。

「ネビィス、やっぱり、エリオルは凄いですね。
あの情報だけで、方法が分かったみたいです」

「そうなんですか? あの方本当に何者か気になりますね」

ネビィスの言葉にキールも頷く。

「でも、目下のお仕事はこの国の散策なので、せいぜいカストマに取り入って、なるべくたくさんの部屋なりなんなりを調べましょう」

「今夜にはエリオルたちも捕まって、牢屋に入りますよね?」

「ええ、ハワードたちはもういるはずですから。まあ、牢屋に堂々と会いに行く訳にもいきませんが、いずれ、こっちの情報が役立つと信じて、がんばりましょう」

「そうですね」

ポジティブ思考のふたりはそう言うと、ゆっくりと行動を開始した。

第3章 完結
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