ライアスの翼シリーズ② ~ラバット国の姫君と魔剣~

桜野 みおり

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第6章 それぞれの想い、そのかけら

(1)終焉

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エリオルが眠っている部屋にはひっきりなしにお客様がやって来る。しかし本人が眠っているので、全てハワードが対応する。

「エリオル目覚めたか?」

今回の作戦が無事終わる少し前に、ライアス王が合流していた。
大っぴらに姿を現すことができないので、キールたちが歩き回って調べた中で、現王がほぼ使っていない王の陰室があった。一応許可を得てそこを使っていた。
途中からはみんなでかなりやり取りをしていたので、色んな事がスムーズだった。

「いいや、まだだ。今回はふたりだったからな。
まあ、ジルドラ王の方は、メインはこちらの聖霊王子様のお力のお陰だがな」

表面上は聖霊獣を持っているとは思われてないので、無難な状況をでっち上げる。

「初めまして。タムール国王、ライアス・マーティルです。
この度はお力添え、感謝致します」

「いいえ、こちらこそ。貴方の臣下の方々は皆さん優秀ですね。
感心致しました。これからも何かあった際はよろしくお願い致します」

聖霊王子は状況判断でハワードに話を合せる。

「勿論です。俺は個人的にも聖霊王には借りがあるので、喜んで協力させてもらいます」

「それはいい言葉を聞いた」

このタイミングで魔境王がやって来る。

「実は今回のカストマ以外にも何人かが同じ様に、人を操ることのできる何かを作って七国に入り込んだらしい」

「つまり、他の七国にも行ってみる必要があると言うことですか?」

「ああ、そうなる。でもなんせ俺はこの七国ではあまり長居できないから。環境がな。ライアス王、悪いが他の国についても調べてもらうことは可能か?」

魔境王の願いを断る者がいる訳ないのだが、一応、問いかけ口調でライアス王に問いかける。

「今回の様なことに他の国もなっていたとしたら、大問題です。
七国同盟の崩壊はこの世界の平和の終焉を意味しますから。
喜んで他の国についても調べさせていただきます」

ライアス王はそう言うと笑顔になる。

「ハワード、俺がここにいるから、王たちをお連れして一緒に食事をしてこいよ」

「もう、そんな時間なのか? まあ、俺はいい。ライアス王こそ食事をしてきてくれ。ここに王が集まっていたら話にならんだろう」

見事に王様が集結しているので、さすがにここに引き留めておくのは良くないと判断した。

「俺はおまけにすぎないから、気にしなくてもいいんだよ。
状況は悪くなかったから、来ない選択肢もあったんだが、魔境王に聖霊王子がお出ましとなったら、さすがに出向かないと」

「それは気を遣わせて悪かった。ことがこんなに大きくなるとは思っていなかったんでな。
あっ、目的を忘れるところだった。
エリオルに早く目覚めてもらおうと思って、力を少しだけ分けてやろうと思ってな。前回、それで回復が早かったんでな」

魔境王はいいながら、エリオルの側に寄ると頭に手のひらをかざす。
そこから銀色の光がエリオルへと流れていく。
あまり見ることがないので、ある意味不思議な光景で、みんな興味津々で見ていた。

「魔境王の力は癒やしの力も持っているんですか?」

聖霊王子の問いに、すぐに首を振る。

「ない。でも、与えた後で変換されるみたいだな。
聖霊国が持っている癒やしの力ではないが、回復を助ける自己治癒の力はあるみたいだな」

魔境王は自分の力を冷静に分析すると言った。

「そうなんですね。凄いじゃないですか。
それはある意味、癒やしの力ですよ」

聖霊王子の言葉に苦笑を浮かべる魔境王。

「ちょっと違うかもな。相性がよくないと発動しない。
力の変換の時にうまくマッチしてくれないとダメなんだ。
たまたまエリオルはマッチした。それだけのことだ」

別に大したことでもない様な言い方で答えると手を外す。

「多分、こんなもんだろう。後でハワードとエリオルには何かを持って来るとして、俺たちはとりあえず移動することにするか」

魔境王は手をどけるとそう言い、故意に聖霊王子とライアスを促した。

「わかりました。じゃあ、ハワード後をよろしく」

「了解」

三人の王族たちは楽しげに部屋を出て行く。
ハワードとふたりだけの空間でエリオルが目覚める。

「こんなところで王様の井戸端会議ってどうなんだろうな?」

「あっ、目覚めたか?」

「ああ、魔境王の力が入って来た時点でな」

「そうなのか? 何で声出さなかったんだよ」

「ここで声だしたら、面倒くさいことになりそうだったから。
とりあえずハワードとのんびりしたかったし」

エリオルのその言葉にハワードは笑顔になる。

「それは嬉しい言葉だな。まあ、でも体調はまだ戻っていないだろうから、大人しくするにこしたことはない」

「ああ、分かっている。魔境王もそれを思ったから、わざとふたりを連れて行ってくれたんだよ」

故意にその言葉を発していたのはすぐに分かる。
何なら言われたふたりも、承知の上で合せた可能性が高い。

「大した王様に王子様だな。ああ、王女様も凄いけど」

ハワードの感心の仕方に思わず吹き出しそうになる。
ちなみに普通、婚姻前の女性は姫君と言われることが多い。
聖霊国は直系の子どもに関して、男性が王子で女性が王女と決められている。例え半分だけでも、それは適用されるのだ。

「それ言うなら、そんな王女を育てた人物こそ凄いよな」

「それはどうだか? 単純に本人の努力のたまものだからな。
あっ、腹へっただろう?
何かもらって来てやる。今、多分ど派手にお祭り騒ぎだろうからな。結構ご馳走にありつけるんじゃないか?」

とらわれていた旅人たちは全て解放され、騎士団もすぐに解体された。この国も地形的には良くないので、騎士の場合、動きがかなり制限されるので、白紙に戻された。
一連のバタバタをタムール軍団はもとより、野盗軍団の方たちもかなりな統率力で事態の収拾に貢献してくれた。

「待ってれば誰か来るんじゃないか?」

エリオルがそう言った瞬間、扉がノックされる。
ほらねと言うかの表情でエリオルがハワードを見つめる。

「どうぞ!」

「失礼します。エリオル様はお目覚めでしょうか?」

言いながら扉の前に立っていたのは、ロザリア姫だ。
すぐ隣にキルシュもいた。

「すげえ組合せだな。まあいい。どうぞ」

さすがに横になっている訳にもいかないので、身体を起こすエリオル。

「エリオル様、すみません。横になられていても大丈夫ですよ。
この度は本当にありがとうございました。
また、父も助けて下さり、感謝の申し上げようもないです」

「父上は聖霊王子様がメインだから、オレはサブを勤めただけだ。そもそも、やるべきことをやっただけなので、そんなに感謝する必要はない。それにキルシュの方がいろいろがんばってくれたんだしな」

エリオルは側のキルシュを見ながら当然の様に言う。

「それは違う。俺には色んな感情がそもそもの土台としてあったから、単純に必死だっただけだ。
エリオル、お前の様に冷静に物事を見て、判断していた訳じゃない」

「まあ、そこは否定できねーところだな。
だが、お前がその必死さを隠さずに行動したからこそ、みんなも同じ気持ちでがんばれたんだぜ」

「ハワードの言う通りだ。お前にとって姫君は大切な人なんだろう? とにかく、イメージ通りに終息して良かった。
姫君もよくがんばられました。これからは幸せな時間を過ごしてください」

エリオルの言葉にロザリア姫は感涙する。

「本当にありがとうございました」

深々頭を下げてから、思いだしたかの様に扉の向こうに声をかける。

「入ってください」

すぐに料理の皿を持った人が続々と入って来る。

「こらまた、すげーな。俺たちふたりだけじゃ食いきれんぞ。
キルシュと姫君もまだだろ食事。一緒に食おうぜ」

ハワードはどう見ても、多すぎるそれを見て言った。

「これ王様と王妃様が、エリオルに早く元気になってもらいたいとの思いで、持って行く様に言われたんだ。
俺たちは礼をちゃんと言いたかったから、ついてきたんだ」

「なるほど、それはありがたいが、さすがにこんなにたくさんは食えないな」

エリオルは苦笑を浮かべながら、答える。

「では、私たちもご一緒させていただきます」

「ありがとう。そうしてくれると助かるよ」

それから四人で和やかに食事会。
ようやくこの国も落ち着いた印象は受けるので、肩の荷が降りた感じのエリオルだった。
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