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第6章 それぞれの想い、そのかけら
(2)王様たちの晩餐
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「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」
かなり元気に回復したジルドラ王が晩餐会に出席の王様たちを目の前に、深々と頭を下げる。それに習ってサーフェス王子も同じ様に頭を下げる。
「いや、気にすることはない。そもそも、俺の監督が悪かったからこうなってしまったのだから。まあ、でもライアス王、いち早く対応してくれて礼を言う」
魔境王はライアス王に礼を述べた。
「いえいえ、俺はほぼ何もしていないので、うちのチームはがんばったとは思いますが、俺はお飾りなので若干居心地が悪いです」
「そんなことはないですよ。ちゃんと対応できる人物を適材適所で配置できるその戦略のセンスこそ、私が今欲しい技術なんです」
聖霊王子の言葉に、ライアス王は悪い気はしないので、笑顔になる。
「聖霊王子、俺を買いかぶりすぎですよ。それは俺のセンスじゃなくて、単に集まる人種が凄いだけの話なので」
「でも、そんな人種を探し出せるその眼力はやっぱりセンスだとおもうがな」
魔境王の言葉に聖霊王子も大きく頷く。
「勘弁してください。そんな大それた人間じゃないですから」
ライアス王は恐縮する。
「王様方、お話もいいですが、しっかりお食べください。
料理はたんとありますから」
マリアノ王妃が助け船を出す。
「これは、ありがたい。じゃあ、頂くか」
魔境王の言葉で、しばしお食事モードに突入。
少し離れた同じ空間にはネビィス、キール、アーメル、ヘルン、レイモンド、野盗のみなさんが勢ぞろいしていた。
「にしても、この国は大きいのね。こんなに人数を収容できて、料理の提供も最高レベルだと思うもの」
アーメルの言葉にレイモンドが答える。
「そうでもないですが。タムール国と比べれば少しは大きいのかもしれないですね。でも国の大きさは関係ないです。
どれだけいい人材がいるか?
そこに尽きます。残念ながらうちにはいい人材が居なかったので今回の事態を招いたと思います。
と言うことで、クルドさん、あなたの軍団をそっくり雇い入れたいのですが、それは可能でしょうか?」
「はい??? 俺ら野盗ですよ?」
クルドの言葉にレイモンドはまじめな顔で答える。
「知ってますよ。統率力はナンバーワンだとエリオル様からお墨付きをもらっています。現状、すぐにでもこの国の立て直しが必要です。その為にはあなた方の様な人材が必要不可欠です。
カミーラさんにはロザリア姫の護衛をお願いしたい」
思ってもみなかった申し出に、困惑気味の野盗さんたち。
「でも、あなた方もその方がいいんじゃないですか?
エリオルがあなた方を推す理由が私にはよく分かりますけど」
キールはそう言ってクルドを見つめる。
「あの状況下でエリオルは他でもないあなたを選んだ。
あなたのお頭としての統率力の高さを見抜いたから。
正直、何でって最初は私も思いましたけど、結果的にあなた方はかなり活躍してくれた。
それは、最高の貢献です。私も新たに人選をするのであれば、あなた方を推薦します」
「それは、私も同意見です」
キールの言葉にネビィスが同意を示す。
「それは、俺だって。撤収作業、すごく助かったんだからよ。
何ならうちのラミンナ国にも連れて帰りたいくらいだが」
ヘルンも同意する。
「私だって、カミーラと楽しく仕事ができたから、もっとこの国の為にがんばって欲しいと思うもの」
アーメルも意見を述べた。
みんなの優しさに、野盗の方々は感涙。
「こんなどうでもいい人間たちをいると言ってくれて、本当にありがとうございます。
俺たちでよければぜひ、よろしくお願いいたします」
みんなの心にクルドは折れた。
そもそも野盗をずっと続けるつもりはなかった。
こんなにありがたい話は二度とないかもしれない。
思い切ってこのタイミングで方向転換することにした。
「レイモンド、良かったですね。この国にも見渡せばもっと優秀な人材がいるかもしれないですよ。
武器を作っているくらいなんだから、手先は器用だろうし、まあ、これからの発展が楽しみですね」
キールはそう言って笑顔をレイモンドに向けた。
「にしても、兄弟が揃うとはですね。よもやふたりに会えるとは思いもしなかったですが。ありがとうございました」
「何言ってるんですか。私たちは超楽組だったので、感謝されることは何もしていません。ほぼエリオルに丸投げでしたから」
「そう言えばエリオル様、もう、お目覚めになられたでしょうか?」
「どうですかね? ハワードがついているので、大丈夫だとおもいますが。まあ、いつかは回復されるので、大丈夫ですよ」
キールとて、そこが気にかからない訳ではなかったのだが、正確なことは分からないのでコメントのしようがない。
「じゃあ、まあ、楽しく食おうぜ!」
ヘルンが元気に言って、ノリノリな野盗の方たちも「おー」とかけ声を出し、食事を楽しんだ。
一方、少し離れたところでこじんまりと王たちは美味しく食事をしながら、徐々に話は戦略会議へ。
「にしても、良くここが危ないと分かったな」
魔境王が感心している。
「会議の最中に魔術師系の誰かが覗きに来ていたので、近場から攻めたらたまたま当たりだっただけで、深い意味はないです」
ライアス王の言葉に、魔境王は頷きを返す。
「いや、それでもそれだけで、何かあると思って人材派遣することが凄いな。なかなかできんぞ」
「本当は自分で動きたいんですが、キールが目を光らせているのでそれもできず。でもまあ、人材だけはかなりな割合で素晴らしい人物を集めているので、そこだけですね。少しだけ褒められるとしたら」
ライアス王はそう言って自分を分析する。
基本的に王はどういう状況でも、戦略を立てて、実行に移す為のビジョンを速攻で構築する必要がある。
何だかんだでライアス王にはその資質がずば抜けて高い。
「そう言えば、あの最初にお会いした方にお礼を言いたいのですが」
勿論、食事を運んでもらっていることは分かっているが、目覚めているかも分からないし、どのタイミングで会えばいいかも計りかねていた。
思い出した様に言うジルドラ王に魔境王は人差し指を立てて、シーというゼスチャーをすると、ニッコリ笑う。
「あの光景は忘れてくれるとありがたい。
かなり特殊な話になるのでな」
少なくともエリオルがライアス王にも知られたくないと思っている以上、勝手に正体をばらす訳にもいかない。
それにそれをすれば、人によっては、聖霊王に尊敬の念を抱きにくくなる恐れもある。
こんなに人が多いところではリスクが高かった。
「まあ、でも、人の資質を見極めるというのは難しい」
「魔境王でもですか?」
ライアス王が不思議そうに問いかける。
「当然だ。そして深く追求するなら、むしろ混血種をたくさん増やして、極端に悪いか、いいかみたいな?
まあ、実験ではあるがな」
「でもそれは、ある意味合っている部分があるかも。
エリオルに初めて会ったとき、こんなにも凄い剣士がいるんだと感動さえ覚えました。本人は人助けしても全然、恩着せがましいこともせず、マイペースで何よりも状況判断に長けていた」
「今回もだがな。何なら頭の中を探ってみたいよな」
魔境王は笑いながらいい、少し考えて言った。
「もう、目覚めてるだろうな。ちょっと会いに行くか」
「そうですね。もう食事は運ばれているでしょうね?」
結局、顔を見ないと落ち着かないのか、魔境王がそう言って、王様ご一行がゾロゾロと移動する。
人数が多いので、意外にその動きは目立たない。
少しの後、王様ご一行がエリオルの部屋の前に到着。
扉をノックすると、すぐにハワードの声。
「はい、どうぞ」
魔境王は扉を開けると中へと入る。その後にゾロゾロ王様が入ってくる。
中ではロザリア姫にキルシュがエリオルとハワードと共に食事をしていた。
「何かすごい集団だな。ここまで王様が多いと圧巻だな」
エリオルが情景を見ながら言う。
「その王様がみんな、お前を心配している。どうやら、大丈夫みたいだな。元気そうで一安心だ」
魔境王の言葉に、少し笑顔になるエリオル。
「王様ってみんないい人なんだな。普通はみんな、混血種ってだけで目の敵にするんだけどな。
魔境王のお陰で、早く回復することができたのは間違いないない。
本当にありがとうございました」
素直に言うと頭を下げた。
「いや、今回のことは全て俺が悪い。そして残念なことに他の七国にも潜り込んだ可能性がある。その全てが王に狙いを定めているかは分からん」
魔境王の言葉に少しだけ考えるエリオル。
「何にしても目的が七国同盟を壊すことなら、今回みたいに王を取り込んで操るか、もしくはその国の流通経路を司る誰かを取り込んで、流通を絶つか、その国の中で戦を先導して国を壊すか。
パターンはいろいろと考えられるが、毎回いい具合にその主要人物に行き着くかだよな」
「俺たちは所詮、ただの剣士に過ぎないもんな。動くとしても限度があるよな」
キルシュがエリオルに同意する形で言葉を紡ぐ。
「じゃあ、俺の使いとして、俺の書簡を持って行くか?
俺が王になりたてってのはそれぞれの王の中では共通認識のはずだから。ちなみに今回、キールが自己判断で勝手に書簡を作成したらしい。大したやつだ。俺の影武者になれそうだな」
「キールは戦略家だからな。かなり計算してカストマにも取り入ったと思うぜ。今回みたいにみんなが別れちまうと最悪、合流が大変になるから、時間がかかっても、ひとつずつ国を見てきた方がいい気がするがな」
今回のバタバタを教訓にハワードが提案する。
「それは言えてるかも。今回はハワードが気づいてすぐに引き返してくれて、こっちが正解ということが分かった上で行動してくれたから、早い段階で何とかなったってのはあるけど、毎回となるとそう都合よくことが運ぶとも思えないよな」
不安要素をあげればきりがないが、前に進んでいくしか道はない。
さすがのライアスでさえ、まだ手探り感は拭えない。
「まあ、考えても仕方ないか?
ライアス、いくらお前がいても、全員がよそに行ってたら、いざという時に困るから、ネビィスとキルシュを連れて、タムール国に戻ってくれ。あとに残った人員で次の国を目指す」
いろいろ考えた末、エリオルはそう提案した。
「そうだな。自国の安泰を保てなければ、他の国を助けるどころじゃないからな。まあ、妥当な落としどころだな。
よし、それで行こう!」
ライアスはエリオルの提案を受け入れた。
そのタイミングで、ジルドラ王がエリオルに問いかける。
「この度はお力添え、本当にありがとうございました。
何かお礼をしたいのですが、何がお好みでしょうか?」
「そんなものはいらない。別にやるべきことをやっただけで、褒められることなどしてはいないから」
「それでは私の気が済みません。他の王様方にも心ばかりのものを送らせてもらえる様に進言いたしました。
どうか、私の顔を立てると思って何か仰ってください」
王の真剣な眼差しから、本気なのはよく分かった。
「本当に何でもくれるのか?」
「はい、あなた様には家族一同ご恩があります。何なりとお申し付けください」
エリオルは仕方なさそうな顔をすると、ジルドラ王に近づき、耳打ちする。瞬間、王はびっくりした顔をしてまじまじとエリオルを見つめた。
「何でもくれるんだよな? じゃあ、問題ないな?」
エリオルの問いかけに王は大きくうなずく。
「かしこまりました。必ず仰せのままに」
そういうとジルドラ王は深々と頭をさげた。
そんなこんなで夜は過ぎていった。
かなり元気に回復したジルドラ王が晩餐会に出席の王様たちを目の前に、深々と頭を下げる。それに習ってサーフェス王子も同じ様に頭を下げる。
「いや、気にすることはない。そもそも、俺の監督が悪かったからこうなってしまったのだから。まあ、でもライアス王、いち早く対応してくれて礼を言う」
魔境王はライアス王に礼を述べた。
「いえいえ、俺はほぼ何もしていないので、うちのチームはがんばったとは思いますが、俺はお飾りなので若干居心地が悪いです」
「そんなことはないですよ。ちゃんと対応できる人物を適材適所で配置できるその戦略のセンスこそ、私が今欲しい技術なんです」
聖霊王子の言葉に、ライアス王は悪い気はしないので、笑顔になる。
「聖霊王子、俺を買いかぶりすぎですよ。それは俺のセンスじゃなくて、単に集まる人種が凄いだけの話なので」
「でも、そんな人種を探し出せるその眼力はやっぱりセンスだとおもうがな」
魔境王の言葉に聖霊王子も大きく頷く。
「勘弁してください。そんな大それた人間じゃないですから」
ライアス王は恐縮する。
「王様方、お話もいいですが、しっかりお食べください。
料理はたんとありますから」
マリアノ王妃が助け船を出す。
「これは、ありがたい。じゃあ、頂くか」
魔境王の言葉で、しばしお食事モードに突入。
少し離れた同じ空間にはネビィス、キール、アーメル、ヘルン、レイモンド、野盗のみなさんが勢ぞろいしていた。
「にしても、この国は大きいのね。こんなに人数を収容できて、料理の提供も最高レベルだと思うもの」
アーメルの言葉にレイモンドが答える。
「そうでもないですが。タムール国と比べれば少しは大きいのかもしれないですね。でも国の大きさは関係ないです。
どれだけいい人材がいるか?
そこに尽きます。残念ながらうちにはいい人材が居なかったので今回の事態を招いたと思います。
と言うことで、クルドさん、あなたの軍団をそっくり雇い入れたいのですが、それは可能でしょうか?」
「はい??? 俺ら野盗ですよ?」
クルドの言葉にレイモンドはまじめな顔で答える。
「知ってますよ。統率力はナンバーワンだとエリオル様からお墨付きをもらっています。現状、すぐにでもこの国の立て直しが必要です。その為にはあなた方の様な人材が必要不可欠です。
カミーラさんにはロザリア姫の護衛をお願いしたい」
思ってもみなかった申し出に、困惑気味の野盗さんたち。
「でも、あなた方もその方がいいんじゃないですか?
エリオルがあなた方を推す理由が私にはよく分かりますけど」
キールはそう言ってクルドを見つめる。
「あの状況下でエリオルは他でもないあなたを選んだ。
あなたのお頭としての統率力の高さを見抜いたから。
正直、何でって最初は私も思いましたけど、結果的にあなた方はかなり活躍してくれた。
それは、最高の貢献です。私も新たに人選をするのであれば、あなた方を推薦します」
「それは、私も同意見です」
キールの言葉にネビィスが同意を示す。
「それは、俺だって。撤収作業、すごく助かったんだからよ。
何ならうちのラミンナ国にも連れて帰りたいくらいだが」
ヘルンも同意する。
「私だって、カミーラと楽しく仕事ができたから、もっとこの国の為にがんばって欲しいと思うもの」
アーメルも意見を述べた。
みんなの優しさに、野盗の方々は感涙。
「こんなどうでもいい人間たちをいると言ってくれて、本当にありがとうございます。
俺たちでよければぜひ、よろしくお願いいたします」
みんなの心にクルドは折れた。
そもそも野盗をずっと続けるつもりはなかった。
こんなにありがたい話は二度とないかもしれない。
思い切ってこのタイミングで方向転換することにした。
「レイモンド、良かったですね。この国にも見渡せばもっと優秀な人材がいるかもしれないですよ。
武器を作っているくらいなんだから、手先は器用だろうし、まあ、これからの発展が楽しみですね」
キールはそう言って笑顔をレイモンドに向けた。
「にしても、兄弟が揃うとはですね。よもやふたりに会えるとは思いもしなかったですが。ありがとうございました」
「何言ってるんですか。私たちは超楽組だったので、感謝されることは何もしていません。ほぼエリオルに丸投げでしたから」
「そう言えばエリオル様、もう、お目覚めになられたでしょうか?」
「どうですかね? ハワードがついているので、大丈夫だとおもいますが。まあ、いつかは回復されるので、大丈夫ですよ」
キールとて、そこが気にかからない訳ではなかったのだが、正確なことは分からないのでコメントのしようがない。
「じゃあ、まあ、楽しく食おうぜ!」
ヘルンが元気に言って、ノリノリな野盗の方たちも「おー」とかけ声を出し、食事を楽しんだ。
一方、少し離れたところでこじんまりと王たちは美味しく食事をしながら、徐々に話は戦略会議へ。
「にしても、良くここが危ないと分かったな」
魔境王が感心している。
「会議の最中に魔術師系の誰かが覗きに来ていたので、近場から攻めたらたまたま当たりだっただけで、深い意味はないです」
ライアス王の言葉に、魔境王は頷きを返す。
「いや、それでもそれだけで、何かあると思って人材派遣することが凄いな。なかなかできんぞ」
「本当は自分で動きたいんですが、キールが目を光らせているのでそれもできず。でもまあ、人材だけはかなりな割合で素晴らしい人物を集めているので、そこだけですね。少しだけ褒められるとしたら」
ライアス王はそう言って自分を分析する。
基本的に王はどういう状況でも、戦略を立てて、実行に移す為のビジョンを速攻で構築する必要がある。
何だかんだでライアス王にはその資質がずば抜けて高い。
「そう言えば、あの最初にお会いした方にお礼を言いたいのですが」
勿論、食事を運んでもらっていることは分かっているが、目覚めているかも分からないし、どのタイミングで会えばいいかも計りかねていた。
思い出した様に言うジルドラ王に魔境王は人差し指を立てて、シーというゼスチャーをすると、ニッコリ笑う。
「あの光景は忘れてくれるとありがたい。
かなり特殊な話になるのでな」
少なくともエリオルがライアス王にも知られたくないと思っている以上、勝手に正体をばらす訳にもいかない。
それにそれをすれば、人によっては、聖霊王に尊敬の念を抱きにくくなる恐れもある。
こんなに人が多いところではリスクが高かった。
「まあ、でも、人の資質を見極めるというのは難しい」
「魔境王でもですか?」
ライアス王が不思議そうに問いかける。
「当然だ。そして深く追求するなら、むしろ混血種をたくさん増やして、極端に悪いか、いいかみたいな?
まあ、実験ではあるがな」
「でもそれは、ある意味合っている部分があるかも。
エリオルに初めて会ったとき、こんなにも凄い剣士がいるんだと感動さえ覚えました。本人は人助けしても全然、恩着せがましいこともせず、マイペースで何よりも状況判断に長けていた」
「今回もだがな。何なら頭の中を探ってみたいよな」
魔境王は笑いながらいい、少し考えて言った。
「もう、目覚めてるだろうな。ちょっと会いに行くか」
「そうですね。もう食事は運ばれているでしょうね?」
結局、顔を見ないと落ち着かないのか、魔境王がそう言って、王様ご一行がゾロゾロと移動する。
人数が多いので、意外にその動きは目立たない。
少しの後、王様ご一行がエリオルの部屋の前に到着。
扉をノックすると、すぐにハワードの声。
「はい、どうぞ」
魔境王は扉を開けると中へと入る。その後にゾロゾロ王様が入ってくる。
中ではロザリア姫にキルシュがエリオルとハワードと共に食事をしていた。
「何かすごい集団だな。ここまで王様が多いと圧巻だな」
エリオルが情景を見ながら言う。
「その王様がみんな、お前を心配している。どうやら、大丈夫みたいだな。元気そうで一安心だ」
魔境王の言葉に、少し笑顔になるエリオル。
「王様ってみんないい人なんだな。普通はみんな、混血種ってだけで目の敵にするんだけどな。
魔境王のお陰で、早く回復することができたのは間違いないない。
本当にありがとうございました」
素直に言うと頭を下げた。
「いや、今回のことは全て俺が悪い。そして残念なことに他の七国にも潜り込んだ可能性がある。その全てが王に狙いを定めているかは分からん」
魔境王の言葉に少しだけ考えるエリオル。
「何にしても目的が七国同盟を壊すことなら、今回みたいに王を取り込んで操るか、もしくはその国の流通経路を司る誰かを取り込んで、流通を絶つか、その国の中で戦を先導して国を壊すか。
パターンはいろいろと考えられるが、毎回いい具合にその主要人物に行き着くかだよな」
「俺たちは所詮、ただの剣士に過ぎないもんな。動くとしても限度があるよな」
キルシュがエリオルに同意する形で言葉を紡ぐ。
「じゃあ、俺の使いとして、俺の書簡を持って行くか?
俺が王になりたてってのはそれぞれの王の中では共通認識のはずだから。ちなみに今回、キールが自己判断で勝手に書簡を作成したらしい。大したやつだ。俺の影武者になれそうだな」
「キールは戦略家だからな。かなり計算してカストマにも取り入ったと思うぜ。今回みたいにみんなが別れちまうと最悪、合流が大変になるから、時間がかかっても、ひとつずつ国を見てきた方がいい気がするがな」
今回のバタバタを教訓にハワードが提案する。
「それは言えてるかも。今回はハワードが気づいてすぐに引き返してくれて、こっちが正解ということが分かった上で行動してくれたから、早い段階で何とかなったってのはあるけど、毎回となるとそう都合よくことが運ぶとも思えないよな」
不安要素をあげればきりがないが、前に進んでいくしか道はない。
さすがのライアスでさえ、まだ手探り感は拭えない。
「まあ、考えても仕方ないか?
ライアス、いくらお前がいても、全員がよそに行ってたら、いざという時に困るから、ネビィスとキルシュを連れて、タムール国に戻ってくれ。あとに残った人員で次の国を目指す」
いろいろ考えた末、エリオルはそう提案した。
「そうだな。自国の安泰を保てなければ、他の国を助けるどころじゃないからな。まあ、妥当な落としどころだな。
よし、それで行こう!」
ライアスはエリオルの提案を受け入れた。
そのタイミングで、ジルドラ王がエリオルに問いかける。
「この度はお力添え、本当にありがとうございました。
何かお礼をしたいのですが、何がお好みでしょうか?」
「そんなものはいらない。別にやるべきことをやっただけで、褒められることなどしてはいないから」
「それでは私の気が済みません。他の王様方にも心ばかりのものを送らせてもらえる様に進言いたしました。
どうか、私の顔を立てると思って何か仰ってください」
王の真剣な眼差しから、本気なのはよく分かった。
「本当に何でもくれるのか?」
「はい、あなた様には家族一同ご恩があります。何なりとお申し付けください」
エリオルは仕方なさそうな顔をすると、ジルドラ王に近づき、耳打ちする。瞬間、王はびっくりした顔をしてまじまじとエリオルを見つめた。
「何でもくれるんだよな? じゃあ、問題ないな?」
エリオルの問いかけに王は大きくうなずく。
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