ライアスの翼シリーズ② ~ラバット国の姫君と魔剣~

桜野 みおり

文字の大きさ
17 / 19
第6章 それぞれの想い、そのかけら

(2)王様たちの晩餐

しおりを挟む
「この度はご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」

かなり元気に回復したジルドラ王が晩餐会に出席の王様たちを目の前に、深々と頭を下げる。それに習ってサーフェス王子も同じ様に頭を下げる。

「いや、気にすることはない。そもそも、俺の監督が悪かったからこうなってしまったのだから。まあ、でもライアス王、いち早く対応してくれて礼を言う」

魔境王はライアス王に礼を述べた。

「いえいえ、俺はほぼ何もしていないので、うちのチームはがんばったとは思いますが、俺はお飾りなので若干居心地が悪いです」

「そんなことはないですよ。ちゃんと対応できる人物を適材適所で配置できるその戦略のセンスこそ、私が今欲しい技術なんです」

聖霊王子の言葉に、ライアス王は悪い気はしないので、笑顔になる。

「聖霊王子、俺を買いかぶりすぎですよ。それは俺のセンスじゃなくて、単に集まる人種が凄いだけの話なので」

「でも、そんな人種を探し出せるその眼力はやっぱりセンスだとおもうがな」

魔境王の言葉に聖霊王子も大きく頷く。

「勘弁してください。そんな大それた人間じゃないですから」

ライアス王は恐縮する。

「王様方、お話もいいですが、しっかりお食べください。
料理はたんとありますから」

マリアノ王妃が助け船を出す。

「これは、ありがたい。じゃあ、頂くか」

魔境王の言葉で、しばしお食事モードに突入。


少し離れた同じ空間にはネビィス、キール、アーメル、ヘルン、レイモンド、野盗のみなさんが勢ぞろいしていた。

「にしても、この国は大きいのね。こんなに人数を収容できて、料理の提供も最高レベルだと思うもの」

アーメルの言葉にレイモンドが答える。

「そうでもないですが。タムール国と比べれば少しは大きいのかもしれないですね。でも国の大きさは関係ないです。
どれだけいい人材がいるか?
そこに尽きます。残念ながらうちにはいい人材が居なかったので今回の事態を招いたと思います。
と言うことで、クルドさん、あなたの軍団をそっくり雇い入れたいのですが、それは可能でしょうか?」

「はい??? 俺ら野盗ですよ?」

クルドの言葉にレイモンドはまじめな顔で答える。

「知ってますよ。統率力はナンバーワンだとエリオル様からお墨付きをもらっています。現状、すぐにでもこの国の立て直しが必要です。その為にはあなた方の様な人材が必要不可欠です。
カミーラさんにはロザリア姫の護衛をお願いしたい」

思ってもみなかった申し出に、困惑気味の野盗さんたち。

「でも、あなた方もその方がいいんじゃないですか?
エリオルがあなた方を推す理由が私にはよく分かりますけど」

キールはそう言ってクルドを見つめる。

「あの状況下でエリオルは他でもないあなたを選んだ。
あなたのお頭としての統率力の高さを見抜いたから。
正直、何でって最初は私も思いましたけど、結果的にあなた方はかなり活躍してくれた。
それは、最高の貢献です。私も新たに人選をするのであれば、あなた方を推薦します」

「それは、私も同意見です」

キールの言葉にネビィスが同意を示す。

「それは、俺だって。撤収作業、すごく助かったんだからよ。
何ならうちのラミンナ国にも連れて帰りたいくらいだが」

ヘルンも同意する。

「私だって、カミーラと楽しく仕事ができたから、もっとこの国の為にがんばって欲しいと思うもの」

アーメルも意見を述べた。
みんなの優しさに、野盗の方々は感涙。

「こんなどうでもいい人間たちをいると言ってくれて、本当にありがとうございます。
俺たちでよければぜひ、よろしくお願いいたします」

みんなの心にクルドは折れた。
そもそも野盗をずっと続けるつもりはなかった。
こんなにありがたい話は二度とないかもしれない。
思い切ってこのタイミングで方向転換することにした。

「レイモンド、良かったですね。この国にも見渡せばもっと優秀な人材がいるかもしれないですよ。
武器を作っているくらいなんだから、手先は器用だろうし、まあ、これからの発展が楽しみですね」

キールはそう言って笑顔をレイモンドに向けた。

「にしても、兄弟が揃うとはですね。よもやふたりに会えるとは思いもしなかったですが。ありがとうございました」

「何言ってるんですか。私たちは超楽組だったので、感謝されることは何もしていません。ほぼエリオルに丸投げでしたから」

「そう言えばエリオル様、もう、お目覚めになられたでしょうか?」

「どうですかね? ハワードがついているので、大丈夫だとおもいますが。まあ、いつかは回復されるので、大丈夫ですよ」

キールとて、そこが気にかからない訳ではなかったのだが、正確なことは分からないのでコメントのしようがない。

「じゃあ、まあ、楽しく食おうぜ!」

ヘルンが元気に言って、ノリノリな野盗の方たちも「おー」とかけ声を出し、食事を楽しんだ。


一方、少し離れたところでこじんまりと王たちは美味しく食事をしながら、徐々に話は戦略会議へ。

「にしても、良くここが危ないと分かったな」

魔境王が感心している。

「会議の最中に魔術師系の誰かが覗きに来ていたので、近場から攻めたらたまたま当たりだっただけで、深い意味はないです」

ライアス王の言葉に、魔境王は頷きを返す。

「いや、それでもそれだけで、何かあると思って人材派遣することが凄いな。なかなかできんぞ」

「本当は自分で動きたいんですが、キールが目を光らせているのでそれもできず。でもまあ、人材だけはかなりな割合で素晴らしい人物を集めているので、そこだけですね。少しだけ褒められるとしたら」

ライアス王はそう言って自分を分析する。
基本的に王はどういう状況でも、戦略を立てて、実行に移す為のビジョンを速攻で構築する必要がある。
何だかんだでライアス王にはその資質がずば抜けて高い。

「そう言えば、あの最初にお会いした方にお礼を言いたいのですが」
勿論、食事を運んでもらっていることは分かっているが、目覚めているかも分からないし、どのタイミングで会えばいいかも計りかねていた。

思い出した様に言うジルドラ王に魔境王は人差し指を立てて、シーというゼスチャーをすると、ニッコリ笑う。

「あの光景は忘れてくれるとありがたい。
かなり特殊な話になるのでな」

少なくともエリオルがライアス王にも知られたくないと思っている以上、勝手に正体をばらす訳にもいかない。
それにそれをすれば、人によっては、聖霊王に尊敬の念を抱きにくくなる恐れもある。
こんなに人が多いところではリスクが高かった。

「まあ、でも、人の資質を見極めるというのは難しい」

「魔境王でもですか?」

ライアス王が不思議そうに問いかける。

「当然だ。そして深く追求するなら、むしろ混血種をたくさん増やして、極端に悪いか、いいかみたいな?
まあ、実験ではあるがな」

「でもそれは、ある意味合っている部分があるかも。
エリオルに初めて会ったとき、こんなにも凄い剣士がいるんだと感動さえ覚えました。本人は人助けしても全然、恩着せがましいこともせず、マイペースで何よりも状況判断に長けていた」

「今回もだがな。何なら頭の中を探ってみたいよな」

魔境王は笑いながらいい、少し考えて言った。

「もう、目覚めてるだろうな。ちょっと会いに行くか」

「そうですね。もう食事は運ばれているでしょうね?」

結局、顔を見ないと落ち着かないのか、魔境王がそう言って、王様ご一行がゾロゾロと移動する。
人数が多いので、意外にその動きは目立たない。

少しの後、王様ご一行がエリオルの部屋の前に到着。
扉をノックすると、すぐにハワードの声。

「はい、どうぞ」

魔境王は扉を開けると中へと入る。その後にゾロゾロ王様が入ってくる。
中ではロザリア姫にキルシュがエリオルとハワードと共に食事をしていた。

「何かすごい集団だな。ここまで王様が多いと圧巻だな」

エリオルが情景を見ながら言う。

「その王様がみんな、お前を心配している。どうやら、大丈夫みたいだな。元気そうで一安心だ」

魔境王の言葉に、少し笑顔になるエリオル。

「王様ってみんないい人なんだな。普通はみんな、混血種ってだけで目の敵にするんだけどな。
魔境王のお陰で、早く回復することができたのは間違いないない。
本当にありがとうございました」

素直に言うと頭を下げた。

「いや、今回のことは全て俺が悪い。そして残念なことに他の七国にも潜り込んだ可能性がある。その全てが王に狙いを定めているかは分からん」

魔境王の言葉に少しだけ考えるエリオル。

「何にしても目的が七国同盟を壊すことなら、今回みたいに王を取り込んで操るか、もしくはその国の流通経路を司る誰かを取り込んで、流通を絶つか、その国の中で戦を先導して国を壊すか。
パターンはいろいろと考えられるが、毎回いい具合にその主要人物に行き着くかだよな」

「俺たちは所詮、ただの剣士に過ぎないもんな。動くとしても限度があるよな」

キルシュがエリオルに同意する形で言葉を紡ぐ。

「じゃあ、俺の使いとして、俺の書簡を持って行くか?
俺が王になりたてってのはそれぞれの王の中では共通認識のはずだから。ちなみに今回、キールが自己判断で勝手に書簡を作成したらしい。大したやつだ。俺の影武者になれそうだな」

「キールは戦略家だからな。かなり計算してカストマにも取り入ったと思うぜ。今回みたいにみんなが別れちまうと最悪、合流が大変になるから、時間がかかっても、ひとつずつ国を見てきた方がいい気がするがな」

今回のバタバタを教訓にハワードが提案する。

「それは言えてるかも。今回はハワードが気づいてすぐに引き返してくれて、こっちが正解ということが分かった上で行動してくれたから、早い段階で何とかなったってのはあるけど、毎回となるとそう都合よくことが運ぶとも思えないよな」

不安要素をあげればきりがないが、前に進んでいくしか道はない。
さすがのライアスでさえ、まだ手探り感は拭えない。

「まあ、考えても仕方ないか?
ライアス、いくらお前がいても、全員がよそに行ってたら、いざという時に困るから、ネビィスとキルシュを連れて、タムール国に戻ってくれ。あとに残った人員で次の国を目指す」

いろいろ考えた末、エリオルはそう提案した。

「そうだな。自国の安泰を保てなければ、他の国を助けるどころじゃないからな。まあ、妥当な落としどころだな。
よし、それで行こう!」

ライアスはエリオルの提案を受け入れた。
そのタイミングで、ジルドラ王がエリオルに問いかける。

「この度はお力添え、本当にありがとうございました。
何かお礼をしたいのですが、何がお好みでしょうか?」

「そんなものはいらない。別にやるべきことをやっただけで、褒められることなどしてはいないから」

「それでは私の気が済みません。他の王様方にも心ばかりのものを送らせてもらえる様に進言いたしました。
どうか、私の顔を立てると思って何か仰ってください」

王の真剣な眼差しから、本気なのはよく分かった。

「本当に何でもくれるのか?」

「はい、あなた様には家族一同ご恩があります。何なりとお申し付けください」

エリオルは仕方なさそうな顔をすると、ジルドラ王に近づき、耳打ちする。瞬間、王はびっくりした顔をしてまじまじとエリオルを見つめた。

「何でもくれるんだよな? じゃあ、問題ないな?」

エリオルの問いかけに王は大きくうなずく。

「かしこまりました。必ず仰せのままに」

そういうとジルドラ王は深々と頭をさげた。
そんなこんなで夜は過ぎていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

これで、私も自由になれます

たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...