ライアスの翼シリーズ② ~ラバット国の姫君と魔剣~

桜野 みおり

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第6章 それぞれの想い、そのかけら

(3)終わりと始まり~エリオルの策略~

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次の日、盛大にお別れ会が開かれた。
七国調査部隊はそのまま、次に近い国・ノイリー国へ。
ラバット国と双対国なので、そこを目指す。
ノイリー国は織物が盛んな国で、七国の衣服のほとんどを作っている。ここを潰されるとかなり怖いのは事実だ。

ライアス王、キルシュ、ネビィスはタムール国へ。
ヘルンはことの顛末も含めて、ラミンナ姫に報告の為、ラミンナ国へ。

それぞれ歩み出そうとしていた。

「エリオル、がんばり過ぎるなよ。また、会いに来るから」

ヘルンが心配気に言う。

「ありがとう、ヘルン。ラミンナ姫によろしく。結構楽しくやってるから大丈夫って言っといて」

「オッケー。ハワードも楽しかったよ。また仕事しような」

「ああ、ありがとう。お前も元気でいてくれよな」

「サンキュー、みんなも機会があればまた、よろしく!」

みんな一応に頷いて、見送る。
ラミンナ国は少し遠いので、早めに出て行くヘルン。

ただし、メインはこれからだ。

「この度は魔境王をはじめ、たくさんの王様、そしてその王様に付き従う方々にたいへんお世話になりました。
全部の方にお礼はできないのですが、王様とこの度の功労者であるエリオル様にお礼をお渡ししたいと思います」

その言葉に周りからは大きな拍手。

それに押される様に王様たちとエリオルが前に進み出る。

「では、魔境王様から」

めちゃくちゃ格好いい剣を進呈してもらっていた。
まあ、ラバット国は武器の国なのでチョイスは完璧と言えなくもない。

「次に聖霊王子様」

こっちは剣ではなくて盾だった。この国のものは製品がいいので、このチョイスもいいと思われる。

「次にライアス王様」

ライアスには小さな紙の束が渡された。

「レイモンド・サントスを借りる事ができる権利券です」

これは、ライアス王ならではの発想である。
ライアス王は優秀な人材を集める能力には長けているので、連れて帰ることは無理でも、期間限定のレンタルなら大丈夫だろうと判断したのである。
実際にジルドラ王は快諾してくれた。

「最後にエリオル様」

次の瞬間、美しく着飾ったロザリア姫が歩み出る。
さすがにこれには一同唖然とする。

「ロザリア・カーデです」

「快諾してくれてありがとう! ロザリア姫、貴女を幸せにしてあげたいのだが、オレは今、ライアス王の護衛剣士だ。
これから七国を巡らねばならないし、貴女との時間を取れそうにない。そこで今回のもうひとりの功労者、キルシュ・ラドリアにロザリア姫を託そうと思う。オレのわがままで本当に申し訳ないが、ロザリア姫はそれでもいいだろうか?」

否と言うはずがないのは分かるのだが、形だけでもキチンとしておく必要はある。

「はい、喜んで! エリオル様、ありがとうございます」

策略家としてのエリオルもなかなかのものである。
このままだと、どんなに惹かれ合っていたとしても、結ばれないと分かっていたからこそ、あえてエリオルは自分の権利を行使した。

「エリオル、すまない。俺、お前に何と言ってお礼を言えばいいか」

キルシュが速攻で駆け寄って、礼を言う。

「礼なんていらない。オレには欲しいものなんてないから、どうせならせっかくの権利だし、有効に使おうと思っただけだ」

「なんか、お前らしいな。俺はますますお前が気に入ったよ。
よく考えついたな」

魔境王が感心している。

「別に特別なことを言った訳じゃないだろ。そんなに褒められたことじゃないと思うが」

周りのどよめきなど何のその。エリオル自身はいたって冷静だ。

そして周りから大きな拍手。
みんながエリオルの策略を歓迎していた。

「と言う訳でライアス。道連れがもうひとり、いやもうふたりか?
増えたがよろしく頼む」

「うん? ふたり??」

「ラッキーだぞ。元女野盗のカミーラがロザリア姫の護衛だから一緒に連れて行って損はない」

その言葉でようやく意味を理解したライアス王は笑顔になった。

「なるほど。了解した。俺はお前を護衛剣士にできたことが一番のラッキーだったよ」

しみじみと呟くライアス王。

「そりゃ、どうも。何よりのほめ言葉だよ。我が王」

「エリオル様、本当にありがとうございました。
タムール国に何かありました際は、どんなことをしても助けに伺います。どうか、これからもよろしくお願いいたします」

マリアノ王妃が深々と頭を下げた。

「王妃様、オレは王様ではないので、そんなことされなくてもいいです。七国同盟強化の為にお互いに手を取り合ってがんばりましょう」

「はい、ありがとうございます」

それから昨日の再現の様に豪華なお食事会。

ただし、ほとんどは次のことに目を向けているので、食べながらの作戦会議になる。

「ハワード、次どうしようか?」

「お前はどうしたい?」

「分からない。何の情報もないんだから。だからハワードに聞いてるんじゃないか」

ハワードは美味しそうに肉をほおばりながら、考えを巡らせる。

「キール、どう思う?」

ようやく合流できたキールに問いかける。

「そうですね・・・・・・とりあえず、行ってから考えればいいんじゃないでしょうか? 今、仮に仮説を立てたとしても、当たる確率はかなり低いと思われますし。
私は今回のことで、エリオルの策士としての能力の高さを実感しましたので、どんな状況になったとしても何とかなる方法論を導き出してくれると信じていますよ」

ニコニコしながら言うキール。

「それは私も賛成! 現に今回上手くいったのって、エリオルのお陰だもの」

アーメルが同意を示す。

「私も感謝致しておりますよ。今回、ご一緒してもいいでしょうか?」

レイモンドが話かけて来る。

「ライアス王、もうあの券使ったのか?」

ハワードの問いかけに首を振るレイモンド。

「違います。双対国ですので、強固に助け合う義務はありますから。あと、一応は行ったことがありますから道案内はできると思いますよ」

謙虚な言い方だが、非常にありがたい申し出だ。

「それはありがたい! 三兄弟揃ったら呪術的なことは網羅できるから心配ないし、アーメルもいるから剣術的にも問題ないし、弓はマクアスに任せられるし、いい感じだな」

「俺もご一緒していいでしょうか?」

元野盗のお頭クルドが話かけて来る。

「勿論、大歓迎だが、いいのか? この国に雇われたんだろう?」

「ええ、レイモンドに来て欲しいと言って頂きました。だからこそ、いろいろと勉強しないと。実践も兼ねて丁度いいですよ」

さすがにお頭だっただけのことはある。その向上心は大したものだ。

「勿論、一緒なら心強いので、私からもお願い致します」

レイモンドが補足する。
絆って結局、目には見えないけれど、いつの間にか出来上がっているものだったりする。
とりあえず、正しいことを正しく行っていれば、そこに共感して賛同してくれる人物は現れるということみたいだ。

「ほっといてもお前の周りには優秀な人材が集まって来るよな。
なんかおもしれーが、ちょっと寂しい気もするな」

ハワードが正直な心情を話すと、エリオルは不思議な顔をした。

「なんで? ハワードの側を離れたりしないのに?」

「それは分かっているが、そこじゃなくて、俺はもうお前に教えることがない気がする」

「ハワードはいつまで経っても、あなたの師匠でいたいんですよ」

勝手を知ったるキールがハワードの心情を察して語りかける。

「いつまでも師匠であることに変わりない。
オレはハワードがいなかったら、ここに今、存在していないと思う。
どんなにがんばってもハワードを超える人物にはなれそうもないし。かわいい弟子を買いかぶらないでくれよ」

エリオルの言葉にハワードは苦笑する。

「かわいい弟子は立派に育ったよ。俺が育てたんだから、そこは完璧に決まっているだろう?」

いつものハワードの口調で、何だかホッとする。

「はいはい、分かってますよ。ハワードが優秀なのは昔からですから。今は深く考えないで、せっかくのご馳走を楽しむことにしませんか?」

キールの最もな提案にふたりは頷きを返す。
それからガヤガヤと楽しく食事を頂いて、少し落ち着いた頃、ライアス王がやって来る。

「エリオル、魔境王と聖霊王子がお帰りになるそうだ。
お前に挨拶したいと言っている」

「あっ、そうなんだ。分かった」

エリオルはすぐに、ふたりの元に走る。その後をハワードが追う。
ふたりは仲良く並んで待っていた。

「すまない。待たせたな」

「いいや、大丈夫だ。今回は本当に世話になった。
ありがとう。引き続きよろしく頼む」

魔境王の言葉に大きく頷くエリオル。

「了解した。魔境王も聖霊王子も気をつけて帰ってくれ」

聖霊王子は頷きながら、何か言いたそうな表情をする。

「聖霊王子、どうした?」

「姉上、ハグしてもいいですか? 私はずっと姉上に会いたかったんです。今回お会いすることができて、本当に良かったです」

ひどく純粋な瞳が問いかける。それに対して否とはいい辛い。

「何だ、意外と子どもなんだな」

そう言いながらも両手を広げて前に出す。
聖霊王子は嬉しそうにエリオルの胸に飛び込んだ。
しっかりと抱き締める。
すると側で見ていた魔境王が羨ましそうな声を出す。

「いいな、王子は優遇されて。俺もハグしたいぞ」

「魔境王、なに子どもみたいなことを言ってるんですか?
イメージとかなりのギャップがありますよ」

エリオルは身内以外には容赦ない。
魔境王は苦笑して「ダメか」と一言呟く。

「姉上、またお会いしたいです。もう少し使える人間になって、姉上のお役に立てる様にがんばります」

「十分がんばってたじゃないか。まさか弟がいるとは思わなかったが、オレも会えて嬉しかったよ。また、機会があれば会おう」

そのエリオルの言葉にこの上もなく嬉しそうな顔の聖霊王子。

「ありがとうございます。姉上、気を付けてくださいね。
何かあれば、必ず駆けつけますから」

弟のかわいい決意にエリオルの顔もほころぶ。

「ああ、ありがとう。この上もなく頼もしいよ。
じゃあ、ふたりとも気をつけて」

長いと誰かに見咎められる可能性があるので、可哀想ではあるが見送ることにする。

「それではまた、会おう。俺にとってはお前の力を見られたことが一番の収穫だった。エリオル、その力を借りねばならないことが起こるかもしれん。その時はよろしく頼む」

「ああ、分かっている。ハワードと一緒に駆けつける」

「ありがとう。では、俺たちは一旦、戻る。
他のやつらによろしく!」

そしてふたりは去っていった。

「よかったな」

ハワードがひょっこりと顔を出す。もしも誰かついてきたら気を逸らす為にスタンバイしていたのだが、案外誰も来なかったのでなんか宙ぶらりんな感じで控えていた。

「ありがとう。ハワード、家族って本当はいいもんなんだな」

しみじみとぽつり呟くエリオル。
幼少期の仕打ちは衝撃的すぎて、本人の中では嫌な記憶として存在しているはずである。
その思い込みが違っていたかもと、思えた瞬間であったことはハワードには理解できた。

「そうだな。まあでも、お前の家族は俺だけどな」

相変わらずなハワードの口調に思わず、吹き出しそうになる。

「そうだな。これからもよろしくハワード」

「おお、任しとけ!」

そしてふたりはみんなの元へと戻る。
つかの間の休息は結構楽しいものだった。

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