ライアスの翼シリーズ① ~光と影の王女~

桜野 みおり

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第1章 魔境獣と仮面剣士

(3)砂漠の国の王子様

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「結構、遠くまで来ているんだな」

フードの主がぼやくように呟いている。フードの主にも、ゾルクの存在がどこにあるかは見えていた。

「あいつらどこまでいったんだろうか? 全滅してなきゃいいが」

被っていたフードが、風に飛ばされて、めくれる。
タムール国民である緑色の髪が風になびいていた。

「どうやら、タムール国民のようだな。体つきは剣士の様にも見えるが・・・・・・だが、そうだとすると、なんでキールたちと一緒にいなかったんだ? おかしいよな?」

ハワードが不思議そうに呟きながらも、その青年の様子をうかがう。
青年は迷うことなく、ほぼゾルクがいる手前で立ち止まると、フーッと大きく一息つく。
そして次の瞬間、ためらうことなく腰の剣に手をかけると、それを勢いよく引き抜いた。

「やる気だな・・・・・・」

ハワードはそんな青年の様子をじっと見つめている。
手を出すタイミングというのは、案外難しい。

「あの青年、どうするつもりだ?」

冷ややかなエリオルの声。

「さあな・・・・・・まあ、十中八九ゾルクのえじきだな。
キールたちは一体何してるんだ。まだか?」

ハワードが少し、いら立ちを見せた。
それでも、エリオルは冷静だった。

「キールたちは、もう少しかかるだろう。
おそらく、間に合わない。オレたちで助けるしかなさそうだぞ」

「たく、タムール国民は、剣士の国でもないのに、どうしてこう、剣士ばかりなんだろうな? 矛盾してると思うんだが」

忌々しそうに言うハワードに、エリオルは苦笑を向ける。

「ハワード、お前が助けてやれっていったんじゃないか」

「そりゃあそうだが・・・・・・」

「少し落ち着けよ。まんざら、ただのバカでもないらしい」

ふたりが見つめる先、タムール国の剣士らしい青年は、砂埃を巻き上げて出現するゾルクを冷ややかに見つめている。

「ふうん、変わったやつだな。赤い目に黒い棘の体・・・・・・うねっているのは触手か? まあ、ボディが黒だから魔境国の獣で間違いはないだろうが」

離れたふたりには、青年がなにかをブツブツ言っているようにしか見えない。
二体のゾルクはかなり怒った様子で、その青年に今にも襲いかかりそうな勢いで咆哮をあげている。

「シルフェ、こいつなんだ? 知っているか?」

見えない何かに青年が語りかける。姿は見えないのに、確かにそこに何かがいるのか、青年のすぐ後ろで声がする。
ただし、この声は青年にだけしか聞こえない。
当然、離れているふたりには、状況は分からない。

「オソラク『ゾルク』デス。魔境獣ノ一種デスガ、タダ、コレ系ハ色ンナタイプガイマス。
コレハムシロ、誰カノ呪イデ、作クラレテイルノデハナイカト思ワレマス」

「ふん、なるほど。その分、たちが悪そうだが、まずったな。
あいつら、大丈夫だろうか?
やっぱり、俺が出向けばよかったかな?」

「ソノヨウナコトヲ、呑気ニオッシャッテイル場合デハアリマセン。ムシロ今ハ、貴方ノ方ガ危険デス。
ゾルクヲ二体同時ニ相手ニスルコトハ、イクラ私デモ無理デス」

シルフェの声に青年の顔色が少しだけ変わる。

「マジか。そこは想定してなかったな。あいつの弱点が分かるか?」

「ハイ、赤イ目デス。但シ、同時ニフタツノ目ヲ付キ刺サナケレバ、一巻ノ終ワリデスガ」

シルフェの声は冷静に状況を伝えていく。
ただそれは、青年にとって必ずしも、望ましいものではなかったのだが。

「同時にって、俺は剣をひとつしか持ってないぞ。同時にふたつは無理じゃないか? しかも二体と言うことは、計四カ所を刺さないといけないことになる。どう考えても無理だ!
シルフェ、お前、なんとかできないのかよ」

「ソレハ・・・・・・一体ノ動キヲ止メルコトハ出来マスガ、ソレ以上ハ・・・・・・」

シルフェが言葉を濁したので、青年にはかなり逼迫した状態だということは理解できた。

「砂漠じゃあ、剣の代わりになりそうなものもないしな・・・・・・
もしかして絶体絶命ってやつか?」

茶化すつもりはないのだろうが、若干、楽しそうな様子で言った。

「アノ、救イノ神カハ分カリマセンガ、少シ先ニフタリノ人物ガイマス。ヒトリハ腰ニ剣ヲサシテイマス・・・・・・(アノ御方ハ・・・・・・)」

最後のセリフだけは声には出さず、シルフェは心の中だけで呟いた。

「何、どこだ?」

少し遠目で青年のことを見つめていたふたりは突然、何かを探すようにキョロキョロし始めた青年の様子に、顔を見合わせる。

「もしかして、俺たちのことを探しているのか?」

ハワードの問いかけに、エリオルは答える。

「・・・・・・の様だ。何だか知らんが助ける価値はありそうだ。
ハワード、後は頼むぞ」

エリオルはその気になるとゆっくりと剣を引き抜き、ゾルクと青年に向かって進んで行く。

「オレをお探しかな?」

ゾルクを真ん中に青年と向かいあうエリオル。
その姿をようやく見つけた青年は、一瞬だけ固まった様に動きを止める。

「け・ん・し?」

わずか三文字を途切れた口調で言うと、まるで眩しい太陽を見るかのように、エリオルを見つめる。

「ああ、。ひとりでゾルクに立ち向かうなんて、無謀な奴だな。
仕留め方、分かっているのか?」

冷たい口調で呆れたように言うエリオルに、青年は首をすくめるようなジェスチャーをする。

「一応、ただ、ひとりじゃ無理ってことがさっき分かった。
赤い目を同時になんて、俺には無理だ。通りかかったよしみで助けてくれるとありがたいんだが・・・・・・
にしても、美形な剣士がいたもんだな。仮面もかっこいいし、最高じゃないか!」

なぜかとても嬉しそうに青年はいった。どうやら、エリオルに見とれていたらしい。
ただし、当の青年もなかなかのイケ面であることには違いない容姿と、剣士として申し分ない体つきをしていた。

目の前のゾルクの咆哮はかなり大きくなっている。
いつ襲われても不思議はない。

「生きるか死ぬかって時に、よくそんなことが言えるな」

「なに言ってんだよ。どうせ死ぬなら、美形を見ながら死ぬ方がいいに決まっているじゃないか!」

妙なところでひどくこだわっている様子の青年に、大きなため息をつくエリオル。

「変な奴。どうでもいいが、死ぬつもりはない!
一応、見ず知らずのお前を助けるつもりでここにいるんだが、まあ、どうしても死にたいと言うなら、他の死に方を考えてくれ」

そう言うとエリオルは軽やかに身を躍らせる。
すぐにその体は残像に変化すると、次の瞬間にはゾルクの目の前に移動していた。
そして素早く剣を両目に突き立てる。
あまりの速さに目で追うことは出来ないが、次の瞬間、ゾルクの咆哮がこだまする。

「ギャ~~~ッ!!!」

ゾルクの叫びに、もう一体がエリオルに向かって行こうとする。
それを青年は見逃さなかった。

「でや~!」

すかさず青年が自分の剣でゾルクの片目を貫くと、同時にもう一方は銀色の角のようなものが突き刺さる。
青年の動きとその角の動きもほぼ同時だったため、もう一体のゾルクも同じように咆哮をあげる。

「触手をよけろ!」

青年に言ってから、エリオルは二体のゾルクから放たれる触手をそれは見事に切り落としていく。
もの凄く速い動きなので、ほぼ見えないのだが、正確な動きで触手を切り落としていることは分かった。

「ハワード、二体同時にいけるか?」

「ああ、大丈夫だ」

エリオルの問いかけに、少し離れたところにいたハワードが答える。

すぐに、さっきと同じように、ゾルクの体に電流のようなものが流れ始める。そして二体の体を覆うと獣の体を小さく、小さくしていく。

その様子をビックリした顔で見つめる青年の先で、エリオルは何事もなかったかのように、自分の細い剣を鞘におさめる。

そしてじっと目を凝らして、何かを見つめる。
青年の後ろにいる聖霊獣の存在に気づいているようだった。

すぐに二体のゾルクは跡形もなく消え去って、ハワードはゆっくりとエリオルと青年の側へと近づく。

「助けてくれてありがとう。俺の名はライアス。ライアス・マーティル」

その言葉に、即答でハワードが叫び声をあげる。

「げーっ、嘘だろ! マジか、あり得ない」

それでも、エリオルは冷静だった。

「なるほど、王子様は変わった獣を連れているんだな」

エリオルはあくまでも静かな口調で言った。

「俺のこと知っているのか? このシルフェのことも?」

不思議そうに問いかけるライアス。

「いや、初めて会うし、初めて見る」

エリオルの返事に大きくうなずくライアス。

「だよな。こんな美形、一回見たら絶対に忘れない!
なら、なんで俺のことを・・・・・・あっ、そうだ!
それより、助けて欲しいんだ。お前たちふたりの腕なら、俺の部隊を助けて欲しい!
もっとも、もう手遅れということも、十分に考えられるがな」

ライアスが何のことを言っているのか、ふたりはすぐに分かった。

「ある意味、手遅れだな、それは」

別に意地悪をしたくて言ったわけではないが、エリオルはそう口ばしった。

「それって・・・・・・あいつら、全滅したってことか? そんな・・・・・・」

ライアスは打ちひしがれた表情で呆然とする。

「たく、エリオル。お前、説明不足だぞ。ライアス王子、貴方の部隊なら、もうすぐここにやって来る」

ハワードの言葉にビックリ顔のライアス王子。

「えっ、じゃあ、あいつらは生きている?」

「ああ、エリオルの言う『手遅れ』は、もう助けてしまった後だという意味の手遅れだ。どうも、説明不足ですまないな。
あっ、俺はハワード・クローラ。あっちはエリオル・リアス」

ハワードは最後に、思い出したかのように自己紹介をした。

「ハワードにエリオルか。ふたりともありがとう!
俺ばかりか、俺の部隊のやつらまで助けてくれて、本当にありがとう。
心から感謝する。ところで、ふたりは旅をしているのか?」

好奇心旺盛な王子様は質問を投げかける。

「ああ、今は。ちょっと前までは、ラミンナ国にいた。
俺はこいつのお守り役で、こいつはラミンナ姫の護衛剣士をしていた。ちょっと、訳ありで、今は旅人をしている」

そう言ったあと、ハワードはニヤリと笑う。
その笑みの意味が分かったエリオルが口に出す。

「戻って来たようだ、お前の部隊」

エリオルが短く言った途端、すぐ先にキールとネビィスの顔が現れる。その後ろには、続々と剣士たちが連なっている。
最初行く時よりも、すこし人数が減ってしまったその部隊は、それでも元気に戻って来ていた。

「キール、おせーぞ!」

ハワードの声に、キールが申し訳なさそうに言う。

「ハワード、すいません。これでもかなりがんばって戻ったんですが・・・・・・体は大丈夫ですか? 時渡りは体力の消耗も激しいでしょう? しかも、ゾルクが二体って言っていましたし」

いいながら近づいてきたキールが、ライアスの姿を見て一瞬、固まる。

「ライアス様、どうしてここに?
まさかとは思いますが、おひとりで二体のゾルクに勝てると思ったのですか?」

トゲを含んだキールの声に、ライアスが言う。

「仕方ないだろう。お前たちのことが心配だったんだから。
シルフェにゾルクの居場所を探し当ててもらったまではよかったんだが、よもや弱点が赤い目で、しかも同時に突き刺さないとダメなんて知らなかったから、当然のように二体もいた時点でアウトだと思ったよ」

ライアスはなんでもないかのように、そんなことを言っている。

「ライアス様、そんなこと、二度と私たちの前で軽々しく言わないでください。
私たちはともかく、貴方はタムール国には、いなくてはならない御方なのですから。今後、二度とこのような危ない真似はなさらないでください!」

キールの余りにも強い剣幕に、ライアスは大人しく頷く。

「分かった。悪かったよ。・・・・・・だが、これで全てが終わったと言うわけじゃない。キール、原因までは突き止めていないんだろう?」

ライアスの問いかけに、キールは容赦なく毒づく。

「ゾルク相手に原因を究明するような時間があったとお思いですか? みんなで仲良く、大量無理心中する手前だったんですから!」

「そうだよな・・・・・・とにかく、ハワード、エリオル、本当に心から礼を言う。ありがとう。ぜひ、我が国に来て欲しい」

ライアスの心からの言葉に、キールがすぐに反応する。

「そのことならもう契約済みです。我が国に来て頂ける話はついています」

キールの言葉に、ライアスはようやく笑みを浮かべた。

「さすがだな。・・・・・・とにかく一旦、城に戻って、それから対策を考えよう。こんなところでうだうだ言っても始まらない」

「わかりました。ネビィス」

すぐ側に控えていたネビィスに声をかけるキール。
それだけで、ネビィスは言いたいことをすぐに理解する。

「剣士諸君、正式にタムール国にむけて、撤退します!」

「はあ!!」

統率は完璧で、そのまま部隊はタムール国にむけて歩み始めた。

「エリオル、ハワード、こっちだ」

ライアスはふたりを促し、先に立って砂漠を歩く。
ハワードとエリオルはライアスに黙って従い、ふたりに並んで、ネビィスとキールも歩き始める。

「・・・・・・ハワード、砂漠を歩くの、キツくないですか?」

キールはやたらとハワードの様子を心配している。

「大丈夫だ。確かにお前よりもかなり年寄りだが、エリオルのお陰で体だけは鍛えてるからな。
それより、お前の方こそ大丈夫なのか?
結界を長く張りすぎただろう?
完璧な結界は長くは持たねえからな。うーん、少し顔色が悪い気がするぞ」

まじまじとキールの顔を見つめて、ハワードが言う。

「そうですか? 昔はよく貴方に介抱されてましたよね。さすがにもう大人ですから、これでも力の配分は分かっています。大丈夫です」

懐かしそうに言うキールは、ひどく嬉しそうだ。

「キール、お前、俺に接する時とずいぶん違うんだな」

先を歩くライアスが少しだけ、トゲを含んだ口調で言う。

「そりゃあ、そうですよ。これでも私たちですから」

ごく自然に言ったキールは言葉を切ると、ハワードを見つめる。

「現在進行形ってことでいいんですよね? あの時の約束、覚えてます?」

キールの問いかけに、ハワードは少しだけ笑みを浮かべた。

「ああ勿論。俺の人生の中で恋人と名の付く奴は、お前だけだよ。
キール、しかし、もう二度と会うこともないと思っていたが、不思議なめぐり合せだな」

しみじみとハワードが呟く。そして、躊躇いがちにエリオルを見つめる。

「エリオル、俺を軽蔑するか?」

急に自分に話を振られて、少しだけビックリした様子のエリオル。
すぐにいつものぶっきらな態度で返事する。

「なんで? 軽蔑する理由がある?」

反対に問いかけられ、少しだけ焦った様子を見せるハワード。

「いや・・・・・・単純に男同士の恋人ってのを嫌がるかと思ってよ。
多分、俺がこんなだなんて思っても見なかっただろうから」

ハワードの危惧の意味は分かる。
唯一、エリオルの正体を知っているハワードの立場からすれば、そういう危惧はありえるのだ。
ハワードの問いかけに、今度はエリオルが笑みを浮かべた。
仮面をつけていても確実に分かるくらいに、ちゃんとした意思表示だった。

「・・・・・・いや、むしろ、ホッとした」

「なんで?」

その言葉にハワードが疑問符を投げかける。
ライアスとネビィスは、そんな三人のやり取りを黙って傍観していた。

「ハワードはずっとオレとふたりきりで、しかもオレのせいでずっと隠されて・・・・・・いつも心の中で思っていたよ。
ハワードにいつか捨てられるんじゃないかって。
だけど、実際は本当にオレのことだけを考えて行動してくれて、いつも側にいてくれて、決して捨てられることはなかった。
だから、途中から捨てられるかもしれないっていう心配は無くなったけど、そうしたら、ハワードの人生って、オレと共に生きるだけの人生なんてあんまりだなって思っていたから、良かった。
少なくとも他にも、心を向けた人間がオレ以外にもいて」

エリオルの静かな口調のその言葉は、その場にいた人たちの心を揺さぶる。
事情はよく分からないが、ふたりの結びつきが強いというのは理解できる。お互いがどれ程、大切な存在なのかも。

「エリオル、バカだな。お前そんなこと考えていたのかよ。
俺は、お前が何よりも、誰よりも大切だ。
だから、この人生を一度も後悔したことなんてない!
そもそも術師は婚姻が出来ないことになっているんだ」

そこで、エリオルは不思議そうに問いかける。

「どうして?」

「もしもの時に家族を人質に取られるといけないからだ。
術師になる奴らは皆、そのことを知っている。知った上で、術師としての技を身に付けるんだ。
だから兄弟となり、共に暮らした奴らとは特別な絆が出来る。
男同士の恋人や女同士の恋人ってのは、その空間ではむしろ普通だから。どうせ他の国に派遣されてしまえば二度と会うこともない訳だしな。つまり今が少し特殊なだけで、今思えば、一種の青春ってやつなのかもな」

しみじみと言ったハワードにキールが笑いながら即答する。

「ハワード、言い方がちょっと古くさいですね。
でもまあ、ハワードの言ったことが事実です。
でも、エリオル、貴方、いったいどんな人生を送ってきたんですか?」

「・・・・・・」

言い淀んでいるエリオルを見て、ハワードが口を挟む。

「ストップ! こいつを見ればわかると思うが、こいつは混血種だから、いろいろとあるんだよ。別にこいつが悪い訳じゃないんだが、まあ、状況的には仕方ないさ」

あくまでハワードは直接的な言葉をさけて、間接的な言葉で言った。
そこには詳しく語りたくない思いをやんわりと伝える意図が含まれていた。

混血種とは
普通は同じ国のもの同士が婚姻し、子どもをもうけるが、混血種は国の違うもの同士の婚姻もしくは交渉により子どもを授かる。
この世界ではそれは公然のタブーとされ、その子どもには一生「混血種」というレッテルが貼られ、どこの国の人間からも冷たくあしらわれるようになる。
別名【異端の子】とも呼ばれる。

それまで黙ってことの成り行きを見ていたライアスがそこでようやく口を開いた。

「もったいない!」

「はあ?」

ハワードが思わず、意味不明な声をあげる。

「だって、どう見ても、誰よりも優れた剣士だ。それに美形だ。俺は最初に出会った時からめちゃくちゃ気にいった!
エリオル、俺の護衛剣士になって欲しい!」

ひどくまじめな声で言われて、エリオルは初めて、びっくりした様子を見せる。
一国の王子がよもや、混血種であるエリオルに、そんなことを言うとは考えられなかったからである。
キールは「ほうらね」と言わんばかりの表情でハワードを見た。

「ライアス王子、あんた本当に変わってるな。でも、残念だが、それは禁句なんだ」

ハワードがエリオルの代わりに口を開いた。

「どういう意味だ?」

「先に言っただろう。ラミンナ国でラミンナ姫の護衛剣士をしていたと」

「だから? それならなおのこと、俺としては大歓迎だ。
少なくとも護衛剣士という職を知っているってことだからな。
教える手間が省けていいじゃないか」

ひどく楽しげに言うライアスにハワードがため息をつく。

「はあ・・・・・・本当に王子様はマイペースだな。悪いが、こいつは当分、護衛剣士をするつもりはないよ。だから、旅をしてるんだ。
それに、主旨が違うだろ。そもそも俺たちはゾルクを倒すための力になりにタムール国に呼ばれたんだからな」

ハワードの言うことは正しい。

「なるほど、正論だな。仕方ない、とりあえずは折れるしかなさそうだな。だけど、俺は欲しいと思った人物は絶対に手に入れてきたんだ。
今回も例外じゃないと思っているよ」

ライアスは悪びれる訳でもなく、当然のようにそう言うと、エリオルを真っ直ぐに見つめた。
エリオルはそんなライアスの言葉には一切、動じることなくライアスを見つめ返す。

「まあ、がんばるんだな」

100%なびかないであろう感じを隠すことなく、エリオルは言った。
これにはさすがにライアスも苦笑いを浮かべる。

「大した奴だな。益々、気に入った!
いつか絶対、俺の護衛剣士にする!!」

「・・・・・・」

エリオルはそんなライアスの言葉に、動じたそぶりもみせず、黙って先を見つめる。
丁度、タムール国の入り口まで戻って来ていた。
その行く手には大きな門がそびえ立っていた。
それは、エリオルの人生を左右する国との出会いでもあった。
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