ライアスの翼シリーズ① ~光と影の王女~

桜野 みおり

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第2章 隠された王女

(2)ゾルク対策会議~異端人物大集合~

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「大丈夫か?」

心配げなハワードの声に小さく頷くエリオル。

「大丈夫だ。これでよかったんだよな、ハワード」

エリオルは自分が選んだ答えが正しかったのかどうか、考えあぐねている様子だった。

「ああ、大丈夫だ。お前は間違っていない。これでお前の望み通りあの姫君には何の危険も及ばさなくなる」

「そうか・・・・・・良かった。オレのせいで誰かが傷つくのはもう嫌だ」

はき出すかのような、苦しげなエリオルのセリフに、ハワードは唇をかみしめる。

「お前は何も悪くねえのにな」

そう言って押し黙ってしまったふたりに、ライアスが声をかける。

「エリオル、ハワード。とりあえず、片づいたという認識でいいんだよな?」

ふたりは黙ったまま、反射的に頷きを返した。

「じゃあ、悪いがゾルクについて聞かせてくれないか? 
どうもこの国がターゲットになっているのは確かな様なんだが、どうしてあんな獣に襲われなければならないのか、理由が全く分からない」

ライアスの言葉にハワードが渋い顔を向ける。

「と、言ってもな。俺たちがラミンナ国を出てきたのはほんの少し前の事だからな。それまでは城から外に出てねえから、よくわかんねえんだなこれが」

ハワードの答えにキールが疑いの眼差しを向ける。

「ハワード、嘘ですよね? 最初に貴方に会った時、念押しするかの様に私に聞きましたよね。
『タムール国にゾルクが出没しているのか』って。
あの時、何か引っかかっていたんでしょう?」

キールの言葉にハワードは苦笑を浮かべる。

「たくー、お前にはかなわねーな。まあ、仕方ないか。
俺の性格、見抜かれているもんな」

ひどく楽しそうに、のほほんと言うハワード。
次の瞬間、超まじめモードになると、更に続けた。

「だが、嘘は言っていない。本当に城から外には出ていない。
ただ、結構昔の話になるが、ラミンナ国の周辺にもゾルクが出没していたことがあるんだ。しかし、これは本当にラミンナ国周辺のみの話だったし、なんせラミンナ国は剣士の国でもあったから、その事実は国の中だけでもみ消されたんだ」

「その時のゾルクって、今のゾルクと同じだったんですか?」

今までことの成り行きをずっと見守っていたネビィスが問いかける。

「それがわからねーんだ。前回のゾルクの件に関しては、俺たちは一切タッチしていない。むしろ、ネビィスの方がよく分かるんじゃないのか? ラミンナ国にいたんだよな?」

ずっと隠されていた人間に聞いてもわからないと言わんばかりの口調で、ハワードはネビィスに問いかける。

「すいません。私もよく分かりません。ラミンナ国で過ごしてはいましたが、最初から、ある意味ハワードと同じように、密命を受けて仕事をしていたので、何の情報も入ってこない状況だったんです」

そこまで聞けば、ハワードには何か思い当たることがあるらしく、『ああ』と呟きながら納得した。
仕方なさそうに、ハワードは自分が引っかかる内容を話し始めた。

「ちょっと俺が気になったのは、その時狙われたのは王でもなく王妃でもなく、ラミンナ国の民だった。
イメージとしては、遠回しにラミンナ国そのものを崩壊させたかったみたいな印象だが。結局、ラミンナ国には剣士が多かったから、崩壊させることはできず、ゾルクを操っていた術者は捕らえられ、殺された」

「今回もそれと似ているということは、誰かが、このタムール国を崩壊させようとしているということですか?」

ネビィスが真剣な声でハワードに問いかける。

「絶対とは言えねーがな。問題はゾルクを操る術者が誰に雇われているかということだな。術者自体は式神を使う呪術師だろう。
ライアスが出食した時のあの二体のゾルクは二体とも式神でできたものだった。だが、ゾルクの場合、式神でも実際の獣でも区別はつかねえ。力も同じだし、見た目も変わらないからな」

「では、今のところ、策は?」

キールがハワードに問いかける。
ハワードは一瞬、『俺?』と言いたそうな表情をして、キールを見つめる。それでも諦めて思っていることを素直に述べた。

「ゾルクなら仕留め方は分かったと思うが、この国は剣士の国じゃないからな。ここの剣士は果たして、なるべく素早く動ける奴が何人いるかだな。
それに最終的に仕留めるには、術師の手が必要になる。
この国に術師は何人いるんだ?」

ハワードの問いに、キールは笑いながら、ライアスを見つめる。
ライアスは少しだけ、渋い顔になる。

「それが、誠に言いにくいんだが、残念ながら、術師の類いは呪医のキールだけだな。今のところは」

ライアスの言葉にハワードが『はあ?』と大きな声をあげる。
ラミンナ国ではあり得ない話だ。
普通に考えてそんなことでは国そのものが成り立たない。

「嘘だろ、マジかよ。普通はあり得ないが。まあ、今のところはそんなに多くも出没していないのが救いだな。だけど式神を使えるとなると、相手が本気になれば一気にこの国を潰すこともできるということなんじゃねーか?」

かなり恐ろしい予測だが、あながちないとも言い切れない。
むしろ今回のことが相手による試験的なものの可能性が十分にある。

「と、言ってもだ。術師なんて急には揃えられない。一応、現王の懐刀がいるにはいるんだが、さすがに貸し出してもらう訳にはいかないだろうしな」

ライアスの呟きにネビィスが答える。

「ラファード・プラント様のことですか? さすがに彼をお借りすることは無理でしょう。あの御方は特別ですから」

「だよなー という訳なんだが、何とかなると思うか?」

ライアスは取りあえず、ハワードに問いかける。
ハワードとしてはその特別な人物が気にならないこともないが、今使えないなら意味はない。

「そうだな。幸いなことにキールだからな。呪術に関しては俺とキールで何とかなるだろう。で、剣士の方は?
ネビィスは当然、合格として他には? 何ならライアス、お前でもいいが、キールに殺されそうだからな」

ライアスは苦笑しながら、腕組みをする。

「うーん、さっき用事を言いつけたふたりは合格だと思うが、後は正直、いないと思うな」

頭の中で的確な判断をして言うライアスに、キールは思いっきり吹き出した。

「ライアス様、確かにそうかもしれませんが、あからさまにそれは・・・・・・まあ、らしいと言えばらしいんですけどね」

キールの口調から、どこにでもありがちな確執を感じ取ったハワードは少し口をつぐんだ。

「悪い、まあ、いいさ。エリオルを加えて四人か。
取りあえずはふたり、ふたりに分かれてキールと俺がそれぞれに着く。
エリオルはゾルクが出没すればすぐに分かるからいいとして、一方は見つけるまでが大変だな」

ハワードの口調にようやく気にかかっていたことを思い出すキール。

「そう言えば気になっていたんです。エリオル、貴方どうしてゾルクの位置がわかるんですか?」

エリオルは少しだけ考えてから、話始めた。

「オレは普通の人と違うから。癒しの力も持っているし、精神を集中させれば、かなり広範囲の気の流れを感じることもできる。
ゾルクは禍々しい気を纏っているからすぐに分かる」

エリオルの説明に若干、違和感を覚えながらも、キールはとりあえず納得した。

「そうですか。でもよかった。貴方に出会えたお陰でネビィスの手は元通りになりましたし、私たちも死なずに済みました」

キールの言葉を聞いたライアスが当然の様に口を挟んでくる。

「おい、ちょっとまて、ネビィスの手って何のことだ?
俺は知らないぞ」

「そりゃそうですよ。言ってませんから」

キールが当然のように言う。ネビィスは申し訳なさそうにライアスに言った。

「ライアス様、私が悪いのです。ゾルクの触覚に誤って触れてしまって、右手が壊死してしまいました。
その時、エリオル様がその癒しの力で直してくださいました。
本当に感謝しています」

そこまで聞いて、ライアスはある違和感の理由に気がついた。

「そうか、だからあの時、俺が触覚に触れない様に全部切り落としてくれたんだな」

あの時、口では『触覚をよけろ』と叫ばれたものの、実際には避ける間もなく、すべてが切り落とされた。
それが少しだけ心の中で引っかかっていたのだ。

それでもエリオルはライアスの問いには答えず、当然のようなセリフだけを呟く。

「感謝される覚えはない。オレは自分のできることをしたまでだ。
目の前で人が死んだり、傷ついたりするのは誰でも嫌だからな。
それだけだ」

結構な冷たい言い方に、ハワードが仕方なさそうな顔をする。

「ライアス王子、すまねえ。エリオルはずっと人と接することなく生きてきたから、その・・・・・・コミュニケーションは苦手なんだ。
悪気はないんだ。気を悪くしないでやってくれ」

「気なんて悪くしない。俺は益々、気に入った!
大抵の奴は自分の手柄を自慢して、威張り腐っているぞ。
エリオルみたいな奴、俺は嫌いじゃない。
エリオル、絶対に俺の護衛剣士にしてみせる」

ライアスは本気でエリオルを気に入ったのか、そんなことを言うとニコニコと微笑む。
そんな時、ノックの音。

「入れ!」

ライアスの一言に、さっき別れたふたりの人物が元気よく入ってきた。

「ライアス、終わったわよ。にしても、よくあの獣相手に生きて帰ってこられたわよね」

ピンク色の髪の男女な人物はそう言うと、エリオルとハワードを不思議そうに見つめる。
さっきはライアスに気を取られていて、ふたりには無頓着だったとおもわれる。

「アーメル、ハワード・クローラとエリオル・リアスだ。ふたりが獣を消滅してくれた」

ライアスの言葉に、ビックリ顔でまじまじとふたりを見つめる。

「へー、どっちもいい男じゃないの。よろしく、私はアーメル・ヘルメスよ」

明らかに男の声で言われるとすごく違和感がある。
ハワードは明らかに苦手そうな表情をする。

「エリオル・リアスだ」

エリオルは気にした様子もなく、自ら名乗るともうひとりを見つめる。
仮面の奥の瞳にはなんの揺るぎも見えなかった。

「俺はキルシュ・ラドリア、よろしくな」

「よろしく」

静かな声を聞いてから、ライアスは話を先へと進める。

「と、いう訳でハワード。このふたりは多分、コツさえ掴めば使えると思うが、エリオルと同じようにはいかないぞ」

実際にエリオルの動きの速さというものを体感しているライアスとしては、素直に思ったことを口にした。

「成程・・・・・・まあ、多分、大丈夫だろう。今の案はあくまでも三人一組案だからな。そこそこ使える剣士がふたりいれば何とかなるだろう。問題は組分けだな。エリオル、どう思う?」

ハワードはようやく、エリオルに意見を求めた。

エリオルは少しだけ目を閉じると、何かを考えている様子だったが、次の瞬間いきなり剣を引き抜いた。
そしてためらいもなく、身構える。
ここが謁見の間で、かなり広いことが幸をそうした。

「ライアス、ハワード、キール、ネビィス、下がっていろ!」

その一言でアーメルとキルシュは、自分たちが試されようとしているのだと知る。

「へー、面白いじゃないの。でもなめられたものね。
私たちふたりとひとりで戦おうなんて」

アーメルは口調に似合わず、楽しそうにエリオルを見つめる。

「全くだよな。いっとくが俺ら、手加減なんてしねーぞ」

そう言とふたりはそれぞれ、腰の辺りから自分の武器を引き抜く。
エリオルの細長い剣もかなり変わっているが、このふたりの武器もかなり個性的だった。

アーメルは引き抜くと長くて大きな三叉の槍だった。
ビューンビューンと重そうな音を立てて振るっている様子から、結構重い武器のようだ。
キルシュの武器は二つの変わった剣。

「俺の月刃刀の威力を受けてみろ!」

キルシュが叫ぶと同時に、その剣のひとつをエリオル目がけて投げつける。
柄はなくて、必然的に刃の部分を片手で受け止める。ライアスの目の前ギリギリのところである。

「嘘だろ? あの月刃刀の速さに追いつけるなんて、信じられねー」

ビックリして呟いているキルシュにエリオルは武器を投げ返す。
そんなキルシュにライアスが苦情を言う。

「おい、キルシュ。どうでもいいが、少しは考えて投げてくれないか? エリオルがいなけりゃあ今頃、俺はおだぶつだぞ」

確かにキルシュの剣はもう少しでライアスというところまで飛んでいた。とはいえ、エリオルはちゃんと分かった上で止めたのは間違いないのだが。そのままエリオルは自分が持った剣を鞘に収めた。

「やあー、わりい、わりい。でもまあ、ライアスの場合はシルフェがいるからいいかなって思って」

行き当たりばったりな様でも、そこはちゃんと考えていたらしい。

「うーん、でも少し気に食わないわね。顔色ひとつ変えないなんて、食えない男よね。それじゃあ、私の槍はどうかしら?」

アーメルはその槍をまるで軽い剣を振るうかの様に動かす。

「でやー」

思ったよりも細かい動きでエリオルに向けて槍を突いていく。
しかしエリオルは残像になりながら槍をかわすとアーメルとの間合いを詰めていく。
自分の腰の剣には一切触れないで、身体を軽やかに踊らせると、最後はアーメルの手首を掴んでねじりあげる。

「痛っ!」

思わず叫んだアーメルの手から、槍が滑り落ちる。
それを片手でキャッチすると手首を離した。
そしてアーメルに槍を手渡す。軽々と動かす様子にアーメルは苦笑を浮かべる。

「ライアス、貴方本当にすごいわよね? どうやってこんなすごい剣士を見つけてくるのかしらね。完敗だわ」

「あははは、今回は棚ぼただからな。俺の力じゃない」

笑っていうライアスの隣で、ハワードはニヤリと笑うとエリオルに声をかける。

「どう分ける? 俺とキールが別れるのは決定としても、お前を含めた四人はどう分けたい?」

ハワードの問いかけに、エリオルは小さく頷くと淡々と答える。

「アーメルとキルシュはふたり共、接戦向きじゃない。離れて戦う方が向いているだろう。純剣士のネビィスは接戦でも大丈夫だろうから、アーメルとキルシュを分けて、ネビィスとオレを分ける」

短時間の見極めとしてはパーフェクトだった。

「なるほど、後はどういう三人にするかだが、ここは一番公平にいくようにライアス王子、貴方に任せるってことでどうだ?」

ハワードの提案に、それぞれ一応にうなずきを返す。

「ハワードもエイオルもなかなか優秀だな。何も言うことがないくらい進め方が上手い。
よし、じゃあ・・・・・・そうだな。俺はハワードにもエリオルにもずっとここにいて欲しいと心の底から思っている。だから、俺の仲間と早く慣れてもらいたい。
みんな個性的な面々だが、いい奴らだ。だから、悪いがふたりには別れてもらう。キールとエリオル、アーメルを一組としたい。
そして残りのハワードとネビィス、キルシュをもう一組に。
これでいいか?」

ライアスも短時間で、的確であろう組分けを提案した。

「ライアス様らしい組分けですね。私は構いません。エリオル、アーメルよろしいですか?」

キールがふたりに声をかける。

「ああ」

エリオルは表情ひとつ変えることなく静かに頷く。

「勿論、ライアスの決定だもの、私に異論はないわよ」

ニコニコしながら言うアーメルにキルシュも同調する。

「俺も別にいいぜ。誰と組んでも。要は仕事がきちんと出来ればいいんだからさ」

「私も異存はございません」

当然のように言うネビィスの声を聞いてからハワードは言った。

「決まりだな。それじゃあ、班分けはこれでいいと。
あとの問題は、俺たちの班にはゾルクを感じるやつがいないってことなんだよな」

呟くようにいうハワードの言葉に、アーメルとキルシュは首をかしげる。

「エリオルはゾルクを感じることが出来るんだ。居場所を正確に察知することが出来る」

ライアスはふたりの様子に気づき、補足を加える。

「ライアス王子、提案なんだが、貴方の聖霊獣を借りることは出来ねえのか? いくら禍々しい気を放っていたとしても、普通の人間は居場所の特定には無理がある」

ハワードは少し考えてから、そう問いかけてみる。

「構わないが、シルフェは俺の聖霊獣だ。俺とは心の中で会話することが出来るが、他のやつとは無理だ。根本的なシステムはよく分からないが」

そしていたずらっぽい目をすると、さらに続ける。

「この際、俺も一緒に行くってのはどうだ?」

一番にキールの反対を喰らいそうなことを言って、ハワードに問いかけるライアス。

「成程、だけどライアス王子には申し訳ないが、俺は聖霊獣の声が聞こえると思うぜ」

「なんで、そんなこと断言できるんですか?」

キールが不思議そうに問いかける。

「ああ、こう見えて俺、二回ほど聖霊王とその身体に宿る聖霊獣と喋ったことがあるからな」

それに、唯一の王女の聖霊獣とは頻繁に話しているしな。
最後の心の中だけのセリフは誰に聞かれることもない。

「ハワード、すごいじゃないですか。でもラミンナ国にいるしかも、隠された貴方がどうして、聖霊王と会うことが出来たんですか?」

当然といえば当然の問いかけ。

「まあ、そりゃあいろいろあるさ。試しに何か喋ってもらえないかな?」

キールの質問を軽くスルーして、ハワードはライアスに聖霊獣との会話を申し出た。

(シルフェ)

ライアスの心の声に、シルフェが背後から現れる。ただし、他の人間には全く見えない。

「私ノ名ハシルフェ。確カ二ゾルクノ位置ガワカルガ」

「OK! 分かればいいさ。別にエリオルほど正確でなくてもいい。
声はちゃんと聞こえているよ、シルフェ」

「了解シマシタ。ライアス様、ヨロシイカ?」

シルフェの問いかけにライアスは即答する。

「構わない」

そして言葉を続けた。

「じゃあ、まあそういうことで、どうしてゾルクが出没するかも含めてお前たちに任せることにする。とにかく、無理だけはしないでがんばってくれ」

ライアスの言葉にそれぞれがかしこまって礼をとる。

「承知いたしました」

「それじゃあ、ハワードとエリオルには部屋を与えよう。ふたり一緒の方がいいか?」

ライアスの問いに、ハワードは即答を返す。

「ああ、できれば。チーム別行動の結果は俺たちふたりで話あって、次の日の行動を決める。
あっ、そうだ。先にいっておくが、本当にヤバい時のみ、エリオルの声が俺に届くようになっている。
メカニズムは気にしなくていい。とりあえず、そういうものだと思ってくれれば、それで十分だ。
本当に生死を分ける瞬間があり得るから、その時は何もいわずに俺かエリオルの指示に従ってくれ」

ハワードの言葉に少しだけ驚いた様子を浮かべるアーメルとキルシュ。
キールとネビィスはほぼ顔色を変えずその言葉を聞いていた。

「分かったわよ。どうせ私はゾルクのことなんて分からないんだもの。エリオル、貴方に従うわ」

アーメルの言葉にエリオルは小さく頷く。

「OK! 俺もハワードに従うぜ。にしても、ふたりとも変わっているよな。だけど、キールとネビィスは完全にふたりに慣れてるよな」

ハワードとエリオルを顔色ひとつ変えず、見つめているふたりを見てキールが言う。

「そりゃあ、仕方ないですよ。私とキルシュ、ライアス様の命の恩人ですから。私はふたりの言うことでしたら、どんなことでも承知しますよ。間違いなくふたりはゾルクに関してはエキスパートです」

キールの言葉にハワードは苦笑する。

「別に俺たちはエキスパートって訳じゃねえよ。ゾルクと出会ったのも最近だしな。ただ俺たちは他のやつらよりほんの少しだけ手段の数を持っている。それだけのことだ」

「またまた、謙遜しなくてもいいですよ。すごいことは見ていれば分かるんですから」

キールがすかさず、声をかける。

「いや、本当だぜ。だから、俺やエリオルを崇める必要は全くない。
本当に必要な時だけでいい。その時だけ大人しく言うことを聞いてくれればそれでいいさ」

ハワードはあくまでも、無理難題をいうつもりがないことを強調した。それまで黙ってことの成り行きを見守っていたライアスが口を挟んでくる。

「俺からも一言、いっておこう。ふたりをわざわざ呼んだのは、本当に現状を変えたいと願っているからだ。だから、ふたりの言葉は俺の言葉だと思って従って欲しい」

ライアスの切実な心の内がかい間見える。
あえてそんなことを言わなくても、みんなは無条件で従うのだが、分かっていながらライアスはその言葉を口にした。
それはライアスがふたりに示した、誠意の表れでもあった。

「とにかく、この国のためになるように、精一杯がんばらせてもらう」

エリオルが静かな口調で言う。ハワードはそんなエリオルを優しく見つめた。

「それでは話がまとまったところで、ハワード、エリオル私についてきてください。おふたりの部屋へと案内します」

キールの言葉にふたりは頷く。

「よし、じゃあ解散! 今日はここまでにする。明日から班に分かれてゾルクの見回り頼む」

ライアスの言葉で、それぞれ自分の部屋へと散っていく。
ハワードとエリオルにとっては、タムール国での新たな生活が始まりを告げようとしていた。
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