ライアスの翼シリーズ① ~光と影の王女~

桜野 みおり

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第3章 幻想~砂上の王国~

(2)虚栄~すがり付く信念~

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翌朝
昨日とは打って変わって、穏やかな朝を迎えた。

「エメラ様、今ノトコロ、ゾルクノ気配ハアリマセン」

エリオルの心の奥底で聞こえる声はいつも温かい。

「エリオル起きたのか?」

隣で眠っていたハワードが声をかけてくる。

「ああ、今のところゾルクの気配はないようだ。昨日のことで警戒させてしまった様だな」

エリオルの言葉にハワードは頷く。

「まあ、お陰で今日は王と王妃の陰室に行けそうだな」

昨日行くはずだったそれは、朝のゴタゴタのせいで中止になっていた。

「オレは苦手だ。王妃はオレの正体を知っているかもしれない。
だからって、どうなるわけでもないだろうが」

双対国にはもの凄く強固な結びつきがある。それはいいことではあるのだが、自分を干渉されたくないエリオルにとっては、あまり嬉しくない。

「まあな。別にいいじゃあねえか。知られて困ることはないし、何にしても普通は誰もお前を利用することはできない。
気にするな。堂々としてればいいさ」

まあ、確かに利用したいと思う時点でいかれてるのは決定的と言わざるを得ないが、広い世界にひとりくらいそんなやつがいるかもしれないと心で思うエリオルだった。

コンコンとノックの音。

「キールか?」

ハワードの問いかけに、扉の向こうで楽しげな声が響く。

「ご名答です。ふたりとも、起きてらっしゃいますか?」

「ああ、入ってもいいぜ」

ハワードの声に礼儀正しい声が返ってくる。

「失礼いたします」

すぐにくったくのない笑顔を浮かべ、キールが入ってきた。

「おはようございます。ハワード、エリオル」

「おはよう、早いんだな」

エリオルの言葉に、キールは少しだけまずった表情を浮かべる。

「すいません。まだ、眠っていらっしゃいましたか?」

「いや、とっくに起きていたから大丈夫だ。お前が早めに来るのは分かっていたし、陰室にいく件だよな」

キールが用件を言うより先に、ハワードは言いたいことを理解して言った。

「さすがにハワードですね。いつゾルクが現れるか分からないので、王様も王妃様も早い時間帯におふたりと話がしたいとおっしゃっておいでです」

「ライアス王子は同席するのか?」

エリオルはそこが気にかかったのか、キールに問いかける。

「いえ、あくまでも王様と王妃様とだけです」

「そうか、分かった。ハワード、行こう。このまま先延ばしにするわけにもいかない」

とりあえず、ライアス王子がいないなら、面倒な事態だけは避けられそうな気がした。

「ああ、そうだな」

三人で王の陰室へと歩き出す。
王の陰室というものは、当然のようにどこの国の王様も持っている。

ただし、陰室自体はよほどのことがない限り使用しない。
大抵は謁見の間を使用し、護衛剣士と書記官の立ち会いの元、その内容が重要な場合は書面に残されることもある。

つまりふたりに対して、何が何でも隠れて会って話したいという意図があることは明白である。
キールに連れて行かれた場所は、城の中でも本当に奥の一番わかりづらい場所だった。

「迷子になりそうだな」

さすがのハワードも思わず口走る。
城の造り自体が小さく、複雑に造られているので、余計にそう感じてしまうのである。

「こちらです」

ようやく、扉の前に辿り着く。

「王様、王妃様、おふたりをお連れ致しました。」

キールが扉の先へと声をかける。

「ご苦労、入れ!」

「はい、失礼致します」

扉がゆっくりと開かれる。
その先には、立派な造りの椅子にふたりの人物が腰掛けていた。

ひとりは思ったより若そうな感じの王様でもうひとりはハワードもエリオルも一度会っている、美しき王妃。
そしてもうひとり。男性がふたりのすぐ側に立っていた。

さすがのハワードとエリオルもこの人物は変わり過ぎていて、思わず見つめた。
白銀の長いストレートの髪に左目は漆黒、右目は黄金色。
そしてその目にはめがねをかけていた。

すらりとした体つきは均整がとれた申し分ないものだった。
全く隙がないその人に見入ってしまいそうになる。

「よくきてくれた。ふたりとも、気を楽にして座るがよい」

王のお言葉に目の前の椅子に腰掛けるエリオルとハワード。
それを見届けてから、キールは一礼して部屋を出て行く。

「エリオル・リアス、ハワード・クローラ、この度は我が息子ライアスをはじめ、多くのもの達が大変世話になった。
礼を言う。しかも、ゾルクを倒す為の力も貸してくれているそうで、重ねて礼を申す」

「大したことはしていない。一国の王がオレたちに礼を述べる必要なんてない」

エリオルの口調に、ジュレップ王は苦笑を浮かべる。

「だけどエリオル、あなたも王に違いないですよね?」

ステア王妃はそう言うとエリオルを見つめる。
エリオルはチラッとふたりの側にいる男に目を向ける。

「彼は大丈夫。ラファード・プラント。幻術師で紋章師。
元は魔境国の王族のひとり。
今はジュレップの側近をしてくれているの」

ステア王妃が分かりやすいように教えてくれた。
少し前のライアスの話に出てきた人物であることはすぐに分かった。

「魔境国・・・・・・なるほど、どうでもいいが、オレは王ではない。
その立ち位置を誰も認めはしないから。オレはただの剣士だよ。
よって、特別扱いは迷惑だ。まあ、正体を知られた時点でこの国を出て行くが、ラミンナ様に聞かされているとしても、口外は無用にしてくれると助かる」

エリオルにとっては、本当の自分を知られることが一番嫌なことだった。

「分かりました。勿論、誰にも言ったりはしません。
私、ラミンナ姫にくれぐれもあなたを頼みますって言われたの。
だから、できる限りのことはさせてもらうわ。
困ったことがあったら、言って頂戴ね」

ステラ王妃は優しい口調でそう告げた。
エリオルは一応に頷きを返すが、助けてもらう気持ちなど毛頭なかった。

「すまない。俺たちは必ずしもこのままここにいるかは分からない。
だが、ゾルクの件だけはきちんと片を付けると約束しよう。
ジュレップ王、ステア王妃、だからこれ以上俺たちに干渉しないで欲しい」

ハワードはふたりに対して哀願する。
すべてはエリオルのために、ただその一心だけで。

「こっちこそすまぬ。どうもここに呼んだのは間違いだった様だな。
お前たちが知られたくないことを言うつもりなどない。
だからこそ、ライアスも排除して、ここで会うことにしたのだから」

ジュレップ王の言いたいことも、その意味もよく分かる。

「ジュレップ王、貴方は何も間違ってはいない。すまない。悪いのはオレだ。すべてはオレのわがままだから」

エリオルは呟く様に言って、椅子から立ち上がると一礼する。
そのまま、振り返ることなく部屋を出て行く。

それに倣ってハワードも同じように一礼するとエリオルに続く。
王と王妃はそんなふたりを静かに見送った。
その側でラファード・プラントが物憂げな表情をたたえていた。

あんな複雑な道順も、エリオルはしっかりと覚えていた。
ふたりはすぐ部屋に戻ることができた。

「お帰りなさい。朝食、準備できてますよ」

「キール、お前」

ふたりの行動を察したキールは、ちゃんと朝食を準備して待っていてくれた。

「さすがだな。呪医は人の心の中も見抜くのが上手いってか?」

褒めているのか、茶化しているのか、ハワードはそう言って笑う。

「何とでも言ってください。でもエリオル、ハワードみたいに口の悪い人間にはならないでくださいね」

キールは側のエリオルに話を振ると、パンを手渡す。
エリオルは大人しくそれを受け取ると、かじり付いた。

「ひでえ、言い様だな。まあいい、それでもお前はこの中で一番信用できる」

ハワードはそう言うと、自分もパンを取り、かじり付いた。

「それはどうも。何よりのほめ言葉ですよ。で、今日は予定通りでいいですか?」

キールの問いかけに即答のハワード。

「ああ、上手く見つかればいいが。エリオル、分かっているとは思うが、見つけても手はだすなよ」

「分かっているよ。最も状況によっては絶対とは言えないが。
まあ、最悪は魔境獣が助けてくれるんだろうな、きっと」

完全に気配は消しているが、エリオルは側にいるのがよく分かった。
おそらく、本当にヤバいとなったら、何も言わなくても助けてくれそうなイメージだった。

「ハワード、エリオルには私がついています。大丈夫です。
きっと何か、私たちで掴んできます、ねっ?」

キールに同意を求められ、反射的にエリオルは頷いた。

「お前らいつの間に同盟を結んでんだか」

ぼやきながらも、ハワードは嬉しそうにふたりを見つめる。
それからしばらく後、再び六人が顔を揃える。
そこにライアスもやって来る。

「おっ、みんな揃っているな。エリオル、身体の調子は?」

よほど気にしていたのか、ライアスはエリオルを見つめると心配げに問いかける。

「大丈夫だ。キールがたくさんの食事を持ってきてくれたからな。
ありがとうライアス」

「よかった。でも、無理はしないでくれよ」

「ああ、分かっている。大丈夫だ」

かなり自信を持っていうエリオルにライアスは安堵の表情を浮かべた。

「それじゃあ、今日も昨日と同じ三対三に別れて、エリオルのグループは砂漠に、俺のグループは城の中を中心に見回ることにする。
イメージ的には、昨日見損ねた所を重点的にやってくれ。
それじゃあ、解散!」

ハワードの言葉に、それぞれ大人しく別れて散って行く。

「ライアス王子、悪いが、俺たちと一緒に来てくれないか?」

「うん? いいけど」

キールの視線を感じて、口ごもるライアス。
ハワードは苦笑を浮かべる。

「キール、気持ちは分かるが心配しなくても、危ないことは絶対にさせない。約束する。いいだろう?」

ハワードの提案に仕方なさそうな表情のキール。

「しょうがありませんね。ハワードにそう言われては。
ライアス様、本当に今度こそ、手出ししてはいけませんよ」

それでも釘を刺すところがキールらしい。

「分かっているよ。ゾルクに関しては素人だから、二度と手は出さない。それでいいだろう?」

キールの口うるささを分かっているライアスはそう言うと、話を終わらせた。

「じゃあな、気をつけて行けよ」

ライアスはエリオルたちに手を振ると、ハワードの後に続く。
その後ろ姿を見届けてから、キールはニッコリと微笑むとエリオルとアーメルを促す。
ある意味、、ライアスはハワードの元に釘付けにされた。

「じゃあ、私たちも行きましょうか」

三人はゆっくりと砂漠に向けて歩き出す。
歩きながらもエリオルは、自分の気を集中させて、砂漠にゾルクの存在がないかを感じ取ろうとする。
一面に広がる砂漠の中に、禍々しい気が隠れている気配はない。
昨日の件で、呪術師は完全に気配を消し去ったと思われる。

「昨日の件で相手はだいぶ警戒しているな。全くといっていい程、何も感じない」

エリオルが呟き交じりに大きくため息をつく。

「エリオル、大丈夫? 無理しなくてもいいのよ。
もしかしたら、あっちに出てるかもしれないし」

アーメルが心配そうに言う。

「そうだな、ありがとう、アーメル」

「少し休みましょうか? 砂漠のど真ん中ですが」

キールが提案する。その瞳がエリオルに合図を送っていた。

「悪いがそうしてくれると助かるな」

立ち止まって、瞳を閉じる。
心の中の声で話しかける。

(魔境獣ガーリャ、頼む。この砂漠のどこかで、隠れて住んでいる人がいるかを探って欲しい)

(分カッタ。スグ二調ベテミル。シバラク待テ)

(ありがとう)

「エリオル、大丈夫? 水飲む?」

意外にもアーメルはエリオルのことが気に入ったのか、何かと小まめに世話をやいてくれた。

「ありがとう。アーメル」

素直に水を飲む。
ラミンナ国にいた身としては、結構きついのは確かだ。

「それにしても世界は広いわよね。私ガリアーナを出るまで、こんな場所があるなんて思いもしなかったのよ」

少し遠くの景色を見つめながら、アーメルがしみじみ呟く。
ガリアーナ国は七国の中でも一番大きく、別名・花の国と呼ばれている。美しく自然が豊かで、暮らすには申し分ない場所だ。

「それはオレも同じだ。こんなにすぐ隣にある国が、水の全く足りない砂の国だなんて思ってもみなかった」

近くても、閉鎖空間にいた身としては、仕方のないことだった。

「エリオル、世界はやっぱり、限りなく広いということよね」

「そうだな。これだけ広いのなら、どこかに居場所はあるかもしれない」

思わず気が緩んで、本心を呟くエリオル。

「エリオル?」

アーメルは不思議そうにエリオルを見つめた。

「何でもない。よし、もう少し先まで歩くか?」

キールとアーメルに声をかけて、エリオルは再び、歩き始める。
その動きがすぐに止まる。
瞳を閉じて、気を飛ばすことに集中する。

(分カッタゾ。西ニモウ少シ歩イタ場所ニ、洞窟ノ様ナトコロガアル。
ソノ奥ニハ城ノ中ト同ジ様ナ造リノ建物ガ存在スル。
オソラク間違イナイダロウ)

ガーリャの言葉に思わず頷きを返すエリオル。

(ありがとう。ガーリャ)

心の中でお礼を言ってから口を開いた。

「アーメル、ゾルクの気配があるわけではないんだが、少し気にかかる場所がある。行ってみてもいいか?」

キールは事情を知っているので、あえて問いかけず、アーメルに聞いてみる。

「勿論よ。ねっ、キール」

アーメルは無邪気にキールに同意を求めた。

「ええ、構いませんよ」

「ありがとう、ふたりとも」

ガーリャに教えられた通りに西へと歩く。
ほぼ砂だけの風景の中で本当に洞窟の様な場所があるかどうかは謎だった。ただし、現状を変えるには、ガーリャの情報に頼るしかない。

(モウ少シ先ダ)

間でガーリャは細かく指示を出してくれた。
三人はガーリャに導かれるままに、洞窟の前へと辿り着いた。

「すごーい、こんな所に洞窟?」

アーメルの声を聞きながら、一応キールに目だけで合図する。

「どうせですから、中に入ってみましょうか?
案外、術師の居場所だったりして」

キールは先を見越して、伏線を張ってみた。

「まさかー、でもちょっと面白そうね。行ってみる?」

ふたりは洞窟の先に行く気満々でそういった。
そんなふたりにエリオルは表情ひとつ変えることなく頷いた。

「では、光を」

キールはそう言うと、手のひらを上に向け、光の球を出現させた。
魔術を使えることはどんな時も便利なものだ。
そのお陰で洞窟の先までよく見渡せた。

思ったより大きいその空間の先へとためらいもなく足を進める。
しかし、すぐに三人はビックリして立ち止まる。

まるでどこかの城の中のような、回廊が目の前に大きく広がっていた。しかもそこはかなり明るく、光がなくても十分に辺りを見回すことができる。
キールは手のひらの光の球を消すと、慎重に辺りに目を向けた。

「嘘、キール。こんな場所があるなんて知ってた?」

思わず問いかけるアーメルに即答のキール。

「いいえ、知りません。よく今まで誰にも知られずに存在していましたよね。エリオルに見つけてもらわなかったら、誰にも知られることなく、このままだったでしょうね」

言いながら、キールは更に先へと足を進める。
エリオルとアーメルも大人しく後に続く。
どう考えても誰かが住んでいることだけは明らかだった。

「本当にお城の中にいるみたい。住んでいるのは王子様かしら?」

ちょっと乙女チックにアーメルが言うと、キールが思わず笑顔になる。
間違いない可能性が高いからだ。

「お前たち、誰だ?」

奥というより、上から声がする。反射的に見上げた回廊の先に、青年の姿があった。
緑色の髪、青い瞳。どこかライアスに似ているその人が、追放された王子ジオール・マーティルであろうことはエリオルとキールには分かった。

「タムール国の人?」

ことの成り行きを知らないアーメルだけが、不思議そうに呟いている。

「変わった組合せだな」

確かに端から見ればそれが当然の見解だろう。
エリオルはとっさに会話を始めた。

「すまない。旅をしている途中でこのふたりに出会ったんだ。
今は三人で気ままに旅をしている。
砂漠をあてもなくさまよっていたら、偶々ここに辿り着いてしまったんだ」

「エリオル?」

アーメルの呟きに、キールが話を合わせるように目配せをする。
相手は別に気にした様子もなく、話に乗ってくれた。

「なるほど、それは大変だったな。俺の手伝いをしてくれるんなら、しばらく置いてやってもいいんだがな」

「手伝い?」

「ああ、俺は本当は王様になるはずだった。
俺は、俺こそが本当の王になるはずだったのに、現実は自分の国を追われ、こんな場所に甘んじている。
でも、俺は必ず俺の国をこの手に入れる。
そのための手伝いをお前たち、してくれる気はないか?」

この内容からアーメルも、それがタムール国を指していること、どうやら今回のことを企んだ張本人であることに気がついた。

「へえー面白そうね。いい加減、旅も飽きたし、この話乗ってみない?」

アーメルがなかなかの演技でキールとライアスに話かける。

「そうですね。とりあえず、砂漠を歩くのは疲れましたね。
エリオル、貴方だってなかなかの腕なのですから、奪還の暁には護衛剣士にでもしてもらったらいかがです?」

キールがエリオルに話を振った。なかなかに話の持って行き方が上手い。とにかく乗らない訳にはいかない。

「本当にオレの腕を買ってくれるのか?」

くしくもタムール国にいても、青年には存在を知られていない三人がここに来ることになったことが幸いしていた。

「もちろんだ。お前は強そうだ。見たところ混血種のようだな。
仮面はそのために付けているのか?
お前も辛い人生を送ってきたんだろうな。俺はむしろ、そんな奴ほど大歓迎だ」

なぜかこういう考え方はライアスと似ている。
仮面を付けている理由も違うし辛い人生でもないが、とりあえず話を合わせる。

「そうか、じゃあ、お前の役に立てると信じて、手伝いとやらをしてみるか?」

エリオルがそう言うと、青年は嬉しそうに頷く。

「俺の名はジオール・マーティル。現タムール国王ジュレップ・マーティルの弟だ」

「タムール国王の弟? どうしてそんな方がこんな所にいるんだ?」

当然の問いかけをするエリオルに悲しい表情のジオール。

「現タムール国王ジュレップは俺の兄だった。しかし、側室の子どもだったんだ。正妃は俺の母だった。当然だが、時期国王には俺がなると思っていた。母もそう言っていたし」

話から内容はよく理解できた。
次期国王選びの時に必ずといっていい程、話題になる議題といってもいいくらいの内容だ。

「でも、結局、俺の父は正妃の子どもの俺よりも、側室の子どものジュレップの方を選んだんだ。それだけでなく、俺はそれを機にタムール国から追放された」

客観的に考えて、前王がそうするからには、この王にはよほど見かねる行為の数々があったのだろうが、本人の立場を考えると、その気持ち自体は分からなくもない。

「そうか。それは気の毒な話だな。オレの名はエリオル・リアス。
オレは見ての通り、混血種だから両親に捨てられた。
変な話だよな。自分たちが間違いを犯せば、混血種ができるって分かっていたはずなのに、勝手にオレを作っておいて、結局捨てるなら作らなきゃいいのに」

その言葉だけで、エリオルの人生は想像がつく。
それほどに禁忌として混血種は定着していた。

「そうか、エリオルも大変だったな。だが、俺はそういう奴は信じられる。人に疎まれる痛みを知っている奴は、一度認めてくれる人間に出会ったら決して裏切らない」

確かな分析だとエリオルは思った。ただし、自分を認めてくれた最初の人間がハワードであり、ラミンナ姫であったというだけだ。
そして今回、ライアス王子が先に認めてくれた。
もし、ライアスより先にジオールに出会っていたとしたら、もしかしたら本当にジオールのために剣を振るうことになっていたかもしれない。

「でも、私たちはいったい何をすればいいの?」

アーメルが問いかける。
現状、呪術師の居場所は分からないが、依頼したのはこのジオールで間違いないだろう。
そうなると、タムール国を混乱させるために何か策を考えるに違いない。

「そうだな、そこなんだよな。
あっ、そうだ! お前男でも美人だから、確かジュレップにはライアスって王子がいるはずなんだ。何とかその王子に近づいて捕らえることはできないか?」

本人が聞いたら大爆笑しそうなことをすごくまじめに語るジオール。
アーメルは吹き出してしまいたいのを必死に押さえた。

「私はアーメル・ヘルメスよ。いいけど、私見た目は完全に女だけど、声を出すとすぐに男ってばれちゃうのよね。
王子様をたらし込むには無理があると思うわ」

あえて、正論を言ってみた。
勿論、ライアス王子ならその作戦でも乗ってくれる気がしたが、普通に考えてあまりにもあり得ない状況は、相手に不信感を与えかねなかった。少しでもリスクになりそうなことは避けておくのが懸命な判断だと思われる。

「そうか、アーメルだめか・・・・・・だけど、普通に考えれば王とて自分の息子はかわいいはずだから、どうにかしてライアス王子をここまで連れて来ることができれば、ジュレップを王様から引きずり下ろすことも可能な気がするんだが。まあ、あくまでも可能性の話だから、絶対とは言えないが」

「確実性のある何かはないのか?」

エリオルはジオールに問いかけてみる。
追放されてかなりの年月が経っているはずである。その間自分が王様として返り咲くことだけを糧に生きていたのだとしたら、もっと緻密に計算して作戦を立てていても何の不思議もなかった。

「それがないんだよな。実は魔術師の相棒がいるんだが、そいつは定期的にタムール国の様子を探りに行ってくれている。
だが、本当に残念なことに、いわゆる「隙」というのがなくて、だから困っているんだよ」

ジオールはおそらくそれが、今の本音なのだろう。
かなり真剣に話してくれた。
定期的に偵察されていたのには驚いたが、付け入る隙がないということには一定の評価ができる。
それはかなり正確にタムール国を分析できている証拠に他ならないからだ。

エリオルはキールに視線を移した。
キールなら、こんな場面でも、何かいい智惠を出してくれそうだったからだ。

「私はキール・スティン。では、こんなのはどうです?
三人で旅のしがない踊り手の振りをして、王子様にお目通りを願います。『べールを付けた美しき女性の剣舞』という名目なら大丈夫な気がしますよ。声も出さなくていいし、顔もすっぽりとべールを被ってしまえば、何とかなる気がしませんか?」

なかなかな案である。少なくとも、最初よりはそれらしい。

「キール、なかなかの策士だな。俺なんかよりもよっぽど頭が切れそうだな」

ジオールはその案に乗る気になったらしい様子が見て取れる。

「エリオルの剣舞はすごく美しいんですよ。アーメルは槍の名手ですが、剣舞の真似事くらいはお手のものですから。
私は吟遊詩人として、音の担当に徹したいと思います」

その瞬間、パチパチと拍手したジオールが回廊を降りてくる。
面白いことに体つきもライアスに近い。
かなりライアスとイメージの重なるジオールは、くったくなく笑うとキールに右手を差し出した。

「キール、最高の案だ。ありがとう。お前たち三人なら必ずライアス王子を捕らえて、ここに連れてくるだろう」

何とか疑うことなく、ジオールは信じてくれた。
キールは差し出された手に答えて握手すると、そのままうやうやしく礼をとった。

「御意、我が王」

その様子にジオールは満足そうな笑みを浮かべた。

「よし、三人とも来い。部屋だけはたくさんある。今呪術師はタムール国の偵察に行っているが、夜には戻ると思う。
何でも向こうにもかなりの呪術師がいるらしい。
危うく罠にかかるところだったからな」

ジオールにハワードの情報はすでにもたらされていた。
何にしても、ここにいれば呪術師にも会えそうだ。

「そうなんですか? 私も呪術師なんですが、一度お手合わせ願いたいものですね」

ある意味、本音かもしれないことを口走って、キールは楽しげに笑う。
呆れるほど演技に徹底した行動と言える。

「お前なら、きっと勝てる! とにかくここじゃあ、ゆっくりと話もできない。部屋に行くぞ。お前ら、腹減ってるだろう?
食べながらでいい。計画をキッチリと立てよう。心配しなくてもいい。
衣装なら旅人から奪ったやつが捨てるほどあるからな。
好きなのを使えばいいさ」

当然のことながら、合法的な生活をしている訳もなく、完全に野盗まがいのことをして生活していたことはすぐに想像ができた。

がー、元王子がそこまで成り下がるには、それはそれで勇気がいることなのかもしれなかった。
追放されて何もなくなってしまった人間が辿る道・・・・・・それはすぐに想像することはできる。

だからと言って、ジオールを許すことはできない。
それでも、どうにかしてこいつを助けてやる方法はないかと、心の奥で思わずにはいられないエリオルだった。

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