ライアスの翼シリーズ① ~光と影の王女~

桜野 みおり

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第5章 ライアス王と護衛剣士

(3)想い~聖霊王の願い~

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そこは輝く光に溢れていた。
黄金の髪に白銀の瞳。輝く王は少しだけ、不機嫌だった。

「兄上、機嫌を直してください。言っておきますが、私のせいではありませんよ。あくまで不可抗力ですから」

聖霊王の弟である中亜界の番人レイオール・ペイルが、兄であるアドニス・ペイルに話かけていた。

「悪かったな。どうせ俺のせいだと言いたいんだろう?
まあ、否定はしないが」

白銀の髪に漆黒の瞳。ワイルドな魔境国の王ガールダーは悪びれる様子もなく言う。
アドニスとかなり友人のガールダーは、よく聖霊国に顔を出しては、いろいろ話をしていた。

「ガールダーもレイオールも私より先に会うなんて、私がどんな想いであの子と会うことを封印しているか、分かっているはずだよな?」

滅多に愚痴を言わないアドニスがひたすら愚痴っていた。

「兄上、誤解です! 私は会ってはいませんよ。
確かに心配で魔境王との攻防を見学には行きましたが、かなり遠くからなので、気づかれていないと思いますし、結局、あの子の能力はずば抜けて素晴らしいものがありましたので、私の出番はありませんでした」

その言葉に偽りはない。
本気でガールダーと戦い、勝ったのだからどうしようもない。

「ガールダー、あれ、本気でしたよね?」

「ああ、いたってな。それにしても、教えた奴は相当すごい!
お前の娘は俺を立ててくれたが、俺が本気でもあの速さには追いつけない。頭の回転も相当なものだし、大した王女様だよ。
正直、嫁に欲しいくらいだ」

ふたりして大絶賛するので、アドニスは少しだけいい気分になった。

「そう言えば、オアシスの時、あの子に何を言ったんですか?」

レイオールが思いだしたかの様に問いかける。

「おい、あそこも見てたのかよ!」

ガールダーの突っ込みに、レイオールは苦笑を浮かべた。

「あれは、本当に偶然です。貴方が元自分の術師に対してどういう処罰をするのか、ちょっと興味がありまして。
殺すとは思いませんでしたが、腕の一本や二本は折りかねないと思いまして、暴走止めです」

「あのな、俺はそんなに悪い奴じゃないぞ」

「ですよね? あの子は完全に貴方を分かった上で対処していましたから」

当然の様な物言いに返す言葉がない。

「あの時は本当の名前を囁いただけだ。
エメラ・ペイルと」

その一言で、エリオルには自分の正体を知っている人間という認識はできたと思われる。

「かなり俺の見てくれは威圧があるとは思うんだが、変に女として育っていないから肝が据わっていると言うか、平気で刃向かうし、限界無視で暴走するし、全く面白すぎてずっと見ていられそうだぞ」

ガールダーが褒めちぎっているのは理解できる。
しかしアドニスの心の中は複雑だった。

そもそも全ては自分が悪い。
どんなに言葉を並べたとしても、全てが言い訳にしかならないだろう。罪の購いとして、何が正しいのか?
それすら分からない。

ラミンナ国の王妃に恋をし、間違いを犯した。
それで子どもができてしまったのにも驚いたが、生まれた子どもは完全に聖霊国よりだったのにも驚いた。

その子は生まれた時すでに、黄金の髪に聖霊獣を身体に宿していたのだ。
すべてが完全に聖霊国寄りだったなら、何の問題もなかったのだが、
物事はそう簡単なものではないらしい。

聖霊国に連れ帰ったものの、見事に聖霊国の環境に全て適さず、呼吸困難で死にそうになった。
我が子を助ける為に、苦肉の策で施したのが、聖霊獣の封印だった。

しかしそのせいで、黄金の髪は漆黒へと変化し、聖霊獣もエメラの身体から出ることができなくなってしまった。
何とか七国では生きられる体質にはなったが、混血種と疎まれ生きることが果たして幸せなのか?
アドニスは自分のエゴの代償を深く感じていた。

「でも、仮の身体は苦痛で仕方ないだろうな?
いつかあの子は、ここでも生きられる時が来るのだろうか?」

不安を前面に語るアドニス。

「それを願って、いろいろと策を練ったのだろう?
大丈夫だ。あの子は今の自分の身体をめーいっぱい上手に使っている。それにしても美人だぞ、お前に似て」

そう言われても嬉しくはないが。

「それにしても、変な話ですよね?
あの子はタムール国のライアス王子の、あっ、もう王になりましたが、その護衛剣士になりました。
まあ、腕がいいんで仕方ないですが、王女が王に仕えるなんてあり得ませんよね? あの子は光と影、二つの要素を宿した王女。
ようやく聖霊国に現れた希望の光・・・・・・最も、あの子自身はそのことを知りもしないけど」

レイオールの言葉になんだか思い空気になる。

遙か昔、聖霊国に女の子どもが誕生した。
その名をステファニア・ペイル。
聖霊国で生まれる純王族の女の子どもは初めてだった。
しかもその子どもは完璧な癒やしの力をその身に宿していた。
どんな命でも助けることができるその力は神と崇められていたが、魔境国の王族のひとりを愛する様になる。

ふたりが契ることで、その癒やしの力がその男の中へいくらか流れ、そこからステファニアの力の衰退が始まる。
当然の様にふたりは引き裂かれ、悲観したステファニアは自ら命を絶った。

混血種廃退の動きの大元はこの事件が始まりと言われている。

それからかなりの月日が過ぎているのだが、その間、純王族の中に女の子どもは生まれなかった。

「しかし、皮肉な話だよな。混血種になった途端、女の子どもが生まれるなんてな。しかも癒やしの力も相当なもんだしな」

ガールダーが呟く様に言う。

「でも皮肉と言うなら、あの子に与えるはずの聖霊獣をラミンナ国と双対国であるタムール国の王子が、高熱で生きるか死ぬかでタイミング良く与えたものの、その王子が今、貴方の大切な子どもを拾って護衛剣士にしているなんて笑い話にもなりませんよね」

レイオールの言葉は最もかもしれない。

「何が正しいのかな?」

呟くアドニスは迷子の子どもの様な表情をした。

「さてな。今は分からんよ。最終的にあの子がここに戻って来たら、お前の選択は正しかったんだろうよ」

ガールダーに言われ、ガックリとうなだれる。
そんなのかなり先過ぎて、心が折れそうになる。
何なら、自分が死んだ後になるかもしれない。

かわいくて、愛おしいからこそ、突き放した。
男として生きることを強要し、誰にも見られない様に閉鎖空間に閉じ込めた。

どう考えても、恨まれているだろうと思う。
小さな少女に無茶苦茶なことを言い、それを無理矢理押し付けたのだから。
ひどく傷ついた瞳が真っ直ぐに見つめていた。
あの時の情景が忘れられない。

「兄上、私は兄上の選択は正しかったと思っていますよ。
実際、エメラはすごく強くなった。あそこまでなっていたら、誰かに殺される心配はまずないですよ。
毒を盛られても、そもそも癒やしの力が体内にありますから、無力に出来そうですし、まあ、兄上に会いたいと思うかは謎ですが」

レイオールの言葉にアドニスは即答する。

「そんなの会いたくないに決まってるじゃないか!
いくら命を助ける為とはいえ、エメラにはひどいことをしてしまったからな。自業自得は認めるが、でも、辛い」

素直に心情を吐き出すアドニスに、かける言葉が見つからない。
その時、ガルーダーが思い出す。

「そうだ! 戦利品があったんだ」

「戦利品?」

不思議そうに問いかけるアドニスに、頷いて笑顔を向ける。

「喜べ! あの子が捕まえてくれた魔境獣ゾルクだ。
別にこの大きさなら何の悪さもしない。
ペットに置いてやってくれ」

何だかんだ言っても、友は優しかった。
さすがに素直に受け取って、ゾルクをまじまじと見つめる。

「こんなに小さな奴が悪さをしていたのか?」

さも不思議そうに、アドニスが問いかける。

「まあな。大元はそう言うことになるんだが、こいつ自体そもそも悪い奴じゃない。どんなものでも、使い方次第だからな。
ペットに置いておく分には何の問題もない。
そのうち、何か恩返しをしてくれるかもしれないぞ。
まあ、さすがにそれはないか?」

豪快に笑いながら、アドニスを見る。
とりあえず落ち着いたことは分かったので、そろそろ帰ると言い、そのまま魔境国へと帰っていった。

「兄上、私も仕事に戻ります」

基本休みがあるという訳でもないレイオールはほぼ、中亜界にいる。近頃は中亜界に誰かが入ると分かる様に、自分の聖霊獣をセンサー代わりに置いている。
レイオールの言葉を聞いて「ああ」と返事しながらも、目の前のゾルクを見つめる。
小さな獣。力を込めてひねり潰したらすぐにでも消え去りそうな・・・・・・これを、あの子が魔境王に?

そっと手のひらに乗せてみる。
あの子もこうして乗せただろうか?
それともつまみ上げたんだろうか?

かなり小さな時から、記憶は固定されたままだ。
美人と言われてもそもそものイメージが湧かない。
会いたい思いを必死に押さえて、時は流れた。

聖霊王である自分が過ちを犯すことなど、二度とあってはならない。
聖霊国に対する他の国からの絶対的信頼を失うことになりかねない。
それだけはどんなことがあっても、避けなければならない。
下手をすると、再度国同士が争い、民が死んでいくことになる。

それを止める為に七国同盟を作り、隣会う国を双対国にした。
全く異なる人種の共存。
危ゆいながらも、ようやくバランスが取れるまで落ち着いて来た。
今、ここで全てをぶち壊すわけにはいかない。

「エメラ、私を憎んでいい。恨んでいい。だから、いつかここに戻っておいで。わたしを殺す為でもいい。
とにかく私の元に、この胸の中に・・・・・・」

悲しいまでの聖霊王の想いを、彼、いや彼女は知らない。

そして事態は魔境国から奪われた、恐ろしい魔剣を探す旅へとエリオルを向かわせる。
ただし、現時点では、その事を誰も知らない。

それぞれの想いを乗せて、夜は静かにふけていった。
彼方に青白く光る星の輝きだけが、運命の先を見つめていたのかもしれない。


ライアスの翼① ~光と影の王女~ 完結




















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