家出少年 時々 忘れんぼう爺さん 

森秀斗

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プロローグ

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チェッこんな事になるならワザワザ隣町の外れまで来るんじゃなかった。2歩3歩とゴミ袋のカサカサという音が近づいてくる。

ああ、バレてしまう。どうしてしまおうか、逃走でも図ろうか。

キィと音をたて立て付けの悪い年季がかった押入れの扉が開いていき、月の光と雨音が入り込んでくる。

いや、やっぱり白状しようと腹をくくり顔を上げた。

そこにはヨレヨレの黄ばんだ肌着姿の小さなおじいさんがボーと立ちつくし丸眼鏡の奥の瞳がこちらをみていた。

呆気にとられ身体中が固まって動かせない。

すると、おじいさんの方からハッとした様子で
「あんたキイチか?」と聞いてきた。

僕はとっさに「あっ、はい?」と声が出てしまった。

「やっぱりそうか久しぶりだな。こんな所で隠れんぼなんかして驚かせようたってそうはいかんぞ。もう遅いから早く寝なさい。」

と言うと隠れていた押入れの上の方からから、やけに綺麗な布団を出し、畳一杯に拡がったゴミ袋を押し退けひいてくれた。

「いや、あの勘ちがいじゃ...」と力のない僕の声が耳には届いてない様子で

「さあ、はやくお眠り。長旅で疲れただろう?早く押入れから出ておいで」と優しく幼稚園児に呼びかけるように言う。

仕方がないと観念した立てこもり犯のような気持ちで押し入れから出る。

いつバレてしまうかとビクビクしていた気持ちとは裏腹にお爺さんは早く眠るように促してきた。
至近距離でいても全く疑う様子はない。

しめしめ、この状況を良く思い、僕は大人しく寝たフリをする様に布団に横になった。爺さんがいなくなったら逃げようと思っていた。

のに入るや否やなぜか温かい布団の魔法により瞼が開かなくなってしまった。

お爺さんの「おやすみなさい。」と心地良い声が耳に入った。
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