家出少年 時々 忘れんぼう爺さん 

森秀斗

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目覚めのち逃走

目覚めのち逃走

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朝日が眩しい暖かい。そして重いし獣臭い?
その異臭と息のしづらさにハッとして胸に目が向いた。何かの顔が目の前を埋め尽くす。

「うわあああああ!!!」と叫び驚きながら上体をとび起こした。胸元にいた何かは「ニュアァッ」と小さく鳴き反動で足元までゆっくりと転がっていく。

そこにはバレーボールのような三毛猫が寝転がっていた。丸々と太ってるせいか結構な衝撃があった筈なのにイビキをかいて爆睡している。

その姿になんだか安心と同時になぜか温かい布団の謎が解けた。猫をマジマジと見たのは初めてだ。耳を澄ますと「ぷーぷー」とおかしなイビキをかいておりニヤニヤが止まらない。その丸々とした大きさと純粋無垢な寝顔は癒やしとしか言えなかった。

その束の間の癒やしは目の端に映ったやけに高そうな掛け軸とだだっ広いゴミ袋だらけの和室が現実に僕を戻した。

早くのこの屋敷を出なければ。

立ち上がり布団をたたんで猫を乗せたまま押入れに押込んだ。自分がいた痕跡はできるだけ隠したかった。そしてたくさん書類が詰め込めれたゴミ袋の間を縫うように内縁に出る。

昨日は暗くて気づかなかったが中央に小池、塀の近くに松が植えられておりコの字型に家が庭を囲んでいる日本庭園つきの豪邸だったようだ。その非日常な空間に圧倒され更に焦ってしまう。

正面の外縁の下に隠しているビショ濡れの靴を出し履こうとしゃがんだ時だった。

「おはよう。朝から日向ぼっことは元気だな。風邪はひいてないか?」と、あのお爺さんがいつの間にか隣に腰掛けてきた。

昨日と違い明るいのでバレるのではと鼓動は高鳴っていた。それでも変わらず疑う素振りは見られなかった。

「ひ、ひいてないよ。布団が暖かったおかげでね。」と孫を演じ無難な返事をする。

「そりゃあ良かった。寝る前に少し髪が濡れてるもんだったから風邪ひいたんじゃないかと思って...」。

「あ、あの僕ちょっと用事があって夕方までに帰らないと行けないんだ。今から帰ってもいいかな?」

と気持ちが先走っておかしな会話の流れになってしまったと後悔する。獅子落としが「カッコンッ...」となんとも言えない音をたてた。

「...とはいえ、まだ起きてから何も食べてないであろう?靴もビタビタに濡れてるし...それでも帰ると言うなら母さんに連絡するが...」。

マズい誰かに連絡されたら嘘がバレてしまう。

仕方なく僕は
「じゃあ、なにか食べてから行こうかな~。ちょ、ちょうどお腹も空いてたし」と話にのらざる負えなかった。

「よしっ、じゃあなにか作ってやろう。」そう言うお爺さんは立ち上がり千鳥足に台所へと向かった。とりあえずの難は逃れた。
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