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11話 忍者はお家をどうするか考える
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アルフレイムでの生活を決めてから10日という時間が流れた。
俺はディナとカレナの残念そうな声を後に、自分の住処を用意することにした。
理由は単純だ。
あの場所は危険すぎる。
それはもちろん肉体的な危険ではなく、命を狙われるような危機的な状況ではないのだが、
「精神が持たぬ」
毎朝のように、カレナは俺のベッドに潜り込んできた。
それはもちろん極楽で覚醒めたかと錯覚せん朝ではあるのだが、刺激が強すぎた。
本当にあの世へ旅立ってしまう。
苦しみや痛みに対する耐性はつけてきたはずであるが、まさか幸福も閾値《いきち》を超えた場合は死に至るような破壊力を備えているものだとは思わなかった。
「なので二人には悪いが穴倉暮らしだ」
ひとまず家を建てるのには時間がかかる。
ということで、ひとまずはアルフレイムの森の端っこに、僅かに盛り上がった山岳部があったため、そちらの麓に穴倉を掘って生活することにした。
熊みたいな生活だ。
実際、俺が暮らす穴倉のすぐ近くには、熊も見た目をした魍魎――魔物が住んでいた。
「べあー」
「おう、べあ殿ご機嫌はいかがかな?」
「べあー」
「そうかそうか、それは重畳」
"キングハニーベアー"と呼ばれるその魔物は2メートルはゆうに超えそうな体躯とは裏腹に性格は温厚で、人を襲うようなことはしないようであった。
穴倉の近くで小麦を栽培していて、小麦粉をこねて美味しいパンをごちそうしてくれる。
「べあー」
「おう、これはふっくらとして良さそうだな。べあ殿は魔物だが、炎は怖くないのだな」
「べあー」
「料理は火力が命、と……火は文明の象徴と言う言葉を聞いたことがあるが、べあ殿は実に文化的であるな」
「べあー/////」
「恥ずかしがらんでもよい。俺の方は……魚の干物があるので持っていってくれ」
「べあー」
「お礼に今度ニシンのパイをごちそうすると、べあ殿は私よりもよっぽど腕のある料理人だな」
おおよそこんな感じであった。
魔物を友人とした穴倉生活も悪くはないのだが、そろそろ真面目に家を建てることを考えなくては。
「といっても方法が分からぬ」
ひとまず見様見真似で建材を集めてみたものの、家の建築とは図画工作のように簡便にはいかぬ。
俺が適当に土地を決めて、家をイメージして組み立てるが……うーむ。
「これじゃ、穴倉のほうがよっぽどマシだな」
そう悩んでいると、カレナでもディナでもないエルフの少女がこちらをじーっと見つめてるのに気がついた。
「ん?」
俺は視線には敏い。
間者に監視されていると気づいた際にすぐさま対応できるようにだ。
なので俺は無意識に、こちらを見ていた少女の後ろに回り込んでしまった。
「…………あれ?」
「何か御用かな」
「……うわっっ!?」
飛び跳ねるくらい驚かせてしまった。
少女は俺が出会った二人のエルフとはまた雰囲気が違っていた。
金髪で肌が白いことには変わりないが、服装が動きやすい我が国の町人のようなものであり、
表情も驚きこそしているが、どことなく少女と少年の間を取ったような中性的な様子を漂わせていた。
「驚かせてすまない……」
「わーびっくりした。ニンゲンさんってのは後ろに目がついてんの?」
そういった少女は目をぱちくりとしながらもこちらに手を伸ばしてきた。
「オレの名前はタラン、ニンゲンさんの名前はえーっと」
「クロウだ。訳あってこちらの村に厄介になってる」
「おう、よろしくクロウ!」
そうニカッと笑う姿は、少女というよりも少年のものに似ていた。
(男のエルフか……? 別にいてもおかしくはないが……)
エルフにおそらく性別はない。とすれば、少女よりも少年に似たエルフがいてもおかしくないが……。
「どうした? クロウの世界では握手はしないのか?」
「いや……そうではないが」
と、タランの手を握り返す。その手はふつうに柔らかい。
「それともアレか。やっぱクロウの目から見ても、オレってちょっと変わってるか?」
「む」
それはどういう意図の言葉だろうか。
一瞬、逡巡するが判断がつかないため俺は素直な言葉を選んだ。
「カレナ、ディナとはまた雰囲気が違ったと思った」
「そうか。そりゃ、まあそうだよな。オレはこの郷で一番かっこいいエルフだからな!」
と、タランは握った手を自信満々に強めてきた。
ぶぶんっと手を振って、へへっと笑う。
「ほう、カッコイイとな」
「ああ、うちの連中、変なやつが多いんだけどさ。みんなどっかしらに特徴があって、オレの場合はカッコイイってみんなから言われるんだ!」
そう嬉しそうに褒めてほしそうに言うタラン。
カッコイイかはさておき、確かに元気の有り余っているエルフであることは確かなようだ。
「それでその格好いいタラン殿がどのような用件かな」
「お、その殿ってのカッコイイな」
嬉しそうに俺の服を引っ張ってくるが、その姿を可愛いと言ったらこの子は怒るのだろう。
……うん、やめておこう。
「へへーっ……て、そうだそうだ用だったよな。実はさ、ディナから頼まれてさ。クロウの家を作って欲しいって」
「俺の?」
と、タランの話によるとこうだ。
自分の家にディナが訪れてきて、俺のための家をこしらえて欲しいと言ってきたそうだ。
なるほど、さすがに新しい住人が穴倉生活というのは、彼女としては申し訳ない気持ちがあるのだろう。
それは本当ならありがたい話だが……。
「いいのか?」
「いいよー」
軽かった。
「といっても、材料はいるけどね」
「ああ、それであれば」
と俺は森から少しだけ拝借してきて建材に加工した諸々を見せる。
だが、タランは首を横に触った。
「うん、一から作ろうとしたら、それだけでもいいけど、オレはカッコイイからもっといい方法を提案するな」
「もっといい方法?」
と、タランは俺の反応が予想通りで面白かったのか得意げにこう言う。
「うん。魔法で作ろうぜ。オレ、魔術工作《マジッククラフト》のスキルを持ってるからさ」
「すきる……?」
こうして俺のお家作成計画がはじまった。
俺はディナとカレナの残念そうな声を後に、自分の住処を用意することにした。
理由は単純だ。
あの場所は危険すぎる。
それはもちろん肉体的な危険ではなく、命を狙われるような危機的な状況ではないのだが、
「精神が持たぬ」
毎朝のように、カレナは俺のベッドに潜り込んできた。
それはもちろん極楽で覚醒めたかと錯覚せん朝ではあるのだが、刺激が強すぎた。
本当にあの世へ旅立ってしまう。
苦しみや痛みに対する耐性はつけてきたはずであるが、まさか幸福も閾値《いきち》を超えた場合は死に至るような破壊力を備えているものだとは思わなかった。
「なので二人には悪いが穴倉暮らしだ」
ひとまず家を建てるのには時間がかかる。
ということで、ひとまずはアルフレイムの森の端っこに、僅かに盛り上がった山岳部があったため、そちらの麓に穴倉を掘って生活することにした。
熊みたいな生活だ。
実際、俺が暮らす穴倉のすぐ近くには、熊も見た目をした魍魎――魔物が住んでいた。
「べあー」
「おう、べあ殿ご機嫌はいかがかな?」
「べあー」
「そうかそうか、それは重畳」
"キングハニーベアー"と呼ばれるその魔物は2メートルはゆうに超えそうな体躯とは裏腹に性格は温厚で、人を襲うようなことはしないようであった。
穴倉の近くで小麦を栽培していて、小麦粉をこねて美味しいパンをごちそうしてくれる。
「べあー」
「おう、これはふっくらとして良さそうだな。べあ殿は魔物だが、炎は怖くないのだな」
「べあー」
「料理は火力が命、と……火は文明の象徴と言う言葉を聞いたことがあるが、べあ殿は実に文化的であるな」
「べあー/////」
「恥ずかしがらんでもよい。俺の方は……魚の干物があるので持っていってくれ」
「べあー」
「お礼に今度ニシンのパイをごちそうすると、べあ殿は私よりもよっぽど腕のある料理人だな」
おおよそこんな感じであった。
魔物を友人とした穴倉生活も悪くはないのだが、そろそろ真面目に家を建てることを考えなくては。
「といっても方法が分からぬ」
ひとまず見様見真似で建材を集めてみたものの、家の建築とは図画工作のように簡便にはいかぬ。
俺が適当に土地を決めて、家をイメージして組み立てるが……うーむ。
「これじゃ、穴倉のほうがよっぽどマシだな」
そう悩んでいると、カレナでもディナでもないエルフの少女がこちらをじーっと見つめてるのに気がついた。
「ん?」
俺は視線には敏い。
間者に監視されていると気づいた際にすぐさま対応できるようにだ。
なので俺は無意識に、こちらを見ていた少女の後ろに回り込んでしまった。
「…………あれ?」
「何か御用かな」
「……うわっっ!?」
飛び跳ねるくらい驚かせてしまった。
少女は俺が出会った二人のエルフとはまた雰囲気が違っていた。
金髪で肌が白いことには変わりないが、服装が動きやすい我が国の町人のようなものであり、
表情も驚きこそしているが、どことなく少女と少年の間を取ったような中性的な様子を漂わせていた。
「驚かせてすまない……」
「わーびっくりした。ニンゲンさんってのは後ろに目がついてんの?」
そういった少女は目をぱちくりとしながらもこちらに手を伸ばしてきた。
「オレの名前はタラン、ニンゲンさんの名前はえーっと」
「クロウだ。訳あってこちらの村に厄介になってる」
「おう、よろしくクロウ!」
そうニカッと笑う姿は、少女というよりも少年のものに似ていた。
(男のエルフか……? 別にいてもおかしくはないが……)
エルフにおそらく性別はない。とすれば、少女よりも少年に似たエルフがいてもおかしくないが……。
「どうした? クロウの世界では握手はしないのか?」
「いや……そうではないが」
と、タランの手を握り返す。その手はふつうに柔らかい。
「それともアレか。やっぱクロウの目から見ても、オレってちょっと変わってるか?」
「む」
それはどういう意図の言葉だろうか。
一瞬、逡巡するが判断がつかないため俺は素直な言葉を選んだ。
「カレナ、ディナとはまた雰囲気が違ったと思った」
「そうか。そりゃ、まあそうだよな。オレはこの郷で一番かっこいいエルフだからな!」
と、タランは握った手を自信満々に強めてきた。
ぶぶんっと手を振って、へへっと笑う。
「ほう、カッコイイとな」
「ああ、うちの連中、変なやつが多いんだけどさ。みんなどっかしらに特徴があって、オレの場合はカッコイイってみんなから言われるんだ!」
そう嬉しそうに褒めてほしそうに言うタラン。
カッコイイかはさておき、確かに元気の有り余っているエルフであることは確かなようだ。
「それでその格好いいタラン殿がどのような用件かな」
「お、その殿ってのカッコイイな」
嬉しそうに俺の服を引っ張ってくるが、その姿を可愛いと言ったらこの子は怒るのだろう。
……うん、やめておこう。
「へへーっ……て、そうだそうだ用だったよな。実はさ、ディナから頼まれてさ。クロウの家を作って欲しいって」
「俺の?」
と、タランの話によるとこうだ。
自分の家にディナが訪れてきて、俺のための家をこしらえて欲しいと言ってきたそうだ。
なるほど、さすがに新しい住人が穴倉生活というのは、彼女としては申し訳ない気持ちがあるのだろう。
それは本当ならありがたい話だが……。
「いいのか?」
「いいよー」
軽かった。
「といっても、材料はいるけどね」
「ああ、それであれば」
と俺は森から少しだけ拝借してきて建材に加工した諸々を見せる。
だが、タランは首を横に触った。
「うん、一から作ろうとしたら、それだけでもいいけど、オレはカッコイイからもっといい方法を提案するな」
「もっといい方法?」
と、タランは俺の反応が予想通りで面白かったのか得意げにこう言う。
「うん。魔法で作ろうぜ。オレ、魔術工作《マジッククラフト》のスキルを持ってるからさ」
「すきる……?」
こうして俺のお家作成計画がはじまった。
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