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ちかく、とおく、ふたりで、いっしょに
24(一部完結)
しおりを挟む彰人の誕生日を祝うための買い物をした後、ケーキ屋に寄って紗江の家に戻って来る。たったそれだけだったが、紗江はこの上なく幸せを感じていた。もう二度と来ることもないと思っていた人が、自分の家にいる。彰人の背中を見つめて、紗江は口元が緩むのを抑えられなかった。
「ケーキ、冷蔵庫にいれてくれる?」
「わかった」
紗江は唐揚げのための下ごしらえを準備する。彰人は紗江の指示に従ってテキパキと動いていた。
「なぁ、紗江」
「ん?」
「これ、俺があげた……」
その声に反応して、紗江は振り向く。彰人の手には、プリン。ご丁寧にスプーンまで乗せられていた。
「あっ!」
「食べなかったのか?」
彰人の視線が彷徨う。自分のあげたものを食べなかった。そこから想像して、悪い方向に結びつけている。紗江には、それがはっきりと分かった。
「私、プリンが大好きでね」
「……ん?」
「コンビニのふわとろプリンも好きだし、ケーキ屋さんで売っているちょっと硬めの昔ながらのプリンも好き!時々自分でも作るんだ」
紗江は彰人の動揺を他所に、つらつらとプリンについて語る。彰人は首を傾げて、訳がわからないと言った様子を見せる。
「でも、一番美味しいプリンは……」
そう言って紗江は彰人の手からプリンとスプーンを取った。朝一でハンドクリームを塗った彰人の手は、柔らかくて艶がある。少しずつ、彰人の中にある負い目やコンプレックスが無くなるようにと紗江は願う。
「誰かと、一緒に食べることだと思う」
パッケージを開け、紗江はとろとろプリンを一掬いする。そのまま、ゆっくりと彰人の口元に運ぶ。紗江の言っていることを理解できていないのか、彰人はスプーンと紗江の間で視線が行ったり来たりしている。
「一緒に食べたいの。彰人と」
「さ、え」
「と、いうわけで。はい、あーん」
「……」
「あんまりにも嬉しくて……もったいなくて食べられなかったの。ごめんね?」
紗江は首を傾けて、もう一度謝罪する。
彰人は無言のまま、口を開けた。小さな塊が、ゆっくりとその中に吸い込まれていく。
「おいし?」
「……甘い」
「でも私はこれが好きなんだなぁ。覚えておいてね?」
「わかった。……ほんと、紗江には敵わない」
勢いよく抱き寄せられ、紗江はスプーンを床に落としてしまう。彰人の声が震えている。片方の手で、彰人の背中を撫でる。すると、抱き寄せる力がさらに強まった。
「これからは、一緒に食べようね」
「あぁ、これからは、一緒に。何でも、二人で」
「そう。美味しいもの、楽しいこと、それから……悲しいこと、嫌なこと……二人でいればきっと大丈夫」
そして、いつか、彰人の中にある悲しみが無くなりますように。紗江はそう願っていた。
彰人の温もりに包まれ、紗江はこの上ない幸せを感じていた。しかし、紗江は失念していた。自分が話さなくてはいけない事を。その事に気がつくのはもう少し後のことだった。
「ケーキ、楽しみだね」
「腹減った」
「ふふふ、待っててね」
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