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第4話 氷の呪いと二十五年前の記憶
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砦の夜は静かだ。
外では雪が降り続き、風の音すらも眠っている。
私は暖炉の火を見つめながら、黎明鉱の欠片を研磨していた。
磨くたびに、青い光が脈を打つように揺れる。
まるで、心臓の鼓動みたいに――生きている。
そんな時、外から低い怒号が響いた。
「――将軍が!」
扉を開けると、兵たちが慌てて廊下を走っている。
私は胸騒ぎを覚え、彼らの後を追った。
訓練場の中央で、セドリックが膝をついていた。
全身から白い蒸気のような魔力が漏れ出し、周囲の地面が凍りついていく。
「将軍! また発作が……!」
副官のアルフレッドが叫ぶ。
氷の呪い――二十五年前、“黒い光”を浴びた者に現れる魔力暴走症状。
感情を失った代償に、魔力の循環が凍りつき、周期的に暴走する。
セドリックの瞳は焦点を失い、口から白い息が漏れていた。
その体からあふれる冷気が、兵たちの足元を凍らせていく。
「下がってください!」
私は駆け寄り、懐から黎明鉱の欠片を取り出す。
青い光が、彼の胸のあたり――氷に覆われた心臓の位置を照らす。
「……お願い、動いて」
鉱石を彼の胸に押し当てた瞬間、激しい冷気が逆流してきた。
まるで凍った世界に手を突っ込むような痛み。
それでも離さない。
黎明鉱の光が、彼の体の中へ吸い込まれていく。
次の瞬間、世界が弾けた。
――眩しい光。
視界が一瞬、白く塗り潰された。
その中に、知らない景色が見えた。
焦げた大地。黒い空。
燃え上がる塔の上で、ひとりの少年が叫んでいる。
その腕の中には、動かなくなった少女。
少年の手の中で、青白い鉱石が砕けていた。
(これは……セドリックの、記憶?)
耳の奥で声がした。
――「これは呪いではない。再生の痛みだ」
それは、優しく、そして悲しい声だった。
母の声に似ていた。
光が収まり、私は膝をついていた。
セドリックは地面に横たわり、荒い息をしている。
彼の頬に触れると、冷たさが引いていた。
「……リゼル」
掠れた声で、彼が私の名を呼ぶ。
その目には、確かに“感情”が宿っていた。
「見たんです。二十五年前のことを」
彼はしばらく黙っていたが、やがて呟くように言った。
「……あの夜、俺は見た。黒い光の中に、ひとりの女が立っていた。
光の中心で、鉱石を抱いていた。……お前の母親だ」
私は息を呑んだ。
父の言葉が脳裏によみがえる。
“二十五年前の冬、あの女はこの石を握っていた”――と。
「母は、何をしていたのです?」
「わからない。ただ、あの光のあと、氷の嵐が止んだ。
彼女が、それを止めたんだと皆が言っていた」
黎明鉱の欠片が、私の手の中で柔らかく光った。
まるで“真実を見つけよ”と告げているように。
「将軍。あなたは、母を呪いだと思っていましたか?」
「……そうだ。だが今は違う。
お前が、あの光を“再生”だと言ったとき……少し、救われた気がした」
砦の鐘が、夜を知らせるように鳴った。
私は立ち上がり、静かに言った。
「この鉱石が母の遺した希望だとしたら……次の二十五年を変えられるはずです」
セドリックは私を見つめたまま、わずかに息を吐く。
「……信じてみるか。お前の“再生”という言葉を」
その声音には、氷の底でわずかに溶け出した水の音のような、温かさがあった。
外では雪が止み、雲の切れ間から月が覗いていた。
黎明鉱が、その光を受けて淡く輝く。
私はそれを胸元に戻し、静かに誓った。
「必ず、この呪いを終わらせます。母が果たせなかった“25年目の再生”を」
外では雪が降り続き、風の音すらも眠っている。
私は暖炉の火を見つめながら、黎明鉱の欠片を研磨していた。
磨くたびに、青い光が脈を打つように揺れる。
まるで、心臓の鼓動みたいに――生きている。
そんな時、外から低い怒号が響いた。
「――将軍が!」
扉を開けると、兵たちが慌てて廊下を走っている。
私は胸騒ぎを覚え、彼らの後を追った。
訓練場の中央で、セドリックが膝をついていた。
全身から白い蒸気のような魔力が漏れ出し、周囲の地面が凍りついていく。
「将軍! また発作が……!」
副官のアルフレッドが叫ぶ。
氷の呪い――二十五年前、“黒い光”を浴びた者に現れる魔力暴走症状。
感情を失った代償に、魔力の循環が凍りつき、周期的に暴走する。
セドリックの瞳は焦点を失い、口から白い息が漏れていた。
その体からあふれる冷気が、兵たちの足元を凍らせていく。
「下がってください!」
私は駆け寄り、懐から黎明鉱の欠片を取り出す。
青い光が、彼の胸のあたり――氷に覆われた心臓の位置を照らす。
「……お願い、動いて」
鉱石を彼の胸に押し当てた瞬間、激しい冷気が逆流してきた。
まるで凍った世界に手を突っ込むような痛み。
それでも離さない。
黎明鉱の光が、彼の体の中へ吸い込まれていく。
次の瞬間、世界が弾けた。
――眩しい光。
視界が一瞬、白く塗り潰された。
その中に、知らない景色が見えた。
焦げた大地。黒い空。
燃え上がる塔の上で、ひとりの少年が叫んでいる。
その腕の中には、動かなくなった少女。
少年の手の中で、青白い鉱石が砕けていた。
(これは……セドリックの、記憶?)
耳の奥で声がした。
――「これは呪いではない。再生の痛みだ」
それは、優しく、そして悲しい声だった。
母の声に似ていた。
光が収まり、私は膝をついていた。
セドリックは地面に横たわり、荒い息をしている。
彼の頬に触れると、冷たさが引いていた。
「……リゼル」
掠れた声で、彼が私の名を呼ぶ。
その目には、確かに“感情”が宿っていた。
「見たんです。二十五年前のことを」
彼はしばらく黙っていたが、やがて呟くように言った。
「……あの夜、俺は見た。黒い光の中に、ひとりの女が立っていた。
光の中心で、鉱石を抱いていた。……お前の母親だ」
私は息を呑んだ。
父の言葉が脳裏によみがえる。
“二十五年前の冬、あの女はこの石を握っていた”――と。
「母は、何をしていたのです?」
「わからない。ただ、あの光のあと、氷の嵐が止んだ。
彼女が、それを止めたんだと皆が言っていた」
黎明鉱の欠片が、私の手の中で柔らかく光った。
まるで“真実を見つけよ”と告げているように。
「将軍。あなたは、母を呪いだと思っていましたか?」
「……そうだ。だが今は違う。
お前が、あの光を“再生”だと言ったとき……少し、救われた気がした」
砦の鐘が、夜を知らせるように鳴った。
私は立ち上がり、静かに言った。
「この鉱石が母の遺した希望だとしたら……次の二十五年を変えられるはずです」
セドリックは私を見つめたまま、わずかに息を吐く。
「……信じてみるか。お前の“再生”という言葉を」
その声音には、氷の底でわずかに溶け出した水の音のような、温かさがあった。
外では雪が止み、雲の切れ間から月が覗いていた。
黎明鉱が、その光を受けて淡く輝く。
私はそれを胸元に戻し、静かに誓った。
「必ず、この呪いを終わらせます。母が果たせなかった“25年目の再生”を」
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