《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃

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第5話 王都からの召命と、封印された真実

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 黎明鉱の光を見てから、もう十日が過ぎた。
 砦の空気は以前よりもやわらぎ、兵士たちの顔にもわずかな明るさが戻っていた。
 氷の砦――その名が、今では少しずつ“光の砦”と呼ばれ始めている。

 私とセドリックは、鉱石の性質を調べる日々を送っていた。
 黎明鉱を砕き、水に溶かすと、氷を融かすような微弱な熱を発する。
 それは、生命を育む熱――魔力の再循環。
 つまり、この鉱石は「世界の冷えた心臓を温める」力を持っているのだ。

「この石が十分に安定すれば、王国全土の魔導炉を再起動できる」
「……つまり、死んだ国を甦らせることができるということか」
「ええ。でも、今の王にそれを託す気はありません」
 私の言葉に、セドリックが片眉を上げる。
「また断罪されたいのか?」
「二度目は慣れました」

 彼がわずかに笑った気がした。
 ほんの一瞬。だが、その小さな変化に胸が熱くなった。

 そんな穏やかな空気を破るように、門番の叫びが響いた。
「――王都からの使者だ!」

 厚い扉が開かれ、雪の中から現れたのは、金と赤の紋章を掲げた使節団。
 先頭に立つ男の顔を見た瞬間、私は息を飲んだ。
 リオン・ヴァルディス――かつて私を断罪した王太子。
 いや、今は“摂政殿下”として国を統べる男だった。

「久しいな、リゼル」
 彼の声は甘く、しかしその裏に冷えた刃が潜んでいた。
「君がこの地で奇跡を起こしていると聞いた。王国のために、その力を貸してほしい」

 ――その言葉に、胸の奥で何かが軋んだ。
 二十五年前と同じだ。
 彼はまた、誰かの成果を“王の権威”で奪おうとしている。

「私はもう、王国の人間ではありません」
「それでも、民は飢えている。君の研究があれば救えるのだ!」
 リオンは一歩近づき、芝居がかった声で続ける。
「君の母上の名誉も、取り戻してやれるかもしれない」

 その瞬間、セドリックが前に出た。
「それ以上は言うな、殿下。リゼルはこの砦の者だ。お前の言葉に従う義理はない」
「……将軍、命令違反だぞ?」
「俺の命令系統に“王都”はもう存在しない」

 氷の砦に緊張が走る。
 雪を切り裂くような静寂の中、私は深く息を吸った。
「殿下。母が命を賭けて守ったものを、また同じ手で壊すつもりですか?」
 リオンの瞳が、一瞬だけ揺れた。
「……母君の最期を、君は知らないのだな」

「……?」
「彼女は“再生”ではなく、“封印”を試みたのだ。黒い光を閉じ込めるために、自らを犠牲にして」

 空気が変わった。
 暖炉の火が小さく爆ぜる音がやけに遠い。
 封印――?
 母は、再生を信じていたのではなかったのか?

 リオンは冷たい笑みを浮かべる。
「再生など幻想だ。力を封じねば、また同じ悲劇が起きる。だから君の研究も、王都で管理する」
 私の胸に、怒りよりも冷たい恐怖が広がる。
 母が何を思い、何を残したのか――私はまだ、何も知らないのだ。

「……行くな、リゼル」
 セドリックの低い声が、背中を支えるように響く。
 私は目を閉じ、静かに首を横に振った。
「行きます。真実を確かめるために」

 リオンの笑みが深まる。
「聡明な選択だ」

 セドリックの拳が鳴った。
「愚かな選択だ」

 外では再び雪が降り始めていた。
 その雪は、まるで“二十五年前”の再来を告げるように、静かに砦を覆っていく。

 私は胸元のペンダントを握りしめた。
 母の石が、かすかに熱を帯びる。
 ――封印か、再生か。
 答えは、王都の中心にある。
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