6 / 8
第6話 王国崩壊と“二十五年の環”
しおりを挟む
王都に近づくほど、空気は冷たく、光は弱くなっていった。
はじめは白かった雪が、やがて灰色に染まり、やせた木々が凍りついている。
人の気配は少なく、街道には焦げた荷車と、折れた魔導灯が散乱していた。
――まるで、国そのものが死にかけているようだった。
リオンの馬車に同乗しながら、私は言葉を発しなかった。
窓の外に広がる荒廃を見ているだけで、胸の奥が締めつけられる。
二十五年前と同じ光景。母が命を賭けて止めた“黒い光”が、再び目覚めようとしている。
「……あれを見ろ」
リオンが指差した先、王都の中心にある大魔導炉が、青白い閃光を放っていた。
空には、黒い靄のようなものがゆらめいている。
「再生の兆候だ」
「違います。これは……暴走です」
「同じことだ。君の母親が残した“再生装置”が動き始めたのだ」
私ははっと息を呑んだ。
「再生装置?」
リオンは馬車の中で、古びた巻物を取り出した。
それは、母の筆跡で書かれた設計図――中央魔導炉の地下に埋め込まれた“循環機構”の図だった。
「この国の魔力は、二十五年を周期にして枯渇と再生を繰り返す。
母君はそれを“自然の呼吸”と呼び、強制的に流れを止める装置を作った。
だが、その装置が限界を迎えたんだ」
私は目を見開いた。
封印ではなく、安定化装置――。
母は破壊ではなく“調律”を試みていたのだ。
「だから言ったろう?」
リオンの唇が冷たく歪む。
「彼女の研究は失敗だった。二十五年ごとに国は死にかける。
……だが、君の黎明鉱があれば、完全な再生を実現できる」
彼の目に、欲望の炎が宿っていた。
私は静かに首を振る。
「あなたの手に渡せば、また同じ過ちを繰り返すだけです」
「理想論だ。私はこの国を守る」
「いいえ。あなたは“王座”を守っているだけ」
沈黙が落ちた。
外で雷鳴のような音が響く。
窓の外――魔導炉の上空に、黒い裂け目が開いていた。
そこから吹き出す光が、夜のような影を地上に落としていく。
「……間に合わない」
私は立ち上がった。
「地下へ行かせてください」
「危険だ。君の母親も、そこで――」
「だから行くのです!」
言葉を残し、私は馬車を飛び出した。
黒煙と雪の混ざる空の下、王都の石畳がひび割れ、地面から冷気が吹き上がる。
まるで大地そのものが呻いているようだった。
魔導炉の前には、避難する民衆が群がり、混乱と悲鳴が渦を巻いていた。
私は地下への階段を駆け降りる。
暗闇の奥で、青い光が脈動している。
――そこにあったのは、巨大な魔力循環機構。
円形の炉心には無数の魔導管が絡みつき、中央に巨大な“鉱石の心臓”が埋め込まれている。
その表面には、二十五年前と同じ黒い模様――破壊の刻印。
「……お母様」
私は手を伸ばす。
指先に熱が伝わる。
その時、耳元で囁くような声がした。
――「もう一度、再生を」
母の声だ。
私は懐から黎明鉱の欠片を取り出し、炉心に押し当てた。
青い光と黒い光がぶつかり合い、世界が悲鳴を上げる。
視界が白に塗り潰され、全身を貫く激痛が走った。
――その瞬間。
遠くの空を駆け抜けてくる、馴染みのある魔力の気配を感じた。
鋭く、まっすぐで、氷のように冷たくて――それでも温かい。
「……セドリック?」
彼は、来ていた。
砦を離れ、吹雪を越え、この崩壊する王都へ。
地上では、青と黒の光がぶつかり、夜空を裂いていた。
――25年の輪が、いま再び閉じようとしている。
私は目を閉じ、母の声に応える。
「封印ではなく、再生を。
この国に、もう一度――夜明けを」
光が爆ぜた。
地下の空間が、真昼のように照らされる。
そして私は、光の中心で意識を失った。
はじめは白かった雪が、やがて灰色に染まり、やせた木々が凍りついている。
人の気配は少なく、街道には焦げた荷車と、折れた魔導灯が散乱していた。
――まるで、国そのものが死にかけているようだった。
リオンの馬車に同乗しながら、私は言葉を発しなかった。
窓の外に広がる荒廃を見ているだけで、胸の奥が締めつけられる。
二十五年前と同じ光景。母が命を賭けて止めた“黒い光”が、再び目覚めようとしている。
「……あれを見ろ」
リオンが指差した先、王都の中心にある大魔導炉が、青白い閃光を放っていた。
空には、黒い靄のようなものがゆらめいている。
「再生の兆候だ」
「違います。これは……暴走です」
「同じことだ。君の母親が残した“再生装置”が動き始めたのだ」
私ははっと息を呑んだ。
「再生装置?」
リオンは馬車の中で、古びた巻物を取り出した。
それは、母の筆跡で書かれた設計図――中央魔導炉の地下に埋め込まれた“循環機構”の図だった。
「この国の魔力は、二十五年を周期にして枯渇と再生を繰り返す。
母君はそれを“自然の呼吸”と呼び、強制的に流れを止める装置を作った。
だが、その装置が限界を迎えたんだ」
私は目を見開いた。
封印ではなく、安定化装置――。
母は破壊ではなく“調律”を試みていたのだ。
「だから言ったろう?」
リオンの唇が冷たく歪む。
「彼女の研究は失敗だった。二十五年ごとに国は死にかける。
……だが、君の黎明鉱があれば、完全な再生を実現できる」
彼の目に、欲望の炎が宿っていた。
私は静かに首を振る。
「あなたの手に渡せば、また同じ過ちを繰り返すだけです」
「理想論だ。私はこの国を守る」
「いいえ。あなたは“王座”を守っているだけ」
沈黙が落ちた。
外で雷鳴のような音が響く。
窓の外――魔導炉の上空に、黒い裂け目が開いていた。
そこから吹き出す光が、夜のような影を地上に落としていく。
「……間に合わない」
私は立ち上がった。
「地下へ行かせてください」
「危険だ。君の母親も、そこで――」
「だから行くのです!」
言葉を残し、私は馬車を飛び出した。
黒煙と雪の混ざる空の下、王都の石畳がひび割れ、地面から冷気が吹き上がる。
まるで大地そのものが呻いているようだった。
魔導炉の前には、避難する民衆が群がり、混乱と悲鳴が渦を巻いていた。
私は地下への階段を駆け降りる。
暗闇の奥で、青い光が脈動している。
――そこにあったのは、巨大な魔力循環機構。
円形の炉心には無数の魔導管が絡みつき、中央に巨大な“鉱石の心臓”が埋め込まれている。
その表面には、二十五年前と同じ黒い模様――破壊の刻印。
「……お母様」
私は手を伸ばす。
指先に熱が伝わる。
その時、耳元で囁くような声がした。
――「もう一度、再生を」
母の声だ。
私は懐から黎明鉱の欠片を取り出し、炉心に押し当てた。
青い光と黒い光がぶつかり合い、世界が悲鳴を上げる。
視界が白に塗り潰され、全身を貫く激痛が走った。
――その瞬間。
遠くの空を駆け抜けてくる、馴染みのある魔力の気配を感じた。
鋭く、まっすぐで、氷のように冷たくて――それでも温かい。
「……セドリック?」
彼は、来ていた。
砦を離れ、吹雪を越え、この崩壊する王都へ。
地上では、青と黒の光がぶつかり、夜空を裂いていた。
――25年の輪が、いま再び閉じようとしている。
私は目を閉じ、母の声に応える。
「封印ではなく、再生を。
この国に、もう一度――夜明けを」
光が爆ぜた。
地下の空間が、真昼のように照らされる。
そして私は、光の中心で意識を失った。
16
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
婚約破棄された伯爵令嬢は隣国の将軍に求婚され、前世の記憶を取り戻す
nacat
恋愛
婚約者である王太子に身に覚えのない罪を着せられ、婚約破棄された伯爵令嬢エリシア。
廷臣たちの嘲笑の中、隣国の若き将軍ライナルトが現れ、「ならば、俺が君を妻にしよう」と求婚する。
彼はただの救い手ではなかった。エリシアの“前世の記憶”と深く結びついた存在だったのだ——。
かつてすべてを失った令嬢が、今世では誰より強く、愛され、そしてざまぁを下す。
溺愛と逆転の物語、ここに開幕。
冷血公爵の契約花嫁、実は溺愛されていました〜氷の旦那様は、私にだけ甘すぎる〜
柴田はつみ
恋愛
「愛情は一切不要。これはあくまでも契約だ」
そのはずだった——。
没落寸前の伯爵家を救うため、冷血と恐れられるクロイツ公爵との契約結婚を受け入れた私、リーナ。
三年間だけ妻を演じれば、家族が救われる。
それだけのはずだった。
なのに。
悪役令嬢、婚約破棄されたので見返してみたら今さら溺愛されました
sika
恋愛
婚約者に裏切られ、婚約破棄された悪役令嬢リリアナ。
涙も枯れたそのとき、彼女は決意する。「もう誰にも侮られない」。
隣国で自立し、転生者の知識で成功を手にした彼女の前に、今さら後悔した元婚約者が現れる――。
これは、“ざまぁ”と“溺愛”が交差する、逆転恋愛ストーリー。
プライドを捨てた王子、傷ついても立ち上がる令嬢。
求め合う二人の行方は、赦しか、それとも別れか――。
悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました
ria_alphapolis
恋愛
私は、悪役令嬢なのかもしれない。
王子の婚約者としては少し我儘で、周囲からは気が強いと思われている――
そんな自分に気づいた日から、私は“断罪される未来”を恐れるようになった。
婚約者である年上の王子は、今日も変わらず優しい。
けれどその優しさが、義務なのか、同情なのか、私にはわからない。
距離を取ろうとする私と、何も言わずに見守る王子。
両思いなのに、想いはすれ違っていく。
けれど彼は知っている。
五歳下の婚約者が「我儘だ」と言われていた幼い頃から、
そのすべてが可愛くて仕方なかったことを。
――我儘でいい。
そう決めたのは、ずっと昔のことだった。
悪役令嬢だと勘違いしている少女と、
溺愛を隠し続ける年上王子の、すれ違い恋愛ファンタジー。
※溺愛保証/王子視点あり/幼少期エピソードあり
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました
ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!
フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!
※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』
……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。
彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。
しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!?
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる