《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃

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第7話 二十五年目の夜明け

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 音が――消えた。

 耳をつんざく轟音も、地鳴りも、魔導炉の唸りも。
 全てが、静寂の底へ沈みこんでいく。
 ただ、光だけが、私を包み込んでいた。

 身体が宙に浮いている。
 白い世界の中、遠くから声がする。
 ――リゼル。
 懐かしい声。あたたかい。
 それは、幼い日の夢の中で何度も聞いた声だった。

 “あなたが見る世界を、もう一度、光で満たしてほしい”

 母の声が、風のように通り抜ける。
 私はゆっくりと目を開けた。

 そこは、崩れかけた魔導炉の中心。
 炉心の光が暴走し、空間が歪んでいる。
 魔力の奔流が髪を舞い上げ、皮膚を焼くように熱い。

 ――なのに、私は生きていた。
 胸の奥に、黎明鉱の光が脈打っている。
 それが、母の意志とつながっているのだと、直感で分かった。

 階段の上から、足音が響いた。
 吹き飛ぶ瓦礫の間を、真っすぐに進む黒い影。
 その姿を見た瞬間、胸の奥で何かが弾けた。

「……セドリック!」

 彼は血にまみれながらも、まっすぐこちらに歩いてきた。
 その瞳は、氷のように冷たく、それでいて痛いほど優しい。
 息を荒げながら、彼は私の前に立つ。

「やっぱり……ここにいると思った」
「どうして来たの。砦を守るべきだったのに」
「お前がいない砦なんて、守る意味がない」

 それだけを言うと、彼は私の肩を掴み、腕の中に抱き寄せた。
 熱い。鼓動が伝わる。
 崩壊する大地の音が遠のいていくようだった。

「炉心が限界だ。もうすぐ崩壊する」
「分かってる。でも……まだ方法がある」

 私は黎明鉱を掲げ、セドリックの胸に手を当てた。
 「黎明鉱は、二つの力で完成するの。
  熱と、意志。再生の鍵は“二つの鼓動”なの」

「……まさか、俺とお前で?」
「ええ。だから――お願い。私を信じて」

 彼は短く息を吐いたあと、低く呟く。
「いつだって、信じてた」

 私たちは互いの手を取り、炉心の前に立った。
 光の奔流が荒れ狂い、世界が裂ける。
 その中で、私は最後の詠唱を口にした。

 ――「光よ、眠りの果てに種を蒔け。闇を越えて、朝を呼べ」

 黎明鉱が眩く輝き、私とセドリックの身体を包み込む。
 彼が腕を回し、私を強く抱きしめた。
 痛みも、恐怖も、もう何もなかった。

 ただ、ひとつの願いだけが胸にあった。

 ――今度こそ、終わりではなく始まりに。

 白い光が炸裂した。
 音も、色も、全てが溶けていく。

* * *

 どれほどの時間が経ったのだろう。
 まぶたの裏に、柔らかな光が差し込んだ。
 雪が解け、水が流れている。
 空は青く、空気が新しい。

 私はゆっくりと目を開けた。
 そこは、王都の丘の上――見渡す限りの花畑が広がっていた。
 崩壊したはずの魔導炉の跡地には、光を宿した大樹がそびえている。

 世界は、再生した。

 隣で寝転がるセドリックが、目を細めながら空を見上げている。
「……生きてるな」
「ええ。あなたも、少しだけ黒こげね」
「お前もな」

 互いに笑い合う。その笑いが、涙に変わった。
 二十五年続いた闇の輪が、いま静かに終わったのだ。

「リゼル」
「なに?」
「これからは、国を作ろう。お前が願った“再生の国”を」
「……そうね。今度は誰も飢えない国を」

 黎明鉱の欠片が、風に吹かれてきらりと光る。
 それはまるで、母が微笑んでいるようだった。
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