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31、天使のような女の子 健太Side

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「あっ、おい!鼻血出てるよ!?」

七海の驚いた表情と口に入ってきた鉄臭い液体で現状を把握した。

「うぇ!?まずい!!なに!?」

「こっちがなにだよ!」

まさか入学式の日に鼻血が出るなんて!

新品の制服が汚れてしまいそうで、とりあえず手のひらで受け皿を作る。

「七海ぃ」

いつもお母さんのように世話を焼いてくれる七海に涙目になってどうにかしてくれと頼むと、ふわっといい匂いが鼻をかすめた。

「え!?大丈夫ですか!?」

心地いい声が耳に響いて、あっ、と思った。





春先の冷たい水が鼻を冷やし続けているのに、鼻血はまだ止まらずに流れ続けている。

「うぇ....まだ止まんないじゃん」

止まったと思って水を止めるたびに出てくる鼻血に俺は呆れた。

そんなにこの子のそばに居たいのかこの鼻は、と。

「もうキリないですよ」

笑顔でティッシュを差し出す彼女は本当に可愛くて、受け取ろうと思っていたのに見惚れてしまった。

「あの...?」

いつまでも受け取られないティッシュを差し出して、きょとんと小首をかしげた。

全部の仕草が俺のドストライクで、心臓が高鳴る。

「あっ、そっか、手濡れてますもんね」

彼女はティッシュをちぎって丸めると、上半身を起こして顔を突き出し待ち構えている俺の鼻に優しく詰め込んだ。

「いやぁ、焦ったよ」

「出るだけ出した方がいいかと思ったんですけど、かえってたくさん出てしまいましたね」

申し訳なさそうにはにかむ彼女を見て、しまったと思った。

好きだ。ものすごく。好きになってしまった。

「あっ!そうだ、私用事があって!」

思い出したように手を打って腕時計を見た。

「え?今から?」

「早く来てしまったので、友達と朝ごはん食べに行くんです!」

じゃあ、と天使と見間違えるような笑顔で颯爽と去っていったその女の子の後ろ姿から目が離せなかった。

「かっわいかったなぁ」

無意識に口から出た言葉に、また顔がにやける。

「探したよ」

七海がいきなり現れて、俺は顔の緩みを少し緊張させた。

「あっ!置き去りにしちゃってごめん!すごいかわいい子いたからついてきちゃった!」

七海はデレデレの俺を鼻で笑うように「女の子なら誰でもいいんでしょ。モテたいから男子の少ない高校にしたくらいだし」と言い捨てた。

「いや!俺はもうあの子しかいないわ!同じクラスでありますように!アーメン!」

七海は小さい頃からずっと好きな子がいるから、安易に人を好きになる俺は軽薄に見えるらしい。

その子以外に好きになった子がいない七海に比べたら一途ではないかもしれないけど、今の俺にはあの子しかないと思った。

「絶対、彼女になってもらお!」





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