困ったことにあなたが好きみたい。

神木カロ

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44、苦いキス

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固まってしまって何も言えない私に、健太はキスをしようと顔を近づけた。

ふいっと背けた顔に手を添えられて健太の方に顔を無理やり向けると、ニコリと笑ってキスをした。

前よりずっと苦い味がした。

健太のことはやっぱり信じられない。

突き飛ばそうと腕をあげた時、ドアがガラッと音を立てて開いた。

「先生来るよ、帰らないと」

七海くんが澄ました顔でそう言って私をちらりと見た。

健太はそそくさと教室から出ると「先に下駄箱で待ってるから!すぐ来いよ!」とささやき声で言った。

おかしい。

こういうときは普通に一緒に行くものだし、自分以外の男の子と二人っきりになんてしないでしょう。

足の緊張が解けて、私は崩れ落ちるように座った。

「ちょ、先生来るって」

七海くんが慌てて私を机の影に隠すと、教室の前を先生らしき影が通っていく。

「信じたかったけど、無理だったよ」

じわっと視界がにじんで、床が歪んで見えた。

「キスなんてしてないって、してたのに。見てたもん私。そんな嘘つく人、信じられない」

「....それって思い込みじゃないの?」

七海くんがため息をついた。

「俺も見てたけど、キスしてなかったよ。確かに近かったけど。そう錯覚してるだけなんだと思う」

面倒くさそうに私を突き放して「みなちゃんって、被害妄想強い系女子?」と見下ろす。

頭が混乱して何も考えられたくなった。

そんなわけない、見えてたもの。

「七海くんこそ、錯覚じゃ....」

「はいはい、病んでるんだね、分かったよ」

完全に味方がいなくなったようだった。

唯一の証人で、味方だったのに。

「何でそんなこと言うの?本当に私が見間違えただけ?」

涙が溢れて止まらなくなる。

健太を信じることも自分を信じることもままならなくて、私は苦しかった。

七海くんの長い指先が頬に触れて涙が吸い取られる。

「触らないで、七海くんも信じられない。嫌い」

振り払う勇気は無かった。

涙を流す自分に同情でもなんでもいいから優しい言葉をかけてほしいと心のどこかで思っていたから。

「...みなちゃん、約束してくれる?」

苦しそうに七海くんは言った。

私をより一層苦しめたのは七海くんなのに、と口を固く閉じた。

なんの約束か分からないけど、絶対にしてあげない。

「俺の好きな人が健太に奪われないように協力するって約束して。健太と俺が友達になれなくなっても、みなちゃんが代わりに友達になってくれるってことも」

「なんの話?」

「そうしたら、全部話してあげる」

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