Lily connect

加藤 忍

文字の大きさ
13 / 32
夏休み 楓が家に

第十三話

しおりを挟む
「テスト終わったー!」

 テストを終えた金曜日、一緒に帰っていた楓が背伸びをしながら大きな声でいった。

 テストまでの一週間は土日以外を除いて一緒に勉強した。土日は私が一人で集中したいと言ったため、楓はしょんぼりしながら納得してくれた。

 それがあってか、テストはまあまあ出来た。確信の持てる回答が多い。

「終わったね」

 楓は背伸びをやめて一息吐いた。そして強い紫外線を放つ太陽に手で影を作りながら見上げる。

「夏休みだね」

 そう、テストが終わった今日から一週間後はもう夏休み。特にする予定はない。夏期講習に通うわけでも、どこかに旅行に行くわけでもない。家でゴロゴロするだけの日々が始まる。

「遥華は夏休み中暇?」

「予定はないけど」

「じゃあさ」

 楓は私の前に回りこんだ。体を少し前に傾ける。肩にかかった髪がふわりと浮く。後ろで両手に持った鞄が左右に揺れる。

「来週の日曜日に遊びに行っていい?」

「・・・いいけど、なにもないよ」

 私の部屋には本当になにもない。テレビとCDプレイヤーがあること以外は普通の部屋。ベッドがあって本棚があって・・・。本当になにもない。

「いいよ、遥華の部屋に行きたいだけだから」

「そうなんだ」

 家に来ることが決まると楓は嬉しそうに鼻歌を歌いながら進行方向を向いて歩き出した。本当に来たかったらしい。

 部屋に誰かを呼ぶのは小学校以来の気がする。中学は友達と一緒にいても誰かの家に行くことはなかった。一緒にショッピングしたり、遠出して遊園地に行ったり。

「部屋片付けよう」

 楓の鼻歌で聞こえないぐらいの小声で呟いた。


 土曜日の午前中、私は慌ただしく部屋の整頓をしていた。朝起きてからすぐに着替えてそのまま。まだ顔も洗ってないし、髪もボサボサ。

 整頓といっても散らかった本を本棚に直したり、統一感のない畳み方の服を一からたたんだり、クローゼットから普段は出していない小さいテーブルとクッションを出したり。

「ハル?ちょっとドタバタうるさいよ」

 急に声がしてそちらに振り向く。開いたドアの横にママが立っていた。私服姿にエプロン姿、髪は一つに束ねてポニーテールにしている。歳は・・・この歳の子を持つ親としては若いとだけ言っておこう。

「だって・・・」

「日頃から綺麗にしていればいいのに」

「めんどいもん」

 ママははぁ、とため息をついた。

「朝ごはん早く食べて、顔洗ってからしなさい。もう十時なんだから」

 時計を見ると十時を少し過ぎていた。休日ということで気持ちよく寝すぎたのが今の状況を作っている。もっと早く起きればよかった。

「わかった」

 私はおとなしく従った。部屋の片付けは後でいい。楓とは一時に駅に待ち合わせになっている。楓が家に来るのは初めてで道がわからないから。

 ママが下に降りてから、部屋の片付けを中断してリビングに向かった。

 リビングに着くと食器を洗っているママと目が合った。

「早く食べて。食器が洗えないから」

 テーブルには焼き色のついた食パンと目玉焼き、ベーコンが置かれていた。テーブルの中央には醤油と塩が置かれている。席についてラップのかかった目玉焼きから手をつけた。

 私は塩派なので軽く目玉焼きに振りかける。ママと今この場にいないパパは醤油派。だから朝に目玉焼きが出る時はテーブルに準備されている。

 自分の箸で目玉焼きを一口サイズに切ってから口に運ぶ。・・・うん、目玉焼きの味。それ以外だと困るけど。

 目玉焼きを口に含んだまま席を立って冷蔵庫に向かった。冷蔵庫を開けてバターを取ってから閉める。

 食器を洗い終わったママは手の水をタオルで拭いてから「洗濯物、洗濯物」と言いながらリビングを出て行った。リビングにはテレビに映るニュースキャスターの声と食パンのサクッという音だけが響いていた。

 朝食を食べ終え、食器を台所に置くと洗面所に向かった。

 洗面所に着くと歯ブラシに歯磨き粉をつけてから口に入れる。奥歯から磨いていくと泡が舌にあたって苦い味がする。昔はこの味がすごく苦手だったけど今は慣れた。昔といっても、もう数十年前になる。

 歯を一通り洗ってから口をそそぐ。口元を拭かずにそのまま顔を洗った。ここまでは苦ではない。大変なのはこれから。

 ボサボサの髪を櫛くしでとく。もちろんそれだけでは治らないのが私の髪。腰あたりまである髪をヘアアイロンを駆使して整える。長いからそろそろ切ろうかと思っている髪を真っ直ぐにしてからポニーテールにする。学校では下ろしていたが、もう夏、髪のせいで首元が蒸れるのが嫌なのだ。

 しばらくしてから使い終わった櫛やヘアアイロンを所定の場所に戻してから部屋の片付けを再開した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

処理中です...