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流された先にあったもの
流された先にあったもの
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「元日陰者へ
誰もあなたのことを認めていない。せいぜい無能をさらしお飾りの王妃の座を楽しめばよい
真実を知る者より」
女の子であれば一度は王子様と結婚してお姫様になることを夢みただろう。
そして大きくなるにつれその王子様が本物の王子様である必要はなく、自分にとって王子様であればよいと気付く。
運命のいたずらで本物の王子様と結婚し王妃になったミアだが、ミアにとっての王子様は前夫だった。
前夫とは政略結婚ではあったが幼い頃からそれなりに知った間柄で、婚約者として交流するなかお互い好意をもち恋人とよんでさしつかえのない関係になれた。ミアは前夫に恋をし愛した。
その愛する夫を病でうしない呆然とした。放心している間にすべてが終わり気がつくと実家に戻っていた。これからは夫のことだけを思いながら生きていきたい。それだけしか考えられなかった。
そのような自分の人生が誰も想像すらしなかった方向へ進むとは人生何が起こるか分からない。
王妃ミアは男爵令嬢として育ち、故アレン男爵と結婚、そして夫を病で亡くしたことから未亡人となった。
その後アーサー王太子の愛人になり、故グレイス王太子妃亡き後アーサーと再婚した。
そのためアーサーが国王となったことからミアは王妃となった。
故グレイス殿下の喪が明けてすぐに婚約となったこともあり、ミアがアーサーの初恋だったという筋書きを王家は用意した。
その話がどれほどの人を納得させられたのかは分からないが、王妃ミアをもちあげる人達からは「アーサー陛下の初恋の人」とよばれ、アーサー陛下は初恋をかなえ幸せになったと語られる。
しかし王妃ミアをよく思わない人達からは「成り上がり娼婦」と陰でよばれ、体でアーサー陛下を籠絡したといわれた。
ミアがアーサーの愛人であったことは厳重に隠され噂になったことはなかったが、ミアがアーサーと婚約した頃からどこからともなく知れわたるようになった。
「本当にすごいわよね。あなたは全てを手に入れたわ」
親しい人達にそのようにいわれるたびにミアは「上辺だけよ」といいたくなる。
しかし個人的な会話とはいえ、王妃という立場にいる者がうかつなことをいうわけにはいかない。ほほえみを浮かべやりすごす。
いまは貴族も愛人をもつことができない。配偶者以外との男女の交わりは国教の教えで罪とされる。
そのため愛人という存在は隠すべきもので、愛人は日陰者とよばれた。
過去において何度も風紀の乱れが正され、国教の教えを守ることを声高にいわれる時代がくるが、しばらくするとまたその教えが都合よくねじ曲げられるということが繰りかえされてきた。
いまは運悪く愛人が日陰者とよばれる時代だが、次の世代か、その次の世代には愛人の地位も変わっているだろう。
「私は愛人のままでよかったのよ」
ミアは自分を中傷する手紙を机の上に放り投げた。
おとぎ話を楽しんでいた子供の頃であれば、お姫様が王子様と結ばれてという空想を楽しめた。
しかし男爵令嬢という身分が社交界でどのような位置にあるのかや、身分がどのような意味をもつものかと自分のいる世界について知るようになると、王子様と結ばれたいなどと単純に思えなくなった。
自分の身分では王子様と結ばれることはない。それどころか王子様を遠くからしか見ることはできない。恋どころか話す機会も一生に一度あるかといったものだ。ミアにとって王子様はとても遠い存在だった。
ひょんなことから王太子であったアーサーと出会ったが、だからといってミアの人生が大きく変わるなど思いもしなかった。
たまたま知り合うきっかけがあったが儀礼的な会話をするのが関の山で、天変地異でもおこらなければ一夜のたわむれさえもないはずだった。
それがなぜか王太子の愛人となり、それだけでおわらず王妃にまでなってしまった。
アーサーがミアを妃にと望んだ時は、アーサーを喜ばせるために求婚をうけいれたが実現しないだろうと高を括っていた。
どのように考えてもミアとの婚姻は王家に何の利益もないどころか評判を落とす。国王陛下がミアとの結婚を許可すると思わなかった。
ミアは愛人でいられれば十分だった。何の責任もおう必要なく気ままに生きられることを楽しんでいた。
愛人としてこの国の次期国王が自分のことを望んでくれているという自己満足を味わえ、贅沢な生活を送れることに何の不満もない。
平凡でとくに何かしら誇れるようなものがあるわけでもない自分に愛を乞う王太子の姿は、自分が絶世の美女や誰もが自然にかしずく聖女のような錯覚をあたえてくれた。
隠すべき関係なためミアの自由は制限されたが、男爵令嬢や男爵夫人としての生活よりもはるかに良い暮らしを手にいれた。
愛人のままでいれば王太子妃のように責任ある仕事などせず自分のプライドが大いに満たされたままでいられる。
その生活を手放しつねに人から果たすべき役割を押しつけられ、何をしても批評されるような生活を誰がしたいと思うだろう。
アーサーがなぜミアを継妻として望んだのかは分からない。ミアは愛想がよいので社交は得意だ。しかしあくまでもその場を楽しくしたり、雰囲気をよくする程度のことがうまいだけだ。
社交を通して相手の真意をさぐったりといった能力などない。
人の役に立ちたいという気持ちはあるものの、グレイス殿下のように慈善活動に興味があるわけでもない。
下位貴族である男爵家の娘で男爵夫人でしかなかったミアに、王族にふさわしい品もなければ知識もない。
本来であれば王太子妃にふさわしい家格の令嬢が継妻になるはずだが、アーサーがよほど強引に推し進めたのだろう。
いつの間にかミアとの婚約がととのえられ、愛人のままでいられるはずという当てが外れた。
「実家に権力はなく、グレイスのようにお綺麗事をならべるタイプでもないから都合がよかったのよ」
婚約して早々にアーサーの姉からそのようにいわれ、調子にのらないようにと釘をさされた。
おかげでミアはなぜ結婚が許可されたのかが分かっただけでなく、自分はお飾りの王太子妃という役割を求められているのだと理解できた。
お飾りとはいえ表向きには王太子妃だ。王太子妃として望まれる役割をはたす必要があり、つねに人から行動を監視され、何をしても人から批評される生活となった。
「愛人のままでいたかったわ」
「女性として母上についで頂点に立つ君がそのようなことをいうとは」
アーサーがおかしそうに笑った。どうやら冗談と思われたようだ。
「身に余る地位についてしまった女の気持ちなど、あなたに分かるわけがなかったわよね」
わざとすねるとアーサーの笑みが深くなった。
「それでも私のために頑張ってくれるのだろう?」
「もちろんよ」
それ以外の答えなどミアにはない。相手が望むことを叶える。愛人としての基本だ。王太子妃や王妃と身分がかわってもアーサーの望むことを叶えることにかわりはない。
「いつの間にかとんでもない場所へたどり着いてしまったわね」自分のことだが他人事のように思える。
ミアのことをよく思わない人達は、ミアのことをしたたかで計算高い女だという。
しかしミアは自分が王妃になったのは、ミアの流されやすい性格のせいだと知っている。
生きていく上でいろいろと計算はするが、もし自分が他人がいうようにしたたかに計算できるタイプであれば、王太子妃や王妃という不自由な身分などねらわない。面倒のない身分で自分をただ甘やかせてくれる男を選ぶ。
なりたくもない王太子妃や王妃になるほどアーサーを愛しているのだろうか? ふとそのような問いがうかんだ。
――愛してはいる。
その言葉が反射的にうかんだ。うかんだ言葉に違和感をおぼえる。
愛しているではなく、愛してはいるだ。愛していると言い切ることができない気持ちが含まれている。
前夫には愛していると言い切ることができた。しかしアーサーに対し言い切ることができない何かがある。
それは何なのか。
ミアにとってアーサーは、いつの間にか一緒にいることになった人だった。
アーサーと出会った時にミアは前夫と婚約していたし、アーサーに「本物の王子様だ」といった物見高い気持ちしかなかった。
本物の王子様を珍獣のように観察していたせいか、アーサーに王太子だからと構えるよりも、思っていたよりも自分達とかわらないと緊張することなく接していた。
その一度だけだと思っていた巡り会いが、なぜかそれで終わらず何度か顔を合わせることになり、アーサーの話を聞いているうちに苦労することなどないだろうと思っていた王太子も、普通の人と同じで悩みもすれば愚痴もいうことを知った。
ミアはその当時まだ婚約者だった前夫との結婚を楽しみにしていた。政略結婚とはいえ恋人といえる間柄で、そのような相手と夫婦になれるのは幸運だった。
アーサーと出会って半年後に前夫と結婚し、婚家の家業のために遠隔地に引っ越したので、アーサーとは短い期間交流しただけだった。
アーサーともう会うこともないだろうと思っていたが、夫が亡くなり王都にある実家へ戻ったことからアーサーと再会した。
再会してもそれまで通り友人としての関係だった。ミアはアーサーと同い年で、若く可愛らしい女性と結婚したアーサーがまさか自分と愛人関係を望むなど考えもしなかった。
グレイス殿下が懐妊したというしらせで国中がわいていた時に、ミアは初めてアーサーと肌を重ねた。
アーサーに対し人として、男性として好意があったので愛人になった。アーサーに対する愛はたしかにある。
前夫にいだいたような恋愛感情をアーサーにもつことはなかったが、アーサーと過ごす時間はいつも穏やかで彼は大切な存在だ。
しかし――。
このことに関してつきつめて考えることが自分の利益になると思えない。ならば考える必要はないだろう。
アーサーがミアを隣におきたいと願った。だからそれを叶える。それがすべてだ。
この先どのような場所へ流れていこうと自分の隣にアーサーがいる。
ミアは机に放り投げた手紙を再び手にとると小さくなるまでやぶいた。
誰もあなたのことを認めていない。せいぜい無能をさらしお飾りの王妃の座を楽しめばよい
真実を知る者より」
女の子であれば一度は王子様と結婚してお姫様になることを夢みただろう。
そして大きくなるにつれその王子様が本物の王子様である必要はなく、自分にとって王子様であればよいと気付く。
運命のいたずらで本物の王子様と結婚し王妃になったミアだが、ミアにとっての王子様は前夫だった。
前夫とは政略結婚ではあったが幼い頃からそれなりに知った間柄で、婚約者として交流するなかお互い好意をもち恋人とよんでさしつかえのない関係になれた。ミアは前夫に恋をし愛した。
その愛する夫を病でうしない呆然とした。放心している間にすべてが終わり気がつくと実家に戻っていた。これからは夫のことだけを思いながら生きていきたい。それだけしか考えられなかった。
そのような自分の人生が誰も想像すらしなかった方向へ進むとは人生何が起こるか分からない。
王妃ミアは男爵令嬢として育ち、故アレン男爵と結婚、そして夫を病で亡くしたことから未亡人となった。
その後アーサー王太子の愛人になり、故グレイス王太子妃亡き後アーサーと再婚した。
そのためアーサーが国王となったことからミアは王妃となった。
故グレイス殿下の喪が明けてすぐに婚約となったこともあり、ミアがアーサーの初恋だったという筋書きを王家は用意した。
その話がどれほどの人を納得させられたのかは分からないが、王妃ミアをもちあげる人達からは「アーサー陛下の初恋の人」とよばれ、アーサー陛下は初恋をかなえ幸せになったと語られる。
しかし王妃ミアをよく思わない人達からは「成り上がり娼婦」と陰でよばれ、体でアーサー陛下を籠絡したといわれた。
ミアがアーサーの愛人であったことは厳重に隠され噂になったことはなかったが、ミアがアーサーと婚約した頃からどこからともなく知れわたるようになった。
「本当にすごいわよね。あなたは全てを手に入れたわ」
親しい人達にそのようにいわれるたびにミアは「上辺だけよ」といいたくなる。
しかし個人的な会話とはいえ、王妃という立場にいる者がうかつなことをいうわけにはいかない。ほほえみを浮かべやりすごす。
いまは貴族も愛人をもつことができない。配偶者以外との男女の交わりは国教の教えで罪とされる。
そのため愛人という存在は隠すべきもので、愛人は日陰者とよばれた。
過去において何度も風紀の乱れが正され、国教の教えを守ることを声高にいわれる時代がくるが、しばらくするとまたその教えが都合よくねじ曲げられるということが繰りかえされてきた。
いまは運悪く愛人が日陰者とよばれる時代だが、次の世代か、その次の世代には愛人の地位も変わっているだろう。
「私は愛人のままでよかったのよ」
ミアは自分を中傷する手紙を机の上に放り投げた。
おとぎ話を楽しんでいた子供の頃であれば、お姫様が王子様と結ばれてという空想を楽しめた。
しかし男爵令嬢という身分が社交界でどのような位置にあるのかや、身分がどのような意味をもつものかと自分のいる世界について知るようになると、王子様と結ばれたいなどと単純に思えなくなった。
自分の身分では王子様と結ばれることはない。それどころか王子様を遠くからしか見ることはできない。恋どころか話す機会も一生に一度あるかといったものだ。ミアにとって王子様はとても遠い存在だった。
ひょんなことから王太子であったアーサーと出会ったが、だからといってミアの人生が大きく変わるなど思いもしなかった。
たまたま知り合うきっかけがあったが儀礼的な会話をするのが関の山で、天変地異でもおこらなければ一夜のたわむれさえもないはずだった。
それがなぜか王太子の愛人となり、それだけでおわらず王妃にまでなってしまった。
アーサーがミアを妃にと望んだ時は、アーサーを喜ばせるために求婚をうけいれたが実現しないだろうと高を括っていた。
どのように考えてもミアとの婚姻は王家に何の利益もないどころか評判を落とす。国王陛下がミアとの結婚を許可すると思わなかった。
ミアは愛人でいられれば十分だった。何の責任もおう必要なく気ままに生きられることを楽しんでいた。
愛人としてこの国の次期国王が自分のことを望んでくれているという自己満足を味わえ、贅沢な生活を送れることに何の不満もない。
平凡でとくに何かしら誇れるようなものがあるわけでもない自分に愛を乞う王太子の姿は、自分が絶世の美女や誰もが自然にかしずく聖女のような錯覚をあたえてくれた。
隠すべき関係なためミアの自由は制限されたが、男爵令嬢や男爵夫人としての生活よりもはるかに良い暮らしを手にいれた。
愛人のままでいれば王太子妃のように責任ある仕事などせず自分のプライドが大いに満たされたままでいられる。
その生活を手放しつねに人から果たすべき役割を押しつけられ、何をしても批評されるような生活を誰がしたいと思うだろう。
アーサーがなぜミアを継妻として望んだのかは分からない。ミアは愛想がよいので社交は得意だ。しかしあくまでもその場を楽しくしたり、雰囲気をよくする程度のことがうまいだけだ。
社交を通して相手の真意をさぐったりといった能力などない。
人の役に立ちたいという気持ちはあるものの、グレイス殿下のように慈善活動に興味があるわけでもない。
下位貴族である男爵家の娘で男爵夫人でしかなかったミアに、王族にふさわしい品もなければ知識もない。
本来であれば王太子妃にふさわしい家格の令嬢が継妻になるはずだが、アーサーがよほど強引に推し進めたのだろう。
いつの間にかミアとの婚約がととのえられ、愛人のままでいられるはずという当てが外れた。
「実家に権力はなく、グレイスのようにお綺麗事をならべるタイプでもないから都合がよかったのよ」
婚約して早々にアーサーの姉からそのようにいわれ、調子にのらないようにと釘をさされた。
おかげでミアはなぜ結婚が許可されたのかが分かっただけでなく、自分はお飾りの王太子妃という役割を求められているのだと理解できた。
お飾りとはいえ表向きには王太子妃だ。王太子妃として望まれる役割をはたす必要があり、つねに人から行動を監視され、何をしても人から批評される生活となった。
「愛人のままでいたかったわ」
「女性として母上についで頂点に立つ君がそのようなことをいうとは」
アーサーがおかしそうに笑った。どうやら冗談と思われたようだ。
「身に余る地位についてしまった女の気持ちなど、あなたに分かるわけがなかったわよね」
わざとすねるとアーサーの笑みが深くなった。
「それでも私のために頑張ってくれるのだろう?」
「もちろんよ」
それ以外の答えなどミアにはない。相手が望むことを叶える。愛人としての基本だ。王太子妃や王妃と身分がかわってもアーサーの望むことを叶えることにかわりはない。
「いつの間にかとんでもない場所へたどり着いてしまったわね」自分のことだが他人事のように思える。
ミアのことをよく思わない人達は、ミアのことをしたたかで計算高い女だという。
しかしミアは自分が王妃になったのは、ミアの流されやすい性格のせいだと知っている。
生きていく上でいろいろと計算はするが、もし自分が他人がいうようにしたたかに計算できるタイプであれば、王太子妃や王妃という不自由な身分などねらわない。面倒のない身分で自分をただ甘やかせてくれる男を選ぶ。
なりたくもない王太子妃や王妃になるほどアーサーを愛しているのだろうか? ふとそのような問いがうかんだ。
――愛してはいる。
その言葉が反射的にうかんだ。うかんだ言葉に違和感をおぼえる。
愛しているではなく、愛してはいるだ。愛していると言い切ることができない気持ちが含まれている。
前夫には愛していると言い切ることができた。しかしアーサーに対し言い切ることができない何かがある。
それは何なのか。
ミアにとってアーサーは、いつの間にか一緒にいることになった人だった。
アーサーと出会った時にミアは前夫と婚約していたし、アーサーに「本物の王子様だ」といった物見高い気持ちしかなかった。
本物の王子様を珍獣のように観察していたせいか、アーサーに王太子だからと構えるよりも、思っていたよりも自分達とかわらないと緊張することなく接していた。
その一度だけだと思っていた巡り会いが、なぜかそれで終わらず何度か顔を合わせることになり、アーサーの話を聞いているうちに苦労することなどないだろうと思っていた王太子も、普通の人と同じで悩みもすれば愚痴もいうことを知った。
ミアはその当時まだ婚約者だった前夫との結婚を楽しみにしていた。政略結婚とはいえ恋人といえる間柄で、そのような相手と夫婦になれるのは幸運だった。
アーサーと出会って半年後に前夫と結婚し、婚家の家業のために遠隔地に引っ越したので、アーサーとは短い期間交流しただけだった。
アーサーともう会うこともないだろうと思っていたが、夫が亡くなり王都にある実家へ戻ったことからアーサーと再会した。
再会してもそれまで通り友人としての関係だった。ミアはアーサーと同い年で、若く可愛らしい女性と結婚したアーサーがまさか自分と愛人関係を望むなど考えもしなかった。
グレイス殿下が懐妊したというしらせで国中がわいていた時に、ミアは初めてアーサーと肌を重ねた。
アーサーに対し人として、男性として好意があったので愛人になった。アーサーに対する愛はたしかにある。
前夫にいだいたような恋愛感情をアーサーにもつことはなかったが、アーサーと過ごす時間はいつも穏やかで彼は大切な存在だ。
しかし――。
このことに関してつきつめて考えることが自分の利益になると思えない。ならば考える必要はないだろう。
アーサーがミアを隣におきたいと願った。だからそれを叶える。それがすべてだ。
この先どのような場所へ流れていこうと自分の隣にアーサーがいる。
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