暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj

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許婚と結婚して本当に幸せになれるのか

はっきりさせる

 クロードは消防士になってから何度か命の危険をかんじたことがある。

 それは危険と隣りあわせの職業についているという意識をあらたにさせ、火の怖さを思い出させた。

 火は人の生活を、人生を一瞬にしてかえる。

 火に焼き尽くされすべてを失った人が、火から助かったにもかかわらず、火で失ったものを追うように死をえらぶことがある。

 火の怖さを誰よりも理解している消防士であっても、油断がうまれたり、避けようのない状況におちいり怪我をしたり命をおとすことがあった。

 クロードが所属している消防署ではさいわい死亡した消防士はこれまでいなかった。

 しかしクロードが入署した年に先輩の消防士が全身にやけどをおい退署している。

 今回の大火でも何人かひどいやけどで入院したと聞いた。やけどや怪我をしたのが自分であってもおかしくなかった。

 火の熱でもうろうとしたことは初めてだった。話には聞いていたが本当に自分でも気付かないうちに周りの音が聞こえなくなり、考えているようで何も考えられなくなっていた。

 あらためて自分が思う以上に火は厄介なものなのだと痛感する。

 クロードは自分が職務中に死ぬ可能性があることをつよく意識した。

 人はいつか必ず死ぬ。自分がいつ死んでもおかしくないからこそ、いろいろなことをきちんと考えなければと思った。





 大火が鎮火し、家にもどった時に自分の家族だけでなく、ステラの家族も涙をながしてクロードの無事をよろこんでくれた。

 誰もが真っ黒によごれたクロードの姿にかまわずきつく抱きしめ何度も顔にキスをした。

 ステラに抱きしめられた時にクロードはステラが泣いているのをみて、鼻が赤くなってるとからかいたくなった。

 大切な家族に囲まれ、自分が無事に生きて帰ってこられたことを実感した。

 安心したせいで疲れが一気に体にきたため、体を洗ってから寝るつもりだったが、着替えて顔や手をさっときれいにしただけで寝てしまった。

 目が覚めて「ああ、生きてる」しみじみと思った。そしていつもの日常が戻ったことに感謝した。

 寝台から起き上がろうとすると痛みがはしった。体中が筋肉痛や打撲で痛むだけでなく、目や喉にも痛みと違和感があった。

「生きてるからこそ感じる痛みだよな」

 クロードは体を動かすたびに痛みがはしる体に文句をいいながら水をのもうとキッチンへむかった。

 テーブルの上にステラが書いたメッセージと食事がおかれていた。

 クロードの母はディアス語を話せるが、読み書きは最低限しかできないのでいつも自分達やステラに代筆をたのんだ。

 メッセージを読みながらジルの姿をまぶたにうかべた。

 ジルはわざわざクロードに会いにきてくれた。それだけでなくクロードのために食事を用意してくれていた。

 残念ながらジルがつくったサンドイッチは家族に食べられてしまい、肉がふんだんにつかわれおいしかったという感想がメッセージに書かれていた。

「なんで死ぬような思いをしてがんばった俺じゃなくて、お前らがスターン精肉のおいしい肉を味わってるんだよ」

 声をだして家族をののしったあと、クロードは食事をしながら大火によってもたらされたさまざまな思いについて考えた。

 そして後回しにしていたことをはっきりさせなければと覚悟をきめた。

 ――いつ死ぬかわからない。

 そのことを痛感したいま、クロードはジルへの気持ちをごまかしたくないと思った。 

 鎮火し消火活動の任をとかれ緊張がほぐれた時に、まっさきに「母さん、やったよ」と母の顔がうかび、父や弟、そしてステラの姿が頭の中にうかんだ。

 そしてそのあとジルの姿がうかんだ。

 もうこれ以上自分をだますことはできない。

 ステラという許婚がいるから、自分とは縁のないお嬢様だからとジルのことを考えないようにしていたが、クロードはジルにひかれていた。

 物心ついた時からステラがいつも自分のそばにいて、許婚として将来ステラが妻になることを当たり前として育ち、ステラを一生守っていくのだと思っていた。

 ステラ一人を好きでいる、一生愛するということに疑問をもったことはなかった。

「ステラを守るどころか、俺はステラを傷つけることしかしてなかったんだよな」

 クロードがノルン式にこだわることでステラの気持ちをないがしろにしただけでなく、ステラが女の子達からののしられることになってしまった。

 弟にステラが他の男と唇にキスをする挨拶をしてる姿を思いうかべてみろといわれてから、時々そのことを思い出しては「ありえない」と叫びたくなった。

「兄さん、べつに結婚しなくてもステラを守ることはできるよ。俺たち親戚のようなものだし、生きてるかぎりステラを守って助けていくだろう?

 ステラの幸せのために婚約解消しろよ。ステラがそれを望んでるんだ。

 これまでさんざんステラの気持ちをないがしろにしてきたんだから、一度ぐらいちゃんとステラの気持ちを大切にしてやれよ」

 ステラの幸せは妻として自分の隣にいることだと思ってきた。それだけに弟のいうことに納得がいかなかった。

 ステラは感情的になっているだけだ。クロード以外にステラを守れる奴はいない。二人で幸せになれるはずだ。

 しかし―― ステラがないがしろにされつづけることに疲れたといった時のクロードを突き放すような視線を思い出すと、ステラは自分の隣にいても幸せでなかったのではという考えがじわじわと頭の中でひろがっていく。

 それでもずっと自分の隣にいたステラとの関係が切れてしまうということは受け入れられなかった。

 ふいに「もう捨てられてるよ」弟の言葉がよみがえった。

 クロードがどのように考えようとステラはすでにクロードに見切りをつけているのだろう。

 自分のことを一生愛してくれるはずのステラが自分を捨てるはずはない。それを認めたくなかった。

 ステラの幸せのために。そして自分のために。

 許婚という関係をおわらせる。

 クロードはこみあげる不安や恐怖、捨てられたという悲しみ、現状をうけいれたくないという気持ちや、ステラを失いたくないという思いで気が狂いそうだった。

 ステラが許婚ではなくなる。

 そのような日がくるなど思ってもみなかった。

 クロードは叫びだしたくなる気持ちをおさえながら、「ステラの幸せのためだ」必死に自分へ言いきかせた。
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