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第一章 『私のまほう使い』
⑱ 『無尽蔵(むじんぞう)の力』
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あまりにも圧倒的な差だった。
アゼルが勝つことを信じ、そうなることを神様にもお願いしていた私も、ここまでセリーナとアゼルの魔法に差があるなんって分からなかった。
でも、その事を喜ぶ気持ちには何故かなれない。それは、今のアゼルが、私の普段知っているアゼルとはぜんぜん違うせいだ。
(アゼル……)
セリーナが動かなくなったのを確認し、アゼルは視線を次は領主様に移す。相変わらず、冷たい眼差しを変えないで。
「そこの人。降参するのならここまでにするよ。ただ、一度でもボクや子どもたちに魔法を放ったら、それ以降は一切手加減をしない」
「ほう。若造がつけあがるじゃあないか」
アゼルの強さを見たはずなのに、領主様はニヤリと笑い、歩いてアゼルに近づく。
そして、領主様は右手を前に突き出したかと思うと、その手から太陽の光のような眩しい光が放たれた。
まさかこんなことになるとは想像もできなかった私は、あまりの眩しさに目を閉じてその場に膝をついてしまう。
それは、私だけではなかったようで、女の子の小さな悲鳴や、それをかき消すようなポールの大きな悲鳴も聞こえてきた。
アゼルの悲鳴は聞こえなかった。だから、アゼルは大丈夫だと思いたい。
でも、私が何とか周りが見えるようになるまでには、少し時間がかかった。
「……えっ……」
そして、ようやく目がもとに戻った私が見たのは、アゼルと、何故か体が、髪が、服までもが銀色一色になっている領主様の姿だった。
◇
訳がわからない。
なんで、領主様が銀色になっているのだろう?
そして、私はそこで違和感を覚えた。
さっきまでと、あの眩しい光に目をやられる前と明らかに違う点がある事に気がついたから。
それは、アゼルに一方的にやられて、動かなくなったはずのセリーナの姿が何処にもないことだった。
「ふっ、ふふふふふっ。はははっ、あははははははっ! よし、成功だ。力が溢れて来おるぞ。生贄が子どもではなくても、優れた魔法使いならば、<マジックガイザー>との融合の材料にはなるのではと思っておったが、ここまで上手くいくとはな」
領主様が嬉しそうに口にしたその言葉に、私は察してしまった。セリーナがどうなったのかを。
そう。きっと、セリーナは私達の代わりに……。
「見よ、この力を!」
銀色になった領主様は、地面に右の手のひらを向けた。すると、突然、地面が大きくゆれ始める。大きな地震が起こり始める。
私達は立っていられなくて、揺れる地面に四つん這いになるのが精一杯だった。けれど、アゼルは一人、何事もないかのように立っている。
いや、少し違う。アゼルは立っているんじゃあない。浮かんでいるんだ。ほんの少しだけれど、地面から足が離れているみたい。
「……あの女の人は、あなたの仲間じゃあなかったのかな?」
アゼルは低い声で、領主様に尋ねる。
「ふん! あいつはわしの部下。つまりはワシの道具だ。それならば、私の役に立つことこそあいつの喜びだ。<マジックガイザー>と同化して、ワシの力の一部になれたことを喜んでおるだろうさ」
アゼルが浮かんでいることが分かったのか、領主様はそう言って、地震を止めた。
私はそのおかげで何とか立ち上がることが出来た。
「酷い! 酷すぎるわよ、そんなの!」
私は銀色領主様に文句を言う。
それが危険な事なのは分かっていたけれど、我慢できなかった!
確かに、私はあのセリーナという魔法使いが好きではなかった。ポールのお母さんへの薬をちらつかせて、ポールに私をさらわせたのもあの女の人だったし。
でも、こんなことってない!
仲間だと思っていた人に裏切られて、生贄とかいうものに勝手にされちゃうなんて可愛そうだ!
「なんで、こんなことが平気でできるのよ! この極悪人! 人でなし!」
私は思いっきり文句を言ってやる。
「やかましい! <マジックガイザー>の力が手に入った以上、貴様らガキどもも用済みだ! 待っていろ。すぐにこの赤髪の小僧を殺して、お前たちも……」
銀色領主様の言葉は最後まで続かなかった。
それは、短く風が吹く音がしたかと思うと、銀色領主様の肩の部分と体が二つに斬り裂かれたからだった。
そして、そんな事ができるのは、ここには一人しか居ない。
「……その子には、手を出させないよ……」
アゼルがそう言うと、風が吹く音が連続で起こる。そしてその度に、銀色領主様の体が斬り裂かれていく。
もちろん、普通の体だったら血が出るし、動けなくなってしまうはずなんだけれど、銀色になった体は、僅かに光を漏らすだけで、傷があっという間に治って体がくっつくみたいだった。
……正直、気持ち悪い。
「これでも喰らえ!」
銀色領主様が、バチバチと音を立てる、丸い玉をいくつも周りに作り始めた。そして、それをアゼルに向かって発射する。
けれどアゼルも同じ様に丸い玉を作ってそれをぶつけ合わせることで、それを無効化する。
セリーナと戦っているときは、アゼルは相手の魔法を一方的に消していたけれど、今はそれが出来ないみたいで、いくつもの魔法を銀色領主様が放つたびに、アゼルは全く同じ魔法を使うことで対抗し続けている。
「ふん。持久戦狙いか。確かにお前の魔法はたいしたものだが、所詮は人間一人の力! この大地に眠る大いなる力は無尽蔵。その規模が、大きさが違うわ!」
銀色領主様の魔法は途切れることを知らず、ずっとアゼルに襲いかかる。アゼルはそれを消し続ける。
でも、魔法というのは、ものすごく疲れることを私は知っている。だから、この戦いはそれほど長くは続かないと思った。
そして、その私の予想どおりの結果になった。
片方の魔法の力が切れたのだ。
そして、そこからは一方的なことになった。
でも、予想と違ったのは、先に魔法の力を切らしたのは、アゼルではなく、銀色領主様の方だったということだった。
アゼルが勝つことを信じ、そうなることを神様にもお願いしていた私も、ここまでセリーナとアゼルの魔法に差があるなんって分からなかった。
でも、その事を喜ぶ気持ちには何故かなれない。それは、今のアゼルが、私の普段知っているアゼルとはぜんぜん違うせいだ。
(アゼル……)
セリーナが動かなくなったのを確認し、アゼルは視線を次は領主様に移す。相変わらず、冷たい眼差しを変えないで。
「そこの人。降参するのならここまでにするよ。ただ、一度でもボクや子どもたちに魔法を放ったら、それ以降は一切手加減をしない」
「ほう。若造がつけあがるじゃあないか」
アゼルの強さを見たはずなのに、領主様はニヤリと笑い、歩いてアゼルに近づく。
そして、領主様は右手を前に突き出したかと思うと、その手から太陽の光のような眩しい光が放たれた。
まさかこんなことになるとは想像もできなかった私は、あまりの眩しさに目を閉じてその場に膝をついてしまう。
それは、私だけではなかったようで、女の子の小さな悲鳴や、それをかき消すようなポールの大きな悲鳴も聞こえてきた。
アゼルの悲鳴は聞こえなかった。だから、アゼルは大丈夫だと思いたい。
でも、私が何とか周りが見えるようになるまでには、少し時間がかかった。
「……えっ……」
そして、ようやく目がもとに戻った私が見たのは、アゼルと、何故か体が、髪が、服までもが銀色一色になっている領主様の姿だった。
◇
訳がわからない。
なんで、領主様が銀色になっているのだろう?
そして、私はそこで違和感を覚えた。
さっきまでと、あの眩しい光に目をやられる前と明らかに違う点がある事に気がついたから。
それは、アゼルに一方的にやられて、動かなくなったはずのセリーナの姿が何処にもないことだった。
「ふっ、ふふふふふっ。はははっ、あははははははっ! よし、成功だ。力が溢れて来おるぞ。生贄が子どもではなくても、優れた魔法使いならば、<マジックガイザー>との融合の材料にはなるのではと思っておったが、ここまで上手くいくとはな」
領主様が嬉しそうに口にしたその言葉に、私は察してしまった。セリーナがどうなったのかを。
そう。きっと、セリーナは私達の代わりに……。
「見よ、この力を!」
銀色になった領主様は、地面に右の手のひらを向けた。すると、突然、地面が大きくゆれ始める。大きな地震が起こり始める。
私達は立っていられなくて、揺れる地面に四つん這いになるのが精一杯だった。けれど、アゼルは一人、何事もないかのように立っている。
いや、少し違う。アゼルは立っているんじゃあない。浮かんでいるんだ。ほんの少しだけれど、地面から足が離れているみたい。
「……あの女の人は、あなたの仲間じゃあなかったのかな?」
アゼルは低い声で、領主様に尋ねる。
「ふん! あいつはわしの部下。つまりはワシの道具だ。それならば、私の役に立つことこそあいつの喜びだ。<マジックガイザー>と同化して、ワシの力の一部になれたことを喜んでおるだろうさ」
アゼルが浮かんでいることが分かったのか、領主様はそう言って、地震を止めた。
私はそのおかげで何とか立ち上がることが出来た。
「酷い! 酷すぎるわよ、そんなの!」
私は銀色領主様に文句を言う。
それが危険な事なのは分かっていたけれど、我慢できなかった!
確かに、私はあのセリーナという魔法使いが好きではなかった。ポールのお母さんへの薬をちらつかせて、ポールに私をさらわせたのもあの女の人だったし。
でも、こんなことってない!
仲間だと思っていた人に裏切られて、生贄とかいうものに勝手にされちゃうなんて可愛そうだ!
「なんで、こんなことが平気でできるのよ! この極悪人! 人でなし!」
私は思いっきり文句を言ってやる。
「やかましい! <マジックガイザー>の力が手に入った以上、貴様らガキどもも用済みだ! 待っていろ。すぐにこの赤髪の小僧を殺して、お前たちも……」
銀色領主様の言葉は最後まで続かなかった。
それは、短く風が吹く音がしたかと思うと、銀色領主様の肩の部分と体が二つに斬り裂かれたからだった。
そして、そんな事ができるのは、ここには一人しか居ない。
「……その子には、手を出させないよ……」
アゼルがそう言うと、風が吹く音が連続で起こる。そしてその度に、銀色領主様の体が斬り裂かれていく。
もちろん、普通の体だったら血が出るし、動けなくなってしまうはずなんだけれど、銀色になった体は、僅かに光を漏らすだけで、傷があっという間に治って体がくっつくみたいだった。
……正直、気持ち悪い。
「これでも喰らえ!」
銀色領主様が、バチバチと音を立てる、丸い玉をいくつも周りに作り始めた。そして、それをアゼルに向かって発射する。
けれどアゼルも同じ様に丸い玉を作ってそれをぶつけ合わせることで、それを無効化する。
セリーナと戦っているときは、アゼルは相手の魔法を一方的に消していたけれど、今はそれが出来ないみたいで、いくつもの魔法を銀色領主様が放つたびに、アゼルは全く同じ魔法を使うことで対抗し続けている。
「ふん。持久戦狙いか。確かにお前の魔法はたいしたものだが、所詮は人間一人の力! この大地に眠る大いなる力は無尽蔵。その規模が、大きさが違うわ!」
銀色領主様の魔法は途切れることを知らず、ずっとアゼルに襲いかかる。アゼルはそれを消し続ける。
でも、魔法というのは、ものすごく疲れることを私は知っている。だから、この戦いはそれほど長くは続かないと思った。
そして、その私の予想どおりの結果になった。
片方の魔法の力が切れたのだ。
そして、そこからは一方的なことになった。
でも、予想と違ったのは、先に魔法の力を切らしたのは、アゼルではなく、銀色領主様の方だったということだった。
応援ありがとうございます!
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