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第二章 その出会いに、名をつけるのならば
⑩ 『限界』
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あっという間に体力が奪われていく。
単純に往路とは異なり長距離を歩いていることもあるが、それ以上に、いつどこから矢が飛んでくるのか分からない恐怖が精神を蝕み、それが疲労となってのしかかって来る。
さらに、いくら森の中が涼しいとは言っても、強い日差しと気温が、疲れに拍車をかける。
「大丈夫か、メル? もう少し歩けば、美味い飲み水が湧いているところがある。そこまで頑張れるか?」
「はい。大丈夫です」
もう身体は悲鳴を上げていたが、メルエーナは先頭を歩く父に笑みを向ける。
大怪我が治ったばかりなのに先頭を務める父や、ずっと辺りを警戒しながら殿を務めてくれているジェノ。そして、自分のすぐ前を歩いて頻繁に励ましてくれるイルリアに、これ以上迷惑はかけられない。
途中に小休止を何度か挟んだが、メルエーナ達は本来ならばもう村にたどり着いているはずの距離以上を歩いている。だが、これでも行程の三分の二にも満たない。
この道が廃れた理由は、単純にこの長さにあるのだ。
それでも、コーリスの言う湧き水やキノコや山菜の隠れた群生地があるということで、少人数だがこの道を利用している村人がおり、人の手が入っている。それがなければ、とても歩けたものではなかっただろう。
メルエーナ達は懸命に歩き続けて、どうにか目の前に小さな人工物を見つけた。小屋とも呼べない小さな屋根は、湧き水に葉っぱ等が入らないようにと、リムロ村の人間が建てたものだ。
「メル、もう少しだから……」
「はい……」
息も絶え絶えながらも、メルエーナは懸命に歩き、目的の場所までたどり着いた。
「うん、お疲れ様。頑張ったわね」
手を引いてくれていたイルリアが微笑み、すぐに敷物を敷いてくれた。
メルエーナは無言で、そこに倒れ込むように座る。
「メル、よく頑張った」
周りを警戒していたコーリスが、メルエーナに駆け寄ってくる。
メルエーナは父に笑顔を向ける。それが精一杯の返答だった。
今はもう口を動かすのも辛い。
父はまだ体力に余裕がありそうだが、申し訳ないが自分はもう歩けそうにない。
「イルリア、どうだ?」
ジェノが、最後にやって来た。
汗こそかいているものの、彼は呼吸を乱しておらず、相変わらずの無表情だ。
「うん。大丈夫。この水は安全よ」
イルリアはまた薄い銀色の板を湧き水の前でかざし、そう断言する。きっと、また何かの魔法なのだろう。
「ジェノ、イルリア。今のはなんだ?」
初めてイルリアが魔法を使っているところを見たコーリスが、不思議そうに尋ねる。
「水に毒素が入っていないかを確認していました。万が一ですが、あの三人がここに先回りしている可能性もありますので」
イルリアは端的に答えると、荷物から木のコップを取り出して湧き水を汲む。そして、それを動けないでいるメルエーナに手渡してくれた。
「呼吸が落ち着いてからでいいから、ゆっくり飲んで」
イルリアはそう言って微笑む。
彼女も疲れているはずなのに。その優しい気遣いに、メルエーナはありがたくて涙が出そうだった。
「ジェノ。ここまで来れば、村までもうひと頑張りだが……」
「日も傾いてきました。これ以上進むのは危険だと思います」
きっと、ジェノ達と父だけであれば、まだ日が昇っているうちに村までたどり着けるのだろう。明らかに、自分が足を引っ張っていることをメルエーナは自覚している。
父は娘である自分を心配してくれている。そして、ジェノも自分のことを気遣ってくれていることがよく分かった。
二人共、決して、私のためだとは口にしないでいてくれるのだから。
メルエーナ達は水を飲んだり、敷物の上に腰を下ろしたりして休息をする。
ジェノは相変わらず立ったまま辺りを警戒し続けていたが。
「ジェノ、どうだ? あいつらからの襲撃はこれまで一度もない。撒いたと見ていいのだろうか?」
メルエーナたちから少し離れたところで、コーリスがジェノに尋ねる。
「……何とも言えません。我々には、ローグ達がどこにいるかを知る手段がありませんので。ただ、地図を確認していて気づいたことがあります」
ジェノはそう言うと、腰に帯びていた剣を静かに抜いて地面に何かを描き始める。
何を描いているのか気にならないわけではないが、今のメルエーナには腰を上げる力も残っていない。
「必要なことなら、あいつは後から説明するわ。私達はとにかく体力を回復させないと」
「はい」
メルエーナは何とか返事を返す。
そして呼吸を整え、イルリアが汲んでくれた水を口にする。
その水は甘く、歩き通しで水分を失った全身に染み込んでいくようだった。
「簡単な図ですが、ここが現在地です。そして、村がここ。そして、このまま進むと、往路とぶつかる部分があります。もしも、あいつらが待ち受けるのであれば、ここの可能性が高いのではないかと思います」
「……なるほどな。だが、奴らがこの道を知っているとは思えない。少し警戒し過ぎじゃあないか? それに、この場合、ここの……」
ジェノと父の会話で、地図を描いて二人でこれからのことを相談している事を理解したメルエーナは、イルリアに言われたようにそのまま座って体力回復を優先する。
「イルリア。すまんがこっちに来てくれ。お前にも相談をしておきたい」
ジェノが、そうイルリアに声を掛けた。
「もう、分かったわよ。ごめん、メル」
談笑していたイルリアは、そうメルエーナに詫びてジェノのもとに駆け寄っていく。
メルエーナは笑顔でそれを見送った。
情けないが、自分はまだ動けない。それに、これからのことを打ち合わせるのは大事なことだ。
メルエーナは只ぼんやりと、ジェノがまた何かを地面に描いてイルリアに説明するのを、見るとはなしに見ていたが、やがて三人の話が終わる頃には、彼女の体力も少しは回復してきていた。
そのため、野営の準備をするというジェノとイルリアに、なにか協力できることはないかと思ったのだが、二人と父にまだ休んでいるように言われてしまい、メルエーナは少し寂しい思いをするのだった。
単純に往路とは異なり長距離を歩いていることもあるが、それ以上に、いつどこから矢が飛んでくるのか分からない恐怖が精神を蝕み、それが疲労となってのしかかって来る。
さらに、いくら森の中が涼しいとは言っても、強い日差しと気温が、疲れに拍車をかける。
「大丈夫か、メル? もう少し歩けば、美味い飲み水が湧いているところがある。そこまで頑張れるか?」
「はい。大丈夫です」
もう身体は悲鳴を上げていたが、メルエーナは先頭を歩く父に笑みを向ける。
大怪我が治ったばかりなのに先頭を務める父や、ずっと辺りを警戒しながら殿を務めてくれているジェノ。そして、自分のすぐ前を歩いて頻繁に励ましてくれるイルリアに、これ以上迷惑はかけられない。
途中に小休止を何度か挟んだが、メルエーナ達は本来ならばもう村にたどり着いているはずの距離以上を歩いている。だが、これでも行程の三分の二にも満たない。
この道が廃れた理由は、単純にこの長さにあるのだ。
それでも、コーリスの言う湧き水やキノコや山菜の隠れた群生地があるということで、少人数だがこの道を利用している村人がおり、人の手が入っている。それがなければ、とても歩けたものではなかっただろう。
メルエーナ達は懸命に歩き続けて、どうにか目の前に小さな人工物を見つけた。小屋とも呼べない小さな屋根は、湧き水に葉っぱ等が入らないようにと、リムロ村の人間が建てたものだ。
「メル、もう少しだから……」
「はい……」
息も絶え絶えながらも、メルエーナは懸命に歩き、目的の場所までたどり着いた。
「うん、お疲れ様。頑張ったわね」
手を引いてくれていたイルリアが微笑み、すぐに敷物を敷いてくれた。
メルエーナは無言で、そこに倒れ込むように座る。
「メル、よく頑張った」
周りを警戒していたコーリスが、メルエーナに駆け寄ってくる。
メルエーナは父に笑顔を向ける。それが精一杯の返答だった。
今はもう口を動かすのも辛い。
父はまだ体力に余裕がありそうだが、申し訳ないが自分はもう歩けそうにない。
「イルリア、どうだ?」
ジェノが、最後にやって来た。
汗こそかいているものの、彼は呼吸を乱しておらず、相変わらずの無表情だ。
「うん。大丈夫。この水は安全よ」
イルリアはまた薄い銀色の板を湧き水の前でかざし、そう断言する。きっと、また何かの魔法なのだろう。
「ジェノ、イルリア。今のはなんだ?」
初めてイルリアが魔法を使っているところを見たコーリスが、不思議そうに尋ねる。
「水に毒素が入っていないかを確認していました。万が一ですが、あの三人がここに先回りしている可能性もありますので」
イルリアは端的に答えると、荷物から木のコップを取り出して湧き水を汲む。そして、それを動けないでいるメルエーナに手渡してくれた。
「呼吸が落ち着いてからでいいから、ゆっくり飲んで」
イルリアはそう言って微笑む。
彼女も疲れているはずなのに。その優しい気遣いに、メルエーナはありがたくて涙が出そうだった。
「ジェノ。ここまで来れば、村までもうひと頑張りだが……」
「日も傾いてきました。これ以上進むのは危険だと思います」
きっと、ジェノ達と父だけであれば、まだ日が昇っているうちに村までたどり着けるのだろう。明らかに、自分が足を引っ張っていることをメルエーナは自覚している。
父は娘である自分を心配してくれている。そして、ジェノも自分のことを気遣ってくれていることがよく分かった。
二人共、決して、私のためだとは口にしないでいてくれるのだから。
メルエーナ達は水を飲んだり、敷物の上に腰を下ろしたりして休息をする。
ジェノは相変わらず立ったまま辺りを警戒し続けていたが。
「ジェノ、どうだ? あいつらからの襲撃はこれまで一度もない。撒いたと見ていいのだろうか?」
メルエーナたちから少し離れたところで、コーリスがジェノに尋ねる。
「……何とも言えません。我々には、ローグ達がどこにいるかを知る手段がありませんので。ただ、地図を確認していて気づいたことがあります」
ジェノはそう言うと、腰に帯びていた剣を静かに抜いて地面に何かを描き始める。
何を描いているのか気にならないわけではないが、今のメルエーナには腰を上げる力も残っていない。
「必要なことなら、あいつは後から説明するわ。私達はとにかく体力を回復させないと」
「はい」
メルエーナは何とか返事を返す。
そして呼吸を整え、イルリアが汲んでくれた水を口にする。
その水は甘く、歩き通しで水分を失った全身に染み込んでいくようだった。
「簡単な図ですが、ここが現在地です。そして、村がここ。そして、このまま進むと、往路とぶつかる部分があります。もしも、あいつらが待ち受けるのであれば、ここの可能性が高いのではないかと思います」
「……なるほどな。だが、奴らがこの道を知っているとは思えない。少し警戒し過ぎじゃあないか? それに、この場合、ここの……」
ジェノと父の会話で、地図を描いて二人でこれからのことを相談している事を理解したメルエーナは、イルリアに言われたようにそのまま座って体力回復を優先する。
「イルリア。すまんがこっちに来てくれ。お前にも相談をしておきたい」
ジェノが、そうイルリアに声を掛けた。
「もう、分かったわよ。ごめん、メル」
談笑していたイルリアは、そうメルエーナに詫びてジェノのもとに駆け寄っていく。
メルエーナは笑顔でそれを見送った。
情けないが、自分はまだ動けない。それに、これからのことを打ち合わせるのは大事なことだ。
メルエーナは只ぼんやりと、ジェノがまた何かを地面に描いてイルリアに説明するのを、見るとはなしに見ていたが、やがて三人の話が終わる頃には、彼女の体力も少しは回復してきていた。
そのため、野営の準備をするというジェノとイルリアに、なにか協力できることはないかと思ったのだが、二人と父にまだ休んでいるように言われてしまい、メルエーナは少し寂しい思いをするのだった。
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