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第三章 誰がために、彼女は微笑んで
⑯ 『警告』
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食べやすい様に、飲み込みやすいようにと、食材に目立たぬように切れ込みを入れる。
バルネアさんに教わった隠し包丁。まだまだものにできているわけではないが、練習をしておいて本当に良かったとジェノは思う。
デザートにはいつものアーモンドゼリー。ただ、同じものばかりでは飽きが来てしまう。
しかし、今日は港町に立ち寄ったことで、新鮮な果物が入ってきた。
ジェノは金銭を支払い、それを少し分けてもらってそれでソースを作る。淡白な旨味のアーモンドゼリーには、間違いなく苺やキウイの酸味と甘みがあうはずだ。
あとは、今日のメインを何にするかだが……。
「あいかわらず、手が込んだことをしているねぇ、ジェノちゃん」
「リットか。どうした?」
他の料理人達が休憩している間に、ジェノはこうして船内の厨房を借りているのだが、まさかここにリットがやって来るとは思わなかった。
「いや、たいしたことではないぜ。ただ、はっきりしておいたほうがいいと思ったわけよ」
リットの答えは答えになっていない。
「意味が分からん。言いたいことがあるのならば、はっきり言え。俺も暇ではないんだ」
まだ、副菜を作っている途中だ。肝心のメイン皿が決まっていない。
せっかく新鮮な食材が手に入ったのだから、今日はそれを生かした料理を考えなければいけないのだ。無駄な時間はない。
「そうやって何事にも一生懸命に取り組むのは、ジェノちゃんの長所だねぇ。だが、今回は少々度が過ぎている。過保護だとでも言い換えれば分かるか?」
リットの言葉に、調理をしていたジェノの手が止まる。
「リット……」
「おいおい、ジェノちゃん。そうやって俺を睨む時点で、入れ込み過ぎているってことに気づけよ。いつものジェノちゃんなら、もう少し依頼人とは距離を取っていたはずだぜ」
リットはジェノの鋭い眼光を、まったく意に介さない。
「なぁ、ジェノちゃん。俺は言ったはずだぜ。あのサクリって娘はもう助からないって。それなのに、もしかして、噂の聖女様ならば救えるかもしれないとか考えていないよな?」
「…………」
リットのその問に、ジェノは答えを返すことができなかった。
「そんなことだろうと思ったぜ」
リットはそう言い、ジェノの側まで来ると、フルーツソース用にヘタを取っておいた苺を一つ取って口に運ぶ。
「まぁ、長い付き合いだから、サービスだ。もう一度断言しといてやるよ。俺でも、もうサクリちゃんを救うことはできない。
そして、件の聖女様は、噂の百倍くらいすごい魔法が使えたとしても、俺には及ばないんだぜ」
リットの実力を知らない者には、自意識過剰な言葉か、頭がおかしい発言にしか思えないだろう。だが、ジェノは目の前の男の言葉が真実であることを理解してしまっている。
「現実を見ろよ。その上で、サクリちゃんに優しくするのならば止めはしない。だが、今のジェノちゃんは、それから目をそらして、いい加減な慰めをしようとしているんだぜ」
リットはそう言って喉で笑う。
「とは言っても、別に、俺はどっちでもいいぜ。あの女がどんなふうに死のうが正直興味がない。俺は厚意で、ジェノちゃん達に合わせてやっているだけなんだからな」
「……それなら、何故わざわざ俺に、そのことを言いに来たんだ?」
ジェノの問に、リットは肩をすくめておどけたポーズを取る。
「なぁに。ただの気まぐれだよ。船の上での生活っていうのはいかんせん娯楽が少なくてさ。こうやって、ジェノちゃんでもからかわないと、退屈で仕方がないわけよ」
リットはもう一つ苺を取って口に運ぶと、踵を返して厨房を出ていこうとする。
ジェノは何も反論する言葉を持たなかった。
「さてさて。正義の味方はどうするのか、楽しみに見させてもらうぜ、ジェノちゃん」
リットは背を向けたまま、楽しそうにそう言い残し、厨房を去っていった。
「…………」
ジェノはしばらく無言で立ち尽くしていたが、やがて再び調理に取り掛かる。
そして、彼はずっと、リットに言われたことを考え続けた。
だが、何もいい考えは浮かばなかった。
もっとも、それは仕方がないことだろう。
これは、正解などない事柄なのだから。
バルネアさんに教わった隠し包丁。まだまだものにできているわけではないが、練習をしておいて本当に良かったとジェノは思う。
デザートにはいつものアーモンドゼリー。ただ、同じものばかりでは飽きが来てしまう。
しかし、今日は港町に立ち寄ったことで、新鮮な果物が入ってきた。
ジェノは金銭を支払い、それを少し分けてもらってそれでソースを作る。淡白な旨味のアーモンドゼリーには、間違いなく苺やキウイの酸味と甘みがあうはずだ。
あとは、今日のメインを何にするかだが……。
「あいかわらず、手が込んだことをしているねぇ、ジェノちゃん」
「リットか。どうした?」
他の料理人達が休憩している間に、ジェノはこうして船内の厨房を借りているのだが、まさかここにリットがやって来るとは思わなかった。
「いや、たいしたことではないぜ。ただ、はっきりしておいたほうがいいと思ったわけよ」
リットの答えは答えになっていない。
「意味が分からん。言いたいことがあるのならば、はっきり言え。俺も暇ではないんだ」
まだ、副菜を作っている途中だ。肝心のメイン皿が決まっていない。
せっかく新鮮な食材が手に入ったのだから、今日はそれを生かした料理を考えなければいけないのだ。無駄な時間はない。
「そうやって何事にも一生懸命に取り組むのは、ジェノちゃんの長所だねぇ。だが、今回は少々度が過ぎている。過保護だとでも言い換えれば分かるか?」
リットの言葉に、調理をしていたジェノの手が止まる。
「リット……」
「おいおい、ジェノちゃん。そうやって俺を睨む時点で、入れ込み過ぎているってことに気づけよ。いつものジェノちゃんなら、もう少し依頼人とは距離を取っていたはずだぜ」
リットはジェノの鋭い眼光を、まったく意に介さない。
「なぁ、ジェノちゃん。俺は言ったはずだぜ。あのサクリって娘はもう助からないって。それなのに、もしかして、噂の聖女様ならば救えるかもしれないとか考えていないよな?」
「…………」
リットのその問に、ジェノは答えを返すことができなかった。
「そんなことだろうと思ったぜ」
リットはそう言い、ジェノの側まで来ると、フルーツソース用にヘタを取っておいた苺を一つ取って口に運ぶ。
「まぁ、長い付き合いだから、サービスだ。もう一度断言しといてやるよ。俺でも、もうサクリちゃんを救うことはできない。
そして、件の聖女様は、噂の百倍くらいすごい魔法が使えたとしても、俺には及ばないんだぜ」
リットの実力を知らない者には、自意識過剰な言葉か、頭がおかしい発言にしか思えないだろう。だが、ジェノは目の前の男の言葉が真実であることを理解してしまっている。
「現実を見ろよ。その上で、サクリちゃんに優しくするのならば止めはしない。だが、今のジェノちゃんは、それから目をそらして、いい加減な慰めをしようとしているんだぜ」
リットはそう言って喉で笑う。
「とは言っても、別に、俺はどっちでもいいぜ。あの女がどんなふうに死のうが正直興味がない。俺は厚意で、ジェノちゃん達に合わせてやっているだけなんだからな」
「……それなら、何故わざわざ俺に、そのことを言いに来たんだ?」
ジェノの問に、リットは肩をすくめておどけたポーズを取る。
「なぁに。ただの気まぐれだよ。船の上での生活っていうのはいかんせん娯楽が少なくてさ。こうやって、ジェノちゃんでもからかわないと、退屈で仕方がないわけよ」
リットはもう一つ苺を取って口に運ぶと、踵を返して厨房を出ていこうとする。
ジェノは何も反論する言葉を持たなかった。
「さてさて。正義の味方はどうするのか、楽しみに見させてもらうぜ、ジェノちゃん」
リットは背を向けたまま、楽しそうにそう言い残し、厨房を去っていった。
「…………」
ジェノはしばらく無言で立ち尽くしていたが、やがて再び調理に取り掛かる。
そして、彼はずっと、リットに言われたことを考え続けた。
だが、何もいい考えは浮かばなかった。
もっとも、それは仕方がないことだろう。
これは、正解などない事柄なのだから。
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