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第四章 あの日憧れたあの人のように
⑲ 『仲直り』
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ジェノは上機嫌でいつもの広場にやって来た。
その理由は単純で、今日は武術と剣の修行が出来たからだ。
マリアを誘拐しようとしていた男達との戦いの後、大事を取って安静にするようにとリニアに言われていたのだ。だが、今日からそれが再開となり、修行ができなかった事で溜まっていた鬱憤が吹き飛んだ。上機嫌にもなるというものだ。
勉強も昼食の手伝いも終わらせ、三日ぶりに広場にやって来たジェノは、誰か仲のいい友達はいないだろうかと辺りを見渡す。
すると、ひときわ目立つ金髪の愛らしい少女が、涙ながらにこっちに向かって走ってくるのが見えた。
「ジェノ! ジェノ!」
「マリア、久しぶり」
ジェノが挨拶を口にしたが、マリアはそれに応えることなく、ジェノを力いっぱい抱きしめてくる。
「まっ、マリア! くっ、苦しいよ」
そんな抗議の声も、マリアの耳には入らないようで、彼女はジェノの名前を繰り返し続ける。
ジェノは仕方なく、マリアが落ち着くのを待つことにした。
そして、やがてマリアが名前を呼ぶのを止めて泣きじゃくり始めたので、ジェノはポンポンと優しく彼女の背中を叩く。
「あっ……」
マリアを宥めていると、酷くバツの悪そうな顔の少年二人がジェノ達に近づいてきた。
「ロディ……、カール……」
ジェノが彼らの名前を呼ぶと、二人は顔を俯ける。
「よかった。二人も無事だったんだね」
ロディもカールもまったく怪我をしているようには見えない。あの時は一瞬すれ違っただけだったので、もしかしてあの男達に殴られたりしていなかっただろうかと心配だったのだ。
「俺たちは、その、ジェノ……。お前が……」
「うん。お前が来るのを、その、待っていたんだ……」
ロディとカールは意を決したように、口を開き始める。だが、そんな彼らを……。
「ジェノ! ロディとカールのことなんてどうでもいいわ! 二人共、悪い人に捕まりそうになったら、私を置いて逃げたんだから!」
ジェノからようやく離れたマリアが、大声で二人を非難する。
状況から察するに、きっとロディとカールは、マリアに口を聞いて貰えていなかったに違いない。
マリアの非難に、ロディはきつく拳を握りしめ、カールにいたっては涙目になっている。
それを見て、ジェノは口を開く。
「ねぇ、ロディ、カール。実は僕は、あの時の状況がよく分かっていないんだ。辛いことかもしれないけれど、どうしてあんな事になったのかを教えてくれないかな?」
ジェノの言葉に、ロディとカールはお互いの顔を見合わせてから、ポツポツと語り始めた。
彼ら二人と、それに割り込んできたマリアの話をジェノは頭の中でまとめる。
リニアの後を追いかけた三人は、早々に彼女の姿を見失ってしまったらしい。
それでも、今更戻るのが癪だったロディが、「このまま奥まで行くぞ」と言い、怖くなって来たため帰ろうというマリアの言葉を聞かないで、カールと歩きだした。
そのためマリアも、二人を置いていくわけにも行かず、彼らと一緒に路地裏の奥まで行くことになってしまった。
そして、あの十字路の辺りで、リニアを探し続けていた所、件の男達に声をかけられ、狭い通路に連れて行かれそうになる。
だが、連れ込まれる時に、ロディとカールは怖くなって、力の限りに抵抗し、男達から逃げ出すことが出来たのだ。
もっとも、男達がマリアを捕まえる事を最重要に考えていたから、彼らはなんとか逃げることが出来たのだろう。
「そうか。そのタイミングで、僕とすれ違ったんだ……」
ジェノはようやく事の始まりを理解した。
「そして、俺達は逃げている最中に、マリアの所の執事さんが、大人を何人も引き連れてやって来ていたから、事情を説明して……その、マリアを助けようと、一緒に……」
ロディの声は力なく、だんだん尻窄みになってしまう。
「なによ、それ! 私を置いて逃げたくせに、今更そんなこと!」
マリアは怒りを顕にしたが、ジェノは「そうなんだ」といって微笑んだ。
「ロディとカールが、マリアの家の人を案内してくれたんだね。ありがとう」
ジェノの言葉が信じられなかったのか、ロディとカールは驚いて目を大きく見開く。
「ちょっと待ってよ、ジェノ。うちの使用人から聞いたわよ。貴方が門番さんに、私達が裏通りへ入っていってしまったって教えてくれたって。
だから、それは全部ジェノのお陰よ。ロディとカールはただそれについてきただけじゃあないの!」
怒りが収まらないマリアは辛辣なことを言うが、ジェノはそんなマリアを睨む。
「マリア。最初に裏通りに行こうとしたのはロディだけれど、それに君は反対しないどころか、自分からついて行こうとしたじゃないか」
「……それは、そうだけれど……」
マリアは言葉に詰まる。
「それにね、ロディとカールだってものすごく怖い思いをしたんだよ。それでも、勇気を出してまた戻ってきた。それは、立派なことだと思うよ」
ジェノはそう言って、今度はマリアに笑いかける。
「ジェノ……」
「ジェノ、お前……」
ロディとカールにも、ジェノは微笑む。
「二人共、怖かったよね? 僕もすごく怖かった。だから、もう裏通りに行くのは止めようよ。皆で、この広場で遊ぼう」
ジェノはそう言うと、マリアに、「だから、マリア。二人のことをもう許してあげてよ」と懇願する。
「……うん。ジェノがそういうのなら……」
マリアは素直にジェノの願いを聞き入れ、ロディとカールを許すと言ってくれた。
ロディとカールは心底ホッとした顔をする。
「それじゃあ、今日は何をして遊ぼうか?」
ジェノが笑顔で尋ねると、マリアもロディもカールも、笑顔を浮かべるのだった。
その理由は単純で、今日は武術と剣の修行が出来たからだ。
マリアを誘拐しようとしていた男達との戦いの後、大事を取って安静にするようにとリニアに言われていたのだ。だが、今日からそれが再開となり、修行ができなかった事で溜まっていた鬱憤が吹き飛んだ。上機嫌にもなるというものだ。
勉強も昼食の手伝いも終わらせ、三日ぶりに広場にやって来たジェノは、誰か仲のいい友達はいないだろうかと辺りを見渡す。
すると、ひときわ目立つ金髪の愛らしい少女が、涙ながらにこっちに向かって走ってくるのが見えた。
「ジェノ! ジェノ!」
「マリア、久しぶり」
ジェノが挨拶を口にしたが、マリアはそれに応えることなく、ジェノを力いっぱい抱きしめてくる。
「まっ、マリア! くっ、苦しいよ」
そんな抗議の声も、マリアの耳には入らないようで、彼女はジェノの名前を繰り返し続ける。
ジェノは仕方なく、マリアが落ち着くのを待つことにした。
そして、やがてマリアが名前を呼ぶのを止めて泣きじゃくり始めたので、ジェノはポンポンと優しく彼女の背中を叩く。
「あっ……」
マリアを宥めていると、酷くバツの悪そうな顔の少年二人がジェノ達に近づいてきた。
「ロディ……、カール……」
ジェノが彼らの名前を呼ぶと、二人は顔を俯ける。
「よかった。二人も無事だったんだね」
ロディもカールもまったく怪我をしているようには見えない。あの時は一瞬すれ違っただけだったので、もしかしてあの男達に殴られたりしていなかっただろうかと心配だったのだ。
「俺たちは、その、ジェノ……。お前が……」
「うん。お前が来るのを、その、待っていたんだ……」
ロディとカールは意を決したように、口を開き始める。だが、そんな彼らを……。
「ジェノ! ロディとカールのことなんてどうでもいいわ! 二人共、悪い人に捕まりそうになったら、私を置いて逃げたんだから!」
ジェノからようやく離れたマリアが、大声で二人を非難する。
状況から察するに、きっとロディとカールは、マリアに口を聞いて貰えていなかったに違いない。
マリアの非難に、ロディはきつく拳を握りしめ、カールにいたっては涙目になっている。
それを見て、ジェノは口を開く。
「ねぇ、ロディ、カール。実は僕は、あの時の状況がよく分かっていないんだ。辛いことかもしれないけれど、どうしてあんな事になったのかを教えてくれないかな?」
ジェノの言葉に、ロディとカールはお互いの顔を見合わせてから、ポツポツと語り始めた。
彼ら二人と、それに割り込んできたマリアの話をジェノは頭の中でまとめる。
リニアの後を追いかけた三人は、早々に彼女の姿を見失ってしまったらしい。
それでも、今更戻るのが癪だったロディが、「このまま奥まで行くぞ」と言い、怖くなって来たため帰ろうというマリアの言葉を聞かないで、カールと歩きだした。
そのためマリアも、二人を置いていくわけにも行かず、彼らと一緒に路地裏の奥まで行くことになってしまった。
そして、あの十字路の辺りで、リニアを探し続けていた所、件の男達に声をかけられ、狭い通路に連れて行かれそうになる。
だが、連れ込まれる時に、ロディとカールは怖くなって、力の限りに抵抗し、男達から逃げ出すことが出来たのだ。
もっとも、男達がマリアを捕まえる事を最重要に考えていたから、彼らはなんとか逃げることが出来たのだろう。
「そうか。そのタイミングで、僕とすれ違ったんだ……」
ジェノはようやく事の始まりを理解した。
「そして、俺達は逃げている最中に、マリアの所の執事さんが、大人を何人も引き連れてやって来ていたから、事情を説明して……その、マリアを助けようと、一緒に……」
ロディの声は力なく、だんだん尻窄みになってしまう。
「なによ、それ! 私を置いて逃げたくせに、今更そんなこと!」
マリアは怒りを顕にしたが、ジェノは「そうなんだ」といって微笑んだ。
「ロディとカールが、マリアの家の人を案内してくれたんだね。ありがとう」
ジェノの言葉が信じられなかったのか、ロディとカールは驚いて目を大きく見開く。
「ちょっと待ってよ、ジェノ。うちの使用人から聞いたわよ。貴方が門番さんに、私達が裏通りへ入っていってしまったって教えてくれたって。
だから、それは全部ジェノのお陰よ。ロディとカールはただそれについてきただけじゃあないの!」
怒りが収まらないマリアは辛辣なことを言うが、ジェノはそんなマリアを睨む。
「マリア。最初に裏通りに行こうとしたのはロディだけれど、それに君は反対しないどころか、自分からついて行こうとしたじゃないか」
「……それは、そうだけれど……」
マリアは言葉に詰まる。
「それにね、ロディとカールだってものすごく怖い思いをしたんだよ。それでも、勇気を出してまた戻ってきた。それは、立派なことだと思うよ」
ジェノはそう言って、今度はマリアに笑いかける。
「ジェノ……」
「ジェノ、お前……」
ロディとカールにも、ジェノは微笑む。
「二人共、怖かったよね? 僕もすごく怖かった。だから、もう裏通りに行くのは止めようよ。皆で、この広場で遊ぼう」
ジェノはそう言うと、マリアに、「だから、マリア。二人のことをもう許してあげてよ」と懇願する。
「……うん。ジェノがそういうのなら……」
マリアは素直にジェノの願いを聞き入れ、ロディとカールを許すと言ってくれた。
ロディとカールは心底ホッとした顔をする。
「それじゃあ、今日は何をして遊ぼうか?」
ジェノが笑顔で尋ねると、マリアもロディもカールも、笑顔を浮かべるのだった。
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