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第五章 邂逅は、波乱とともに
⑰ 『夢、そして朝』
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マリアと話が弾んでいるのか、それとも明日に備えて、早々に眠ることにしたのかは分からない。
結局その晩は、ジェノはメルエーナに顔を見せることはなかった。
バルネアも自室に戻って休むと言い別れた後、メルエーナはレイルンの姿を消し、自分も休むことにする。
なんとか眠りについたものの、眠りが浅いようで、メルエーナは夢を見た。
「ねぇ、レイルン。どうして貴方の姿は、私以外には見えないの?」
淡い紫の髪の愛らしい幼女が、花が咲き誇るような笑顔で尋ねてくる。
幼女がそんな事を言うのは、その事が不思議だから尋ねているのではないようだ。
むしろ、姿が見えるのが自分だけだということが嬉しくて仕方がないといった表情だ。
「それは……僕が妖精だから普通の人には見えないんだよ。でもレミィには魔法の才能があるから」
レイルンがそう言うと、レミィはむぅっと不機嫌な顔になる。
「もう! レイルンは女の子の気持ちが分かっていないわ。私だけが貴方の姿が見えるのは、私がレイルンの特別な人だから。そして、レイルンが私の特別な人だからだもん」
気分を害して、ぷいっと横を向いてしまったレミィに、レイルンは慌てて謝罪する。
「その、ごめん。でも、僕も君のことを大切に思っているよ」
「本当?」
「うん。本当だよ」
なかなかこちらを向いてくれないレミィに、レイルンは困ってしまう。
「それじゃあ、私のことを貴方のお嫁さんにしてくれる?」
そう言ってようやくこちらを向いてくれたレミィは、頬を赤らめながら尋ねてくる。
「うん。僕は本当に君の事が大好きなんだ。だから、僕のお嫁さんになって欲しい」
レイルンも顔を真っ赤にしながら、レミィに、大好きな女の子に告白する。
「ふふっ。それじゃあ、なってあげるわ。レイルンのお嫁さんに!」
「わっ!」
レミィに突然覆いかぶさられたレイルンは、頬に優しい感触を感じた後、それ以上に優しくて温かな感触を唇に感じた。
唇と唇を軽く合わせた口づけ。それはレイルンとレミィの約束の印だった。
「ふふっ。これで後は指輪があれば、私は貴方のお嫁さんになれるわ」
「指輪? 指輪ってなに? それが必要なの?」
レイルンは指輪というものを知らず、慌てる。
「指輪っていうのは、薬指にはめる輪っかで、小さいけれどすごく綺麗な石が付いているの」
「綺麗な石の付いた輪っか? それが必要なんだね」
「うん。お母さんの指輪には、エメラルドという緑色の綺麗な石が付いているのよ」
「その、エメラルドと輪っかが必要なんだね」
レイルンは決意を固め、すぐにそれを探し出そうと思い立ち上がる。
「待って、レイルン。指輪の石は綺麗なだけじゃあなくて、そのお嫁さんが好きな石じゃあないと駄目なのよ」
「そうなんだ……。それじゃあ、君はどんな石が好きなの?」
レイルンが尋ねると、レミィは少しの間考えたが、すぐに何かを思いついたようで、にっこり微笑んだ。
「あのね、レイルン。私は……」
レミィの口は動いているのだが、音として聞こえたのはそこまでだった。
◇
それなりの時間は眠ったはずなのだが、メルエーナは少し疲れ気味だった。
それもこれも、あのはっきりと覚えている夢を見たせいだろう。
事前にエリンシアさんから言われていたのだが、妖精とパスというもので繋がっている状態では、その妖精の強い思いが流れ込んでくることがあるのらしい。
エリンシアさんは、「その逆はないから安心おし」と言っていたが、相手の心の内を覗き見てしまうというのは何とも後ろめたい。
けれど、頑なに『魔法の鏡』という物を『洞窟』に持っていってとしか言わないレイルンが、どうして必死にそんなことを訴えてきたのかの動機が分かった。
彼は、あの可愛い女の子――レミィに結婚指輪を贈りたいと思っているようだ。しかも、彼女が望む石をつけた指輪を。
けれど、それがどうして魔法の鏡を洞窟に持っていくことと関係しているのか、まるで分からない。
もしかすると、冒険物語のように、この近くにある洞窟とやらに凄い宝石が隠されていて、それを手に入れるために鏡が必要なのだろうか?
いくら考えても詮無きことなので、メルエーナは顔を洗い、身支度を整えることにする。
いつもの癖で早朝に目を覚ましてしまったが、二度寝するわけには行かない。
朝食の時間は決められているし、なによりジェノの事が心配で仕方がないのだから、早く彼の顔を見たかった。
レイルンが昨晩言った事柄が、メルエーナの胸をざわつかせる。
良くないものに取り憑かれてしまっているという言葉が。
ジェノはそのことを知っているのだろうか?
それとも気づいていないのだろうか?
レイルンが嘘をついていないのはパスで繋がっている自分には分かったが、単純に勘違いの可能性も否定できない。いや、正直を言うと、そうであってほしいと願っている。
(……今日からジェノさん達はお仕事ですし、それが終わってからにした方がいいですよね……)
そう心の中で思う、弱くて狡い自分に喝を入れるために、メルエーナは自分の頬を両手で少し強く叩く。
バルネアさんがジェノさんを守ろうとする覚悟を聞いた。
自分も、もっと強い気持ちを持って、覚悟を決めないと駄目だ。
「それに、私もバルネアさんと一緒に聞き込みをしないと」
バルネアさんの友人がこの宿の持ち主であるため、彼女がレイルンを連れて色々と宿の人達にレミィという女の子のことを知らないだろうかと訊きまわってくれたのだ。
結果として、知っている人はいなかったが、この宿に一番長く勤めている年配の男性から、以前にそんな名前をこの村で聞いたような気がする、という不確かな情報を得た。
村の中央部からこの宿は少し離れているが、徒歩で十分行き来できる距離とのことなので、朝食を食べて一休みしたら出かけようと思っている。
(本当に、あのレミィという女の子は可愛かったですから、レイルン君が夢中になってしまうのも分かる気がします)
メルエーナはそんなことを思いながら、部屋に用意された水と洗面器で顔を洗うことにする。
そしてそれが終わったら、レイルン君の顔もしっかり洗ってあげないとと思うのだった。
結局その晩は、ジェノはメルエーナに顔を見せることはなかった。
バルネアも自室に戻って休むと言い別れた後、メルエーナはレイルンの姿を消し、自分も休むことにする。
なんとか眠りについたものの、眠りが浅いようで、メルエーナは夢を見た。
「ねぇ、レイルン。どうして貴方の姿は、私以外には見えないの?」
淡い紫の髪の愛らしい幼女が、花が咲き誇るような笑顔で尋ねてくる。
幼女がそんな事を言うのは、その事が不思議だから尋ねているのではないようだ。
むしろ、姿が見えるのが自分だけだということが嬉しくて仕方がないといった表情だ。
「それは……僕が妖精だから普通の人には見えないんだよ。でもレミィには魔法の才能があるから」
レイルンがそう言うと、レミィはむぅっと不機嫌な顔になる。
「もう! レイルンは女の子の気持ちが分かっていないわ。私だけが貴方の姿が見えるのは、私がレイルンの特別な人だから。そして、レイルンが私の特別な人だからだもん」
気分を害して、ぷいっと横を向いてしまったレミィに、レイルンは慌てて謝罪する。
「その、ごめん。でも、僕も君のことを大切に思っているよ」
「本当?」
「うん。本当だよ」
なかなかこちらを向いてくれないレミィに、レイルンは困ってしまう。
「それじゃあ、私のことを貴方のお嫁さんにしてくれる?」
そう言ってようやくこちらを向いてくれたレミィは、頬を赤らめながら尋ねてくる。
「うん。僕は本当に君の事が大好きなんだ。だから、僕のお嫁さんになって欲しい」
レイルンも顔を真っ赤にしながら、レミィに、大好きな女の子に告白する。
「ふふっ。それじゃあ、なってあげるわ。レイルンのお嫁さんに!」
「わっ!」
レミィに突然覆いかぶさられたレイルンは、頬に優しい感触を感じた後、それ以上に優しくて温かな感触を唇に感じた。
唇と唇を軽く合わせた口づけ。それはレイルンとレミィの約束の印だった。
「ふふっ。これで後は指輪があれば、私は貴方のお嫁さんになれるわ」
「指輪? 指輪ってなに? それが必要なの?」
レイルンは指輪というものを知らず、慌てる。
「指輪っていうのは、薬指にはめる輪っかで、小さいけれどすごく綺麗な石が付いているの」
「綺麗な石の付いた輪っか? それが必要なんだね」
「うん。お母さんの指輪には、エメラルドという緑色の綺麗な石が付いているのよ」
「その、エメラルドと輪っかが必要なんだね」
レイルンは決意を固め、すぐにそれを探し出そうと思い立ち上がる。
「待って、レイルン。指輪の石は綺麗なだけじゃあなくて、そのお嫁さんが好きな石じゃあないと駄目なのよ」
「そうなんだ……。それじゃあ、君はどんな石が好きなの?」
レイルンが尋ねると、レミィは少しの間考えたが、すぐに何かを思いついたようで、にっこり微笑んだ。
「あのね、レイルン。私は……」
レミィの口は動いているのだが、音として聞こえたのはそこまでだった。
◇
それなりの時間は眠ったはずなのだが、メルエーナは少し疲れ気味だった。
それもこれも、あのはっきりと覚えている夢を見たせいだろう。
事前にエリンシアさんから言われていたのだが、妖精とパスというもので繋がっている状態では、その妖精の強い思いが流れ込んでくることがあるのらしい。
エリンシアさんは、「その逆はないから安心おし」と言っていたが、相手の心の内を覗き見てしまうというのは何とも後ろめたい。
けれど、頑なに『魔法の鏡』という物を『洞窟』に持っていってとしか言わないレイルンが、どうして必死にそんなことを訴えてきたのかの動機が分かった。
彼は、あの可愛い女の子――レミィに結婚指輪を贈りたいと思っているようだ。しかも、彼女が望む石をつけた指輪を。
けれど、それがどうして魔法の鏡を洞窟に持っていくことと関係しているのか、まるで分からない。
もしかすると、冒険物語のように、この近くにある洞窟とやらに凄い宝石が隠されていて、それを手に入れるために鏡が必要なのだろうか?
いくら考えても詮無きことなので、メルエーナは顔を洗い、身支度を整えることにする。
いつもの癖で早朝に目を覚ましてしまったが、二度寝するわけには行かない。
朝食の時間は決められているし、なによりジェノの事が心配で仕方がないのだから、早く彼の顔を見たかった。
レイルンが昨晩言った事柄が、メルエーナの胸をざわつかせる。
良くないものに取り憑かれてしまっているという言葉が。
ジェノはそのことを知っているのだろうか?
それとも気づいていないのだろうか?
レイルンが嘘をついていないのはパスで繋がっている自分には分かったが、単純に勘違いの可能性も否定できない。いや、正直を言うと、そうであってほしいと願っている。
(……今日からジェノさん達はお仕事ですし、それが終わってからにした方がいいですよね……)
そう心の中で思う、弱くて狡い自分に喝を入れるために、メルエーナは自分の頬を両手で少し強く叩く。
バルネアさんがジェノさんを守ろうとする覚悟を聞いた。
自分も、もっと強い気持ちを持って、覚悟を決めないと駄目だ。
「それに、私もバルネアさんと一緒に聞き込みをしないと」
バルネアさんの友人がこの宿の持ち主であるため、彼女がレイルンを連れて色々と宿の人達にレミィという女の子のことを知らないだろうかと訊きまわってくれたのだ。
結果として、知っている人はいなかったが、この宿に一番長く勤めている年配の男性から、以前にそんな名前をこの村で聞いたような気がする、という不確かな情報を得た。
村の中央部からこの宿は少し離れているが、徒歩で十分行き来できる距離とのことなので、朝食を食べて一休みしたら出かけようと思っている。
(本当に、あのレミィという女の子は可愛かったですから、レイルン君が夢中になってしまうのも分かる気がします)
メルエーナはそんなことを思いながら、部屋に用意された水と洗面器で顔を洗うことにする。
そしてそれが終わったら、レイルン君の顔もしっかり洗ってあげないとと思うのだった。
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