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第五章 邂逅は、波乱とともに
㉛ 『意外な一面』
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ジェノから、先程のスケルトンを仕掛けてきたと思われる相手と、あのゼイルと言う名の男はもう立ち去ったのだと報告を受けたイルリア達は、とりあえずその現場までみんなでやってきた。
そして、壁に開けられた大穴の前で、案内人であるキレースさんが、
「そんな……。貴重な遺跡に、こんな大きな傷がっ……」
そんな嘆きの声を上げて、大穴の空いた壁の前で崩れ落ちる。
それはまるでこの世が終わったかのような嘆きっぷりで、瞳からは涙がこぼれていた。
最初こそイルリアもキレースに同情的だったが、流石にそのあまりの嘆き様に、少し引き気味になる。
ジェノはリットとセレクトとなにか打ち合わせをしている。
おそらくこれからどうするかの相談なのだろう。ただ、必要以上に長い気がするので、キレースにどうやってやる気を取り戻してもらうのかが問題なのかもしれない。
「あっ、あの……、その……」
「その、キレースさん……」
イルリアの近くにいるメルエーナとマリアは、なにか声をかけようとしてオロオロしている。なかなかいい言葉が浮かんでこないようだ。
みんながどうしようかと思っていたのだが、しかしそこで、今まで殆ど口を開かなかった者が口を開いた。
「なんで、貴方がそこまで悲しんでいるの?」
メルエーナに抱きかかえられていたレイルンが、そこから離れて着地し、キレースに近寄る。
その顔は明らかに不満げだ。
「だっ、だって! 君たち妖精とこの村の先祖の交流の証なんだよ、この遺跡は!」
キレースはまるで子供のような口調でレイルンに気持ちを吐露する。
「僕はね、いつかこの遺跡にもう一度妖精たちが戻ってくることを夢見ているんだよ。『貴方達、妖精との思い出の地はずっと我々が守ってきました。どうか、以前のような交流を持ちましょう!』って言いたいと思っていたんだ。僕が生きている間には無理かもしれないけれど、いつか、きっと……」
「…………」
涙ながらの訴えを聞き、レイルンは絶句して驚きの表情を浮かべる。
「どうして……。この村には、もう長いこと妖精は来ていないのに……」
「……でも、君が……」
キレースが口にした言葉に、レイルンの瞳が大きく見開かれる。
「僕がこの村に来ていたことを知っているの? それを知っているのは、僕とレミィしかいないはずなのに……」
「あっ……」
キレースは自らの失言に口に抑えるが、すでに発してしまった言葉はなかったことには出来ない。
「……ねぇ、なんで……なんで知っているの? やっぱり、レミィは、僕のことを覚えているの? でも、どうして……覚えていないふりをして……」
「そっ、それは……」
それだけ言って、キレースは口ごもる。
「ねぇ、答えてよ! ……僕が、僕がどんな気持ちでレミィのために……」
レイルンの声は低くなる。そして、彼の小さい右手に何かが集まっていくのをイルリアは感じた。
「レイルン! 駄目!」
それが風の魔法だと言うことを理解して、イルリアは慌てて止めようとしたが、レイルンはそれよりも早く、キレースに向かって魔法を発射しようとしていた。
しかし、そこで不意に魔法の塊が消えてなくなる。
レイルンが驚きの顔をしたことから、魔法が使えるリットかセレクトの仕業だと思いそちらを見たが、二人とも何もしていないようだ。
「なんで! なんで魔法が!」
レイルンは何度もキレースに向かって掌を何度も向けるが、そこから魔法が出ることはなかった。
戸惑うレイルンは悔しそうに涙目になるが、そんな彼をメルエーナが抱きしめる。
そうだ。すっかり忘れていた。
レイルンは『守護妖精』と呼ばれるものになっていた。
だから、メルエーナが止めようと思えばレイルンの行動は制限されるようだ。
「落ち着いて、レイルン君。そんな怖い顔をしていたら、キレースさんも話せないわ。少し深呼吸をしましょう。ほらっ、ゆっくり息を吸ってみて?」
メルエーナは優しくレイルンに提案する。
強く命令すれば無理矢理にでも言うことをきかせる事ができるのだろうが、メルエーナはそうはしない。場違いなほど穏やかに微笑み、レイルンにお願いする。
「……うん」
レイルンはその笑顔に負けて、深呼吸を始める。
それを微笑ましげに見ていたメルエーナだったが、彼女はキレースの方を向き、静かに頭を下げた。
「キレースさん。誠に申し訳ありませんが、レイルン君の問に答えて頂けませんでしょうか? きっとご事情があると思いますが、妖精と人間の良好な関係のためにも、どうか宜しくお願い致します」
「……いや、その、あの……」
キレースが戸惑っているが、メルエーナは何も言わずに頭を下げ続ける。
いつもは気が優しくて控えめな性格なのだが、幼い子が関わってくると保護欲というか、母性本能が刺激されているのか、メルエーナは頭を下げた姿勢ながらも、一歩も引く気はないようだ。
(メルエーナって、案外、強いお母さんになるんじゃあ……)
少しメルエーナへの評価が変わり、イルリアは驚いた。
だが、彼女が強い母親になり、夫を尻に敷くくらいになればさぞ爽快だろうと考え、少しだけ驚いたような顔をしている、黒髪の未来の夫候補に意地の悪い笑みを向ける。
残念ながらジェノはその視線に気づかなかったようだが、キレースがメルエーナの意思に根負けし、事情を話してくれることになったのだった。
そして、壁に開けられた大穴の前で、案内人であるキレースさんが、
「そんな……。貴重な遺跡に、こんな大きな傷がっ……」
そんな嘆きの声を上げて、大穴の空いた壁の前で崩れ落ちる。
それはまるでこの世が終わったかのような嘆きっぷりで、瞳からは涙がこぼれていた。
最初こそイルリアもキレースに同情的だったが、流石にそのあまりの嘆き様に、少し引き気味になる。
ジェノはリットとセレクトとなにか打ち合わせをしている。
おそらくこれからどうするかの相談なのだろう。ただ、必要以上に長い気がするので、キレースにどうやってやる気を取り戻してもらうのかが問題なのかもしれない。
「あっ、あの……、その……」
「その、キレースさん……」
イルリアの近くにいるメルエーナとマリアは、なにか声をかけようとしてオロオロしている。なかなかいい言葉が浮かんでこないようだ。
みんながどうしようかと思っていたのだが、しかしそこで、今まで殆ど口を開かなかった者が口を開いた。
「なんで、貴方がそこまで悲しんでいるの?」
メルエーナに抱きかかえられていたレイルンが、そこから離れて着地し、キレースに近寄る。
その顔は明らかに不満げだ。
「だっ、だって! 君たち妖精とこの村の先祖の交流の証なんだよ、この遺跡は!」
キレースはまるで子供のような口調でレイルンに気持ちを吐露する。
「僕はね、いつかこの遺跡にもう一度妖精たちが戻ってくることを夢見ているんだよ。『貴方達、妖精との思い出の地はずっと我々が守ってきました。どうか、以前のような交流を持ちましょう!』って言いたいと思っていたんだ。僕が生きている間には無理かもしれないけれど、いつか、きっと……」
「…………」
涙ながらの訴えを聞き、レイルンは絶句して驚きの表情を浮かべる。
「どうして……。この村には、もう長いこと妖精は来ていないのに……」
「……でも、君が……」
キレースが口にした言葉に、レイルンの瞳が大きく見開かれる。
「僕がこの村に来ていたことを知っているの? それを知っているのは、僕とレミィしかいないはずなのに……」
「あっ……」
キレースは自らの失言に口に抑えるが、すでに発してしまった言葉はなかったことには出来ない。
「……ねぇ、なんで……なんで知っているの? やっぱり、レミィは、僕のことを覚えているの? でも、どうして……覚えていないふりをして……」
「そっ、それは……」
それだけ言って、キレースは口ごもる。
「ねぇ、答えてよ! ……僕が、僕がどんな気持ちでレミィのために……」
レイルンの声は低くなる。そして、彼の小さい右手に何かが集まっていくのをイルリアは感じた。
「レイルン! 駄目!」
それが風の魔法だと言うことを理解して、イルリアは慌てて止めようとしたが、レイルンはそれよりも早く、キレースに向かって魔法を発射しようとしていた。
しかし、そこで不意に魔法の塊が消えてなくなる。
レイルンが驚きの顔をしたことから、魔法が使えるリットかセレクトの仕業だと思いそちらを見たが、二人とも何もしていないようだ。
「なんで! なんで魔法が!」
レイルンは何度もキレースに向かって掌を何度も向けるが、そこから魔法が出ることはなかった。
戸惑うレイルンは悔しそうに涙目になるが、そんな彼をメルエーナが抱きしめる。
そうだ。すっかり忘れていた。
レイルンは『守護妖精』と呼ばれるものになっていた。
だから、メルエーナが止めようと思えばレイルンの行動は制限されるようだ。
「落ち着いて、レイルン君。そんな怖い顔をしていたら、キレースさんも話せないわ。少し深呼吸をしましょう。ほらっ、ゆっくり息を吸ってみて?」
メルエーナは優しくレイルンに提案する。
強く命令すれば無理矢理にでも言うことをきかせる事ができるのだろうが、メルエーナはそうはしない。場違いなほど穏やかに微笑み、レイルンにお願いする。
「……うん」
レイルンはその笑顔に負けて、深呼吸を始める。
それを微笑ましげに見ていたメルエーナだったが、彼女はキレースの方を向き、静かに頭を下げた。
「キレースさん。誠に申し訳ありませんが、レイルン君の問に答えて頂けませんでしょうか? きっとご事情があると思いますが、妖精と人間の良好な関係のためにも、どうか宜しくお願い致します」
「……いや、その、あの……」
キレースが戸惑っているが、メルエーナは何も言わずに頭を下げ続ける。
いつもは気が優しくて控えめな性格なのだが、幼い子が関わってくると保護欲というか、母性本能が刺激されているのか、メルエーナは頭を下げた姿勢ながらも、一歩も引く気はないようだ。
(メルエーナって、案外、強いお母さんになるんじゃあ……)
少しメルエーナへの評価が変わり、イルリアは驚いた。
だが、彼女が強い母親になり、夫を尻に敷くくらいになればさぞ爽快だろうと考え、少しだけ驚いたような顔をしている、黒髪の未来の夫候補に意地の悪い笑みを向ける。
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