214 / 249
第五章 邂逅は、波乱とともに
㉛ 『意外な一面』
しおりを挟む
ジェノから、先程のスケルトンを仕掛けてきたと思われる相手と、あのゼイルと言う名の男はもう立ち去ったのだと報告を受けたイルリア達は、とりあえずその現場までみんなでやってきた。
そして、壁に開けられた大穴の前で、案内人であるキレースさんが、
「そんな……。貴重な遺跡に、こんな大きな傷がっ……」
そんな嘆きの声を上げて、大穴の空いた壁の前で崩れ落ちる。
それはまるでこの世が終わったかのような嘆きっぷりで、瞳からは涙がこぼれていた。
最初こそイルリアもキレースに同情的だったが、流石にそのあまりの嘆き様に、少し引き気味になる。
ジェノはリットとセレクトとなにか打ち合わせをしている。
おそらくこれからどうするかの相談なのだろう。ただ、必要以上に長い気がするので、キレースにどうやってやる気を取り戻してもらうのかが問題なのかもしれない。
「あっ、あの……、その……」
「その、キレースさん……」
イルリアの近くにいるメルエーナとマリアは、なにか声をかけようとしてオロオロしている。なかなかいい言葉が浮かんでこないようだ。
みんながどうしようかと思っていたのだが、しかしそこで、今まで殆ど口を開かなかった者が口を開いた。
「なんで、貴方がそこまで悲しんでいるの?」
メルエーナに抱きかかえられていたレイルンが、そこから離れて着地し、キレースに近寄る。
その顔は明らかに不満げだ。
「だっ、だって! 君たち妖精とこの村の先祖の交流の証なんだよ、この遺跡は!」
キレースはまるで子供のような口調でレイルンに気持ちを吐露する。
「僕はね、いつかこの遺跡にもう一度妖精たちが戻ってくることを夢見ているんだよ。『貴方達、妖精との思い出の地はずっと我々が守ってきました。どうか、以前のような交流を持ちましょう!』って言いたいと思っていたんだ。僕が生きている間には無理かもしれないけれど、いつか、きっと……」
「…………」
涙ながらの訴えを聞き、レイルンは絶句して驚きの表情を浮かべる。
「どうして……。この村には、もう長いこと妖精は来ていないのに……」
「……でも、君が……」
キレースが口にした言葉に、レイルンの瞳が大きく見開かれる。
「僕がこの村に来ていたことを知っているの? それを知っているのは、僕とレミィしかいないはずなのに……」
「あっ……」
キレースは自らの失言に口に抑えるが、すでに発してしまった言葉はなかったことには出来ない。
「……ねぇ、なんで……なんで知っているの? やっぱり、レミィは、僕のことを覚えているの? でも、どうして……覚えていないふりをして……」
「そっ、それは……」
それだけ言って、キレースは口ごもる。
「ねぇ、答えてよ! ……僕が、僕がどんな気持ちでレミィのために……」
レイルンの声は低くなる。そして、彼の小さい右手に何かが集まっていくのをイルリアは感じた。
「レイルン! 駄目!」
それが風の魔法だと言うことを理解して、イルリアは慌てて止めようとしたが、レイルンはそれよりも早く、キレースに向かって魔法を発射しようとしていた。
しかし、そこで不意に魔法の塊が消えてなくなる。
レイルンが驚きの顔をしたことから、魔法が使えるリットかセレクトの仕業だと思いそちらを見たが、二人とも何もしていないようだ。
「なんで! なんで魔法が!」
レイルンは何度もキレースに向かって掌を何度も向けるが、そこから魔法が出ることはなかった。
戸惑うレイルンは悔しそうに涙目になるが、そんな彼をメルエーナが抱きしめる。
そうだ。すっかり忘れていた。
レイルンは『守護妖精』と呼ばれるものになっていた。
だから、メルエーナが止めようと思えばレイルンの行動は制限されるようだ。
「落ち着いて、レイルン君。そんな怖い顔をしていたら、キレースさんも話せないわ。少し深呼吸をしましょう。ほらっ、ゆっくり息を吸ってみて?」
メルエーナは優しくレイルンに提案する。
強く命令すれば無理矢理にでも言うことをきかせる事ができるのだろうが、メルエーナはそうはしない。場違いなほど穏やかに微笑み、レイルンにお願いする。
「……うん」
レイルンはその笑顔に負けて、深呼吸を始める。
それを微笑ましげに見ていたメルエーナだったが、彼女はキレースの方を向き、静かに頭を下げた。
「キレースさん。誠に申し訳ありませんが、レイルン君の問に答えて頂けませんでしょうか? きっとご事情があると思いますが、妖精と人間の良好な関係のためにも、どうか宜しくお願い致します」
「……いや、その、あの……」
キレースが戸惑っているが、メルエーナは何も言わずに頭を下げ続ける。
いつもは気が優しくて控えめな性格なのだが、幼い子が関わってくると保護欲というか、母性本能が刺激されているのか、メルエーナは頭を下げた姿勢ながらも、一歩も引く気はないようだ。
(メルエーナって、案外、強いお母さんになるんじゃあ……)
少しメルエーナへの評価が変わり、イルリアは驚いた。
だが、彼女が強い母親になり、夫を尻に敷くくらいになればさぞ爽快だろうと考え、少しだけ驚いたような顔をしている、黒髪の未来の夫候補に意地の悪い笑みを向ける。
残念ながらジェノはその視線に気づかなかったようだが、キレースがメルエーナの意思に根負けし、事情を話してくれることになったのだった。
そして、壁に開けられた大穴の前で、案内人であるキレースさんが、
「そんな……。貴重な遺跡に、こんな大きな傷がっ……」
そんな嘆きの声を上げて、大穴の空いた壁の前で崩れ落ちる。
それはまるでこの世が終わったかのような嘆きっぷりで、瞳からは涙がこぼれていた。
最初こそイルリアもキレースに同情的だったが、流石にそのあまりの嘆き様に、少し引き気味になる。
ジェノはリットとセレクトとなにか打ち合わせをしている。
おそらくこれからどうするかの相談なのだろう。ただ、必要以上に長い気がするので、キレースにどうやってやる気を取り戻してもらうのかが問題なのかもしれない。
「あっ、あの……、その……」
「その、キレースさん……」
イルリアの近くにいるメルエーナとマリアは、なにか声をかけようとしてオロオロしている。なかなかいい言葉が浮かんでこないようだ。
みんながどうしようかと思っていたのだが、しかしそこで、今まで殆ど口を開かなかった者が口を開いた。
「なんで、貴方がそこまで悲しんでいるの?」
メルエーナに抱きかかえられていたレイルンが、そこから離れて着地し、キレースに近寄る。
その顔は明らかに不満げだ。
「だっ、だって! 君たち妖精とこの村の先祖の交流の証なんだよ、この遺跡は!」
キレースはまるで子供のような口調でレイルンに気持ちを吐露する。
「僕はね、いつかこの遺跡にもう一度妖精たちが戻ってくることを夢見ているんだよ。『貴方達、妖精との思い出の地はずっと我々が守ってきました。どうか、以前のような交流を持ちましょう!』って言いたいと思っていたんだ。僕が生きている間には無理かもしれないけれど、いつか、きっと……」
「…………」
涙ながらの訴えを聞き、レイルンは絶句して驚きの表情を浮かべる。
「どうして……。この村には、もう長いこと妖精は来ていないのに……」
「……でも、君が……」
キレースが口にした言葉に、レイルンの瞳が大きく見開かれる。
「僕がこの村に来ていたことを知っているの? それを知っているのは、僕とレミィしかいないはずなのに……」
「あっ……」
キレースは自らの失言に口に抑えるが、すでに発してしまった言葉はなかったことには出来ない。
「……ねぇ、なんで……なんで知っているの? やっぱり、レミィは、僕のことを覚えているの? でも、どうして……覚えていないふりをして……」
「そっ、それは……」
それだけ言って、キレースは口ごもる。
「ねぇ、答えてよ! ……僕が、僕がどんな気持ちでレミィのために……」
レイルンの声は低くなる。そして、彼の小さい右手に何かが集まっていくのをイルリアは感じた。
「レイルン! 駄目!」
それが風の魔法だと言うことを理解して、イルリアは慌てて止めようとしたが、レイルンはそれよりも早く、キレースに向かって魔法を発射しようとしていた。
しかし、そこで不意に魔法の塊が消えてなくなる。
レイルンが驚きの顔をしたことから、魔法が使えるリットかセレクトの仕業だと思いそちらを見たが、二人とも何もしていないようだ。
「なんで! なんで魔法が!」
レイルンは何度もキレースに向かって掌を何度も向けるが、そこから魔法が出ることはなかった。
戸惑うレイルンは悔しそうに涙目になるが、そんな彼をメルエーナが抱きしめる。
そうだ。すっかり忘れていた。
レイルンは『守護妖精』と呼ばれるものになっていた。
だから、メルエーナが止めようと思えばレイルンの行動は制限されるようだ。
「落ち着いて、レイルン君。そんな怖い顔をしていたら、キレースさんも話せないわ。少し深呼吸をしましょう。ほらっ、ゆっくり息を吸ってみて?」
メルエーナは優しくレイルンに提案する。
強く命令すれば無理矢理にでも言うことをきかせる事ができるのだろうが、メルエーナはそうはしない。場違いなほど穏やかに微笑み、レイルンにお願いする。
「……うん」
レイルンはその笑顔に負けて、深呼吸を始める。
それを微笑ましげに見ていたメルエーナだったが、彼女はキレースの方を向き、静かに頭を下げた。
「キレースさん。誠に申し訳ありませんが、レイルン君の問に答えて頂けませんでしょうか? きっとご事情があると思いますが、妖精と人間の良好な関係のためにも、どうか宜しくお願い致します」
「……いや、その、あの……」
キレースが戸惑っているが、メルエーナは何も言わずに頭を下げ続ける。
いつもは気が優しくて控えめな性格なのだが、幼い子が関わってくると保護欲というか、母性本能が刺激されているのか、メルエーナは頭を下げた姿勢ながらも、一歩も引く気はないようだ。
(メルエーナって、案外、強いお母さんになるんじゃあ……)
少しメルエーナへの評価が変わり、イルリアは驚いた。
だが、彼女が強い母親になり、夫を尻に敷くくらいになればさぞ爽快だろうと考え、少しだけ驚いたような顔をしている、黒髪の未来の夫候補に意地の悪い笑みを向ける。
残念ながらジェノはその視線に気づかなかったようだが、キレースがメルエーナの意思に根負けし、事情を話してくれることになったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。
リョウ
ファンタジー
何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる