真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第115話 ゴブリン弓兵長の奮闘

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 巨人が暴れているせいか、正門の方からは凄まじい爆音が鳴り響いて来る。 だが、此方もかなりの修羅場だ。

 森狼殿とは裏門側の城壁で既に別れた。 王の事が気になるが、俺は俺の仕事をしないとな。

 「ギギガ! 落ち着け、俺が来た。 各部隊、列を立て直せ! 裏門の空いた穴に向かうジャイアントボアに矢の雨を集中させろ! そっちの部隊は、街に入っているジャイアントボア達を狙え! 放てーーー!」

 俺は裏門に集まる弓兵達の指揮に入り、パニックを何とか沈静化させる事に成功した。 二手に別れた弓兵達が最後の力を振り絞り矢を放つ。

 側には裏門の弓兵長や多くの弓兵の骸が横になっていた。

 何でも、裏門が突破される寸前まで門に突撃するジャイアントボアに身を乗り出して矢を射掛け続けていたそうだ。

 そして、突破されると同時に共に射掛けていた弓兵達諸共にジャイアントボア達の足下にいたスライム達の溶解液に呑まれ即死したらしい……馬鹿やろうが。

 名前を呼ぼうにも、俺達魔物には基本的に名は無い。
 有るのは種族名と役職名だけ。

 目の前で死んでいる裏門の弓兵長とはガキの頃からの付き合いだった。

 共に弓兵となり、弓兵長までのしあがった。

 大きな手柄を取れば王から名前が貰える。 一緒にのしあがって名前を貰おう。

 そう言って笑ってた馬鹿は死んだ。

 「ギガ……またな、兄弟」

 別れを惜しむ俺の所に下級兵の伝令が駆けて来た。

 「ギ! 弓兵長、報告です!」

 「ギガ、どうした?」

 「ギ……王が、王が重傷を負い意識不明です」

 その報告を聞いた周囲の弓兵達に悲鳴が上がる。

 まずい、またパニックになるぞ!

 「ギガァァァ! 我等の王は死なない! 弓兵達よ! 我が部下達よ! 矢を射よ! 止めず、休まず矢を射よ! それが、王の助けになると知れ!」

 咄嗟に叫んだ俺の声に直ぐに反応してくれたのは、俺が率いていた部下達だった。

 「「「「ギ! はっ!」」」」

 俺の部下達が攻撃を再開した事によって、裏門の弓兵達も正気に戻ってくれた。

 へっ! さすが俺の自慢の部下達だ。

 だが、ジャイアントボア達は街に雪崩れ込み続けている。

 今はまだ下級兵の歩兵部隊が細い道路を封鎖し戦っているが、将軍も王も重傷では戦力が足りなさ過ぎる……。

 下級兵達で押さえ込めてるのは、単に森狼殿が防衛に参戦してくれているからだろう。

 上からでも分かるほど、鋭い爪でジャイアントボア達の頭の上を切り裂きながら舞っている森狼殿が見えた。

 しかし、まだ暫くは持つとは思うが……このままではジリ貧だぞ。 頼みの綱は森狼殿とその友、巨人だが……向こうの正門で手一杯じゃないのか?

 「うぉっ?! 城壁が揺れて!?」

 突如として城壁全体が揺れ始めた。 そして、地響きすら聞こえ始める。

 「何だ、何だ、なんだぁぁぁ!?」

 振り返ると、巨人が凄まじい速度で向かって来ていた。

 おいおい、正門は大丈夫なのか? もしや……正門の魔物達を全滅させたのか!?
 
 巨人は突破された裏門に向かい、門に殺到しているジャイアントボアを蹴り飛ばしスライム達を手でなぎ払う。

 「ふんっ! 邪魔邪魔ー! 土魔法! 固まれー!」

 す、すげぇ! 炎を吐くだけじゃなく、巨人は土魔法まで使えるのか!?

 土が盛り上がり門に空いた穴を瞬く間に塞いだ。

 そして、巨人は街に向かって叫ぶ。

 「早く大猪達を追い払わなきゃ。 モロー! 門は塞いだからねー! 外の魔物達は私が追い払うから、そっちは頼んだよー!」

 モロって誰だ? そんな名前がある奴が居ただろうか?

 すると、直ぐに街の方から遠吠えが響いた。

 「アオーーーンッ! 任せてくれ!」

 モロとは森狼殿の事か! 名を与える側の王なのに名を持っているとは、さすがは森狼殿。 ……羨ましいぜ。

 おっと、嫉妬している場合じゃないな。

 外の魔物達を任せて良いなら、街に入り込んだジャイアントボア達を皆殺しだ!

 「ギギガ! 総員、街に侵入したジャイアントボア達を射よ! 外の魔物達は森狼殿の友である巨人に任せる! 狙えー! 放てーーー!」

 弓兵達に一斉射撃をさせ、街の中で上手く身動きの取れていないジャイアントボア達の背中に矢の雨を降らす。

 「ふ~、街の中は直ぐに一掃出来そうだな。 巨人の方は……なっ!?」

 巨人はスライムを捕食し、それを見たスライム達は一斉に逃げ出していた。 そして、目の前で同胞を無惨にも引き千切られたジャイアントボア達も悲鳴を上げながら逃走し始める。

 「ギガァァァ! やった! やったぞ! 魔物達が逃げ出した! 勝った、勝ったぞーー!」

 俺の歓声を聞いて部下達も泣いて喜ぶ。

 街の中からも勝鬨が聞こえ、どうやら侵入したジャイアントボア達を討伐できたようだ

 何とか滅亡しなくてすんだな……あ、そうだ! 王よ! 我等が王よ!

 俺は勝った高揚を吹き飛ばし、急いで下へと駆ける。

 「ギ! 俺は王の様子を確認しに行く! お前達は周囲の警戒をしろ!」

 「「「「ギ! はっ!」」」」 

 部下達に任せ、転がる様に城壁に備わる階段を下りる。

 魔物達を追い払っても、王が死んじまったらゴブリン達はバラバラになる!

 王国が滅ぶのと一緒じゃねえか!

 入れ替わる様に、森狼殿が巨人の元へ駆けて行くのが見えた。

 「アオーーンッ! クウネル、すまないが怪我人の治療を頼むー!」

 おぉ! 巨人は治療も出来るのか!? 本当に何てすげぇ種族なんだ! 

 おっと、急がねえと!

 街の中央、城の前に有る広場には多くの怪我人でごった返していた。

 下級兵や民達、そして……広場の中央に片腕を失った将軍が咽び泣いている。

 待てよ、おい! 勝ったんだ……勝ったんだぞ糞が!

 将軍の目の前に横たわる大きなゴブリン。

 「クゥン、此処だクウネル! 早く! 友が、友が!」

 戻って来た森狼殿が必死に叫ぶ声が、俺の耳にはひどく遠くから聞こえる様に感じる。

 王は身体中至る所が溶かされていた。

 着ている鎧や服は殆ど判別出来ない程だ。

 死んだらいけねぇ王の癖に、本当に最後まで裏門を突破されないよう戦ったんだろ。

 どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。

 森狼殿が懸命に揺すってもピクリともしない。

 辺りは横たわる王を見て嘆き、絶望する下級兵や民達で溢れている。

 「糞! うぉ……? はは……俺も限界か……よ」

 次第に俺の目の前は真っ暗になり、意識を途絶えてしまった。
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