真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第129話 それゆけアズキの一人旅

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 ◆破壊王 アズキ side◆

 「あーあ、まぁ清々したよ」

 街を歩きながら愚痴るのは、クウネルと同郷にして元クラスメイトの新井小豆あらいあずきだ。 聖王国をとある理由から追放され、気ままの一人旅をしている真っ最中である。

 アズキの容姿は長く伸ばした黒髪に、キツイ目付きのスケバンヤンキーだ。 そんなキツめの見た目から、地球でもオリジンでも友達と素直に呼べる存在は少なかった。

 オリジンに召喚される前から基本的に一匹狼だったアズキからすると、特に気にする事では無いのだが唯一の気掛かりは置いてきた数少ない友達の事である。

 趣味だったネットゲームで付き合いのある光香みかと会えなくなり、これからミカがどんな目に遭うのかだけが心配だった。
 
 「コジロウが居るし……平気だよな。 まぁ、心配しても仕方ねぇか!」

 現在アズキは、聖王国から東南にある巨大な商業国家である商人連合国で日銭を稼いで暮らしていた。

 聖王国の宝物庫から盗んだ金銀財宝は残念ながら街に入る時に税として払わされ、飯やら宿代も払わされ、見た目だけは格好いい装備やらを整えるのに全て使ってしまったのだ。

 一瞬で無一文になったアズキは頭を抱える。

 「やっぱりおかしいぜ! かなりの大金を持ってた筈なのに……まさか、私の気付かない内に盗まれたのか!? いや……待てよ? 確かに……私が使ったな。 まぁ……仕方ねぇよな。 巨大な街に入ると、直ぐにデカイ冒険者ギルドがあったんだぞ?! そんなの装備を整えて冒険者になるに決まってるじゃねぇか!!」

 街中で独り言を呟くアズキをすれ違う人々は遠巻きに見ていた。 アズキの独り言が怖い訳では無い。 アズキはこの街に来てから、何度も喧嘩をし店や宿屋を破壊しているのだ。

 ある意味、触らぬ神に祟りなし状態なのだが当のアズキが気付く事は無い。

 「へんっ、もしこの場にミカと……くうの奴が居たらオンラインゲームみたいだ! って、3人ではしゃいでたのにな。 いや、クウは無理だな。 ……アイツ、元の世界で元気にやってんのかな」

 召喚された白い空間にクウも居たのだが、アズキは気付いて居なかった。 遠い地球での少ない友の事を思い出し、アズキは微笑む。

 「折角、同じ高校のクラスメイトになったのに全然喋らないし、話し掛けても無視だったけな。 オンラインゲームのチャットだと滅茶苦茶喋る変な奴だったよな~。 いっつも何か食ってたし」

 アズキは目的地に到着し、真っ青な空を見上げて伸びをした。
 
 「くぅー! まぁ、此方に来てねぇんだ、きっと元気にしてるだろ。 考えても仕方ねぇ! よっしゃ、今日も稼ぎますかね!」

 冒険者ギルドの入り口を両手で開けて入る。

 ギルドの中は、丸いテーブルが幾つもあって奥には受付カウンターがある。

 「うんうん、正に冒険者ギルド! 右端にはクエストボード! くぅーー! たまんねぇ!」

 荒くれ者が多い冒険者ギルドだが、誰一人としてアズキには絡まない。 既に絡んで、多くの犠牲者が出ているからだ。

 「またこの扉もそれっぽくて良いんだよなぁ。 こう、ウエスタンにある酒場みたいなこの扉! かっけぇぇぇ!!」

 「おい、アズキ! また扉壊したら弁償させるからな!」

 アズキがギイギイと扉で遊んでいると、野太い声が制止した。

 「あぁん!? うるせぇっ! 今、私は楽しんでんだよ! 髭モジャ野郎! 殺すぞ?!」

 野太い声の主は、頭はツルツルだが茶色の髭を大量に生やした大男だ。 綺麗な青い瞳が更にアズキを苛立させる。

 「はぁぁぁ!? てめぇ、数日前に初めてギルドに来た時に速攻で扉壊しただろうが! 金がねぇなら止めろ! 後、俺の事はギルドマスターと呼べっつただろ! っていうか、ギルマスを殺すな!」

 入り口付近でギャアギャアと騒いでいるアズキと、ギルドマスターのやり取りを受付嬢と他の冒険者達は苦笑いで見物していた。

 「お、おいリサちゃん。 止めなくてもいいのか?」

 1人の冒険者が恐る恐る、受付嬢に呼び掛けた。

 「ふふっ、ご冗談を。 ここ最近毎日の事です。 どうせ、直ぐに殴り合いになってギルマス気絶コースですよ。 今近付いたら死にますよ?」

 ニッコリスマイルで恐ろしい事を言うのは、ギルドで受付嬢をしているリサだ。

 綺麗な茶髪に、綺麗な青い瞳。 受付嬢専用に改良されたメイドが着るような衣服を身に纏っており、このギルドで人気NO.1の受付嬢である。

 冒険者以外のファンも多い。

 「ぐぉぉぉっ!?」

 すると、リサの発言通り受付のカウンターに吹き飛んできたギルマスが激突し気絶した。 先程、リサに話し掛けて来た冒険者の直ぐ隣の出来事でありその冒険者は腰を抜かしてしまう。

 「ひっ! ひぃぃぃ!」

 「ね? 直ぐに終わったでしょう? さて、すみませんがギルマスを2階の部屋に運んで下さいますか?」

 「お、おう! 任せてくれ! おい、誰か! 手を貸してくれ!!」

 冒険者の仲間なのか、数人の男達が駆けつけてギルマスを2階へと運搬して行った。

 「ふー、やれやれ。朝からあの髭モジャは目に悪いな。 リサっちおはよー! 今日も元気に労働しにきたぜぇ~」

 アズキがニコニコと笑いながら受付に座ると、顔見知りになった受付嬢のリサがニッコリと笑って口を開いた。

 「おはようございます、アズキさん。 先程の喧嘩で、扉破損銀貨30枚。 丸テーブルと椅子破損で金貨2枚、受付カウンターにひび割れ金貨1枚、これでアズキさんの借金は金貨13枚と銀貨80枚です」

 「あはは……また、借金増えちまった。 ――って、いやいや!  さっきのは私は悪くねぇだろ!? あの髭モジャが喧嘩売って来たんだぞ?! そりゃ買うだろ!」

 「買ったらダメですよ。 それに、ギルマスはアズキさんを注意しただけです。 先程の喧嘩も無抵抗だった筈ですが?」

 ニッコリと笑うリサの笑顔には問答無用の迫力があった。

 「うぐ、ち、ちくしょー! わ、分かったよ! でも、今は金はねぇ! だから、なんか割りの良いクエスト無いかな?」

 「はぁー……だからですね、アズキさん。 昨日も、一昨日も、初めてギルドに登録した時も言いましたが貴女は冒険者として一番下の鉄ランク何ですよ!? 割りの良いクエストは鉄ランクには有りません! 地道に採取クエストや探し物クエストをしてください!」

 バンッ! バンッ! バンッ!!

 リサは怒りの余りにカウンターを叩き始めた。 

 「リサっち、ストレスでも溜まってんの? ストレスは溜めたらだめだよー? あ、そうだリサっち~。 冒険者のランクをもう1回説明してくんね? 忘れちった!」

 バァァァァァンッ!

 「あれ? リサっち……笑顔が怖いぞ? 何でだ??」

 「はぁぁぁぁ……いいです。 冒険者の疑問に答えるのも私の仕事ですから。 ですが、良いですか? これが最後なので、よく聞いてて下さいね?」

 ニッッッッッコリと笑うリサのこめかみには青筋が浮かんでいる。

 「う……うっす」

 ――冒険者ギルドランク別。

 冒険者にはランクが存在する。
 鉄 最下位のランク、クエストの報酬も雀の涙。
 銅 下から2番のランク、新人卒業に値するランク。
 銀 中堅ランクであり、1番人数の多いランク。
 金 ベテランのランク、人数も少なく実力者が多い。
 白金 達人、超人、英雄と呼ばれるランク。人数は極めて少ない。 大きな国に、1パーティー程しか存在しない程である。

 (ふーん、カズキや皆は白金ぐらいの実力かね? まぁ、私は興味ねぇんだけどね)

 「後は……どうせ貨幣の価値も聞いてくるんですよね? なら、もう説明しちゃいますね」

 鉄貨 10枚で銅貨1枚程の価値。
 銅貨 100枚で銀貨1枚程の価値。
 銀貨 1000枚で金貨1枚程の価値。
 金貨 10000枚で白金貨1枚程の価値。
 白金 1枚で金貨10000枚程の価値、ただし使ってるのはそれこそ王族や貴族、大商人ぐらい。

 (ほーん、鉄が一円玉、銅が十円玉、銀が百円玉、金が千円、白金が1万円ってこったな! 分かった! ん? いや……うん、多分間違ってねぇ!)

 ――と、まぁ説明は以上ですが……何ですかその顔は。 本当に聞いてましたか?」

 リサはジト目でアズキを睨むが、残念ながらアズキに理解力を期待するのは厳しい。

 「おうっ! センキュー! で、採取クエストは報酬幾らだ? 銀貨数十枚って所か?」

 アズキのふざけた言葉に、リサの血管がブチブチと切れる音が聞こえた。

 「あれ? リサっちから笑顔が消えたぞ? なんだ腹でも痛いのか? さっさとトイレ行ってこいよ」

 デリカシーの欠片もないアズキに完全にリサはぶち切れた。

 「あのですね?! 採取クエストの報酬は、鉄貨10枚です! 昨日も、一昨日も言いましたよね!? 説明しましたよね!? 私!! 」

 「えぇ!? 採取クエストの報酬10円って事ぉ!? やっっっす! やってられっか、そんなクエスト!!」

 「何ですか、その10円って! だから、鉄貨10枚です! 他には有りません! つべこべ言わず行く! アズキさん、借金まみれなんですよ?! 分かってますか!? はい、もう行った行ったーー! ありがとうございましたー!!」

 「ちぇっ、仕方ねぇか。 やるかぁ……。 またね、リサつまち~」

 アズキは皮に書かれたクエストの内容を確認しながら、ギルドを後にするのだった。

 「ふー、やっと初クエストに行ってくれましたね。 白金だったお父さんを簡単に気絶させれる実力者何ですから、さっさと上のランクに上がって欲しいものです。 あ、すみません。 次の方どうぞー!」

 アズキを見送ったリサも、受付の仕事に戻るのであった。
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