真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

文字の大きさ
141 / 247

第137話 ゴブリンシャーマンの戦い

しおりを挟む
 ゴブリンシャーマンの意識が戻った時には、先に避難していたゴブリン達に追い付いた所であった。

 (隊長の足がそんなに早かったのかと思ったが、どうやら違うみたいだねぇ……こりゃ、大事になりそうだ)

 王都へと向かう道なき道には、凄まじい数のゴブリン達が行列を作っていた。 恐らく、ゴブリンシャーマン達と同じく王都に向けて避難しているのだろう。

 つまり、それは全ての村や町が同じ様に魔物の襲撃を受けた事を示していた。

 「ギガ……なるほどねぇ、隊長が私を背負って追い付けた筈だねぇ」

 「ギ! 婆さん、目が覚めたか? やれやれ、安心したぜ」

 隊長の背中で周囲を見渡していると、ゴブリンシャーマンが知った顔の老ゴブリンがバスターソードを曲がった背中に担いで此方へとやって来た。

 「ギガガ! シャーマンの婆さん無事じゃったか! 聞いたぞ、お前さんの村も襲われたんじゃって?」

 話し掛けて来たのは、村や町の族長を束ねる長老だ。 数千匹のゴブリンが住む巨大な町を治めていた筈だが、この様子なら守り切れなかったのだろう。

 「ギ、そっちも大変だったみたいだね。 ……将軍」

 年老いたゴブリンはゴブリンシャーマンの言葉に、気恥ずかしそうに笑った。

 そう、この年老いたゴブリンは大昔ゴブリンシャーマンの上司でありゴブリン王国歴代最強の将軍だったのだ。

 多くの戦いを共に生き抜き、多くの共通の友を失った。 ゴブリンシャーマンの全盛期を知る、数少ないゴブリンである。

 「ギガ! ほっほっほ、昔の呼び方はやめてくれ、皆殺しのシャーマン。 もう、大昔の話じゃ。 それより、そっちの村は何が出た? 儂の町には、大猪の大群が押し寄せて来よった」

 「ギギ、ふん! そっちも止めとくれ。 その異名は嫌いなのさ。 こっちは、マンティスの大群さ。 まぁ、殆ど焼き殺したけどね」

 笑うゴブリンシャーマンを見て、長老は笑う。

 「ギガガ! さすがだな、昔を思い出すわい。 どれ、これから他の族長達や兵士達と追っ手を迎え撃つんじゃが一緒にどうじゃ?」

 「ギギィ、はぁ……本当に血気盛んなのは年老いても変わらないね。 じゃあ、ずっと黙り込んでる隊長。 そろそろ降ろしておくれ」

 ゴブリンシャーマンが長老と話し込んでる間、背負ったままずっと固まっている隊長の頭を叩く。

 「ガ!? いや、いやいや婆さん! この方がどなたか分かってるのか?! 全ての族長を束ねる長老にして、歴代最強の将軍と呼ばれた方だぞ!? 何で、婆さんは普通に話してんだよ!」

 何やら慌てる隊長の頭を小突き、早く降ろせとせがむ。 そんな様子を長老は髭を撫でながら微笑んでいた。

 「ギガガ! なんじゃ、自分の村の隊長には何も教えてやらなんだのか?」

 「ギギ、平和な村だったからね。 態々、話す事でもないさ。 ほら、さっさと降ろしな!」

 「ギギッ?! いてぇ! ……分かったよ。 でも、なんかあったら直ぐに背負って逃げるからな?」

 隊長は渋々ゴブリンシャーマンを降ろした。

 「ギ? ありゃ、私の杖を村に置いてきちまったね。 隊長、取りに戻れるかい?」

 「ギガ!? 戻れるわけゃねぇだろ! なにふざけた事言ってんだよ婆さん!」

 「ギギ、やれやれ、じゃあまた後で隊長におぶってもらおうかね。 ほれ! さっさと仕事しな! 魔物達を迎え撃つよ!」

 ゴブリンシャーマンは隊長の尻を蹴飛ばして兵士達に迎撃の準備を始めさせる。 そして、周囲を見渡してため息を吐いた。

 「ギガァ……さて、周りは草原。 まだ幾つか森を抜けないと、王都近くの草原には出れないね。 やれやれ、魔法を後何発打てるかも分からん婆さんをこき使うとは……容赦ない元上司だよ」

 文句を言いながら、ゴブリンシャーマンは長老の下へと歩き出した。

 ◆◇◆


 迎え撃つ為の準備を始めて数時間が経過し、森が騒がしくなってきた。

 草原から見える後方の森全てがざわめく。

 「ギヌ……迎え撃てるゴブリン兵士達の数は3000匹ぐらいさね。 それなりに多いが魔物の数を思うとちょっと不安だねぇ……」

 避難しているゴブリン達を護衛するのに全兵士の半分である3000匹を割いている為、いくら劣勢でも仕方無いのだ。

 「ギガガ! ほっほっほっ、またこうしてお前達と並んで戦うとはの! 長く生きると面白い事が起こるわい!」

  3000匹の兵士達の先頭で大笑いしているのは、もう現役をとうに退いた筈の長老だ。

 曲がった腰でどうやって振るうつもりなのか、現役時代に愛用していたバスターソードを杖代わりにしている。

 「ギィギィ……私はもう嫌だったんだけどね。 元将軍の長老様はゴブリン使いが荒いからねぇ」

 長老にゴブリンシャーマンが嫌味を言うと、他の族長達は大笑いする。

 兵士達の前方に横並びで立つゴブリンシャーマンを含めた族長は合計で10人、村や町を治めていた族長は全員戦友だ。

 この族長達が前線で兵士達の盾となり、敵を打ち砕く矛となるのだ。

 「「「「「「「「ギシャァ!」」」」」」」

  「「「「「「「ブルフフフ!」」」」」」」」

 「「「「「「「「キチキチ!」」」」」」」」

  「「「「「「「「シャァァ!」」」」」」」」

 森から魔物達の鳴き声が響き、一斉に飛び出して来た。 瞬く間に草原を埋め尽くす程の魔物達が陣営を組んでいるゴブリン達に向けて駆ける。

 その光景に、訓練されているゴブリン兵士達は身体を震わし逃げ出したい欲求に駆られていた。

 「ギヌ、数は……こっちの倍ぐらいかね? なら、大した事ないじゃないか」

 向かってくる魔物は4種類。

 ビックアント、巨大な蟻で大きな顎に挟まれたら即死だ。

 ビックボア、長老の大きな町を攻め落とした大猪。 デカイ図体からは想像出来ない程に足が速い。

 シックスハンドマンティス、ゴブリンシャーマンの村を襲った魔物。 ゴブリンシャーマンが数を減らした筈だが、向かってくるマンティスの数は更に増えていた。

 ポイズンスネーク、遅効性の毒を持つ蛇。 戦闘力も、牙にある毒もそこまで危険では無いが数が1番多い。

 ゴブリンシャーマンは魔物の種類を見極め、使うべき魔法を見極めていた。

 「ギガ! さぁ、兵士達よ! 王都に向かう民達を守り抜いてみせよ! 友を守り抜いてみせよ! 自分自身の命を守り抜いてみせよ! 行くぞぉ!! 突撃ぃぃぃぃ!」

 「「「「「「ギガガ! うぉぉぉ!」」」」」」

 長老と数名の族長達を先頭にゴブリン兵士達が魔物を迎え撃つ。

 「ギ! 私らもやるかね……さて、私に合わせな! サンダーレイン!」

 「「「「「サンダーボルト!」」」」」

 魔法の使用できる族長や兵士達を集めて、一斉に魔法を放った。 標的は後方で渋滞を起こしている魔物達だ。

 魔物達の前線は長老達が押し止めたおかげで、後方にはみっちりと魔物が詰まっている。

 そして、其処に凄まじい雷の雨が降り注いだ。

 「「「「「ギギャァァァァァ!!!」」」」」

 様々な魔物達の断末魔が響き渡る。

 「ギヌゥ……やっぱりまだ完全には回復してないねぇ。 それに杖が無いと腰にくるったらありゃしない」

 ゴブリンシャーマンは、虚脱感を感じながらも視線だけは前線から外さない。

 前線では、長老達が奮戦していた。 曲がった腰で器用にバスターソードを振り回し、素早い動きでマンティスを真っ二つにしていた。

 「ギギ……やれやれ、年老いても化け物だね。 さて、こっちもまだまだ頑張るとしようか」

 「ギガァァ! 放てぇぇぇぇ!」

 ゴブリンシャーマン達の後ろでは、弓が得意な族長と隊長や弓兵達か矢の雨を浴びせ始めた。

 これにより、前線は長老達が抑えその間に魔法と弓矢の交代で後方から魔物の数を減らす作戦が成立したのだ。

 作戦としては中々好調なスタートと云えるだろう。

 長老達のおかげで、まだ前線の兵士達に負傷者は出ても死者は出ていない。 

 「ギギ……このまま押さえ込めたら、死者も出ずに済むかもねぇ。 まぁ、戦いはそんなに甘くはないがね」

 ゴブリンシャーマンは呟き、再度魔力を練り始めるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...