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第137話 ゴブリンシャーマンの戦い
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ゴブリンシャーマンの意識が戻った時には、先に避難していたゴブリン達に追い付いた所であった。
(隊長の足がそんなに早かったのかと思ったが、どうやら違うみたいだねぇ……こりゃ、大事になりそうだ)
王都へと向かう道なき道には、凄まじい数のゴブリン達が行列を作っていた。 恐らく、ゴブリンシャーマン達と同じく王都に向けて避難しているのだろう。
つまり、それは全ての村や町が同じ様に魔物の襲撃を受けた事を示していた。
「ギガ……なるほどねぇ、隊長が私を背負って追い付けた筈だねぇ」
「ギ! 婆さん、目が覚めたか? やれやれ、安心したぜ」
隊長の背中で周囲を見渡していると、ゴブリンシャーマンが知った顔の老ゴブリンがバスターソードを曲がった背中に担いで此方へとやって来た。
「ギガガ! シャーマンの婆さん無事じゃったか! 聞いたぞ、お前さんの村も襲われたんじゃって?」
話し掛けて来たのは、村や町の族長を束ねる長老だ。 数千匹のゴブリンが住む巨大な町を治めていた筈だが、この様子なら守り切れなかったのだろう。
「ギ、そっちも大変だったみたいだね。 ……将軍」
年老いたゴブリンはゴブリンシャーマンの言葉に、気恥ずかしそうに笑った。
そう、この年老いたゴブリンは大昔ゴブリンシャーマンの上司でありゴブリン王国歴代最強の将軍だったのだ。
多くの戦いを共に生き抜き、多くの共通の友を失った。 ゴブリンシャーマンの全盛期を知る、数少ないゴブリンである。
「ギガ! ほっほっほ、昔の呼び方はやめてくれ、皆殺しのシャーマン。 もう、大昔の話じゃ。 それより、そっちの村は何が出た? 儂の町には、大猪の大群が押し寄せて来よった」
「ギギ、ふん! そっちも止めとくれ。 その異名は嫌いなのさ。 こっちは、マンティスの大群さ。 まぁ、殆ど焼き殺したけどね」
笑うゴブリンシャーマンを見て、長老は笑う。
「ギガガ! さすがだな、昔を思い出すわい。 どれ、これから他の族長達や兵士達と追っ手を迎え撃つんじゃが一緒にどうじゃ?」
「ギギィ、はぁ……本当に血気盛んなのは年老いても変わらないね。 じゃあ、ずっと黙り込んでる隊長。 そろそろ降ろしておくれ」
ゴブリンシャーマンが長老と話し込んでる間、背負ったままずっと固まっている隊長の頭を叩く。
「ガ!? いや、いやいや婆さん! この方がどなたか分かってるのか?! 全ての族長を束ねる長老にして、歴代最強の将軍と呼ばれた方だぞ!? 何で、婆さんは普通に話してんだよ!」
何やら慌てる隊長の頭を小突き、早く降ろせとせがむ。 そんな様子を長老は髭を撫でながら微笑んでいた。
「ギガガ! なんじゃ、自分の村の隊長には何も教えてやらなんだのか?」
「ギギ、平和な村だったからね。 態々、話す事でもないさ。 ほら、さっさと降ろしな!」
「ギギッ?! いてぇ! ……分かったよ。 でも、なんかあったら直ぐに背負って逃げるからな?」
隊長は渋々ゴブリンシャーマンを降ろした。
「ギ? ありゃ、私の杖を村に置いてきちまったね。 隊長、取りに戻れるかい?」
「ギガ!? 戻れるわけゃねぇだろ! なにふざけた事言ってんだよ婆さん!」
「ギギ、やれやれ、じゃあまた後で隊長におぶってもらおうかね。 ほれ! さっさと仕事しな! 魔物達を迎え撃つよ!」
ゴブリンシャーマンは隊長の尻を蹴飛ばして兵士達に迎撃の準備を始めさせる。 そして、周囲を見渡してため息を吐いた。
「ギガァ……さて、周りは草原。 まだ幾つか森を抜けないと、王都近くの草原には出れないね。 やれやれ、魔法を後何発打てるかも分からん婆さんをこき使うとは……容赦ない元上司だよ」
文句を言いながら、ゴブリンシャーマンは長老の下へと歩き出した。
◆◇◆
迎え撃つ為の準備を始めて数時間が経過し、森が騒がしくなってきた。
草原から見える後方の森全てがざわめく。
「ギヌ……迎え撃てるゴブリン兵士達の数は3000匹ぐらいさね。 それなりに多いが魔物の数を思うとちょっと不安だねぇ……」
避難しているゴブリン達を護衛するのに全兵士の半分である3000匹を割いている為、いくら劣勢でも仕方無いのだ。
「ギガガ! ほっほっほっ、またこうしてお前達と並んで戦うとはの! 長く生きると面白い事が起こるわい!」
3000匹の兵士達の先頭で大笑いしているのは、もう現役をとうに退いた筈の長老だ。
曲がった腰でどうやって振るうつもりなのか、現役時代に愛用していたバスターソードを杖代わりにしている。
「ギィギィ……私はもう嫌だったんだけどね。 元将軍の長老様はゴブリン使いが荒いからねぇ」
長老にゴブリンシャーマンが嫌味を言うと、他の族長達は大笑いする。
兵士達の前方に横並びで立つゴブリンシャーマンを含めた族長は合計で10人、村や町を治めていた族長は全員戦友だ。
この族長達が前線で兵士達の盾となり、敵を打ち砕く矛となるのだ。
「「「「「「「「ギシャァ!」」」」」」」
「「「「「「「ブルフフフ!」」」」」」」」
「「「「「「「「キチキチ!」」」」」」」」
「「「「「「「「シャァァ!」」」」」」」」
森から魔物達の鳴き声が響き、一斉に飛び出して来た。 瞬く間に草原を埋め尽くす程の魔物達が陣営を組んでいるゴブリン達に向けて駆ける。
その光景に、訓練されているゴブリン兵士達は身体を震わし逃げ出したい欲求に駆られていた。
「ギヌ、数は……こっちの倍ぐらいかね? なら、大した事ないじゃないか」
向かってくる魔物は4種類。
ビックアント、巨大な蟻で大きな顎に挟まれたら即死だ。
ビックボア、長老の大きな町を攻め落とした大猪。 デカイ図体からは想像出来ない程に足が速い。
シックスハンドマンティス、ゴブリンシャーマンの村を襲った魔物。 ゴブリンシャーマンが数を減らした筈だが、向かってくるマンティスの数は更に増えていた。
ポイズンスネーク、遅効性の毒を持つ蛇。 戦闘力も、牙にある毒もそこまで危険では無いが数が1番多い。
ゴブリンシャーマンは魔物の種類を見極め、使うべき魔法を見極めていた。
「ギガ! さぁ、兵士達よ! 王都に向かう民達を守り抜いてみせよ! 友を守り抜いてみせよ! 自分自身の命を守り抜いてみせよ! 行くぞぉ!! 突撃ぃぃぃぃ!」
「「「「「「ギガガ! うぉぉぉ!」」」」」」
長老と数名の族長達を先頭にゴブリン兵士達が魔物を迎え撃つ。
「ギ! 私らもやるかね……さて、私に合わせな! サンダーレイン!」
「「「「「サンダーボルト!」」」」」
魔法の使用できる族長や兵士達を集めて、一斉に魔法を放った。 標的は後方で渋滞を起こしている魔物達だ。
魔物達の前線は長老達が押し止めたおかげで、後方にはみっちりと魔物が詰まっている。
そして、其処に凄まじい雷の雨が降り注いだ。
「「「「「ギギャァァァァァ!!!」」」」」
様々な魔物達の断末魔が響き渡る。
「ギヌゥ……やっぱりまだ完全には回復してないねぇ。 それに杖が無いと腰にくるったらありゃしない」
ゴブリンシャーマンは、虚脱感を感じながらも視線だけは前線から外さない。
前線では、長老達が奮戦していた。 曲がった腰で器用にバスターソードを振り回し、素早い動きでマンティスを真っ二つにしていた。
「ギギ……やれやれ、年老いても化け物だね。 さて、こっちもまだまだ頑張るとしようか」
「ギガァァ! 放てぇぇぇぇ!」
ゴブリンシャーマン達の後ろでは、弓が得意な族長と隊長や弓兵達か矢の雨を浴びせ始めた。
これにより、前線は長老達が抑えその間に魔法と弓矢の交代で後方から魔物の数を減らす作戦が成立したのだ。
作戦としては中々好調なスタートと云えるだろう。
長老達のおかげで、まだ前線の兵士達に負傷者は出ても死者は出ていない。
「ギギ……このまま押さえ込めたら、死者も出ずに済むかもねぇ。 まぁ、戦いはそんなに甘くはないがね」
ゴブリンシャーマンは呟き、再度魔力を練り始めるのであった。
(隊長の足がそんなに早かったのかと思ったが、どうやら違うみたいだねぇ……こりゃ、大事になりそうだ)
王都へと向かう道なき道には、凄まじい数のゴブリン達が行列を作っていた。 恐らく、ゴブリンシャーマン達と同じく王都に向けて避難しているのだろう。
つまり、それは全ての村や町が同じ様に魔物の襲撃を受けた事を示していた。
「ギガ……なるほどねぇ、隊長が私を背負って追い付けた筈だねぇ」
「ギ! 婆さん、目が覚めたか? やれやれ、安心したぜ」
隊長の背中で周囲を見渡していると、ゴブリンシャーマンが知った顔の老ゴブリンがバスターソードを曲がった背中に担いで此方へとやって来た。
「ギガガ! シャーマンの婆さん無事じゃったか! 聞いたぞ、お前さんの村も襲われたんじゃって?」
話し掛けて来たのは、村や町の族長を束ねる長老だ。 数千匹のゴブリンが住む巨大な町を治めていた筈だが、この様子なら守り切れなかったのだろう。
「ギ、そっちも大変だったみたいだね。 ……将軍」
年老いたゴブリンはゴブリンシャーマンの言葉に、気恥ずかしそうに笑った。
そう、この年老いたゴブリンは大昔ゴブリンシャーマンの上司でありゴブリン王国歴代最強の将軍だったのだ。
多くの戦いを共に生き抜き、多くの共通の友を失った。 ゴブリンシャーマンの全盛期を知る、数少ないゴブリンである。
「ギガ! ほっほっほ、昔の呼び方はやめてくれ、皆殺しのシャーマン。 もう、大昔の話じゃ。 それより、そっちの村は何が出た? 儂の町には、大猪の大群が押し寄せて来よった」
「ギギ、ふん! そっちも止めとくれ。 その異名は嫌いなのさ。 こっちは、マンティスの大群さ。 まぁ、殆ど焼き殺したけどね」
笑うゴブリンシャーマンを見て、長老は笑う。
「ギガガ! さすがだな、昔を思い出すわい。 どれ、これから他の族長達や兵士達と追っ手を迎え撃つんじゃが一緒にどうじゃ?」
「ギギィ、はぁ……本当に血気盛んなのは年老いても変わらないね。 じゃあ、ずっと黙り込んでる隊長。 そろそろ降ろしておくれ」
ゴブリンシャーマンが長老と話し込んでる間、背負ったままずっと固まっている隊長の頭を叩く。
「ガ!? いや、いやいや婆さん! この方がどなたか分かってるのか?! 全ての族長を束ねる長老にして、歴代最強の将軍と呼ばれた方だぞ!? 何で、婆さんは普通に話してんだよ!」
何やら慌てる隊長の頭を小突き、早く降ろせとせがむ。 そんな様子を長老は髭を撫でながら微笑んでいた。
「ギガガ! なんじゃ、自分の村の隊長には何も教えてやらなんだのか?」
「ギギ、平和な村だったからね。 態々、話す事でもないさ。 ほら、さっさと降ろしな!」
「ギギッ?! いてぇ! ……分かったよ。 でも、なんかあったら直ぐに背負って逃げるからな?」
隊長は渋々ゴブリンシャーマンを降ろした。
「ギ? ありゃ、私の杖を村に置いてきちまったね。 隊長、取りに戻れるかい?」
「ギガ!? 戻れるわけゃねぇだろ! なにふざけた事言ってんだよ婆さん!」
「ギギ、やれやれ、じゃあまた後で隊長におぶってもらおうかね。 ほれ! さっさと仕事しな! 魔物達を迎え撃つよ!」
ゴブリンシャーマンは隊長の尻を蹴飛ばして兵士達に迎撃の準備を始めさせる。 そして、周囲を見渡してため息を吐いた。
「ギガァ……さて、周りは草原。 まだ幾つか森を抜けないと、王都近くの草原には出れないね。 やれやれ、魔法を後何発打てるかも分からん婆さんをこき使うとは……容赦ない元上司だよ」
文句を言いながら、ゴブリンシャーマンは長老の下へと歩き出した。
◆◇◆
迎え撃つ為の準備を始めて数時間が経過し、森が騒がしくなってきた。
草原から見える後方の森全てがざわめく。
「ギヌ……迎え撃てるゴブリン兵士達の数は3000匹ぐらいさね。 それなりに多いが魔物の数を思うとちょっと不安だねぇ……」
避難しているゴブリン達を護衛するのに全兵士の半分である3000匹を割いている為、いくら劣勢でも仕方無いのだ。
「ギガガ! ほっほっほっ、またこうしてお前達と並んで戦うとはの! 長く生きると面白い事が起こるわい!」
3000匹の兵士達の先頭で大笑いしているのは、もう現役をとうに退いた筈の長老だ。
曲がった腰でどうやって振るうつもりなのか、現役時代に愛用していたバスターソードを杖代わりにしている。
「ギィギィ……私はもう嫌だったんだけどね。 元将軍の長老様はゴブリン使いが荒いからねぇ」
長老にゴブリンシャーマンが嫌味を言うと、他の族長達は大笑いする。
兵士達の前方に横並びで立つゴブリンシャーマンを含めた族長は合計で10人、村や町を治めていた族長は全員戦友だ。
この族長達が前線で兵士達の盾となり、敵を打ち砕く矛となるのだ。
「「「「「「「「ギシャァ!」」」」」」」
「「「「「「「ブルフフフ!」」」」」」」」
「「「「「「「「キチキチ!」」」」」」」」
「「「「「「「「シャァァ!」」」」」」」」
森から魔物達の鳴き声が響き、一斉に飛び出して来た。 瞬く間に草原を埋め尽くす程の魔物達が陣営を組んでいるゴブリン達に向けて駆ける。
その光景に、訓練されているゴブリン兵士達は身体を震わし逃げ出したい欲求に駆られていた。
「ギヌ、数は……こっちの倍ぐらいかね? なら、大した事ないじゃないか」
向かってくる魔物は4種類。
ビックアント、巨大な蟻で大きな顎に挟まれたら即死だ。
ビックボア、長老の大きな町を攻め落とした大猪。 デカイ図体からは想像出来ない程に足が速い。
シックスハンドマンティス、ゴブリンシャーマンの村を襲った魔物。 ゴブリンシャーマンが数を減らした筈だが、向かってくるマンティスの数は更に増えていた。
ポイズンスネーク、遅効性の毒を持つ蛇。 戦闘力も、牙にある毒もそこまで危険では無いが数が1番多い。
ゴブリンシャーマンは魔物の種類を見極め、使うべき魔法を見極めていた。
「ギガ! さぁ、兵士達よ! 王都に向かう民達を守り抜いてみせよ! 友を守り抜いてみせよ! 自分自身の命を守り抜いてみせよ! 行くぞぉ!! 突撃ぃぃぃぃ!」
「「「「「「ギガガ! うぉぉぉ!」」」」」」
長老と数名の族長達を先頭にゴブリン兵士達が魔物を迎え撃つ。
「ギ! 私らもやるかね……さて、私に合わせな! サンダーレイン!」
「「「「「サンダーボルト!」」」」」
魔法の使用できる族長や兵士達を集めて、一斉に魔法を放った。 標的は後方で渋滞を起こしている魔物達だ。
魔物達の前線は長老達が押し止めたおかげで、後方にはみっちりと魔物が詰まっている。
そして、其処に凄まじい雷の雨が降り注いだ。
「「「「「ギギャァァァァァ!!!」」」」」
様々な魔物達の断末魔が響き渡る。
「ギヌゥ……やっぱりまだ完全には回復してないねぇ。 それに杖が無いと腰にくるったらありゃしない」
ゴブリンシャーマンは、虚脱感を感じながらも視線だけは前線から外さない。
前線では、長老達が奮戦していた。 曲がった腰で器用にバスターソードを振り回し、素早い動きでマンティスを真っ二つにしていた。
「ギギ……やれやれ、年老いても化け物だね。 さて、こっちもまだまだ頑張るとしようか」
「ギガァァ! 放てぇぇぇぇ!」
ゴブリンシャーマン達の後ろでは、弓が得意な族長と隊長や弓兵達か矢の雨を浴びせ始めた。
これにより、前線は長老達が抑えその間に魔法と弓矢の交代で後方から魔物の数を減らす作戦が成立したのだ。
作戦としては中々好調なスタートと云えるだろう。
長老達のおかげで、まだ前線の兵士達に負傷者は出ても死者は出ていない。
「ギギ……このまま押さえ込めたら、死者も出ずに済むかもねぇ。 まぁ、戦いはそんなに甘くはないがね」
ゴブリンシャーマンは呟き、再度魔力を練り始めるのであった。
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