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第103話 治療を急げ
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«――警。 クウネル、上位ノ魔物が接近中でス»
袋を回収していたクウネルの脳内に鑑定の警告が響いた。
「げぇ!? そうだった、忘れてた! 」
「ガゥッ! クウネル、瀕死の兵士も居るから早く!」
城壁の上ではモロが急かしており、クウネルは急いで城壁を跨いだ。
「待ってー! えっと、とりあえず治療してから迎え撃つしかないよね。 急げぇぇぇ! 私ぃぃぃぃぃっ!」
石造りの街並みを破壊しない様に注意しながら、クウネルはモロを追いかける。 反対の壊された門側の大通りには家よりも大きな大猪達の死骸が家に突っ込む形でゴロゴロと転がっているのが見えた。
クウネルが守った側の家々は無事だが、それでも反対側の被害を考えると復興にはかなりの時間が掛かるだろう。
「ガァッ! こっちだクウネル! 急いでくれ!」
「ほいほい! 追っかけてるから待ってー! Hey鑑定、上位の魔物はどれくらいで到着する?」
«――解。 速度は緩ヤかナので、10分は猶予有り。 しカし、大軍ヲ引き連レてイマす»
「また大軍!? さっきまで居た魔物達だったら何とかなるけど、違う魔物の大軍だったらしんどいな……いや、まだ10分有るんだ。 怪我人を治療してから考るべ」
「クゥン、此処だクウネル! 早く! 友の命が危ないんだ!」
モロを追いかけて到着した先は、街の中央に建つ王城の前の広場だった。
其処には多くの怪我人が集められており、クウネルがお願いした通りモロが集めてくれたのだろう。 1人1人治療していては日が暮れる程の数だ。 しかも無事な住民や兵士達も中央に集まり、かなりごった返している。
「こりゃ不味いな」
巨大なクウネルに気付いた非戦闘員らしきゴブリン達が悲鳴を上げるが、モロの根回しが良かったのか直ぐに鎮静化された。
モロが駆け寄ったのは、怪我人達の中央に横たわる1匹の大柄なゴブリンだ。
身体中至る所が溶かされていて着ている鎧や服は殆ど判別出来ないが、他のゴブリンの兵士よりは豪華な装飾が施されている事から恐らくあのゴブリンがこの国の王なのだろう。
モロが懸命に揺すってもピクリともしない。
周囲の住民や兵士達、怪我人達ですら自身より王を心配しているのを見るに慕われる王の様だ。
「ガァッ! 友よ! 頼む友よ! 死ぬな!!」
クウネルは慌ててマンドラゴラと治癒の葉を袋から取り出して、薬を作り始める。
「ギイッ!? そ、それは! あの希少なマンドラゴラでは!?」
クウネルの側に居た、弓を持つゴブリンが何やら驚きの声を上げるが今は構っている場合では無い。
「ネバネバが気持ち悪いけど、今は我慢!」
手の平で混ぜ合わせた薬を倒れる王にかけようとしたが、口に入れたほうが効果的な事を思い出しモロに指示をする。
「モロ! 友達の口を開いて! 無理やり薬を突っ込んで飲ませるから」
「クゥン!? そのネバネバを?! あ、あぁ……分かった」
ゴブリン王の口に薬が無理矢理押し込まれ、飲み込んだのを確認した直後、王の欠損していた手足や溶けた身体が再生し始める。 周囲を囲むゴブリン達からは驚きの声が上がった。
「モロの時にも見たけど、やっぱりグロい。 もっと……こう、神秘的に治らないの?」
再生が終わった直後、王の身体が痙攣し大きく咳き込み始めた。 どうやら治療が間に合った様だ。
「ギガ! ゲホゲホッ! ぬぅ……? 私は……いったい。 民は!? 民は無事か!」
身体を起こし、周囲を心配始めるゴブリン王を見て野次馬をしていたゴブリン達から喝采が起きた。
「へ~、意識を取り戻すと同時に住民の心配か。 大柄で凶悪な顔してるけど、きっと良い王様何だろうね~」
「「「「ギガァァァァ! 凄い! 奇跡だー!」」」」
ゴブリン達は王の無事を泣いて喜ぶ。 モロもボロボロと泣いて喜んでいるのが見えた。
「いやー、えがったえがった。 まぁ、まだまだ怪我人は沢山居るんだけどね。 いやいや、其処のゴブリンさん、そんなに万歳したら死ぬよ? 重傷やん」
薬を作成しながら、次の治療へと移る。
「あ~、この感触馴れんわー。 はーい! じゃあ、どんどん治療するからね~。 重傷の人からいくよー?」
薬を作っていると、ボロボロの鉄の鎧を着込んだ大柄なゴブリンがやって来た。 身体は傷だらけで、片腕を失っている。
「ん。 じゃあ、貴方からね」
クウネルが薬をかけようとしたら、何故か地面に頭を打ち付けた。
「えぇ!? 何で? ドMなの?」
「キギ……深く、深く感謝する。 我等の、我等の王を救って下さった事。 魔物達を退けて下さった事、本当に本当に感謝する!」
「……はい? 治療して欲しいんじゃ無いの? えっと……どういたしまして? で、貴方から治療すれば良いのかな?」
「ギガ、い、いえ。 私等では無く、他の者からお願い致す!」
片腕の大柄なゴブリンは重傷の身体を引きずりながら後ろへと下がろうとする。
「えー? いいよ、もう目の前に来たんだから観念しようよ」
片腕の大柄なゴブリンが治療を拒み、他のゴブリンからの治療を頼むと今度は他の怪我人達から将軍を治療してくれと頼まれる。
「あ、この大柄なゴブリンは将軍なのね。 はいはい、ふんふん、あー、なるへそね。 よし!」
一斉に治療の譲り合いが広場で起き収集がつかなくなり始める中、クウネルは黙々と薬を練った。
「うん、こんなもんかな! ええええい! めんどくさい! お前達纏めて治療してやるー! くらええぇぇぇぇ!!」
手の平に並々と作ったクウネル秘伝の薬を、一度に纏めて怪我人全員にぶっかけた。
広場に居たゴブリン達に満遍無くネバネバの薬が降り注ぐ。
「ギガ! いやお前達が先に!」
「「「「「「キギ! いえ、将軍が先に! ……え? ぎゃあぁぁぁぁぁ!」」」」」」
大勢の怪我人達がネバネバに包まれた。
「何やら悲鳴が聞こえたけど、気にしない気にしない。 モロや王様も巻き込んだけど、結果オーライだよね。 だ、だって、モロも怪我してたの知ってるんだからね! べ、別にモロの為にしたわけじゃ無いことも無いんだからね!」
巨大なクウネルが街の真ん中で頬を赤らめていると、脳内に再度鑑定からの警告が響く。
«――警。 クウネル、敵接近中»
「おぉっと! ツンデレしてる場合じゃないわ」
「ギガガガ! 巨躯なる者よ! 助けてくれて感謝する! かたじけない!」
「ん? 何か王様が言ってる? ごめんね、時間無いからまた今度ね。 モロ、また敵が接近してる。 しかも、今度のは上位の魔物らしい。 私が迎え撃つから、無理そうだったら皆を連れて逃げて」
ネバネバの中からモロを指先で摘んで救出し、これから起こる事を伝える。
「ゲホッ! ゲホゲホッ! クウネル!? 待ってくれ! 友達を見捨てたりはしないよ! クウネル!」
袋を空いている場所に下ろして、クウネルは城壁の外へと向かう。
「モロが何やら叫んでるけど、きーこーえーなーいーー! 鑑定さんが態々上位って言うぐらいだもん、強いんでしょ? もし、モロが死んだら絶対に嫌! それぐらいなら、1人で戦う」
クウネルは拳を握り締め、大切な誰かを守る為に命を投げ打った祖父と両親の顔を思い出す。
«――覚。 私モ、共に。 クウネル»
「あはは、うん……そうだね! 頼むよ、相棒!」
1人では無い事にクウネルは少し安堵し、嬉しそうに笑う。
«――了»
覚悟を決めたクウネルは、王国から気配察知に反応が有る方へ走る。
そして、向かいながら気付いた。
「あっれー? ……山が歩いてね?」
王国から暫く離れた草原の先に有る森をなぎ倒しながら、巨大な山がゴブリンの王国に向けて歩いて来るのが見えた。
袋を回収していたクウネルの脳内に鑑定の警告が響いた。
「げぇ!? そうだった、忘れてた! 」
「ガゥッ! クウネル、瀕死の兵士も居るから早く!」
城壁の上ではモロが急かしており、クウネルは急いで城壁を跨いだ。
「待ってー! えっと、とりあえず治療してから迎え撃つしかないよね。 急げぇぇぇ! 私ぃぃぃぃぃっ!」
石造りの街並みを破壊しない様に注意しながら、クウネルはモロを追いかける。 反対の壊された門側の大通りには家よりも大きな大猪達の死骸が家に突っ込む形でゴロゴロと転がっているのが見えた。
クウネルが守った側の家々は無事だが、それでも反対側の被害を考えると復興にはかなりの時間が掛かるだろう。
「ガァッ! こっちだクウネル! 急いでくれ!」
「ほいほい! 追っかけてるから待ってー! Hey鑑定、上位の魔物はどれくらいで到着する?」
«――解。 速度は緩ヤかナので、10分は猶予有り。 しカし、大軍ヲ引き連レてイマす»
「また大軍!? さっきまで居た魔物達だったら何とかなるけど、違う魔物の大軍だったらしんどいな……いや、まだ10分有るんだ。 怪我人を治療してから考るべ」
「クゥン、此処だクウネル! 早く! 友の命が危ないんだ!」
モロを追いかけて到着した先は、街の中央に建つ王城の前の広場だった。
其処には多くの怪我人が集められており、クウネルがお願いした通りモロが集めてくれたのだろう。 1人1人治療していては日が暮れる程の数だ。 しかも無事な住民や兵士達も中央に集まり、かなりごった返している。
「こりゃ不味いな」
巨大なクウネルに気付いた非戦闘員らしきゴブリン達が悲鳴を上げるが、モロの根回しが良かったのか直ぐに鎮静化された。
モロが駆け寄ったのは、怪我人達の中央に横たわる1匹の大柄なゴブリンだ。
身体中至る所が溶かされていて着ている鎧や服は殆ど判別出来ないが、他のゴブリンの兵士よりは豪華な装飾が施されている事から恐らくあのゴブリンがこの国の王なのだろう。
モロが懸命に揺すってもピクリともしない。
周囲の住民や兵士達、怪我人達ですら自身より王を心配しているのを見るに慕われる王の様だ。
「ガァッ! 友よ! 頼む友よ! 死ぬな!!」
クウネルは慌ててマンドラゴラと治癒の葉を袋から取り出して、薬を作り始める。
「ギイッ!? そ、それは! あの希少なマンドラゴラでは!?」
クウネルの側に居た、弓を持つゴブリンが何やら驚きの声を上げるが今は構っている場合では無い。
「ネバネバが気持ち悪いけど、今は我慢!」
手の平で混ぜ合わせた薬を倒れる王にかけようとしたが、口に入れたほうが効果的な事を思い出しモロに指示をする。
「モロ! 友達の口を開いて! 無理やり薬を突っ込んで飲ませるから」
「クゥン!? そのネバネバを?! あ、あぁ……分かった」
ゴブリン王の口に薬が無理矢理押し込まれ、飲み込んだのを確認した直後、王の欠損していた手足や溶けた身体が再生し始める。 周囲を囲むゴブリン達からは驚きの声が上がった。
「モロの時にも見たけど、やっぱりグロい。 もっと……こう、神秘的に治らないの?」
再生が終わった直後、王の身体が痙攣し大きく咳き込み始めた。 どうやら治療が間に合った様だ。
「ギガ! ゲホゲホッ! ぬぅ……? 私は……いったい。 民は!? 民は無事か!」
身体を起こし、周囲を心配始めるゴブリン王を見て野次馬をしていたゴブリン達から喝采が起きた。
「へ~、意識を取り戻すと同時に住民の心配か。 大柄で凶悪な顔してるけど、きっと良い王様何だろうね~」
「「「「ギガァァァァ! 凄い! 奇跡だー!」」」」
ゴブリン達は王の無事を泣いて喜ぶ。 モロもボロボロと泣いて喜んでいるのが見えた。
「いやー、えがったえがった。 まぁ、まだまだ怪我人は沢山居るんだけどね。 いやいや、其処のゴブリンさん、そんなに万歳したら死ぬよ? 重傷やん」
薬を作成しながら、次の治療へと移る。
「あ~、この感触馴れんわー。 はーい! じゃあ、どんどん治療するからね~。 重傷の人からいくよー?」
薬を作っていると、ボロボロの鉄の鎧を着込んだ大柄なゴブリンがやって来た。 身体は傷だらけで、片腕を失っている。
「ん。 じゃあ、貴方からね」
クウネルが薬をかけようとしたら、何故か地面に頭を打ち付けた。
「えぇ!? 何で? ドMなの?」
「キギ……深く、深く感謝する。 我等の、我等の王を救って下さった事。 魔物達を退けて下さった事、本当に本当に感謝する!」
「……はい? 治療して欲しいんじゃ無いの? えっと……どういたしまして? で、貴方から治療すれば良いのかな?」
「ギガ、い、いえ。 私等では無く、他の者からお願い致す!」
片腕の大柄なゴブリンは重傷の身体を引きずりながら後ろへと下がろうとする。
「えー? いいよ、もう目の前に来たんだから観念しようよ」
片腕の大柄なゴブリンが治療を拒み、他のゴブリンからの治療を頼むと今度は他の怪我人達から将軍を治療してくれと頼まれる。
「あ、この大柄なゴブリンは将軍なのね。 はいはい、ふんふん、あー、なるへそね。 よし!」
一斉に治療の譲り合いが広場で起き収集がつかなくなり始める中、クウネルは黙々と薬を練った。
「うん、こんなもんかな! ええええい! めんどくさい! お前達纏めて治療してやるー! くらええぇぇぇぇ!!」
手の平に並々と作ったクウネル秘伝の薬を、一度に纏めて怪我人全員にぶっかけた。
広場に居たゴブリン達に満遍無くネバネバの薬が降り注ぐ。
「ギガ! いやお前達が先に!」
「「「「「「キギ! いえ、将軍が先に! ……え? ぎゃあぁぁぁぁぁ!」」」」」」
大勢の怪我人達がネバネバに包まれた。
「何やら悲鳴が聞こえたけど、気にしない気にしない。 モロや王様も巻き込んだけど、結果オーライだよね。 だ、だって、モロも怪我してたの知ってるんだからね! べ、別にモロの為にしたわけじゃ無いことも無いんだからね!」
巨大なクウネルが街の真ん中で頬を赤らめていると、脳内に再度鑑定からの警告が響く。
«――警。 クウネル、敵接近中»
「おぉっと! ツンデレしてる場合じゃないわ」
「ギガガガ! 巨躯なる者よ! 助けてくれて感謝する! かたじけない!」
「ん? 何か王様が言ってる? ごめんね、時間無いからまた今度ね。 モロ、また敵が接近してる。 しかも、今度のは上位の魔物らしい。 私が迎え撃つから、無理そうだったら皆を連れて逃げて」
ネバネバの中からモロを指先で摘んで救出し、これから起こる事を伝える。
「ゲホッ! ゲホゲホッ! クウネル!? 待ってくれ! 友達を見捨てたりはしないよ! クウネル!」
袋を空いている場所に下ろして、クウネルは城壁の外へと向かう。
「モロが何やら叫んでるけど、きーこーえーなーいーー! 鑑定さんが態々上位って言うぐらいだもん、強いんでしょ? もし、モロが死んだら絶対に嫌! それぐらいなら、1人で戦う」
クウネルは拳を握り締め、大切な誰かを守る為に命を投げ打った祖父と両親の顔を思い出す。
«――覚。 私モ、共に。 クウネル»
「あはは、うん……そうだね! 頼むよ、相棒!」
1人では無い事にクウネルは少し安堵し、嬉しそうに笑う。
«――了»
覚悟を決めたクウネルは、王国から気配察知に反応が有る方へ走る。
そして、向かいながら気付いた。
「あっれー? ……山が歩いてね?」
王国から暫く離れた草原の先に有る森をなぎ倒しながら、巨大な山がゴブリンの王国に向けて歩いて来るのが見えた。
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