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第147話 キュウベイの師匠
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「ん? あ、キュウベイだ」
クウネルが工場を覗き込みながら歩いていると、鍛冶屋の前にキュウベイの姿があった。
「おーい、キュウベイ~! 弓の師匠の所に行ってたんだよね? こんな所でどしたのさ」
キュウベイの側には鍛冶師長のぶっきらぼうなゴブリンと弓を背負った年老いたゴブリンが話し込んでいる。
「あ! クウネルの姉御! おはようございやす、数日も戻れず申し訳ありやせん。 師匠に弛んでると扱かれてまして……」
「んーん、いいよいいよ。 で、そちらが弓の師匠さん?」
覗き込んだクウネルに気付いた年寄りゴブリンは、鋭い目つきでじろりと見上げた。
「ギ……この鼻たれから聞いた。 お前さんが、こいつをこんな姿にしたんじゃな。 ったく……余計な事を」
「あっっれ~~? 何か怒ってます?」
「師匠! 姉御にそんな言い方しないで下せぇ! すいやせん姉御」
キュウベイは死ぬ程焦り、クウネルと師匠の間に割って入って来た。 しかし、クウネルからすると師匠の言う事は最もである。
キュウベイの師匠からしたら、突然弟子がゴブリンとは違う種族に変えられたのだ。 怒るのは当然だろう。
「別にいいよ~。 師匠さんも勝手な事してごめんね」
「ギ? ふんっ……なんでお前さんが謝る。 お前さんがこいつを強くしてくれたんだろ? 儂が腹を立てたのはこの鼻たれにじゃ。 弓の腕が落ちてないか確認したら弓を引くだけで次から次に壊しおって。 こいつ用の大弓を新たに作らにゃならん」
不機嫌そうにキュウベイの師匠は文句を垂れるが、何処か嬉しそうであった。
「あ~なるへそね。 師匠さんは弟子が強くなって喜んでるのか。 ……これでも。 分かりにくっ!! でも良かった! 鍛冶師長さん、必要な素材が有れば言ってね。 代わりに、キュウベイは私の大事な身内なので良い大弓をお願いします」
ぶっきらぼうな鍛冶師長は、皺だらけの顔で笑って答える。
「ギヌ? がははははっ! 任せてくんな女神様! 大量に地竜の素材が有るんだ、山程の大きさの地竜すら射貫ける大弓をこさえてやるよ! それに……おっと、口を滑らしちまうとこだった」
「なんて? 何々、今何か言おうとして止めたよね? 気になるじゃん。 教えてよ~! あ、鍛冶場の奥に逃げるように入って行きやがった! 天井ひっぺがすぞ?!」
「すいやせん姉御、ありがとうございやす」
鍛冶屋の天井を本気で剥がし始めていたクウネルはキュウベイの声で我に返った。
「あっぶね~! ダメダメ、キュウベイの大弓作ってもらうんだもん、気になるけど我慢だ。 それと、キュウベイは大事な身内だって言ったでしょ? だから気にしなくて良いよ。 そうだ、これから錬金工房に袋取りに行くけど一緒に行く?」
「お供したいのは山々なのですが、この後は師匠と兄弟弟子の墓参りに行く予定なのです」
キュウベイの少し暗い笑顔を見て、クウネルは胸が痛んだ。
「その兄弟弟子は……先の戦いで?」
「……へい。 裏門の守備に就いていたもう1匹の弓兵長です」
クウネルはキュウベイの言葉に愕然とする。
当たり前だが、キュウベイも元々はあの戦場に居たのだ。 キュウベイの大切な誰かも同じ様に王都を守ろうと戦っていたのだろう。
そして、大勢のゴブリン兵士達が死んだと聞いていた。
その中に、キュウベイの兄弟弟子居たのだ。
顔も知らない、誰かも知らない。
でも、あの時にもっと自分が急いでいたなら身内になったキュウベイの兄弟弟子は生き延びれたのでは無いかとクウネルは自分を責めずにはいられなかった。
「そっか……裏門か。 ……私が間に合わなかったからだ。 キ、キュウベイ……ご「謝らないで下さい!」
しかし、落ち込むクウネルの言葉をキュウベイは遮った。
「え……? でも……」
「姉御、謝らないで下さい。 姉御が間に合わなかったからじゃないです、守りたい物の為に死んだんです。 アイツは……死んだ他のゴブリン達も、皆、絶対に! 絶対に姉御に感謝してます! 死んででも守りたかった物を守ってくれた姉御に感謝してます。 だから、だから謝らないで下さい」
「うん……分かった。 ……ありがとうキュウベイ」
クウネルはキュウベイの言葉に少し救われた。
クウネルは家族と大切な人達を失ってから、無意識に起きた死は全部自分のせいだと思い込んでしまっていた。
キュウベイに諭された今も、やはり思ってしまうのだ。
自分のせいだと。
「ギ、鼻たれ、話は終わったか? あの馬鹿の墓参りに行くぞ」
「はい、師匠。 じゃあ、すみません姉御。 今日の夕方には戻りますので」
「うん、分かったよ。 行ってらっしゃい」
墓地に向かうキュウベイと師匠を見送っていると、ふいに師匠だけが振り返りクウネルの聴覚でようやく聞き取れる程の小さな声で呟いた。
「ギ……これは爺のひとり言だ。 儂は、弟子の主がお前さんみたいな優しいやつで安心した。 弟子達が守りたかった王国を守ってくれて感謝する。 どうか、弟子を頼む」
小声で呟いた師匠は直ぐに歩き始めてしまった。
本当にひとり言のつもりだったのだろう。
「師匠さん、キュウベイの事が大切なんだね。 亡くなったもう1匹の弟子さんも。 本当にゴブリンって、大げさで、皆凄く優しいな。 ……ダメだ。 これ以上ここに居たら、もう何処にも行けなくなっちゃう」
クウネルは心の奥が、じんわりと暖かくなり普段は感じない感情が沸き起こる。
頬が涙を伝い、クウネルは空を仰いだ。
「女神様呼びは嫌だし、小さいし、踏みそうだし……。 けど、私知らない間にゴブリン達の事が大好きになってた。 ふー……でも、ここにはずっと居られない。 もう1人の私の事をなんとかしなきゃ。 街の中で赤髪に変わったら大惨事になる」
クウネルは気持ちを新たに気合を入れ直し、やるべき事をする為に歩き出した。
「よし、当初の目的の錬金工房を探すとしよう!」
ドッッッゴォォォォンッ!!
そして突如として、工場の奥にある工房が吹き飛んだ。
「えぇぇぇぇぇ!? なんで!?」
«――発見。 クウネル、先程爆発したのが錬金工房です»
「……マジか」
クウネルが工場を覗き込みながら歩いていると、鍛冶屋の前にキュウベイの姿があった。
「おーい、キュウベイ~! 弓の師匠の所に行ってたんだよね? こんな所でどしたのさ」
キュウベイの側には鍛冶師長のぶっきらぼうなゴブリンと弓を背負った年老いたゴブリンが話し込んでいる。
「あ! クウネルの姉御! おはようございやす、数日も戻れず申し訳ありやせん。 師匠に弛んでると扱かれてまして……」
「んーん、いいよいいよ。 で、そちらが弓の師匠さん?」
覗き込んだクウネルに気付いた年寄りゴブリンは、鋭い目つきでじろりと見上げた。
「ギ……この鼻たれから聞いた。 お前さんが、こいつをこんな姿にしたんじゃな。 ったく……余計な事を」
「あっっれ~~? 何か怒ってます?」
「師匠! 姉御にそんな言い方しないで下せぇ! すいやせん姉御」
キュウベイは死ぬ程焦り、クウネルと師匠の間に割って入って来た。 しかし、クウネルからすると師匠の言う事は最もである。
キュウベイの師匠からしたら、突然弟子がゴブリンとは違う種族に変えられたのだ。 怒るのは当然だろう。
「別にいいよ~。 師匠さんも勝手な事してごめんね」
「ギ? ふんっ……なんでお前さんが謝る。 お前さんがこいつを強くしてくれたんだろ? 儂が腹を立てたのはこの鼻たれにじゃ。 弓の腕が落ちてないか確認したら弓を引くだけで次から次に壊しおって。 こいつ用の大弓を新たに作らにゃならん」
不機嫌そうにキュウベイの師匠は文句を垂れるが、何処か嬉しそうであった。
「あ~なるへそね。 師匠さんは弟子が強くなって喜んでるのか。 ……これでも。 分かりにくっ!! でも良かった! 鍛冶師長さん、必要な素材が有れば言ってね。 代わりに、キュウベイは私の大事な身内なので良い大弓をお願いします」
ぶっきらぼうな鍛冶師長は、皺だらけの顔で笑って答える。
「ギヌ? がははははっ! 任せてくんな女神様! 大量に地竜の素材が有るんだ、山程の大きさの地竜すら射貫ける大弓をこさえてやるよ! それに……おっと、口を滑らしちまうとこだった」
「なんて? 何々、今何か言おうとして止めたよね? 気になるじゃん。 教えてよ~! あ、鍛冶場の奥に逃げるように入って行きやがった! 天井ひっぺがすぞ?!」
「すいやせん姉御、ありがとうございやす」
鍛冶屋の天井を本気で剥がし始めていたクウネルはキュウベイの声で我に返った。
「あっぶね~! ダメダメ、キュウベイの大弓作ってもらうんだもん、気になるけど我慢だ。 それと、キュウベイは大事な身内だって言ったでしょ? だから気にしなくて良いよ。 そうだ、これから錬金工房に袋取りに行くけど一緒に行く?」
「お供したいのは山々なのですが、この後は師匠と兄弟弟子の墓参りに行く予定なのです」
キュウベイの少し暗い笑顔を見て、クウネルは胸が痛んだ。
「その兄弟弟子は……先の戦いで?」
「……へい。 裏門の守備に就いていたもう1匹の弓兵長です」
クウネルはキュウベイの言葉に愕然とする。
当たり前だが、キュウベイも元々はあの戦場に居たのだ。 キュウベイの大切な誰かも同じ様に王都を守ろうと戦っていたのだろう。
そして、大勢のゴブリン兵士達が死んだと聞いていた。
その中に、キュウベイの兄弟弟子居たのだ。
顔も知らない、誰かも知らない。
でも、あの時にもっと自分が急いでいたなら身内になったキュウベイの兄弟弟子は生き延びれたのでは無いかとクウネルは自分を責めずにはいられなかった。
「そっか……裏門か。 ……私が間に合わなかったからだ。 キ、キュウベイ……ご「謝らないで下さい!」
しかし、落ち込むクウネルの言葉をキュウベイは遮った。
「え……? でも……」
「姉御、謝らないで下さい。 姉御が間に合わなかったからじゃないです、守りたい物の為に死んだんです。 アイツは……死んだ他のゴブリン達も、皆、絶対に! 絶対に姉御に感謝してます! 死んででも守りたかった物を守ってくれた姉御に感謝してます。 だから、だから謝らないで下さい」
「うん……分かった。 ……ありがとうキュウベイ」
クウネルはキュウベイの言葉に少し救われた。
クウネルは家族と大切な人達を失ってから、無意識に起きた死は全部自分のせいだと思い込んでしまっていた。
キュウベイに諭された今も、やはり思ってしまうのだ。
自分のせいだと。
「ギ、鼻たれ、話は終わったか? あの馬鹿の墓参りに行くぞ」
「はい、師匠。 じゃあ、すみません姉御。 今日の夕方には戻りますので」
「うん、分かったよ。 行ってらっしゃい」
墓地に向かうキュウベイと師匠を見送っていると、ふいに師匠だけが振り返りクウネルの聴覚でようやく聞き取れる程の小さな声で呟いた。
「ギ……これは爺のひとり言だ。 儂は、弟子の主がお前さんみたいな優しいやつで安心した。 弟子達が守りたかった王国を守ってくれて感謝する。 どうか、弟子を頼む」
小声で呟いた師匠は直ぐに歩き始めてしまった。
本当にひとり言のつもりだったのだろう。
「師匠さん、キュウベイの事が大切なんだね。 亡くなったもう1匹の弟子さんも。 本当にゴブリンって、大げさで、皆凄く優しいな。 ……ダメだ。 これ以上ここに居たら、もう何処にも行けなくなっちゃう」
クウネルは心の奥が、じんわりと暖かくなり普段は感じない感情が沸き起こる。
頬が涙を伝い、クウネルは空を仰いだ。
「女神様呼びは嫌だし、小さいし、踏みそうだし……。 けど、私知らない間にゴブリン達の事が大好きになってた。 ふー……でも、ここにはずっと居られない。 もう1人の私の事をなんとかしなきゃ。 街の中で赤髪に変わったら大惨事になる」
クウネルは気持ちを新たに気合を入れ直し、やるべき事をする為に歩き出した。
「よし、当初の目的の錬金工房を探すとしよう!」
ドッッッゴォォォォンッ!!
そして突如として、工場の奥にある工房が吹き飛んだ。
「えぇぇぇぇぇ!? なんで!?」
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「……マジか」
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