真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第170話 カズキの勘違いと不穏

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 教会の鐘が街中に鳴り響く。

 「うるせぇな。 朝の鐘ってやつか?」

 あれからカズキは王城を出て、直ぐ側に建っている立派な教会へとやって来ていた。 この教会はカズキ達が召喚され最初に降り立った場所でもある。

 この世界で唯一創造神オリジンを信仰し崇めている教会であり、中には回復魔法を使えるシスター達が住んでいた。

 聖王国では怪我や病気は全てこの教会のシスター達が治している為、聖王国内ではオリジン教を信仰していない民は一人も居ない。

 「さて、ユズキ達は何処だ? あぁ、そういえば確か奥に治療院があったな」

 重厚な扉を開け放ち、教会の中にある治療院へと向かう。

 清潔で美しい教会の廊下に足を踏み入れた直後、カズキは何かを感じた。

 (……ん? なんだ、この変な空気は。 重い、異様な空気が廊下に漂っている。 ……廊下の先は治療院だよな? ……急ぐか)

 念のため、戦闘用スキルの探知を使用しながら向かう。

 奥の部屋には4つの気配しか無く、カズキは違和感に気付く。

 「おかしい、治療院には常に専属のシスター達や患者が多くいる筈だが……何故だ?」

 気配で知っているのは3つだけ、マヒルとユズキにリュウトだ。

 しかし後の1つにカズキは覚えは無く、気持ち悪い気配に身震いする。

 「ちっ、まさか敵か? 入るぞ! マヒル、無事か!!」

 カズキは攻撃魔法を準備しながら、治療院の扉を蹴り開ける。

 だが治療院の部屋には果物を剥くマヒルと、回復魔法を掛けているユズキ、そしてベットに倒れるリュウトしか視界には入らなかった。

 「いや、なんでマヒルちゃんの心配やねん」

 突然入って来たカズキに、コジロウに斬られてボロボロのリュウトが思わず突っ込む。

 「……あれ? 3人だけ……だな」

 特に敵が居たという事もなく、探知にも3人の気配しか無いことを再確認したカズキは勘違いかと身体の力を抜いた。

 「あはは……カズキくん、よく分かんないけど僕は無事だよ~。 ありがとう。 最近、ユズキ達とずっと遊んでるから中々部屋に帰れなくてごめんね~」

 マヒルがリンゴを剥きながら可愛らしく微笑む。
 
 「くっ……可愛い!」

 久し振りのマヒルスマイルにカズキは胸の高鳴りが抑えられない。 キラキラと光る瞳を見つめているだけで、心が洗われるのを感じた。

 (あの止まない苛立ちは全てマヒルの居ない寂しさが原因だったのか? はは、そうか。 やれやれ、最近の俺が可笑しかったのはマヒルが居なかったせいだな)

 マヒルの目を見ただけで、不思議とカズキの中にあった怒りや苛立ちは消え、裏切り者も探すという目的が何故か頭の中から泡のように弾けて消え去る。

 「ちょっとカズキ、うるさい!! 結構リュウトやばいんだから、集中させて!」

 「あたたた!? ちょっ、ユズキちゃん! もう少し優しゅうしてん!」

 「あんたもうるさい! 動くな!! あと少し遅かったら、胴体と下半身が別れてたんだからね!!」 

 ベッドの上で懸命に回復魔法を使っているユズキはリュウトの血で血塗れだ。

 「死者を生き返らせる魔法使うのすっごく大変何だから、絶対に死なないでよ?! もし死んだら、王都にある宝石店で買い占めさせるからね!」

 「ひー! ユズキちゃん、かんにんやー!」

 格闘王のリュウトが此処まで重傷だとは思っていなかったカズキは戦慄した。

 「マジかよ……リュウト。 すまん、俺が聞いてたら」

 「はっ! 何言うてんねん、カズキが行ってたらコジロウの事を殺してたかもしれへんやろ? せやから、これでええねん。 コジロウも今頃、地下ダンジョンで頭冷しとるやろ」

 エセ関西弁のリュウトは思っていたよりも仲間想いだった事を知り、カズキは仲間を疑った事を後悔する。

 「……ありがとう」

 「はいはい、邪魔邪魔! マヒル、自分の男の面倒見といて。 終わったら呼びに行くから」

 「あはは、分かったよユズキ。 じゃあ、カズキ君……ちょっと出てよっか」

 カズキはマヒルに手を引かれ治療院を出る。

 「あ! ユズキ、悪かった!! リュウトを頼む!」  

 「分かってるわよ! さっさと出ていく!」

 「いぎゃぁぁぁ!? ユズキちゃぁぁぁん!? かんにんやぁぁぁ!」

 ユズキの怒声とリュウトの悲鳴を聴きながら、カズキは今度こそ退出する。

 廊下に出ると先程までの重い空気は消えていた。

 やはり、先程の事は勘違いだったのかとカズキは頭を掻く。

 (おいおい、ちょっと引きこもっただけでこんなに鈍るもんか? くそ、鍛練のやり直しだな)

 「ねぇ……カズキ君」  

 「ん? あぁ、すまない。 どうした?」

 「コジロウ君の事は……もう聞いてるよね」

 「聞いた。 まだ信じられないけどな……」

 「だよね……でも、本当みたい。 今も、治療院のシスター達がリュウト君とコジロウ君との戦いで巻き込まれた怪我人を治療しに街中を走り回ってる。 かなり暴れたみたい」

 カズキはマヒルの話を聞き、治療院にシスター達が1人も居なかった事に納得した。

 「これから……どうする?」

 マヒルが不安そうに聞いてくるのを、カズキは自信溢れる笑顔で返答する。

 「俺が必ず何とかするさ。 国民からの信頼も取り戻してみせる。 だから、マヒルは何も心配するな」

 「う、うん! ありがとう、カズキ君。 えへへ……やっぱりカズキ君は格好いいね」

 「おう、当然だ」

 マヒルは嬉しそうな笑みでカズキに抱きつき、そのまま抱きしめる。

 「はい、そこまで~。 リュウトの治療終わったわよ、何とか死んでないわ」

 マヒルと良い雰囲気になったタイミングで、治療の終わったユズキがやって来た。

 「ありがとう、ユズキ。 リュウトは、話せそうか?」

 「無理ね。 泡吹いて気絶してるから」

 「そうか……分かった。 また後で話を聞きに来るよ」

 「そうしてくれる? 私も疲れたから、少し休むわ。 ……コジロウの事は残念だけど、しっかりね。 リーダー」

 ユズキは血塗れのローブを脱ぎながら、カズキの肩を叩く。

 先日の会議での鬼畜ドS聖女と同一人物だとは思えないユズキの様子に、カズキは疑っていた事を恥じた。

 (そうだよな。 俺は何でユズキが裏切り者なんて思ってたんだろうな……すまん)  

 「ユズキ……ありがとうな」

 「んー、別に良いわよ。 仲間なんだから」

 ユズキはそのまま治療院の休憩所に向かい、部屋へと消えて行った。

 「ねぇ、カズキ君。 僕はこのままリュウトの側に念の為に居ようと思うんだけど……いいかな?」

 「おう、勿論だ」

 「ふふ、ありがとう。 今日の夜は部屋に帰れるから」

 「分かった、待ってる。 またな」  

 (やべ! 部屋を掃除しとかないとな)

 カズキはマヒルの頭を撫で、教会を後にした。

 ◆◇◆ 

 カズキは自室に戻る途中、ルウに呼び止められミカの様子を見に行くように頼まれた。

 そして、王城にある図書館を訪れる。

 「はぁ……仕方ないか。 ミカ、居るかー?」

 図書館には多くの文官や読書に来た者達で賑わっており、探そうにも探知は使えずしらみつぶしに歩き回ることにした。

 「此処は……確か、禁書やらが保管してある倉庫だっけか? ミカ、居るかー?」

 「……え? あ! カズキ君」

 暫く探して回り、一番奥の倉庫でミカを見つける事ができた。

 「聞いたよ、大変だったな」

 「……うん、そうなんだ」

 ミカは開いていた一冊の本を閉じ、棚にしまった。

 「一応聞きたい……本当にコジロウは正当防衛じゃないのか?」

 「……分からないの。 私が刺されたと思ったコジロウ君が怒って私を刺した人を斬り殺したんだ。 そこまでは正当防衛だし、私の為に怒ってくれたのが嬉しかった。 でも……その後に様子がおかしくなったの」

 カズキはミカの話しを黙って聞く。

 「私を刺した人を斬り殺した直後に、何かに苦しみだして私に言ったの……早く逃げろ。 って……」 

 ミカの話しを聞き、カズキは眉をひそめた。
 
 「その後、直ぐにコジロウ君は狂ったみたいに私達を襲った人達を斬り殺し始めたの。 笑いながら……」

 「つまり……コジロウは誰かに操られたか何かされたって事か?」

 「……分からない。 私はその後……逃げたから。 ごめんなさい……私も力があるのにコジロウ君に魔法を向けられなかった」

 ポロポロと涙を溢すミカの頭を撫で、カズキは微笑んだ。

 「大丈夫だ。 話してくれてありがとう。 コジロウの事は俺が何とか出来ないか動くから任せてくれ」

 「本当に……? 兵士の人達も誰も信じてくれなくて……」

 「任せろ。 勇者の俺が何とかできない事は無いからな。 だから、今日はもう休め」

 「うん、ありがとう……。 もう少し調べたいの見たら休むね」

 「おう、またな」

 カズキはミカの様子が安定したのを確認し、自室へと戻っていった。

 そして残されたミカは、直ぐに先程戻した本を取り出し読み直し始める。

 その本はとても古く、スキル一覧解説本禁書につき持ち出し厳禁と書かれていた。

 「……精神操作、狂化、違うコレじゃない。 えっと……あ、あった! コレだ……魅了」

 「あれれ~? ミカ、此処で何をしてるの?」

 「ひっ?! あれ……? マヒル君……? 何で奥から……? だって奥は……行き止まりだよね」

 突如として倉庫の奥から現れたマヒルにミカは飛び退き、本を後ろに隠す。

 「ふふふふ……あははは! 僕ね……凄く残念なんだ~。 本当なら、コジロウ君の全てを手に入れられたのに……まさか本能に抗うなんてね」

 マヒルは微笑み、目が妖しく光り始めた。

 「や、やっぱり……マヒル君がコジロウ君を! 何で……仲間なのに」

 「そうだよぉ? ミカもコジロウも大切な仲間。 だから、身も心もぜ~んぶ欲しいの♡ でも……今はミカだけで我慢するね」

 倉庫から出ようと後ろに下がるミカをマヒルは高速で詰め寄り、妖しい瞳でミカの目を覗き込んだ。

 「あ……カ、カズキ君。 コジロウ君……ごめんね」

 「大丈夫だよ、ミカ。 殺したりしないし、コレまで通り僕達は仲間だよ~。 ただ、僕の物になるだけ」

 徐々にミカからは力が抜け落ち、完全に意識を失った。

 「ふぅ~、やっぱりステータス差が無い相手を一気にやるのはしんどいね。 あれ? あぁ……この本を見つけたのか」

 マヒルは落ちた本を拾い上げ、そのまま火魔法で消し炭にする。

 「ダメだよ~こんな本読んだら。 僕の力を知ろうとするなんて……ミカは悪い子だね」

 マヒルは倒れるミカを抱き上げ、そのまま倉庫の奥へと消えて行った。
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