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第188話 勇者出陣と冒険者ギルドにアイドル誕生?
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◆カズキside◆
聖王国、王都の城壁外には多くの兵士達が整列していた。
その数は30万近くに及ぶ大軍だ。
城壁の上では、聖王が出陣前の演説をしており兵士達は耳を傾けている。
しかし、兵士達の最前列に立つ勇者カズキの耳には届かなかった。
(くそ、コジロウのせいでとんだ尻拭いだ)
先日コジロウの起こした殺人事件を切っ掛けに、聖王国内では召喚されし者達の評判は地に堕ちた。
(やれ、人殺し集団だとか。 やれ、神の使徒を騙る詐欺師集団だとか言いたい放題だったな。 くそが……俺がこれまで築き上げてきた名誉も栄光も全て失っちまった)
カズキは背後の兵士達に気付かれないように顔を顰める。
まだ兵士達からの尊敬は失っておらず、ソレだけは絶対に失う訳にはいかないのだ。
(挙げ句の果てには、民からの信頼を取り戻す為に近隣諸国を攻めるのを手伝えだと? 今の俺達が断れないのを分かっていて、偉そうに上から目線で言いやがって!)
白銀の鎧を纏いし勇者とは思えない程に眉をひそめ、城壁の上に立つ聖王を睨む。
(第一、出陣するのが4人ってどうなんだよ。 俺はともかく、ユズキとマヒルとミカは後衛職だぞ? リュウトとルウは聖王国の守備、ヒカリとオタフクはまだ帰って来ない。 はぁ……それなら、俺がずっと前線で戦えってか? 本当にふざけてやがる)
聖王の目的は、先ず異教を信仰する近隣の小国群を軒並み攻め滅ぼしオリジン教を布教する事だ。
(最初の計画では、俺が聖王となり大国と同盟を結んだ事で近隣諸国達は軒並み聖王国の傘下となり不必要な血は流さずに済む筈だったのにな。 くそ、くそくそ! あれもこれも、ユズキにあの計画を潰されたからだ。 思えば、あの時から全てが上手くいかなくなった気がする。 あのサド貧乏神エセ聖女め、くそくそ!)
内心で仲間であるユズキに対し悪態をついていると、突然耳を引っ張られた。
――カズキ? ちょっと、聞いてるの?!」
「うお!? 悪い、少し考え事を……どうした?」
突然耳を引っ張ったのはカズキの計画を頓挫させた元凶のユズキであった。
「ちょっと、しっかりしてよ。 これから、使命を果たす為の聖戦が始まるのよ?」
「せ……何だって? なんの話だ?」
「カズキくん、大丈夫? ほら、オリジン様から頂いた使命だよ。 今回の聖戦を切っ掛けに、他国全てにオリジン教を信仰させるって聖王様が大声で叫んでたよ?」
「あ、ああ、そうだよなマヒル。 すまない、急に耳を引っ張られた後に見たユズキの顔がショッキング過ぎてな」
「ちょっとっ! カズキ、どういう意味よ!」
カズキの言葉にユズキが怒鳴ると、後ろに立っていたミカが虚ろな瞳のまま微笑んでフォローを入れる。
「ふふ、大丈夫だよ。 ユズキちゃんも、マヒルちゃんの少し下ぐらいの可愛さダヨ」
「ミカ? それ……本当にフォローしてる?? 何か、最近変だよ?」
「え~? そんなに可愛い~? ありがとう、ミカ」
ユズキがジト目でミカを睨むが無反応な事にユズキは首を傾げる。 しかし、直ぐにマヒルがミカに抱きつき有耶無耶になってしまった。
(やれやれ、まぁ……ミカがコジロウの事を乗り切れたみたいで何よりだけどな。 ん? あれは……)
兵士達の先頭で騒いでいると、城壁の上に絶世の美女リサ王女が姿を現した。
「あ、リサ姫じゃん。 どうしたんだろ」
「おいユズキ、様をつけろよ」
「皆さん、このめでたき日に私からも知らせが有ります! 実は……私、婚約しました!」
「「はぁ?」」 「わ~、素敵だねミカ」 「ステキー」
兵士達からどよめきが上がる。
リサ王女の隣では聖王が笑顔で立っている所を見ると、聖王公認の婚約者なのだろう。
カズキとユズキは苦虫を噛み潰したような顔しているが、マヒルとミカは笑顔で祝福していた。
他の兵士達も縁起が良いと大喜びだ。
(誰とだ?! くそ! 俺の妃になる女にちょっかいかけやがったのは誰だ!)
紹介され、バルコニーに登場したのはカズキ達がよく知っている人物だった。
「やぁ、ルウだ。 皆の知っての通り魔導王をしている、よろしく」
「「はぁ?! はぁぁぁぁぁ!?」」
カズキとユズキは顎が外れるほどに口を開けて驚き。
「わー! ルウ君だ! おめでとー!」
「オメデトー」
マヒルとミカは仲間の吉報を喜んだ。
(ふざけんなよ! どいつもこいつも!! くそがぁぁぁぁぁぁ!!)
戦前に婚約発表等のイレギュラーがあったが、こうして聖王国による近隣諸国攻略戦が始まるのであった。
◆◇◆
◆受付嬢リサside◆
2階の執務室が騒がしい、さっき上がっていったアズキがドアを破壊したのだろう。
「はぁ……またやりましたか。 このカウンターといい、なんで直ぐに物を壊すんでしょうね」
受付嬢リサは真っ二つになったカウンターを他の事務員と片付ける。
そして、交換用のカウンターを運んで設置した。
何度もアズキに破壊され、今では奥の倉庫にカウンターのスペアが用意されているのだ。
(ふぅ……重かったですね)
いつもなら顔見知りの冒険者達が力仕事を率先して手伝ってくれるのだが、残念ながら今は居ない。
現在冒険者ギルドに居るのは、初めて見る顔ぶれの冒険者達だけだ。
(装備を見るにランクは銀ぐらいかな? クエストを受けにカウンターを訪れる訳でもなく、ずっとクエストボードを見てるけど……そんなに悩む依頼ばっかりだったかしら?)
リサが不審に思い始めた時にソレは来た。
ギィィ……ポロッ!
「あわわ~! 大変オタフク君! ヒカリが開けたらこの扉壊れちゃったよぉー!」
「ヒカリたん、大丈夫ですぞ! この扉は既に死んでいたと推測できますぞ、よってヒカリたんのせいではござらぬ!」
「そっか~、良かった! ありがとう、オタフク君! キラッ☆」
「……え? ……なに、あれ」
ギルドに入って来たのは若い男女だった。
冒険者なら奇抜な格好も当たり前だが、見馴れてるリサでもその男女は異質だ。
派手な薄い上等な布の服を着た金髪少女と、見たことの無い緑と紺色の服を着てる太った男。
一般人でも無いし、リサの目利きで見ても強いのか弱いのかよく分からない2人組だった。
(もしかして、依頼人? いや、もしかしたら冒険者になるべく訪れたのかしら……?)
見てるだけで謎が深まるばかりだが、金髪少女が突如としてリサ目掛けてカウンターに走ってきた。
「メンバー候補みーーーっけ! ほらね? ヒカリのアイドルセンサーが反応したって言ったでしょ? キラッ☆」
「へ? え? あ、あの?」
(なんの話? あいどる? なに?)
リサは唐突に意味不明な事を話す少女に抱きつかれ、目を丸くして驚く。
「ぶほっ! さすがはヒカリたんですぞ! これは……確かにアイドルセンサービンビンですぞ!!」
鼻息の荒い太った男も近付こうとして来た為、リサは手で制止させる。
「うわっ!? 貴方はちょっと……近寄らないで下さい」
「ねぇ、貴女名前は? 私はヒカリ! このオリジン初のアイドルにしてNo.1! だよ! キラッ☆」
ヒカリの全く話が通じなさそうな空気に、既にリサはげんなりしていた。
(うわ……疲れが、ちょっと休憩に……。 いえ、私はこの冒険者ギルドの受付嬢、ちゃんと仕事をしなくては)
しかし、受付嬢としてのプライドが逃避を許さず営業スマイルでやんわりと抱きつくヒカリを引き剥がした。
「い、いらっしゃいませ。 私は冒険者ギルドの受付嬢をしております。 名前はリサです、どうぞよろしくお願い致します。 それで、本日はどのようなご用件でしょうか? 御依頼ですか? それとも、冒険者登録ですか?」
引き攣る笑顔を必死に保ち、何故か少しづつ近づいて来ているオタフクを牽制する。
(よし! ちゃんと言えた! 頑張った私! 今日のお昼はご褒美にデザートを付けて食べる!)
すると、引き剥がされたヒカリが可愛らしく首を傾げる。
「んん~? あれれ~? リサ、リサさん? リサっち? リサちゃん? どっかで聞いたことあるんだけどなー! でも、とっても素敵な名前ね! よろしくね、リサちゃん!」
屈託のない笑顔で笑うヒカリを見て、必死に訴えた用件を早く言えと云う思いは一切伝わっていないとリサは悟り営業スマイルが更に歪んだ。
(あれ? もしかして、名前の所しか聞いてませんでした? 嘘でしょ? この人達、本当に何しにきたのよ)
「ぐふっ、ヒカリたん。 聖王国の王女様の名前が確かリサ姫様だったと記憶してるでござるよ」
「あー! そうだ、リサっちだ! 奇遇だね~、あの娘も可愛いけどヒカリのアイドルセンサーには反応しなかったからなー。 キラッ☆」
話す度、無駄にポーズするヒカリを見つめるリサの目は完全に死んでいた。
(ダメだ、面倒臭い。 もう嫌だ、帰りたい。 2階の執務室に避難して、お父さんとアズキさんに助けを求める? でも、大事な依頼人が来てるし……ん?)
今度こそ逃避を選択しそうになった瞬間、2人の会話にリサは反応する。
「もしかして……聖王国のリサ王女殿下をご存知なのですか?」
「え? うん、知ってるよー! お城に住んでた時に、よく私のレッスン見学してたから☆ でも~あっちのリサっちはアイドルにはなれないの! だってキラキラしてないからっ! キラッ☆」
(あの聖王国のお城に住んでた?! この2人、只者じゃないかも。 しかも、あの絶世の美女として名高いリサ様の知り合い!?)
リサは瞬時に頭の中の算盤を叩き、確保すべき人脈だと判断した。 そして、なるべく友好関係を築けるように心を開き笑顔で接する様に切り替える。
「そ、そうでしたか。 あ、私の名前がリサなのは、父が絶世の美女として有名なリサ様からとって名付けたそうです……恐れ多いですが」
(自分で言っていて本当に恥ずかしい、あのリサ様と暮らしてたんだ。 私なんかが同じ名前で滑稽に思うだろう)
ヒカリは自虐的に笑うリサの手を取り、首を横に振る。
「そんな事ない!! 一緒に住んでた私が保証する! リサちゃんの方が何倍も可愛いよ!☆」
「あ、ありがとうございま 「だからアイドルになろう!」
気迫に満ちたヒカリにたじろぎながら、リサは言葉を絞り出す。
「え……その、ごめんなさい。 そのアイドルとやらが何かは知りませんが、私はこの冒険者ギルドの受付嬢です。 他の仕事に就くつもりは有りません……でも、先程の言葉凄く嬉しかったです。 ヒカリさん、ありがとうございます」
(嬉しいけど、これだけは譲れない。 お父さんがギルドマスターになった時に決めた事だから)
「そっか~……残念★ でも、ヒカリがアイドルを世界中に広めるから! それから、やりたいって思ったら一緒にやろうね☆」
(ま、まぁそれぐらいの約束なら……いいのかな?)
「はい、分かりました。 その時はお願いします、ヒカリさん」
「ん! じゃあ、ヒカリ達は旅の途中なので失礼します! リサちゃんまたねー!! キラッ☆」
ヒカリは、嵐の様に現れ嵐の様に去って行った。
そして、何故か残ったオタフクがリサにカウンター越しに近付き真面目な顔で口を開く。
「リサ殿、一応お伝えしておきますぞ。 アイドルとは歌って踊り、ファンに笑顔と元気を与えるこの世で1番尊い仕事ですぞ。 某も、リサ殿なら立派なアイドルになれると確信したでござる! いつか、いつか必ずヒカリたんと舞台に! 楽しみにしてますぞー!」
オタフクはめちゃくちゃ早口で喋った後、満足そうに去って行った。
(歌って踊る……か。 踊り子みたいな感じなのかしら? んー……私なんかが歌って踊っても需要無いのでは? ダメだ……今日はもう早退しよう。 ギルドに居る冒険者はクエストボード前の1組だけだし……あれ? 居ない……)
リサがギルドを見渡すと、何時の間にか見ない顔の冒険者達は消えていた。
(いつ出て行ったのかしら……ま、いっか。 アズキさんが降りてきて、また何かを壊すのを見る前に私は帰りまーす!)
リサは颯爽と受付を交代し、デザート付きのランチを食べに行くのであった。
◆◇◆
ヒカリ、新規メンバー獲得ならず!
聖王国、王都の城壁外には多くの兵士達が整列していた。
その数は30万近くに及ぶ大軍だ。
城壁の上では、聖王が出陣前の演説をしており兵士達は耳を傾けている。
しかし、兵士達の最前列に立つ勇者カズキの耳には届かなかった。
(くそ、コジロウのせいでとんだ尻拭いだ)
先日コジロウの起こした殺人事件を切っ掛けに、聖王国内では召喚されし者達の評判は地に堕ちた。
(やれ、人殺し集団だとか。 やれ、神の使徒を騙る詐欺師集団だとか言いたい放題だったな。 くそが……俺がこれまで築き上げてきた名誉も栄光も全て失っちまった)
カズキは背後の兵士達に気付かれないように顔を顰める。
まだ兵士達からの尊敬は失っておらず、ソレだけは絶対に失う訳にはいかないのだ。
(挙げ句の果てには、民からの信頼を取り戻す為に近隣諸国を攻めるのを手伝えだと? 今の俺達が断れないのを分かっていて、偉そうに上から目線で言いやがって!)
白銀の鎧を纏いし勇者とは思えない程に眉をひそめ、城壁の上に立つ聖王を睨む。
(第一、出陣するのが4人ってどうなんだよ。 俺はともかく、ユズキとマヒルとミカは後衛職だぞ? リュウトとルウは聖王国の守備、ヒカリとオタフクはまだ帰って来ない。 はぁ……それなら、俺がずっと前線で戦えってか? 本当にふざけてやがる)
聖王の目的は、先ず異教を信仰する近隣の小国群を軒並み攻め滅ぼしオリジン教を布教する事だ。
(最初の計画では、俺が聖王となり大国と同盟を結んだ事で近隣諸国達は軒並み聖王国の傘下となり不必要な血は流さずに済む筈だったのにな。 くそ、くそくそ! あれもこれも、ユズキにあの計画を潰されたからだ。 思えば、あの時から全てが上手くいかなくなった気がする。 あのサド貧乏神エセ聖女め、くそくそ!)
内心で仲間であるユズキに対し悪態をついていると、突然耳を引っ張られた。
――カズキ? ちょっと、聞いてるの?!」
「うお!? 悪い、少し考え事を……どうした?」
突然耳を引っ張ったのはカズキの計画を頓挫させた元凶のユズキであった。
「ちょっと、しっかりしてよ。 これから、使命を果たす為の聖戦が始まるのよ?」
「せ……何だって? なんの話だ?」
「カズキくん、大丈夫? ほら、オリジン様から頂いた使命だよ。 今回の聖戦を切っ掛けに、他国全てにオリジン教を信仰させるって聖王様が大声で叫んでたよ?」
「あ、ああ、そうだよなマヒル。 すまない、急に耳を引っ張られた後に見たユズキの顔がショッキング過ぎてな」
「ちょっとっ! カズキ、どういう意味よ!」
カズキの言葉にユズキが怒鳴ると、後ろに立っていたミカが虚ろな瞳のまま微笑んでフォローを入れる。
「ふふ、大丈夫だよ。 ユズキちゃんも、マヒルちゃんの少し下ぐらいの可愛さダヨ」
「ミカ? それ……本当にフォローしてる?? 何か、最近変だよ?」
「え~? そんなに可愛い~? ありがとう、ミカ」
ユズキがジト目でミカを睨むが無反応な事にユズキは首を傾げる。 しかし、直ぐにマヒルがミカに抱きつき有耶無耶になってしまった。
(やれやれ、まぁ……ミカがコジロウの事を乗り切れたみたいで何よりだけどな。 ん? あれは……)
兵士達の先頭で騒いでいると、城壁の上に絶世の美女リサ王女が姿を現した。
「あ、リサ姫じゃん。 どうしたんだろ」
「おいユズキ、様をつけろよ」
「皆さん、このめでたき日に私からも知らせが有ります! 実は……私、婚約しました!」
「「はぁ?」」 「わ~、素敵だねミカ」 「ステキー」
兵士達からどよめきが上がる。
リサ王女の隣では聖王が笑顔で立っている所を見ると、聖王公認の婚約者なのだろう。
カズキとユズキは苦虫を噛み潰したような顔しているが、マヒルとミカは笑顔で祝福していた。
他の兵士達も縁起が良いと大喜びだ。
(誰とだ?! くそ! 俺の妃になる女にちょっかいかけやがったのは誰だ!)
紹介され、バルコニーに登場したのはカズキ達がよく知っている人物だった。
「やぁ、ルウだ。 皆の知っての通り魔導王をしている、よろしく」
「「はぁ?! はぁぁぁぁぁ!?」」
カズキとユズキは顎が外れるほどに口を開けて驚き。
「わー! ルウ君だ! おめでとー!」
「オメデトー」
マヒルとミカは仲間の吉報を喜んだ。
(ふざけんなよ! どいつもこいつも!! くそがぁぁぁぁぁぁ!!)
戦前に婚約発表等のイレギュラーがあったが、こうして聖王国による近隣諸国攻略戦が始まるのであった。
◆◇◆
◆受付嬢リサside◆
2階の執務室が騒がしい、さっき上がっていったアズキがドアを破壊したのだろう。
「はぁ……またやりましたか。 このカウンターといい、なんで直ぐに物を壊すんでしょうね」
受付嬢リサは真っ二つになったカウンターを他の事務員と片付ける。
そして、交換用のカウンターを運んで設置した。
何度もアズキに破壊され、今では奥の倉庫にカウンターのスペアが用意されているのだ。
(ふぅ……重かったですね)
いつもなら顔見知りの冒険者達が力仕事を率先して手伝ってくれるのだが、残念ながら今は居ない。
現在冒険者ギルドに居るのは、初めて見る顔ぶれの冒険者達だけだ。
(装備を見るにランクは銀ぐらいかな? クエストを受けにカウンターを訪れる訳でもなく、ずっとクエストボードを見てるけど……そんなに悩む依頼ばっかりだったかしら?)
リサが不審に思い始めた時にソレは来た。
ギィィ……ポロッ!
「あわわ~! 大変オタフク君! ヒカリが開けたらこの扉壊れちゃったよぉー!」
「ヒカリたん、大丈夫ですぞ! この扉は既に死んでいたと推測できますぞ、よってヒカリたんのせいではござらぬ!」
「そっか~、良かった! ありがとう、オタフク君! キラッ☆」
「……え? ……なに、あれ」
ギルドに入って来たのは若い男女だった。
冒険者なら奇抜な格好も当たり前だが、見馴れてるリサでもその男女は異質だ。
派手な薄い上等な布の服を着た金髪少女と、見たことの無い緑と紺色の服を着てる太った男。
一般人でも無いし、リサの目利きで見ても強いのか弱いのかよく分からない2人組だった。
(もしかして、依頼人? いや、もしかしたら冒険者になるべく訪れたのかしら……?)
見てるだけで謎が深まるばかりだが、金髪少女が突如としてリサ目掛けてカウンターに走ってきた。
「メンバー候補みーーーっけ! ほらね? ヒカリのアイドルセンサーが反応したって言ったでしょ? キラッ☆」
「へ? え? あ、あの?」
(なんの話? あいどる? なに?)
リサは唐突に意味不明な事を話す少女に抱きつかれ、目を丸くして驚く。
「ぶほっ! さすがはヒカリたんですぞ! これは……確かにアイドルセンサービンビンですぞ!!」
鼻息の荒い太った男も近付こうとして来た為、リサは手で制止させる。
「うわっ!? 貴方はちょっと……近寄らないで下さい」
「ねぇ、貴女名前は? 私はヒカリ! このオリジン初のアイドルにしてNo.1! だよ! キラッ☆」
ヒカリの全く話が通じなさそうな空気に、既にリサはげんなりしていた。
(うわ……疲れが、ちょっと休憩に……。 いえ、私はこの冒険者ギルドの受付嬢、ちゃんと仕事をしなくては)
しかし、受付嬢としてのプライドが逃避を許さず営業スマイルでやんわりと抱きつくヒカリを引き剥がした。
「い、いらっしゃいませ。 私は冒険者ギルドの受付嬢をしております。 名前はリサです、どうぞよろしくお願い致します。 それで、本日はどのようなご用件でしょうか? 御依頼ですか? それとも、冒険者登録ですか?」
引き攣る笑顔を必死に保ち、何故か少しづつ近づいて来ているオタフクを牽制する。
(よし! ちゃんと言えた! 頑張った私! 今日のお昼はご褒美にデザートを付けて食べる!)
すると、引き剥がされたヒカリが可愛らしく首を傾げる。
「んん~? あれれ~? リサ、リサさん? リサっち? リサちゃん? どっかで聞いたことあるんだけどなー! でも、とっても素敵な名前ね! よろしくね、リサちゃん!」
屈託のない笑顔で笑うヒカリを見て、必死に訴えた用件を早く言えと云う思いは一切伝わっていないとリサは悟り営業スマイルが更に歪んだ。
(あれ? もしかして、名前の所しか聞いてませんでした? 嘘でしょ? この人達、本当に何しにきたのよ)
「ぐふっ、ヒカリたん。 聖王国の王女様の名前が確かリサ姫様だったと記憶してるでござるよ」
「あー! そうだ、リサっちだ! 奇遇だね~、あの娘も可愛いけどヒカリのアイドルセンサーには反応しなかったからなー。 キラッ☆」
話す度、無駄にポーズするヒカリを見つめるリサの目は完全に死んでいた。
(ダメだ、面倒臭い。 もう嫌だ、帰りたい。 2階の執務室に避難して、お父さんとアズキさんに助けを求める? でも、大事な依頼人が来てるし……ん?)
今度こそ逃避を選択しそうになった瞬間、2人の会話にリサは反応する。
「もしかして……聖王国のリサ王女殿下をご存知なのですか?」
「え? うん、知ってるよー! お城に住んでた時に、よく私のレッスン見学してたから☆ でも~あっちのリサっちはアイドルにはなれないの! だってキラキラしてないからっ! キラッ☆」
(あの聖王国のお城に住んでた?! この2人、只者じゃないかも。 しかも、あの絶世の美女として名高いリサ様の知り合い!?)
リサは瞬時に頭の中の算盤を叩き、確保すべき人脈だと判断した。 そして、なるべく友好関係を築けるように心を開き笑顔で接する様に切り替える。
「そ、そうでしたか。 あ、私の名前がリサなのは、父が絶世の美女として有名なリサ様からとって名付けたそうです……恐れ多いですが」
(自分で言っていて本当に恥ずかしい、あのリサ様と暮らしてたんだ。 私なんかが同じ名前で滑稽に思うだろう)
ヒカリは自虐的に笑うリサの手を取り、首を横に振る。
「そんな事ない!! 一緒に住んでた私が保証する! リサちゃんの方が何倍も可愛いよ!☆」
「あ、ありがとうございま 「だからアイドルになろう!」
気迫に満ちたヒカリにたじろぎながら、リサは言葉を絞り出す。
「え……その、ごめんなさい。 そのアイドルとやらが何かは知りませんが、私はこの冒険者ギルドの受付嬢です。 他の仕事に就くつもりは有りません……でも、先程の言葉凄く嬉しかったです。 ヒカリさん、ありがとうございます」
(嬉しいけど、これだけは譲れない。 お父さんがギルドマスターになった時に決めた事だから)
「そっか~……残念★ でも、ヒカリがアイドルを世界中に広めるから! それから、やりたいって思ったら一緒にやろうね☆」
(ま、まぁそれぐらいの約束なら……いいのかな?)
「はい、分かりました。 その時はお願いします、ヒカリさん」
「ん! じゃあ、ヒカリ達は旅の途中なので失礼します! リサちゃんまたねー!! キラッ☆」
ヒカリは、嵐の様に現れ嵐の様に去って行った。
そして、何故か残ったオタフクがリサにカウンター越しに近付き真面目な顔で口を開く。
「リサ殿、一応お伝えしておきますぞ。 アイドルとは歌って踊り、ファンに笑顔と元気を与えるこの世で1番尊い仕事ですぞ。 某も、リサ殿なら立派なアイドルになれると確信したでござる! いつか、いつか必ずヒカリたんと舞台に! 楽しみにしてますぞー!」
オタフクはめちゃくちゃ早口で喋った後、満足そうに去って行った。
(歌って踊る……か。 踊り子みたいな感じなのかしら? んー……私なんかが歌って踊っても需要無いのでは? ダメだ……今日はもう早退しよう。 ギルドに居る冒険者はクエストボード前の1組だけだし……あれ? 居ない……)
リサがギルドを見渡すと、何時の間にか見ない顔の冒険者達は消えていた。
(いつ出て行ったのかしら……ま、いっか。 アズキさんが降りてきて、また何かを壊すのを見る前に私は帰りまーす!)
リサは颯爽と受付を交代し、デザート付きのランチを食べに行くのであった。
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ヒカリ、新規メンバー獲得ならず!
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
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戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
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