真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

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第212話 戦争と善悪の区別

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 「待ってくれ、待ってくれぇぇぇ! 儂等が何をしたと言うのだ! 儂等はただ、民達の為に国を――ぎぇっ?!」

 小さな王城の広間に、小国の王の首が転がった。

 「ちっ、俺の鎧に血が付いたじゃねえか。 糞が」 

 召喚されし者達のリーダーである勇者カズキは血糊が付着した剣を振り払う。

 そして白銀の鎧に付いた血を死んだ国王の服で拭った。

 「カズキお疲れ様~! こっちも終わったわよ」

 「おう、ユズキか。 これで滅ぼした国は何カ国目だ?」

 聖女ユズキが可愛らしく首を傾げ、数を数える。

 「ひーふーみー、あ! 此処で4カ国目だね。 いやぁ、宝物庫漁ったんだけどしょぼかった~」

 「もう4カ国目か。 早いな……って、宝物庫だと!? おいおい、ユズキに任せたのは騎士団の足止めだろ?」

 「はぁ? 何言ってんのよ、そんなの秒殺よ。 直ぐに死んじゃってつまんなかったんだから」

 カズキは頬を膨らませるユズキが手に持つ鈍器にべっとりと血が付着している事に気付く。

 「そうか、なら良い。 それより、兵達は?」

 「んー? いつも通りじゃない? 略奪に殺戮に強姦」

 「はぁ~……またかよ。 止めてくる」

 カズキは剣を腰にしまい、街へと向かう。 すると、ユズキは意外そうに声を上げた。

 「へぇ~、他の国もそうだったけど何でわざわざ止めるのかしら? カズキはこの世界にオリジン様を布教し、異端な国々を滅ぼして回る勇者様よね? それとも……地球に居た頃みたいな善良な精神を取り戻したの?」

 歩きを止めたカズキは、ゆっくりとユズキの方へと振り返る。

 「ただ、民達を大勢殺せばそれだけオリジン様を崇める人数が減るってだけだ。 それは使命に背くのと変わらないんじゃないのか? 俺達は創造神オリジン様に選ばれた者達だと云うことを忘れたのか? ユズキ」

 カズキが仲間であるユズキに対し微かに殺気を放った。

 「へいへい、そうですね~。 変な事聞いてめんごめんご。 あ、牢獄に居る囚人は好きに遊んでも良い?」

 しかしユズキはそんなカズキには目もくれず、地下へと続く階段を見つけてワクワクが止まらない様子だ。

 「はぁ~……それぐらいならいいだろ。 それと、マヒルとミカはどこに居るんだ?」

 カズキはそんなユズキの様子を見て深いため息を吐き、渋々了承する。 所詮は敵国の囚人、人権すら無いに等しいこの世界ではどのみち死刑か牢獄で餓死するだけなのだ。 国が滅ぼされた今、どうせ待っているのは餓死だろうとカズキは判断した。

 「ん~と、王都を攻める時に城門をミカの殲滅魔法で吹き飛ばしたでしょ? その後はマヒルと一緒に後方支援に回ってるはずよ」

 「そうか、ならいい。 じゃあ、後でなユズキ」

 地下へと向かうサディスティック聖女ユズキと別れ、カズキは王城を出た。

 ◆◇◆

 周辺には小国の兵士達が無残に倒れ屍の山を築いていた。

 そして、街中からは悲鳴が聞こえ聖王国の兵士達が略奪をしているのが見える。

 「お前等、略奪を止めろ!!」

 カズキは直ぐに近付き、兵士達を制止した。

 「はっ!! し、しかしカズキ殿。 この略奪は聖王陛下より直々に許可が出ておりますが……?」

 立場がはるかに上のカズキに止められ、兵士達は直ぐに略奪の手を止めたが顔には不満が表れている。

 「なら逆に聞くが、此処での戦闘を殆どしたのは誰だ?」

 「……カズキ様達です」

 「その通り。 なのに、殆ど何もしていないお前達が略奪を楽しむのか? オリジン様の新たな信徒を殺戮するのか? 女達を強姦するのか?」

 カズキはユズキに放った殺気とは比べ物にならない本気の殺気を兵士達に放ち、カズキに口答えした兵士は恐怖から尻もちをついた。

 「も、申し訳あ、ありませんでした……」

 「分かったなら良いですよ。 じゃあ、他の兵士達にも伝達をお願いしても良いですか?」

 カズキは先程の殺気が幻覚だったのかと思わせる程の営業スマイルを浮かべ、尻もちを付いた兵士を優しく立たせる。

 「は、はい! 直ぐに!!」

 そして、略奪をしていた兵士達が伝達しに走り去る姿を見送った後にカズキは顔を歪めつばを吐いた。

 「ぺっ! ゴミ共が。 この世界は俺の物なんだよ、汚い手で触るな。 ん……? おい」

 「「「「ひぃっ、お、お許しをっ……」」」」

 カズキの悪辣な姿を見てしまった民達に気付いたカズキは近付き剣を抜く。

 「悪いな。 俺は神の使徒たる勇者なんだ。 運が悪かったと諦めてくれ」

 「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」

 剣で細切れにされ新たな骸と化した4人の民達をカズキは炎魔法で消し炭にする。

 「さて、マヒルとミカと合流したらさっさとこの国も掌握するかぁ~」

 カズキは何事も無かったように歩き始め、兵士達が敬う勇者として振る舞うのであった。

 ◆◇◆

 「うふふ、ミカ……今日も可愛いね」

 「……ありがとう、ございます。 マヒル様」

 虚ろな目をした賢者ミカを撫でる性王マヒルは、ミカが映し出したカズキの映像を見て妖艶に微笑む。

 「うんうん、カズキ君も良い感じに仕上がってきてるね。 うふふ……あぁ、楽しみだなぁ。 早く復讐に来てよ……クウネルちゃん♡」

 性王マヒルは嗤う。

 全て自分の思い通りになると本気で信じ込み、善悪の区別すら曖昧になり始めた傀儡を見て。
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