真巨人転生~腹ペコ娘は美味しい物が食べたい~

秋刀魚妹子

文字の大きさ
229 / 247

第223話 囮になるのは当然私と荒療治な修行開始

しおりを挟む
 「ちょっとちょっとちょっとー! 何で水竜って名前なのに陸地来るのよー!」

 ネルはトロール達が避難している家を落とさないように注意しながら走り続けていた。

 「ガウッ! ネル、狙いは私達で間違い無いみたいだね! 曲がっても付いてきてるよ!」

 ネルの背後には団子状になりながら向かってくる水竜達の群れが迫っており、逃走経路を変えても無駄な事にモロは吠える。

 「姉御、家の中にいるトロール達が心配です! これ以上の速度は出さないでくだせい!」

 「分かってるー!」

 ネルが全速力で走れば陸地を無理矢理進む水竜達を撒くことは可能だが、その場合家の中に居るトロール達は無事では済まないだろう。

 (鑑定! かんてーい! ちょっと、お願いだから帰って来てよ! ピンチなのよー!)

 必死に内心で鑑定を呼んでいると、ようやく返答が返ってきた。

 «――帰還。 ネル、現在地の情報を獲得出来ました。 現在地は――»

 (聞いてられないわよー! 後ろの気配をさっさと確認して! それでどうしたら良いか言ってー!)

 現在地を知りたいのは当然だが、残念ながら今はそれどころでは無いのだ。

 «――確認。 迫っている水竜達は粘膜液で互いを守りながら陸地を進んでいます。 対策を思案――決定。 ネル、この先に草原が有ります。 その草原を火炎で燃やして下さい»

 (そっか! パニックになってたから忘れてたけど、水竜の弱点って炎なのよね。 でも、燃やしてる間に追い付かれない?!)

 ネルは必死に家を揺らさない様に走り、水竜達は大口を開けながら迫っている。

 草原に到着してからゆっくりと火炎を吐く暇は無さそうだ。

 «――囮。 キュウベイかモロを囮に時間を稼いで下さい»

 (はぁ!? 絶対にダメ! 嫌よ!)

 «――囮。 ネルは抱えている家の中で震えるトロール達を助けたいのでしょう? ならば選択すべきです»

 無情にも思える鑑定からの提案にネルは歯軋りをした。

 「そうしないと追い付かれるって事ね。 ふん、分かったわよ……キュウベイ! モロ! 私が囮になるから、トロール達を連れてトロールの集落まで逃げて!」

 «――ネル!?»

 ネルは草原に到着するや否や、家を滑らせるようにして手を離し2匹を掴んで同じ様に投げる。

 「姉御!? 待ってくだせい! 囮なら俺が!!」 

 「キャイン?! ネル、危険だよ!」

 「お願い! キュウベイやモロに危険な役目をやらせたくないの! 行って!!」

 投げられたキュウベイとモロは草原を滑り無事に着地し、直ぐ様ネルの方へと引き返そうとしたがネルからの言葉に躊躇った。

 既に、ネルの直ぐ背後に水竜達は迫りこのままではトロールやキュウベイ達も危険だろう。

 「……直ぐに戻りやすから!」

 「ガルルル……キュウベイ、殿は私がしよう。 トロール達を引き連れて走るんだ!」

 残りの矢が1本しか無いキュウベイに出来る事は無く、歯を食いしばりながら家に向かって走り出した。 その後ろを守るようにモロも向かい、その様子を見てネルは安堵のため息を吐く。

 「良かった……。 よし、やるわよ!」

 «――危険。 ネル、こうなったら出来る事は1つです。 火炎を吐きながら水竜達の粘膜を剥がし、ハルバードで首を狙って下さい»

 「言われなくても当然! それと……鑑定!」

 ネルはハルバードを構え、襲い来る団子状に絡みつく水竜達と対峙した。

 ◆◇◆

 ネルが自身を囮にしている頃、クウは摩訶不思議化空間に母と居た。

 「あの……お母さん? 此処が暴食の胃袋の中なの?」

 「ふふ、そうよ~?♪ 正確にはクウちゃんの創り出した異空間みたいなモノね。 時間の経過は無いに等しく、この空間にいる間は外の世界は止まってるのと同じよ」

 強くなる為に焦っていたクウは、突然母から提案され暴食の胃袋に自分達を収納したのだ。

 暴食の胃袋の中は明るく、凄まじく広い空間が何処までも続いている。 何か食べ物や物を収納していればこの空間に有るのだろうが、残念ながらクウは出された食事は瞬時に食べるので今は何も無い空間だ。

 「つまり……それって! 精神○時の部屋って事!?」

 「……ごめんなさい、ソレが何か分からないわぁ~♪」

 クウは瞬時にこの空間が何かを理解し、興奮気味に叫んだが漫画を読まない母には通用しなかった。

 「こほんっ! つ、つまり……この空間にいる間は幾らでも修行が出来るって事だね!」

 「ふふ♪ クウちゃんは本当に賢いわね~。 そうよ~、此処ならいくら暴れても……平気だから♪」

 夢にまで見たオタク心をくすぐる部屋に小躍りするクウとは違い、母は静かに戦闘準備を始める。

 「えっと~、クウちゃんにはね。 まだ教えてない暴食の権能が幾つか有るのよ。 でも、外の世界でやるとちょっと困った事になる権能も有るから此処でやりましょうね~♪」

 「よし! オラワクワクすっぞ! お母さん、よろしく……ね? えっと……母上? いつも以上に多い黒い触手が背後に蠢いていらっしゃいますが?」

 クウが振り向くと母は数千本の触手を背後から出現させており、母はニッコリと笑った。

 「ふふ♪ 先ずは……暴食の舌からね。 何度も見せたけど、実はコレが本当の使い方なの。 触手の一本一本が手足の様に操れて、色んな事に使えて便利なのよね~♪ お料理も手が足りていいのよ~」

 「あ、あはは……それは良いですねー……。 母上~? 何か、殺気が出てませんか?」

 「ほら、クウちゃんは早く強くなりたいのよね? ふふ、なら……少し荒療治しないと。 死んじゃダメよー?」

 言い終えると同時に数千本の触手がクウへと襲い掛かる。

 「ぎゃぁぁぁぁぁ?! 暴食の食卓! 暴食の口ー! やばいやばいやばいやばい! にぎゃーーー!」

 暴食の胃袋の中で、クウの悲鳴が木霊するのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...