彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。

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ドア・インザ・フェイス

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翌朝。

手早く制服に着替え、鏡の前に立つ。

「すげぇ…ヒゲが全然濃くないし何より髪もフサフサじゃないか…!」

思わず若返った自分の姿に見入ってしまう。

「お兄ちゃん何やってんの…?」

……そのまましばらく見入っていると、日奈美が呆れ顔で声をかけてくる。

「あ、あはは今日もいい天気だなぁ。」

慌てて顔を洗い、鏡から目を逸らす。

「今日曇りだけど…。」

「な、夏だし曇りぐらいがちょうどいいんだって!」

「…ふーん?朝ご飯もう出来てるから早く来てね。」

どこか腑に落ちない表情で日奈美はリビングの方に歩いていく。

日奈美がリビングに入ったのを確認してからもう一度鏡に向き直る。

「本当、この頃は良かったなぁ…。」

なんと言っても転生前は三十代半ばである。

ヒゲは剃らないと伸び続けるし、頭も頭頂部が寂しくなり始めてからは怖くてこんな風にじっくり鏡を見る機会が減っていった。

朝起きた時に枕を見て抜け毛の多さに恐怖したあの頃とはそもそも根本で違うのだ。

色んな意味で。(意味深)

大事にしよう、この髪を…。

明日からひじきでも食べようかしらん、、

さて、リビングに行くと、日奈美が先に朝食を食べていた。

今日のメニューはトースト、スクランブルエッグ、アイスコーヒーだ。

日奈美の向かいの席に座り、俺も朝食に手を付ける。

「お兄ちゃん、今日はちゃんと教科書準備した?」

なんでバレて!と思ったが昨日もそんな話してたっけ……。

「大丈夫、今日はちゃんと確認したからさ。」

リオが貰った時間割表をコピーさせてもらったおかげでその辺りは抜かりなしである。

え、自分のはって?

ばっか、そんなのあの机に詰め込まれてるに決まってんだろ……。

いや、実際見た訳じゃないから知らんけど……。

さて朝食を食べ終えて歯磨きしてから家を出ると、入り口前でリオが待っていた。

「悠太さん、おはようございます。」

昨日はどこぞの青狸みたいな登場だったのに成長したものである。

それにしても口に加えてる目刺しは朝ご飯だろうか。

食パンを加えたヒロインと曲がり角でぶつかる、なんてベタなラブコメ展開はよく聞くが、目刺しを口に加えた天使見習いが迎えに来るラブコメなんて聞いた事無いぞ。

「リオさん、おはよう。」

「あ、日奈美さんもおはようございます。」

そのまま三人並んで歩き出す。

考えてみたら昨日はリオが出した行きたい所ドアで行ったし普通に徒歩で通学するのは今日が初めてと言う事になるんだよな。

「なんか、懐かしいなぁ。」

働き始めると当然制服なんか着なくなる。

こうして同じように制服を着てる友達と一緒に歩く事も無いし、行先だって会社ではなく学校なのだ。

随分遠い記憶になった筈の時間を、こうしてまたやり直せている事が今は余計に不思議に感じる。

「ずっと高校生でいたいな…。」

「留年でもする気ですか…?」

思わず呟くと、リオに真顔でツッコまれた。

「お兄ちゃん、一緒に居られる時間が増えるのは嬉しいけどお兄ちゃんと同じ学年になるとか嫌だからね…。 」

日奈美にまで呆れられた。

「いや、そうじゃなくてさw

大人と高校生の差を思い知ったと言うか…。

いっその事日常系漫画とかみたいに同じ学年と年齢で何度もグルグルしてみたいなぁなんて!」

「やだなぁ、悠太さん。

ここ、現実世界ですよ?

そんなファンタジーな話、ある訳ないじゃないですか。」

あるぇ?あなた天使見習いじゃなかったっけぇ?

初日から怪しい道具使ったり普通の引き出しから顔出したりしてなかったけぇ……?

「そうだよ、馬鹿な事言ってないでちゃんと高校卒業出来るように頑張ってよね。 」

日奈美にも窘められる。

うーん...俺がおかしいのかしらん…。

「……ひっ!?」

と、ここで背後から冷たい視線が向けられている事に気付く。

「ねぇ、悠太。

なんで返事くれなかったの?

ねぇ、なんで?」

恐る恐る振り向くと、どす黒いオーラを放った志麻がいた。

そう言えばこいつの存在マジで忘れてたわ…。

そう思いながらメッセージアプリの画面を開くとshimaと言う名前のアカウントからの通知が999+になっていた。

え、怖っ、こんなの初めて見たんだけど…。

一応遡ってみる。

その間同じような文面が目の端にチラつくが見ないふり。

え、てか最初のメッセージファミレスで別れてから数分しか経ってないんだが…。

【やっほー何してる?】

普通に帰宅中でしたが?

【ねぇ】

【待ってるんだけど】

【なんで返事くれないの?】

【もういい】

そこから数十分後。

【|・` )】

【ねぇ】

【無視しないでよ。】

【怒ってるの?】

【私が悪いの…?】

【謝るから返事して】

【本当にごめんなさい】

鳥肌が立って来たのでこの辺で勘弁してくださいw

むしろここまで読めた事を褒めて欲しいくらいである。

「私、ずっと待ってたんだよ。」

そう言う志麻の目元には確かにクマが浮かんでいた。

実際俺も寝不足だが、こんな形でコイツとお揃いになるなんて迷惑な話である。

「ガウガウ。」

さて、校門前には熊の着ぐるみを着た校長が居た。

熊違いだがそんな事はどうでもいい。  

「リュウたん、おはよう。」

「ガウガウ!」

俺がそう呼ぶと、どこか嬉しそうで笑っている…ような気がした。

だって実際のとこ分からないじゃん着ぐるみだし…。

「悠太さん、知り合いだったんですか?」

「まぁな、リュウたんもUthtuberで本当始めた最初の頃から仲良くしてくれてる人…いや、熊でさ。」

「ガウ!」

今人って言った時睨まなかった?

いや着ぐるみだしなぁ…。

「リュウ先生可愛いよね!私もグッズ集めてるんだー。」

日奈美が嬉しそうにストラップを見せてくる。
 
良いなそれ、俺も買おっと。

「でもこっちの世界でも会えて嬉しいな。」

「ガウガウ!」

それを聞いて嬉しそうに抱きついてくるリュウ先せ、って力強くない!?

「痛い痛い!?」

「ガウ!」

頭に手を置いて首を傾ける。

ベロ出てないけどテヘペロのつもりかしらん…。

「悠太が構ってくれない…。

せっかくまたやり直…「してないからな?

友達だから!友達。」」

「ぴえん。 」

それリアルに言ってるやつ初めて見たんだが、、

「とにかく、友達にあんな数のメッセージ送っちゃいけません。」

「友達なのに…?」

「話聞いてた?友達だからだよ?」

え…もしただの友達以上の関係だったらもっと送ってたって事?

怖い怖い…。

「分かった。

なら100までにする。」

「うんうん、まぁそれぐらいなら…ってまだ多いわ!?」

危ない危ない……。

危うく騙される所だった……。

これがドア・イン・ザ・フェイスの法則ってやつか…。

コイツとの付き合い方もこれからはもうちょっと考えていかないとなぁ…。

そんな事を考えていた俺は、その姿を見てしばし立ち尽くす瀬川宏美の姿に気付いていなかった。

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