62 / 81
リハーサル
しおりを挟む
十月上旬、文化祭の前日、ステージでリハーサルをやらせてもらえることになった。
部室から機材を体育館に運ぶ。ドラム、キーボード、アンプなど、色々とあるので何往復かしなければいけない。
とりあえず皆各自の楽器を持って体育館に向かう。
体育館に入ると、いつもと違い薄暗かった。
暗幕が張られていて、照明もステージ上のみの状態。
チハルが入り口で役員さんに話しかけ、ステージ袖の機材置き場まで案内された。
そこに持ってきた機材を置いて、二往復目に向かう。
四月にベース一つでふらついていたシオリは余裕の表情で一往復目を終えた。
毎日ベースを掛けて練習しているので体力もついたようだ。
本人にその話をすると心なしかドヤ顔になった。ただ二往復目でへばった。
また以前のように燃え尽きたボクサーみたいになって、この後のリハーサルに影響があっては困るので休んでもらった。
そして全ての機材を運び終え、私達は部室で衣装に着替えた。
「なんで衣装なの。制服でいいじゃん」
という発言は「出来るだけ本番に即したい」との部長決定で却下された。
着替えると急に緊張が増してくる……
「ヤバい吐きそう……」
「まだまだね」
私にニヤリとしたシオリは足まで笑っていて、マリにツッコまれる。
「ガクブルしてるよ?」
「ホントにポンコツ組は仕方ねーな! まだリハじゃねーか! 覚悟決めろよ!」
サナエがキレ気味に発破を掛けてくる。
「決めてるよ。でも緊張は別でしょ」
私がそう言うとシオリは強く頷いた。
そんなシオリをサナエがジロリと睨む。
「お前『まだまだね(真似)』とか抜かしたじゃねーか」
「虚勢に決まってるでしょ」
「開き直りやがった」
シオリと私はサナエと火花を散らした。
「はいはい、そろそろ行くよー」
いつも通りのチハルの合図にビクリとした。
この可愛くて綺麗な衣装が恥ずかしくて部室から出ることに凄く抵抗がある。
けど、みんな一緒! ずっと心の準備はしてきたんだ! と勢いをつけて部室から出た。
「右の手足が同時に出てるぞ」
サナエに指摘されたけど聞こえないフリをした。
ビクビクしながら体育館に向かう。
体育館に近づくと、轟音、とまではいかないけど、音楽が聞こえた。大型スピーカー特有の音。
体育館に入るとステージ上では多分ダンス部がリハーサルをしていて、体に振動が伝わるような大音量が鳴っていた。
ダンス部はジャージで羨ましい。
ダンス部のリハーサルを横目で見ながらステージ袖に移動する。
衣装だからか視線が気になるけど、思ったより落ち着いていた。
チハル提案の友達に見てもらう作戦。アレを何度かやったからかもしれない。
マリの友達やサナエの友達、被服部の皆さんも見に来てくれていた。
更にマリへの壁ドン。アレより恥ずかしいことはそうそうない。
アレに比べれば、と半分ヤケクソみたいな思い切りを覚えられた。結果としては良かったかもしれない。ただサナエは許さない。
暗さと轟音も雑念を晴らすことに一役買っているのかも。
などと考えていたら轟音が止み、マイクであれこれ確認する声が聞こえた。
ステージ上を片付ける指示の声も聞こえる。私達の順番はもうすぐだと分かった。
マリが問いかけてくる。
「大丈夫?」
「うん」
そう返すとマリはニコリとした。
「では軽音部どうぞー」
「はい! お願いしまーす!」
役員さんとチハルのやり取りを合図にステージに上がる。
ステージは照明で眩しく暑かった。
機材のセッティングをする。
前列の左から順にシオリ、マリ、チハルのギターとベース。
後列にサナエ、私のドラムとキーボード。
機材のセッティングは特に問題無く終わり、音が出るかテストをする。
こちらも問題は無かったけど、やっぱり部室とは違う聞こえ方に違和感はあった。
やる曲は二曲。夏の予選に投稿した曲と九月に投稿した曲。
改めてアリーナを見る。暗くいけど、顔はハッキリ分かる。
今こちらを向いているのは役員さん十人ほどだけど、明日はどれほどの顔がこちらを向くのか分からない。
少しだけ不安になる。誰も来ないかも、沢山来たらそれはそれで怖い。ヘタレがまた芽を出した。
そんな芽をかき消すようにマリがマイクチェックをした。
「あーあー」と声を出す。
マリの声はいつも通りに響いて少しだけ落ち着けた。
ジワジワと自分達の楽器の音が広い体育館いっぱいに伝わる快感に気付いて来た。
「オッケー? みんなオッケーかな?」
そんな快感に浸っていると、チハルが振り返り皆にリハーサル開始の確認をしていた。
いつの間にかマイクチェックは終わっていた。慌てて頷く。
チハルはニコッとしてアリーナへ向き直り、開始の合図を出した。
「じゃあ、お願いしまーす!」
サナエがカウントし、演奏を始める。
さっきまで聞こえていたより、更にハッキリと体に感じる大音量。
数えられないほど練習した演奏は体に染み込んでいて、緊張や照明は問題にならなかった。
隣から刻まれるスネアが心地よくて楽しさすら感じる。
そしてマリが歌い出す。
マリが発声すると、私の曲が完成する。
今まで何度も聞いて来た歌声が、広い空間を揺らす。
私達の世界が体育館を満たす。
音の振動が体温を上げる。
それでも頭の一部は冷静で、自分の演奏も世界の一部になっていた。
これほど楽しさで満ち溢れた世界は他にないと思った。
時折目が合う皆も笑っていた。きっと私も同じように。
そこからはあっという間だった。二曲通した時点でリハーサルは終了。
チハルが役員と何やらやり取りをしていたけど、よく耳に入らなかった。
足りない。まだ演奏したいのに。
「楽しかったね」
シオリに話しかけられて現実に引き戻された。
シオリは満足気に微笑んでいて。足の震えなんて最初から無かったように思えた。
「うん、楽しかった」
ポンコツ組は抱きしめ合った。いや、もうポンコツ組とは呼ばせまい。
「お前らマジなんでビビってたんだよ」
「ホントー! 完璧だったでしょ!」
サナエとマリも寄ってくる。やっぱり皆楽しかったんだ。
まだ熱の残るステージ上、確かな自信を得てリハーサルは終わった。
部室から機材を体育館に運ぶ。ドラム、キーボード、アンプなど、色々とあるので何往復かしなければいけない。
とりあえず皆各自の楽器を持って体育館に向かう。
体育館に入ると、いつもと違い薄暗かった。
暗幕が張られていて、照明もステージ上のみの状態。
チハルが入り口で役員さんに話しかけ、ステージ袖の機材置き場まで案内された。
そこに持ってきた機材を置いて、二往復目に向かう。
四月にベース一つでふらついていたシオリは余裕の表情で一往復目を終えた。
毎日ベースを掛けて練習しているので体力もついたようだ。
本人にその話をすると心なしかドヤ顔になった。ただ二往復目でへばった。
また以前のように燃え尽きたボクサーみたいになって、この後のリハーサルに影響があっては困るので休んでもらった。
そして全ての機材を運び終え、私達は部室で衣装に着替えた。
「なんで衣装なの。制服でいいじゃん」
という発言は「出来るだけ本番に即したい」との部長決定で却下された。
着替えると急に緊張が増してくる……
「ヤバい吐きそう……」
「まだまだね」
私にニヤリとしたシオリは足まで笑っていて、マリにツッコまれる。
「ガクブルしてるよ?」
「ホントにポンコツ組は仕方ねーな! まだリハじゃねーか! 覚悟決めろよ!」
サナエがキレ気味に発破を掛けてくる。
「決めてるよ。でも緊張は別でしょ」
私がそう言うとシオリは強く頷いた。
そんなシオリをサナエがジロリと睨む。
「お前『まだまだね(真似)』とか抜かしたじゃねーか」
「虚勢に決まってるでしょ」
「開き直りやがった」
シオリと私はサナエと火花を散らした。
「はいはい、そろそろ行くよー」
いつも通りのチハルの合図にビクリとした。
この可愛くて綺麗な衣装が恥ずかしくて部室から出ることに凄く抵抗がある。
けど、みんな一緒! ずっと心の準備はしてきたんだ! と勢いをつけて部室から出た。
「右の手足が同時に出てるぞ」
サナエに指摘されたけど聞こえないフリをした。
ビクビクしながら体育館に向かう。
体育館に近づくと、轟音、とまではいかないけど、音楽が聞こえた。大型スピーカー特有の音。
体育館に入るとステージ上では多分ダンス部がリハーサルをしていて、体に振動が伝わるような大音量が鳴っていた。
ダンス部はジャージで羨ましい。
ダンス部のリハーサルを横目で見ながらステージ袖に移動する。
衣装だからか視線が気になるけど、思ったより落ち着いていた。
チハル提案の友達に見てもらう作戦。アレを何度かやったからかもしれない。
マリの友達やサナエの友達、被服部の皆さんも見に来てくれていた。
更にマリへの壁ドン。アレより恥ずかしいことはそうそうない。
アレに比べれば、と半分ヤケクソみたいな思い切りを覚えられた。結果としては良かったかもしれない。ただサナエは許さない。
暗さと轟音も雑念を晴らすことに一役買っているのかも。
などと考えていたら轟音が止み、マイクであれこれ確認する声が聞こえた。
ステージ上を片付ける指示の声も聞こえる。私達の順番はもうすぐだと分かった。
マリが問いかけてくる。
「大丈夫?」
「うん」
そう返すとマリはニコリとした。
「では軽音部どうぞー」
「はい! お願いしまーす!」
役員さんとチハルのやり取りを合図にステージに上がる。
ステージは照明で眩しく暑かった。
機材のセッティングをする。
前列の左から順にシオリ、マリ、チハルのギターとベース。
後列にサナエ、私のドラムとキーボード。
機材のセッティングは特に問題無く終わり、音が出るかテストをする。
こちらも問題は無かったけど、やっぱり部室とは違う聞こえ方に違和感はあった。
やる曲は二曲。夏の予選に投稿した曲と九月に投稿した曲。
改めてアリーナを見る。暗くいけど、顔はハッキリ分かる。
今こちらを向いているのは役員さん十人ほどだけど、明日はどれほどの顔がこちらを向くのか分からない。
少しだけ不安になる。誰も来ないかも、沢山来たらそれはそれで怖い。ヘタレがまた芽を出した。
そんな芽をかき消すようにマリがマイクチェックをした。
「あーあー」と声を出す。
マリの声はいつも通りに響いて少しだけ落ち着けた。
ジワジワと自分達の楽器の音が広い体育館いっぱいに伝わる快感に気付いて来た。
「オッケー? みんなオッケーかな?」
そんな快感に浸っていると、チハルが振り返り皆にリハーサル開始の確認をしていた。
いつの間にかマイクチェックは終わっていた。慌てて頷く。
チハルはニコッとしてアリーナへ向き直り、開始の合図を出した。
「じゃあ、お願いしまーす!」
サナエがカウントし、演奏を始める。
さっきまで聞こえていたより、更にハッキリと体に感じる大音量。
数えられないほど練習した演奏は体に染み込んでいて、緊張や照明は問題にならなかった。
隣から刻まれるスネアが心地よくて楽しさすら感じる。
そしてマリが歌い出す。
マリが発声すると、私の曲が完成する。
今まで何度も聞いて来た歌声が、広い空間を揺らす。
私達の世界が体育館を満たす。
音の振動が体温を上げる。
それでも頭の一部は冷静で、自分の演奏も世界の一部になっていた。
これほど楽しさで満ち溢れた世界は他にないと思った。
時折目が合う皆も笑っていた。きっと私も同じように。
そこからはあっという間だった。二曲通した時点でリハーサルは終了。
チハルが役員と何やらやり取りをしていたけど、よく耳に入らなかった。
足りない。まだ演奏したいのに。
「楽しかったね」
シオリに話しかけられて現実に引き戻された。
シオリは満足気に微笑んでいて。足の震えなんて最初から無かったように思えた。
「うん、楽しかった」
ポンコツ組は抱きしめ合った。いや、もうポンコツ組とは呼ばせまい。
「お前らマジなんでビビってたんだよ」
「ホントー! 完璧だったでしょ!」
サナエとマリも寄ってくる。やっぱり皆楽しかったんだ。
まだ熱の残るステージ上、確かな自信を得てリハーサルは終わった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~
菱沼あゆ
キャラ文芸
クリスマスイブの夜。
幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。
「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。
だから、お前、俺の弟と結婚しろ」
え?
すみません。
もう一度言ってください。
圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。
いや、全然待ってなかったんですけど……。
しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。
ま、待ってくださいっ。
私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる