ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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リハーサル

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 十月上旬、文化祭の前日、ステージでリハーサルをやらせてもらえることになった。
部室から機材を体育館に運ぶ。ドラム、キーボード、アンプなど、色々とあるので何往復かしなければいけない。

 とりあえず皆各自の楽器を持って体育館に向かう。
体育館に入ると、いつもと違い薄暗かった。
暗幕が張られていて、照明もステージ上のみの状態。

 チハルが入り口で役員さんに話しかけ、ステージ袖の機材置き場まで案内された。
そこに持ってきた機材を置いて、二往復目に向かう。

 四月にベース一つでふらついていたシオリは余裕の表情で一往復目を終えた。
毎日ベースを掛けて練習しているので体力もついたようだ。
本人にその話をすると心なしかドヤ顔になった。ただ二往復目でへばった。
また以前のように燃え尽きたボクサーみたいになって、この後のリハーサルに影響があっては困るので休んでもらった。




 そして全ての機材を運び終え、私達は部室で衣装に着替えた。
「なんで衣装なの。制服でいいじゃん」
という発言は「出来るだけ本番に即したい」との部長決定で却下された。

 着替えると急に緊張が増してくる……

「ヤバい吐きそう……」
「まだまだね」

 私にニヤリとしたシオリは足まで笑っていて、マリにツッコまれる。

「ガクブルしてるよ?」
「ホントにポンコツ組は仕方ねーな! まだリハじゃねーか! 覚悟決めろよ!」

 サナエがキレ気味に発破を掛けてくる。

「決めてるよ。でも緊張は別でしょ」

 私がそう言うとシオリは強く頷いた。
そんなシオリをサナエがジロリと睨む。

「お前『まだまだね(真似)』とか抜かしたじゃねーか」
「虚勢に決まってるでしょ」
「開き直りやがった」

 シオリと私はサナエと火花を散らした。

「はいはい、そろそろ行くよー」

 いつも通りのチハルの合図にビクリとした。

 この可愛くて綺麗な衣装が恥ずかしくて部室から出ることに凄く抵抗がある。
けど、みんな一緒! ずっと心の準備はしてきたんだ! と勢いをつけて部室から出た。

「右の手足が同時に出てるぞ」

 サナエに指摘されたけど聞こえないフリをした。

 ビクビクしながら体育館に向かう。




 体育館に近づくと、轟音、とまではいかないけど、音楽が聞こえた。大型スピーカー特有の音。

 体育館に入るとステージ上では多分ダンス部がリハーサルをしていて、体に振動が伝わるような大音量が鳴っていた。
ダンス部はジャージで羨ましい。

 ダンス部のリハーサルを横目で見ながらステージ袖に移動する。
衣装だからか視線が気になるけど、思ったより落ち着いていた。

 チハル提案の友達に見てもらう作戦。アレを何度かやったからかもしれない。
マリの友達やサナエの友達、被服部の皆さんも見に来てくれていた。
更にマリへの壁ドン。アレより恥ずかしいことはそうそうない。
アレに比べれば、と半分ヤケクソみたいな思い切りを覚えられた。結果としては良かったかもしれない。ただサナエは許さない。

 暗さと轟音も雑念を晴らすことに一役買っているのかも。
などと考えていたら轟音が止み、マイクであれこれ確認する声が聞こえた。
ステージ上を片付ける指示の声も聞こえる。私達の順番はもうすぐだと分かった。
 マリが問いかけてくる。

「大丈夫?」
「うん」

 そう返すとマリはニコリとした。

「では軽音部どうぞー」
「はい! お願いしまーす!」

 役員さんとチハルのやり取りを合図にステージに上がる。
ステージは照明で眩しく暑かった。

 機材のセッティングをする。
前列の左から順にシオリ、マリ、チハルのギターとベース。
後列にサナエ、私のドラムとキーボード。

 機材のセッティングは特に問題無く終わり、音が出るかテストをする。
こちらも問題は無かったけど、やっぱり部室とは違う聞こえ方に違和感はあった。

 やる曲は二曲。夏の予選に投稿した曲と九月に投稿した曲。

 改めてアリーナを見る。暗くいけど、顔はハッキリ分かる。
今こちらを向いているのは役員さん十人ほどだけど、明日はどれほどの顔がこちらを向くのか分からない。
少しだけ不安になる。誰も来ないかも、沢山来たらそれはそれで怖い。ヘタレがまた芽を出した。

 そんな芽をかき消すようにマリがマイクチェックをした。
「あーあー」と声を出す。
マリの声はいつも通りに響いて少しだけ落ち着けた。

 ジワジワと自分達の楽器の音が広い体育館いっぱいに伝わる快感に気付いて来た。

「オッケー? みんなオッケーかな?」

 そんな快感に浸っていると、チハルが振り返り皆にリハーサル開始の確認をしていた。
いつの間にかマイクチェックは終わっていた。慌てて頷く。
チハルはニコッとしてアリーナへ向き直り、開始の合図を出した。

「じゃあ、お願いしまーす!」

 サナエがカウントし、演奏を始める。

 さっきまで聞こえていたより、更にハッキリと体に感じる大音量。
数えられないほど練習した演奏は体に染み込んでいて、緊張や照明は問題にならなかった。
隣から刻まれるスネアが心地よくて楽しさすら感じる。

 そしてマリが歌い出す。
マリが発声すると、私の曲が完成する。

 今まで何度も聞いて来た歌声が、広い空間を揺らす。
 私達の世界が体育館を満たす。
 音の振動が体温を上げる。

 それでも頭の一部は冷静で、自分の演奏も世界の一部になっていた。

 これほど楽しさで満ち溢れた世界は他にないと思った。
時折目が合う皆も笑っていた。きっと私も同じように。

 そこからはあっという間だった。二曲通した時点でリハーサルは終了。
チハルが役員と何やらやり取りをしていたけど、よく耳に入らなかった。

 足りない。まだ演奏したいのに。

「楽しかったね」

 シオリに話しかけられて現実に引き戻された。
シオリは満足気に微笑んでいて。足の震えなんて最初から無かったように思えた。

「うん、楽しかった」

 ポンコツ組は抱きしめ合った。いや、もうポンコツ組とは呼ばせまい。

「お前らマジなんでビビってたんだよ」
「ホントー! 完璧だったでしょ!」

 サナエとマリも寄ってくる。やっぱり皆楽しかったんだ。
まだ熱の残るステージ上、確かな自信を得てリハーサルは終わった。
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