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ガルテナ前日
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冬テナ前日の二月十日、部室で本番前最後の練習を終えた。
皆コタツの指定席に座り、軽音部会議をする。
チハルが明日の段取りを説明してくれているけど、イマイチ頭に入らない。既に緊張していた。
「ユカ?」
隣に座るマリに顔を覗き込まれる。
「なに?」
「大丈夫?」
「ぜんぜんだいじょうぶですけど?」
大丈夫じゃない。声が上ずってしまう。
「もう緊張してるの?」
「ぜんぜん? いますぐにでもえんそうできるよ」
「そりゃ今部室だしね」
マリが苦笑すると、サナエにも「しょーがねーなぁ」と言わんばかりの表情を向けられる。
「今から緊張してどうすんだよ」
「いや普通緊張するでしょ」
言うとシオリも頷いて同意してくれた。いつもの無表情だったけど、コタツの中の足はいつも通り震えているに違いない。
「緊張なんてしてる場合じゃないよ! ガルテナのステージに立てるなんてそうそうないことなんだから!」
元気に言ったのは正面に座るチハル。皆に視線を向けられると、チハルは続けて言った。
「だから明日は最っ高に楽しもう!!」
邪念も弱気も吹き飛ばしそうな笑顔だった。
サナエも笑って同意する。
「だな!」
「そうそう! 楽しもうぜ!」
マリは言いながら私の右肩をバンバン叩いた。
「痛い。肩外れた。やめて」
「どんだけ脆いんだよ」
サナエはハハハと笑った。
それから、明日に備えて早めに解散した。
ギグバックを背負うマリと二人の帰路、励ましてもらったのに、まだ緊張が抜けない。これはもう性格なのだろう、私はそんなに前向きに考えられない。
マリが色々と話しかけてくれるけど、上の空だった。
あっという間に家の別れ道まで来てしまった。
「じゃあね! 明日! 頑張ろうね!」
マリは軽く手を挙げて明るく言った。
「あ」
「ん?」
体を反転させるのを止めて、視線を向け私の言葉を待ってくれた。
「……いや、なんでもない」
「そ」
「うん、頼むぜボーカル。喉痛めんなよ」
「任せろ親友、イソジンらっぱ飲みしてやるよ」
悪戯っぽくニヤリとしたマリに頬が緩んでしまう。
「用法守ってどーぞ」
「アハハ」
「じゃ、バイバイ」
「バイバイ」
マリはにこやかに帰っていった。
背中を見送る。心細かった。「今日泊りに来ない?」って言いたかったけど、いつもとリズムを変えて悪い影響が出てはいけないと思って言えなかった。
マリと別れて帰宅後も上の空だった。
夕食もお風呂も済ませていつもより早めにベッドに入る。
目をつむっても、明日のことがチラついて眠れる気がしない。
冬テナの会場は千五百人規模のコンサートホール。
文化祭でしか演奏したことのない私達には明らかに大きすぎる。不安しかない。
いけない。やっぱりマリに泊りに来てもらえばよかった。マリが居れば安心できるのに。
そう思ったらスマホが鳴った。時計は二十二時前。チハルからのメッセージ。
『みんな! 明日は早いから早く寝てね!』
『了解』
すぐの返信はシオリだった。続けてマリからのメッセージ。
『もう寝てる。今意識無いから』
『どうやって文字打ってんだよ』
サナエの的確なツッコミ。その後もいつも通りのやり取りがいくつか続いていた。
それを見ながら弱音を吐くチャンスかもしれないと思った。
迷ったけど、抱え込むより楽になれる気がした。思い切って送ってみる。
『明日上手く行くかな』
『当然!!』
『絶対上手くいくよ!』
即答はチハルとマリだった。続けてサナエとシオリ。
『鬼軍曹の鬼っぷりも最近では鳴りを潜めてんだろ? 私らは上手くなってんよ。安心しろ』
『先輩っぽいね』
『理想の先輩ランキングがあったら一位だろ』
『圏外です』
『お前明日覚えてろよ』
サナエの返信はシオリとのレスバに発展した。
ともかく励ましてもらったお礼をしておく。
『ありがと、なんとなく安心できた』
『うん!』
『じゃそろそろ寝るね! おやすみー!』
『おやすみなさい』
『じゃあな』
『おやすみなさーい』
『おやすみ』
こうしてやり取りは終わった。
サナエの返信で思い出した。四月末からずっと練習してきたのは事実。
学校が開かない日は自宅で、バンドに参加してから練習をしない日は無かった。
……いや、夏に予選敗退した時は一週間くらいピアノ弾く気になれなかったっけ。
苦い思い出を思い出して苦笑する。
そうだ、あの後マリと仲直りして、このベッドの上で手を握り合って一緒に寝たっけ。
あの時の手の温もりを思い出すと急に安心と眠気がやってくる。
あの時は「今度は、私が皆の力になる」って決心したはずなのに、結局支えられっぱなしだ。
ヘタレなのは生まれついてだし、仕方ないね。
せめて明日、足を引っ張らないように頑張ろう。
皆コタツの指定席に座り、軽音部会議をする。
チハルが明日の段取りを説明してくれているけど、イマイチ頭に入らない。既に緊張していた。
「ユカ?」
隣に座るマリに顔を覗き込まれる。
「なに?」
「大丈夫?」
「ぜんぜんだいじょうぶですけど?」
大丈夫じゃない。声が上ずってしまう。
「もう緊張してるの?」
「ぜんぜん? いますぐにでもえんそうできるよ」
「そりゃ今部室だしね」
マリが苦笑すると、サナエにも「しょーがねーなぁ」と言わんばかりの表情を向けられる。
「今から緊張してどうすんだよ」
「いや普通緊張するでしょ」
言うとシオリも頷いて同意してくれた。いつもの無表情だったけど、コタツの中の足はいつも通り震えているに違いない。
「緊張なんてしてる場合じゃないよ! ガルテナのステージに立てるなんてそうそうないことなんだから!」
元気に言ったのは正面に座るチハル。皆に視線を向けられると、チハルは続けて言った。
「だから明日は最っ高に楽しもう!!」
邪念も弱気も吹き飛ばしそうな笑顔だった。
サナエも笑って同意する。
「だな!」
「そうそう! 楽しもうぜ!」
マリは言いながら私の右肩をバンバン叩いた。
「痛い。肩外れた。やめて」
「どんだけ脆いんだよ」
サナエはハハハと笑った。
それから、明日に備えて早めに解散した。
ギグバックを背負うマリと二人の帰路、励ましてもらったのに、まだ緊張が抜けない。これはもう性格なのだろう、私はそんなに前向きに考えられない。
マリが色々と話しかけてくれるけど、上の空だった。
あっという間に家の別れ道まで来てしまった。
「じゃあね! 明日! 頑張ろうね!」
マリは軽く手を挙げて明るく言った。
「あ」
「ん?」
体を反転させるのを止めて、視線を向け私の言葉を待ってくれた。
「……いや、なんでもない」
「そ」
「うん、頼むぜボーカル。喉痛めんなよ」
「任せろ親友、イソジンらっぱ飲みしてやるよ」
悪戯っぽくニヤリとしたマリに頬が緩んでしまう。
「用法守ってどーぞ」
「アハハ」
「じゃ、バイバイ」
「バイバイ」
マリはにこやかに帰っていった。
背中を見送る。心細かった。「今日泊りに来ない?」って言いたかったけど、いつもとリズムを変えて悪い影響が出てはいけないと思って言えなかった。
マリと別れて帰宅後も上の空だった。
夕食もお風呂も済ませていつもより早めにベッドに入る。
目をつむっても、明日のことがチラついて眠れる気がしない。
冬テナの会場は千五百人規模のコンサートホール。
文化祭でしか演奏したことのない私達には明らかに大きすぎる。不安しかない。
いけない。やっぱりマリに泊りに来てもらえばよかった。マリが居れば安心できるのに。
そう思ったらスマホが鳴った。時計は二十二時前。チハルからのメッセージ。
『みんな! 明日は早いから早く寝てね!』
『了解』
すぐの返信はシオリだった。続けてマリからのメッセージ。
『もう寝てる。今意識無いから』
『どうやって文字打ってんだよ』
サナエの的確なツッコミ。その後もいつも通りのやり取りがいくつか続いていた。
それを見ながら弱音を吐くチャンスかもしれないと思った。
迷ったけど、抱え込むより楽になれる気がした。思い切って送ってみる。
『明日上手く行くかな』
『当然!!』
『絶対上手くいくよ!』
即答はチハルとマリだった。続けてサナエとシオリ。
『鬼軍曹の鬼っぷりも最近では鳴りを潜めてんだろ? 私らは上手くなってんよ。安心しろ』
『先輩っぽいね』
『理想の先輩ランキングがあったら一位だろ』
『圏外です』
『お前明日覚えてろよ』
サナエの返信はシオリとのレスバに発展した。
ともかく励ましてもらったお礼をしておく。
『ありがと、なんとなく安心できた』
『うん!』
『じゃそろそろ寝るね! おやすみー!』
『おやすみなさい』
『じゃあな』
『おやすみなさーい』
『おやすみ』
こうしてやり取りは終わった。
サナエの返信で思い出した。四月末からずっと練習してきたのは事実。
学校が開かない日は自宅で、バンドに参加してから練習をしない日は無かった。
……いや、夏に予選敗退した時は一週間くらいピアノ弾く気になれなかったっけ。
苦い思い出を思い出して苦笑する。
そうだ、あの後マリと仲直りして、このベッドの上で手を握り合って一緒に寝たっけ。
あの時の手の温もりを思い出すと急に安心と眠気がやってくる。
あの時は「今度は、私が皆の力になる」って決心したはずなのに、結局支えられっぱなしだ。
ヘタレなのは生まれついてだし、仕方ないね。
せめて明日、足を引っ張らないように頑張ろう。
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