ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

文字の大きさ
77 / 81

緊張と円陣

しおりを挟む
「他のバンドのリハーサルの見学させてもらって、感覚を掴んでおこう!」

 チハルの提案だった。有能な部長のいい提案でしばらくコンサートホールにいることになった。

 目障りにならないように端の席に移動してしばらく待つと九時になり、リハーサルが始まった。
ステージ上のバンドはあまり緊張していないように思えた。「よろしくお願いしまーす」と挨拶する姿にも余裕があるように見える。場数を踏んでいるのだろうか。
なぜかこちらが緊張して来てしまう。

 リハ自体は音の聞こえ方の確認が主なようだった。曲のリハはワンコーラス。
音響を管理しているスタッフのPAさんが指示を出してくれていたので、経験のない私達でも大丈夫なような気がする。
当然だけど文化祭とは全然違う。プロっぽい。いやスタッフさんはプロなんだけど。

 ドラムとキーボードの場所は固定されているようだった。
客席側から見て後列の右側にドラム、左側にキーボードがあった。

 それから三つのバンドのリハを見学した。
「そろそろ行こうか」というチハルの声で控室に戻った。




 楽屋に戻るとチューニングをしたり、衣装に着替えたりしてリハに備える。
 緊張のせいか時間はあっという間で、リハの時間三十分前になった。ステージ袖へ向かう。




 ステージ袖に着くとスタッフさんがリハの説明をしてくれた。
でもイマイチ頭に入らない。緊張が増していた。
 暗い袖から見るステージはとても明るくて、自分がそこに出たら消えてしまうように思えた。
ふと同じことを文化祭の時も考えていたことを思い出し苦笑する。まるで成長していない。

「はい、リコルリエさんどうぞー」

 スタッフさんからの指示だった。
 皆と目配せしてステージ上に出る。
ステージから見る客席は暗く、はるか遠くまで続く上り坂のような、飲み込んでくる壁のような、とにかく遠く大きく見えた。
いけないいけない。さっきからアホなことばかり考えている。集中しないと。

 皆自分の楽器のセッティングを終えて音を出していた。
私も用意されたキーボードで音を出してみる。
鍵盤のタッチは部室で使っているものと変わらない。でも指は凍り付いたように上手く動いていない気がする。

 すぐにPAさんから指示が出る。ドラムからベース、ギター、キーボードの順で音を出し、最後にボーカルのマリが声を出していた。

「じゃあワンコーラス行きまーす」

 皆に目配せしながら言うチハルの言葉に我に返る。
PAさんの指示に、より緊張してしまっていた。

 ドラムのハイハットオープンのダブルカウントから演奏を始める。いつも通り演奏できているか分からない。
皆の演奏から浮いてしまっているような、そんな違和感がある。

 あっという間にサビまで終わり、私達のリハの時間は終わった。




 楽屋に戻るまでの廊下で、チハルに問いかけてみる。

「リハの私の演奏、どうだった?」
「いい感じだったよ!」

 笑顔で即答だった。逆に問いかけられる。

「なにかあったの?」
「いや、大丈夫」

 チハルはあっけらかんと答えたし、演奏自体は特に問題無かった。感じた違和感は緊張によるものだった。そうに違いない。そう自分に言い聞かせる。




 そしてガルテナは開演した。出番までは楽屋待機なのでまたしばらく楽屋で待つ。
 楽屋にいても他のバンドの演奏が聞こえてくる。

「お、始まったな」
「うん!」

 ニヤリとしたサナエが言うとチハルはニコリとして返した。
二人とも特に緊張はしていないようだった。
私も文化祭の時はリハで大分落ち着けたのに。

 ヤバいヤバい、そろそろ集中しないと。いつまで緊張してんの。
私らは最後から三番目だからまだ時間はある。集中して……いつも通り……

 ソファに座り、太ももの上で手を揉んで指を温める。
寒い訳ではないのに、どうにも指先が冷たい気がする。
そんなことをしているとマリが顔を覗き込んできた。

「緊張してる?」
「そらね……」

 強がる気力は無かった。よく考えてみればあんなに広いステージに立たされて緊張しない方がおかしい。
マリの目を見て聞いてみる。

「マリは大丈夫なの?」
「うん、リハしたら吹っ切れた。やるぞー!! って感じ!」

 ダメだ。根本的な性格が違い過ぎて参考にならない。

「さすが鋼メンタル組……」
「じゃあ私の鋼メンタルを分けてあげよう。手ぇ貸して」

 マリは私の隣に座って両手を差し出して来た。
その間に右手を入れると、マリは私の手を祈るように包み込み、目をつむって言った。

「私の鋼メンタルぱぅわーよ~、ユカに渡れ~、みゅんみゅんみゅん」

 謎の効果音に力が抜けてボケる気力が湧いて来た。

「お、お、来た来た鋼メンタル!!」

 マリはパっと目を開けて笑顔で問いかけてくる。

「来た!? 緊張ほぐれた!?」
「いや全然……」
「あれー!?」
「私とはメンタル型が違ったみたい……」
「いやコレ血液じゃないから」

 なかなか良いツッコミをされた。

「そのぱぅわー私にも頂戴」

 そう言いながら両手を出してマリに近づいて来たのは足をガクブルさせたシオリだった。青ざめて明らかに私よりも緊張している。いつもなら「ぱぅわー」とか絶対に言わない。
 マリはぱぅわーを求められたことが嬉しいようで、元気にシオリの手を両手で包み込んだ。

「いくらでもあげるよ! 行くよー! みゅんみゅんみゅん」

 やり取りを聞いていたチハルも、シオリに駆け寄ってマリの手の上から両手を包み込む。

「私のもあげるよ! みょんみょんみょん!」

 ぱぅわー音は少しだけ違っていた。

「ありがと」

 もみくちゃにされているシオリは笑っていた。
そんなシオリにニヤニヤしながらサナエが言った。

「おいシオリ、リズム隊は要なんだからしくじるんじゃねーぞ」

 そんなプレッシャーをかけるような言い方しなくてもいいのに。
と言おうと思ったらシオリがサナエをジロリと睨んで即答した。

「当然。サナエこそしくじらないでよね」
「お、言うじゃねーか」

 サナエは満足そうに笑った。

 下らないやり取りで大分緊張がほぐれた。
結局いつも通り皆に引っ張られている。ヘタレは性格だからね仕方ないね。




 時間は進み、ステージ袖に移動する時間になった。

「そろそろ時間だね! 円陣組もうか!」

 楽屋に備え付けられていた壁掛けのアナログ時計を確認して、チハルは元気よく言った。

「はーい」

 マリの返事で皆で円陣を組む。
円陣を組むのはこれで三回目。
初めて円陣を組んだ時、チハルはいきなり振られて焦っていたっけ。思い出して頬が緩む。
今のチハルは焦りも緊張もない。ステージに立てることの喜びに高揚しているようにしか見えなかった。
そんなチハルがニコニコしながら言う。

「よーし! じゃあ最っ高の舞台を最っ高に楽しもう! これまで頑張って来た自分と! 今繋がってる仲間を信じて! リコルリエ!! 行くぞー!!」
「「「「「おぉー!!」」」」」

 全員分の声を楽屋の床に叩きつけ、ステージ袖に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...